異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!

克全

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第1章

第43話:移住

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 これまで移動速度を遅くしていた、足手まといだった猟犬見習たちのレベルが格段に上がった事で、大魔境の亜竜生息域から村までたった三時間で戻れた。
 そんなとんでもない速さで駆けても四人には歩くのと変わらなかった。

 村に戻った四人は即座に村長の館に行った。
 少しでも呪いの影響を軽くするために神殿室に寝かされている、エマの母親であるアイリスを助けようとした。

「ホーリー・ディスペル、ホーリー・ピュアリフィケイション」

 エマは村長の許可をもらってアイリスに解呪の呪文をかけたが、残念ながら呪いを解く事はできなかった。

 だが諦める事なく即座に聖浄化術を使った。
 一瞬で再進行した呪いによる身体の腐敗が全快して、健康な身体になった。

「おおおおお、呪いは解けたのか?!」

「残念ながら母上様の呪いは解けていません。
 ですが、一時的ですが、呪いを打ち消して健康な身体にする事ができます。
 毎日ホーリー・ピュアリフィケイションで治療すれば、痛みも感じません。
 私が側にいる限り、二度と母上様に痛い思いはさせません」

「エマを村に残したい、だが、村を守るためには……」

 四人はまだ村長に、プロウジェニタ・ヴァンパイアを負かして配下を全滅させた事を言っていなかった。
 アイリスを苦痛から解き放てるのを見せてから話した。

「そうか、そこまで頑張ったのか、分かった、村の移住に賛成する。
 他の者たちが行かないと言っても、我が家だけでも移住する」

 エマにも話していない秘密を持つ村長は、四人が心配していた移住反対をするどころか、とても積極的だった。
 村長の賛成を得た四人は、村人を全員集めて移住計画を話した。

「分かりました、元々ここは村長の御先祖が切り開いた村です。
 我々はここに住まわせていただいているだけです。
 村長が移住を決断されたのなら、ついて行かせていただきます」

 自警団長で猟師たちのリーダーでもある、ライアンの父親マクシムが何の迷いも見せずに村長に従うと言った。

「お嬢さんが大魔境の奥まで行って安全を確かめてこられたのです。
 安心して移住できます、私も賛成させていただきます」

 自警団の副団長で猟師たちの副リーダーでもある、カインとアベルの父親も一も二もなくエマを信じていると言い切った。

「「「「「俺たちも村長について行きます」」」」」

「「「「「……」」」」」

 村長の言葉に自警団の団長と副団長が従ったのを見て村人の多くが賛同したが、不安と欲望を目に宿した者たちが少数だけいた。
 村長や団長を信じられない、猜疑心が強くて欲深い者たちが、一家族と少数いた。

「村長、移住は賛成ですが、村を放棄するのは反対です。
 エマ様は信じていますが、ここまで発展させた村を放棄するのは反対です。
 代官を残して飛び地にされたらどうですか?
 新しい村はティトゥワン様が治められるとして、ジョシュア様やレオナード様が成人された時のために、この村は残された方が良いと思うのです」

「なるほど、確かにジョシュアたちが成人した時のために村を残しておくという考えもあるが、ジョシュアが成人するまで五年もある。
 経験を積ませるためにティトゥワンを村長にするとしても、三年もある。
 それまでこの村の統治はどうするのだ?
 代官を置くと言っても、それなりの者でなければ人を束ねられないぞ」

「エマ様が残ってくださるのが一番ですが、アイリス様の呪いを癒すには側を離れられないのですね?」

「そうだ、エマをアイリスの側から離す訳にはいかない。
 それ以上に、まだ未婚のエマを独りで村に残す訳にはいかん」

「では、自警団長か副団長を代官として残されてはどうでしょうか?」

「そんな事ができるはずないだろう。
 危険な奥地に行かれる村長一家を放って自警団長が村に残れるか!
 俺がそう言う事くらい分かっていて言っているだろう?!
 自分が代官になるための自作自演な事くらい分かっているわ!」

「言いがかりだ、そんな事は思っていない!」

「だったら四の五の言わずに村長のお供をしろ。
 それが嫌なら村を出て領都にでもいけばいい。
 村長の御先祖が命懸けで開拓された村を奪おうなど、恥知らずにも程がある!」

 大半の村人が、村を残すと言い出した男を蔑みの目で見た。
 男が当主を務める一家は全員顔をそむけたが、反省はしていなかった。

 どうやればこの危機を切り抜けられるのか、どう村長を言い包めれば村を手に入れる事ができるのかを、必死で考えていた。

 それは村長や当主に逆らってでも村の残ろうとしていた若者たちも同じだった。
 とりあえずは一緒に移住しておいて、密かに村に戻ろうか、あるいは領都に行って放棄された村を高く買ってくれる者を探そうかと考えていた。

「まあまてマクシム、私を信じられない者を無理矢理連れて行く気はない。
 とはいえ、マクシムの言う通り、ご先祖様が命懸けで開拓された村を、私に叛意を持つ者にタダでやるほどお人好しではない」

「待ってください、私は村長に叛意など持っていません。
 村長一家のために良いと思って提案させてもらっただけです。
 そんな疑いをもたれるのなら、もう何も言いません、ついてきます」

「いや、本当に無理について来なくていい。
 どうせ放棄する村だから、私たちの移住が成功したら好きにしたらいい。
 だが、それは私たちの移住が成功してからだ。
 私はエマたちを心から信じているが、信じているのとは別の話で、村民に対する責任があるから、移住は段階的に行う」
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