悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全

文字の大きさ
上 下
42 / 60

41話

しおりを挟む
「ポーラ、どうする」

 ウィリアムが私に聞きます。

「嫌!
 絶対に嫌!
 捨てないで!
 私を捨てないでママ!」
 
 私が答える前に、泣き叫ぶようにネイが答えます。

「心配しなくても大丈夫よ。
 ママは絶対にネイを捨てたりしないわ。
 だからそんなに泣かないの。
 ね?」

 私は優しく、でも強くネイを抱きしめました。
 ネイがここまで不安に思い恐怖しているのも仕方がありません。
 恐らくネイの祖父であろう、サンテレグルラルズ王国の国王クライムが、ネイに王孫女の地位を与えるから戻って来いと使者を送ってきたのです。

 これはとても悩ましい状況です。
 私には地位に対する執着はありません。
 あの悪夢の日々が、地位より命が大切だと思わせてくれました。
 ですが人によって大切なモノは違います。
 そしてその考えは、経験を重ねる事で変わるモノです。

 それが分かっているからこそ、ウィリアムも確認してくれたのです。
 しかし、それがネイを不安にさせたのでしょう。
 ウィリアムもイライアスと相談して口にしたのでしょうが、ネイの反応がここまで強烈だとは思っていなかったようです。
 慌ててフォローしてきました。

「ああ、ごめん!
 悪かった!
 全部俺が悪かったから泣き止んでくれ。
 帰らなくていいから。
 いや、そうじゃないな。
 いかなくていいから。
 ネイの家はここだから。
 ポーラママはもちろん、俺達もネイを手放さないから。
 だから泣き止んでくれよぉ。
 おい、イライアス!
 俺にだけ嫌な役を押し付けるな!」

 これは珍しモノを見せてもらいました。
 完璧な役割分担をしてきたウィリアムとイライアスが初めて役目で争っています。
 この二人にとっても、ネイは可愛い存在なのですね。
 このような態度を見れば、少しは安心してネイを預けることができます。

 でも、よほどのことがない限り、ネイの事を他人任せにはしません。
 その他人の中に、ウィリアムとイライアスも含まれます。
 親切で信用できるのは間違いありませんが、価値観に差があるのも確かです。
 魔法の鎧の時には、状況判断を誤っています。
 彼らも完璧ではないのです。

「ママ、逃げよう。
 ここは見つかっちゃったよ。
 ここにいるのは怖いよ。
 ママ、ママ、ママ。
 ネイ怖いよ。
 ここにいるのが怖いよ」

 さてどうすべきでしょうか?
 これまでも拠点を転々と移動しています。
 またここで移動するとなると、大きな損失になります。
 取り返す事はできると思いますが、負担なのは間違いないのです。
 特にアマゾーン達の事があります。

 彼女達を牧場から引き離す事はできないです。
 ですが、当面資金援助をしなければ厳しいだろう思います。
 もし移動するとなれば、距離的にも資金的にも資金援助を続けるのは厳しいです。
 腹を割って話し合う必要があります。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。

蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。 妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

処理中です...