悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全

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53話

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「ルシア様。
 一曲踊っていただけないでしょうか?」

「よろしくてよ。
 ウィリアム様。
 イライアス様。
 ネイの事宜しくお願いしますね」

「「お任せください」」

 ネイを社交会に披露して一カ月経ちましたが、あまり状況に変化がありません。
 とても困ってしまいます。
 父に男子が生まれればいいのですが、なかなか思い通りに行かないモノです。
 ですがそれも仕方がない事のです。
 男と女に大きな魔力の差があると、子供が生まれないのですから。

 偶然魔力差を乗り越えて妊娠することがありますが、生まれた子が家格に相応しい魔力を持つことは珍しいのです。
 大抵は魔力の低い方の親に影響されます。
 そうでなければ、無制限に愛人を持てる貴族が多くの子供を持ち、その血統だけが繁栄したことでしょう。

「ルシア様。
 何か気になる事でもありましたか。
 ダンスに集中していただいていないようですが?」

「ええ、とても気になる事があってよ。
 大切な娘に変な虫がつかないか気になって仕方ないの」

「それは、それは。
 随分と大切になされているのですね。
 年齢を考えれば、ルシア様の実子には思えないのですが?」

「実子かどうかなんて些細な事よ。
 サンディランズ家の血統を引き継ぎ、公爵家を継ぐだけの魔力があればいいのよ」

「……さようでございますね。
 ネイ様は公爵家を継ぐに相応しい魔力を持っておられるのですね」

 某侯爵家の長男が、憎しみを籠った眼で、でも表情には笑顔を浮かべて、また私に話しかけてきました。
 諦めの悪い男です。
 私が男爵の爵位を購入したので、私かネイの婿に収まりたいようです。
 侯爵家を継ぐだけの魔力に恵まれず、次期当主の座を弟に奪われ、なんとか家を出て身の安全を図りたいのでしょう。
 恐らく弟に殺されそうなのですね。

「ええ、私もネイも公爵家を継げるだけの魔力を持っているわ。
 でも責任重大な公爵家は継ぎたくはないのよ。
 だから、父が跡継ぎに相応しい男子をもうけてくれることを願っているのよ」

「なんと!
 せっかくの公爵位を捨てると言われるのですか?
 ルシア様が望まれるのなら、逆ハーレムも夢ではないのにですか?」

 本当に下劣な男です。
 私が、何時、逆ハーレムを望んでいると口にしたというのです。
 どうせ父の政敵が、私を誹謗中傷する噂を流しているのでしょう。
 徹底的に調べて報復してやろうかしら?

「そのような事は全く望んでいませんわ。
 買い求めた男爵領に引きこもって、社交界とはかかわらず、静かに暮らしたいと思っていますのよ」

「ルシア様。
 次は私と踊ってくださいますか?」

 ネイをイライアスに任せて、ウィリアムが私をダンスに誘います。
 何かあったのでしょうか?
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