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第1章

第24話:美食

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 ライアンは強大な魔獣を次々と狩ってとんでもなくレベルを上げた。
 カインとアベルも、ワルキューレが大魔獣の止めを譲ってくれたので、一気にレベルが上がった。

 ワルキューレは意外と親切で、頭が悪くて相手の強さが分からない別名鳥頭の鳥類系魔獣を翼を傷つけて落下させ、猟犬見習たちのレベルも上げてくれた。

「戻ったぞ、随分とレベルが上げられたようだな?」

 日暮れ二時間前までレベル上げの狩りを続けたライアンが戻って来るなり言った。
 カインとアベルをひと目見て、とんでもなくレベルが上がっていると見抜いた。

 ライアン自身もアルクトドゥスとスース八頭に加えて、1200kg級のウシ系魔獣のヤクを三十頭、1000kg級のワニ系魔獣クロコダイル七十五頭を狩り、村に送っていた。

 今頃村では大量の魔獣を解体するのに大忙しだろう。
 ただ、多くの精霊を受け入れたことで、冷凍や冷蔵の魔術を惜しみなく使えるようになったので、直ぐに解体できない魔獣は村長の館に保管するようになった。

「よく言うよ、それだけレベルを上げられたら、さっきよりも差が開いている」
「ライアンを自由にさせたら差が開くばかりだよ」

「全部アイリス様を助けるまでの話だ、終わったらレベル上げを手伝うよ。
 それよりも夜襲に備えて飯を食っておこう。
 今日は村の料理ではなく持ち出してきたハムとベーコンだろう?」

「ああ、まだまだ熟成は足らないが、ダンジョン肉よりははるかに美味い」
「ライアンも狩って送ったのだろうが、こいつらも送ってくれ」

 アベルの言う通り、夜営地の周りには多くの獲物が転がっていた。
 なんだかんだ言っているが、ライアンはカインとアベルが好きなのだ。

 同年生まれで同性のカインとアベルは、気を許せる幼馴染なのだ。
 そんなカインとアベルがレベル上げできるように、夜営地の南側にはいかないようにしていたのだ。

 カインとアベルは、夜営地の南側にいた1500kg級のウシ系魔獣バイソンの群れ二十頭を、ワルキューレと協力して狩っていた。

 最初は死ぬ直前までワルキューレが弱らせていて、カインとアベルが止めを刺すという、思いっきり狡いレベル上げをしていた。

 だが、残りの生命力が少なかったとはいえ、自分たちよりも遥かに強大な魔獣の止めを刺した事に偽りはない。

 最初は一気にレベルが上がり、二十頭を斃す間に少しずつ実力が上がり、最後の一頭ずつは最初から最後まで独力で戦って斃していた。

 苦労して斃したので、どうしても魔獣が傷だらけになってしまう。
 カインとアベルが狩ったバイソンは傷が多い上に、長時間戦うので体温も上がって肉質が悪くなる。

 それは地面に転がっている鳥系の魔獣も同じで、猟犬見習たちのレベル上げのために羽を傷つけて落としてから、激しく抵抗するのを咬み殺している。

 食用にできない訳ではないが、肉質がとても悪くなっている。
 ライアンのように首以外は傷つけず、体温も上げずに狩る事など不可能だった。

 そんな三等品の肉だが、一般的なアリアラ王国人にとっては滅多に手に入らない、とても貴重な大魔境産の魔獣である事には違いない。

 肉質が落ちたのも傷が多いのも、それだけ強い魔獣だと言う事になる。
 1500kg級のウシ系魔獣バイソンなどになれば、誰も狩った事がない。
 伝説に伝えられるほど強大な大魔獣になる。

 伝説の大魔獣の頭付き一枚毛皮を手に入れられるなら、千金を積んでも構わないという貴族や成金商人がいる。

 味が劣っているとは言っても、それは食べる事を前提にライアンが狩った魔獣と比べた話で、強さに応じて美味しくなる魔獣だから、1kg級や5kg級の魔獣に比べれば天上の美味しさで、これまた貴族たちが千金を積んで買っていく。

 100g級や300g級、500g級や1kg級の魔鳥でも、豊かな平民が普通の獣の倍や三倍の値段で買っていくくらい美味しくて貴重なのだ。
 だから一羽も無駄にする事なく、転送精霊セーレが村に送った。

「今の内に飯にしようぜ」
「ヴァンパイアたちが襲って来る前に少しでも寝ておこう」

「そうね、今日はインターミーディア・ヴァンパイアかハイア・ヴァンパイアが襲ってくるでしょうから、多めにヴァンパイア除けの香を焚いておきましょう」

 エマの言葉に従って、いつもなら四つ使うカマドを十二個にした。
 以前の夜営に使った四つのカマドの外側に、八つのカマドを造った。
 二重にヴァンパイア除けの香を焚くのだ。

 これまでも村の防壁上でヴァンパイア除けの香を焚いていたが、四人が今後ずっと大魔境で夜営するなら、使用する香の量はとんでもなく多くなる。
 これまで村が備蓄していた材料ではとても足らなくなる。

 そこで、自由に空を飛べる精霊たちが材料を集める事になった。
 今回も夜営地に残った精霊とエマが材料を集めていた。
 今夜から村の備蓄を使わず、生木や生草花を燃やして香にする予定だった。

 ジュウウウウウ
 
 四人は内側のカマドを使って村から持ってきたハムとベーコンを焼く。
 熟成期間が全く足りていないので、上質のハムやベーコンとはとても言えないが、村一番の料上手が味付けしてから燻製している。

 肉自体もライアンが美味しく食べたい一心で上手く狩っているので、並の猟師が狩った肉質の落ちた魔獣肉とは比べ物にならない、上質のハムとベーコンだ。

 意識的に残された脂が、熱せられた鉄兜鍋に融けていく。
 同時に摺り込まれた香草塩の芳香が夜営地一帯に広がる。
 
「「「「「くぅ~ん、くぅ~ん、くぅ~ん、くぅ~ん、くぅ~ん」」」」」

 余りにも美味しそうな芳香に猟犬見習たちが食べたいと訴えてくる。

「仕方がないな、先に食べろ」
「可哀想だけど、ハムとベーコンの数には限りがあるからな」

 カインとアベルがそう言いながら魔鳥の内臓を与える。
 火を通していない生の内臓だが、エマが聖浄化しているので何の危険もない。
 血の滴る新鮮な魔鳥の内臓は、猟犬見習たちには大ご馳走だった。

「俺たちも食べるか」

「ええ、御腹ペコペコよ」
「「飯だ」」

 四人同時に十分火を通したベーコンにかぶりつく。
 口に含んだだけで芳香が鼻をつき抜け脳髄を刺激する。
 焼けた脂の甘み肉の旨味香草塩の風味に、どれだけ食べても食欲が治まらない。
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