異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!

克全

文字の大きさ
上 下
16 / 58
第1章

第16話:三度目の夜営

しおりを挟む
 夜営地を後にした四人と猟犬見習たちは、これまで誰も立ち入った事のない、大魔境に挑んでいった。

 強大な魔獣が不意に襲ってくる事を覚悟して、五感を総動員して周囲を探りながら、ゆっくりしっかり東に進んだ。

 もう一度、悪神ロキの眷属が襲ってくる事を覚悟して、体力を残すように、慌てることなくじっくりと歩いた。

 だが、意外な事に何も襲ってこなかった。
 四人にはとても不思議な事あったが、猟犬見習たちは気がついていた。

 エマとライアンのレベルがとんでもないくらい高くなっていたのだ。
 特にエマのレベルが非常識な効率で高くなっていた。

 普通に魔獣を斃しただけでは、今のエマほどの高効率でレベルは上がらない。
 聖治癒術使として、最も効率の良い敵だけを斃し続けていたから、大魔境の魔獣が避けて逃げるほどのレベルになれていた。

 悪神ロキの眷属でも有象無象でしかないスケルトンやゾンビにしても、駆け出しの冒険者や兵士では手に余る存在なのだ。

 まして相手は最下級とはいえ吸血鬼、レッサー・ヴァンパイアだ。
 歴戦の騎士や冒険者でも、不死の存在と恐れる規格外の怪物だ。
 そんな相手を二体も斃したのだから、大魔境の魔獣も正面から戦おうとはしない。

 四人は昼食休憩も取らずに東に進んだ。
 朝の内に焼いておいた骨付きバラ肉を食べながら東に向かった。

 猟犬見習たちには食べ残したバラ肉の骨を与えた。
 猟犬見習たちは尻尾を全力で振って喜びを表現していた。

 安全な水を確保できる、周囲を警戒できる夜営の場所を見つけたかった。
 良い場所を見つけられなくても、地球時間で十五時には夜営の準備をする。

 今回は水場を見つけられず、十五時前に見つけた、百メートル四方が野原になっている場所の中心部で夜営する事にした。

 たった二晩目だが、今日が最終日だった。
 常に襲撃を警戒する探索行では、身心がすり減ってしまう。

 まして最初の夜にレッサー・ヴァンパイアが襲い掛かってきたのだ。
 楽勝の戦いだったが、いつ何があるか分からないので神経が張り詰めていたのだ。

 四人は新しいカマドをその場にある石や土を使って造った。
 燃料に使う枯れ枝や油の木の枝を集めた。
 ライアンが巨大な枝を斬り落とす事で、朝まで燃え尽きない生木も手に入れた。

 香草塩を塗して月桃樹の大きな葉で包んで熟成させた外もも肉と肩ロース肉。
 エマはまだ骨付きバラ肉を持っているが、他の三人は食べ尽くしていた。
 三人は、今晩さえ無事に過ごせれば走って村まで帰れば良いと思っていた。

 以前のエマには硬かった骨付きバラ肉だが、著しくレベルが上がった状態だと普通に噛みしめる事ができて、美味しく食べられた。

 他の三人は、以前から少々硬い肉でも美味しく食べていた。
 繊維が粗くスジも多い外もも肉と肩ロースも、旨味が濃い肉として食べられた。

 四人は早めに食事を終えて夜営する事にした。
 猟犬見習たちには、エマが食べたバラ肉の骨を与えた。

 夜が明けたら村に帰るので、エマが食べ切れない肩肉や外もも肉と肩ロースを食べさせても良かったが、他の三人に猛反対された。
 三人は朝飯にエマが食べ切れなかった肉を狙っていたのだ。

 四人はライアン、カイン、アベル、エマの順で見張りをする事にした。
 今日も悪神ロキの眷属が襲撃してくると確信していた。
 できるだけ長くエマを休ませるための順番だった。

「「「「「ウォン、ウォン、ウォン、ウォン、ウォン」」」」」

 予想通り悪神ロキの眷属が襲って来た。
 予想と違ったのは、襲撃が少し遅かった事だ。
 カインとアベルが見張りを変わる時間に襲って来たのだ。

「「「「「ギャ、ギャガ、ギャガギャガガ、ギャギャギャ」」」」」

 襲って来たのがレッサー・ヴァンパイアに率いられたゾンビとスケルトンなのは同じだったが、それだけではなかった。
 リーダー・ゴブリンに率いられた、百体ほどのゴブリンの群れが一緒だった。

