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32話

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「これが入国証明書だ。
 これがあれば正規で入国したことになる」

「確かに六人分の入国証明書だね。
 これが礼金だ。
 手間をかけさせたね」

 ダニエラが偽造書類屋と話をしています。
 国境線を関所を通らずに突破した私達には、正規の書類がありません。
 小さな村を訪ねるくらいなら必要ありませんが、城壁に囲まれたそれなりの街に入るなら、絶対に必要なモノです。

 ですが、こういう時のために犯罪者ギルドがあるのです。
 犯罪者ギルドの中には、各種の書類を偽造する者がいます。
 国境線の近くには、必ずといっていいくらい入国証明書を偽造する者がいます。
 正規の税金よりも高い金額を請求されるだけではなく、弱い者は身ぐるみはがされたうえに、奴隷に売り飛ばされる危険があります。

「なあに、これがこれの仕事さ。
 念のために聞いておくが、この国に腰を落ち着けるのか?」

「暮らしやすければね。
 暮らし難いならさっさと出て行くよ」

「その時は軍馬達をどうするんだ?」

「さて、どうしようかね。
 特に考えちゃいないよ。
 なぜだい?」

「連れて行くなら関所は通らない方がいい。
 ごっそり税金をかけられるくらいですめばいい方で、下手すりゃ逮捕される」

「そう言う事かい、分かった。
 アドバイスありがとよ」

「もし売るなら声をかけてくれ。
 それくらい優秀な軍馬なら、高値で買いたい客を紹介できる。
 連れて行くなら国境破りをすることになるから、偽造書類屋を紹介する」

「なるほど、考えておくよ。
 その時は頼むよ」

 でも、私達を襲う気はなかったようです。
 たぶん私達の正確な素性を知っているのでしょう。
 下手に手をだしたら、犯罪者ギルドが皆殺しにされると警戒しているのでしょう。
 まあ、それも当然の警戒ですね。
 私達はあのエリアス王太子を殺してきたんですから。
 
 それも、犯罪者ギルドがやるような卑怯な暗殺ではありません。
 王城で大暴れして、多くの騎士や徒士を叩きのめして、エリアス王太子と騎士数十騎を魔法で焼き殺し、空を飛んで逃げだしたのです。
 自分達が同じ目にあわされるのはごめんでしょう。

 私達はヘリーズ王国内を真直ぐに移動しました。
 偽造入国証明書は誰に疑われることもなく、どの街も楽々通過できました。
 もっとも、それほど多くの街に入ったわけではありません。
 どうしても必要な時にしか街には入りませんでした。
 必要もない危険を冒す事はないですからね。

「ポーラの言う通り、物価が安いのはいいね。
 民の性格も比較的穏やかだ。
 ケングロス王国との国境近くに牧場でも開いて、暁の騎士を待つとしようか」

 ダニエラがこの国に腰を落ち着ける気になってくれています。
 ケングロス王国との国境なら、何かあった時すぐに逃げられるとの判断です。
 ケングロス王国は、ヘリーズ王国とサンテレグルラルズ王国を挟んてエルフィンストン王国の反対にある国ですから、マルティナの悪意から更に遠く離れられます。
 まあ、でも、これは、ダニエラの判断基準とは違います。
 ダニエラが腰を落ち着ける気になったのは、牝馬の妊娠です。
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