悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全

文字の大きさ
上 下
41 / 60

40話

しおりを挟む
「片付いたようだね。
 確認するかい?」

「はい。
 遺品を集めて、身元を確かめて、墓を建ててやります。
 まだ直接襲われたわけではありませんから。
 魔境で偶然出会った冒険者の遺体として、弔います」

「そうか。
 それが一番無難だろう。
 エルフィンストン王国から難癖をつけられないようにするには、それが一番だな」

 私達は魔力で魔砂蟲の襲撃を防ぎながら、遺品を探し回りました。
 その場には、喰われる時にズタボロになった衣服や装備品が散乱しています。
 まあ、回収する前に魔獣を斃さなければいけません。
 結構な数の魔獣が集まっていました。
 なんといっても六十人近い人間が集まっていたのです。
 この魔境で、これほどの獲物が一か所に集まる事などないのです。

 いえ、人間だけではありません。
 普段は魔蠍や魔毒蛇などの餌になる魔砂蟲が、無数に集まっているのです。
 誰かの縄張りだと恐れている場合ではないのです。
 餌の少ないここでは、命を賭けてでも獲物に集まるときなのです。
 人間を喰って体積が増えた魔砂蟲。
 遅れて食べ損ねた魔砂蟲。

 その両方を急ぎ集まった多種多様な魔獣が襲います。
 皆が魔砂蟲に襲いかかっていますが、中には弱い魔獣を狙う魔獣もいます。
 魔鼠を狙って、魔毒蛇がとびかかります。
 その魔毒蛇を、魔禿鷹が襲います。
 魔蠍同士が鋏で傷つけあっています。

 私達は弱っている魔獣から一撃で斃していきました。
 これはチャンスでもあるのです。
 広大な荒地に点在する魔獣が、珍しく一ケ所に集まっています。
 一網打尽にする絶好の機会なのです。
 遺品集めを後回しにして、魔獣を狩りました。
 そしてそれを冒険者ギルドに持ち込みました。

「そうですか。
 認識票はなかったのですね?
 では冒険者ではないのでしょう。
 少なくともここに登録した者ではありませんね。
 しかしこのような危険な魔境に黙って入るなんて、命知らずにも程があります。
 私達も各地の冒険者ギルドを通して問い合わせしてみます。
 遺族が見つからなければ、手数料を引いて遺品の全額をお渡しいたします。
 遺族が見つかれば、手数料を引いて、遺品の半額をお渡しします」

「分かりました。
 一応供養塔を建てましたので、遺族が見つかった場合はその事も伝えてください」

「親切ですね。
 分かりました。
 そのようにお伝えしましょう」

 ウィリアムが今回の件を冒険者ギルドに報告してくれました。
 魔境で偶然遺体を発見したことにしています。
 先に私が調べた範囲では、三人はもちろん、聖女マルティナも死んでいます。
 これでようやく安心して眠れます。
 わざわざこちらから身元を教えてやる必要はないので、遺品だけを届けました。
 本気で探す気なら見つかるでしょう。
 でも職員が半額を着服したら、永遠に報告されないでしょう。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

義妹が私に毒を盛ったので、飲んだふりをして周りの反応を見て見る事にしました

新野乃花(大舟)
恋愛
義姉であるラナーと義妹であるレベッカは、ラナーの婚約者であるロッドを隔ててぎくしゃくとした関係にあった。というのも、義妹であるレベッカが一方的にラナーの事を敵対視し、関係を悪化させていたのだ。ある日、ラナーの事が気に入らないレベッカは、ラナーに渡すワインの中にちょっとした仕掛けを施した…。その結果、2人を巻き込む関係は思わぬ方向に進んでいくこととなるのだった…。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

大公殿下と結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい

Ruhuna
恋愛
容姿端麗、才色兼備の姉が実は私を呪っていたらしい    そんなこととは知らずに大公殿下に愛される日々を穏やかに過ごす 3/22 完結予定 3/18 ランキング1位 ありがとうございます

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。 だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。 世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何? せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。 貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます! ===== いつもの勢いで書いた小説です。 前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。 妹、頑張ります! ※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

処理中です...