「やれ、焚火を消して香を焚けないようにしろ」

 今回襲って来たヴァンパイアは、少しは智慧の回る奴だった。
 ヴァンパイア除けの香を消して、接近戦をできるようにしようとしていた。
 四人は天上から見張っている悪神ロキの目を感じた。

「「「「「ギャ、ギャガ、ギャガギャガガ、ギャギャギャ」」」」」

 ゴブリンたちは四方八方から一斉に襲いかかってきた。
 ライアン独りでは防げないように考えられた襲撃だった。

 だが、ここにいるのはライアンだけではない。
 エマとライアンが目立っていただけで、カインとアベルもいる。
 見習とはいえ、二回の夜営で著しく強くなった猟犬たちがいる。

「俺の経験値になれ!」

 焚火の外に飛び出したライアンが、身体強化した身体で戦う。
 右手で剣を縦横無尽に振るい、左手の指弾で離れた場所のゴブリンを斃す。
 カインとアベルは焚火の内側から投石してゴブリンを斃す。

 六頭の猟犬見習たちは、素早い動きでゴブリンたちを翻弄する。
 倒すのではなく、時間稼ぎを目的に走り咬みつき焚火を消させない。

「ホーリー・ピュアリフィケイション」

 エマが離れた場所から命令していたレッサー・ヴァンパイアを聖浄化した。
 レッサー・ヴァンパイアはエマの実力を過小評価していた。

 仲間が二人も殺されているのは聞かされていたが、それでもただの人間が実力でヴァンパイアを斃したとは信じず、近づかなければ大丈夫だと思い込んでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

【完結】魔法道具の預かり銀行

六畳のえる
児童書・童話
昔は魔法に憧れていた小学5学生の大峰里琴(リンコ)、栗本彰(アッキ)と。二人が輝く光を追って最近閉店した店に入ると、魔女の住む世界へと繋がっていた。驚いた拍子に、二人は世界を繋ぐドアを壊してしまう。 彼らが訪れた「カンテラ」という店は、魔法道具の預り銀行。魔女が魔法道具を預けると、それに見合ったお金を貸してくれる店だ。 その店の店主、大魔女のジュラーネと、魔法で喋れるようになっている口の悪い猫のチャンプス。里琴と彰は、ドアの修理期間の間、修理代を稼ぐために店の手伝いをすることに。 「仕事がなくなったから道具を預けてお金を借りたい」「もう仕事を辞めることにしたから、預けないで売りたい」など、様々な理由から店にやってくる魔女たち。これは、魔法のある世界で働くことになった二人の、不思議なひと夏の物語。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

スクナビコナの冒険―小さな神が高天原を追放されネズミとともに地上に落っこちてしまった件―

七柱雄一
児童書・童話
 スクナビコナは人の手のひらに乗る程度の小さな体の神です。  またスクナビコナは日本神話に登場する神でもあるのですが、作者としては日本の神話などに関する予備知識があまりなくても、読み進められるように本作を書いていくことを心がけようと思っています。  まだまだ『アルファポリス』初心者の上に未熟者の作者ですが、一応プロを目指す方向でやっていくつもりでおります。  感想、ご指摘、批評、批判(もちろん誹謗、中傷のたぐいはご勘弁願いたいのですが)大歓迎でございます。  特に特定の読者層は想定しておらず、誰でも読めるものを目指した作品です。  また『小説家になろう』『カクヨム』でもこの小説を投稿しております。  ではぜひお楽しみください!

魔法が使えない女の子

咲間 咲良
児童書・童話
カナリア島に住む九歳の女の子エマは、自分だけ魔法が使えないことを悩んでいた。 友だちのエドガーにからかわれてつい「明日魔法を見せる」と約束してしまったエマは、大魔法使いの祖母マリアのお使いで魔法が書かれた本を返しに行く。 貸本屋ティンカーベル書房の書庫で出会ったのは、エマそっくりの顔と同じエメラルドの瞳をもつ男の子、アレン。冷たい態度に反発するが、上から降ってきた本に飲み込まれてしまう。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...