15 / 58
第1章
第15話:二度目の襲撃
しおりを挟む四人は腹がはちきれるくらい香肉を食べたかった。
食べたかったが、今から危険極まりない大魔境での夜営だ。
理性を総動員して腹八分目で我慢した。
二度目の夜営では、前回の反省があって見張りの順番を変えた。
最初の当番はライアンが務め、次いでカイン、アベル、エマとした。
陽が暮れてからヴァンパイアが襲ってくるとしたら、前回と同じくらいの時間になるので、できるだけエマを休ませる事にしたのだ。
「「「「「ウォン、ウォン、ウォン、ウォン、ウォン」」」」」
予想していた通りの時間にレッサー・ヴァンパイアが襲って来た。
前回と同じように弱い眷属を率いて襲って来た。
前回と違うのは、ゾンビだけでなくスケルトンまでいた事だ。
「エマ、起きろ、飛んで火にいる夏の虫だ」
「誰が夏の虫だ、俺様はあの愚か者とは違うのだ!」
悪神ロキから始祖吸血鬼、プロウジェニタ・ヴァンパイアに与えられた情報は、どこでどう捻じ曲げられたのか、正確に伝わっていなかった。
同じレッサー・ヴァンパイアが浄化された事は伝わっていたが、エマの強さは全く伝えられていなかった。
正しく伝えられた情報の一つが、エマたちがヴァンパイア除けの香を使っていた事で、その対策にロキの眷属で一番弱いスケルトンを引き連れていた。
ゾンビは腐っているとはいえ身体があるから、その身体を使って周囲の状況を把握して敵対する者を襲うので、ヴァンパイアを近寄らせない香が利く。
スケルトンは血肉がなく、霊体が骨を操っているのだが、周囲の状況を把握しているのも霊体なので、嗅覚を使ってヴァンパイアを近寄らせない香の効果がない。
相手がゾンビであろうスケルトンであろうと、今のエマはレッサー・ヴァンパイアすら一撃で聖浄化するだけの実力がある。
ライアンもカインもアベルも、スケルトンやゾンビを殺すことなく、時間稼ぎで斬るだけの実力がある。
「ホーリー・ピュアリフィケイション」
エマは油断しきっているレッサー・ヴァンパイアを聖浄化した。
四人を舐め切っていた愚かなレッサー・ヴァンパイアは、断末魔すら上げられずにチリとなって消滅した。
後はエマの独壇場だった。
アイリスの呪いを解く事を最優先している四人は、エマ自身のレベルと聖浄化術のレベル、両方を上げられる悪神ロキの眷属殺しをエマに任せている。
簡単に斃せるゾンビやスケルトンが相手でも、時間稼ぎに徹して一体も斃さず、ゾンビ九十一体スケルトン百七体をエマ独りで聖浄化した。
最後には、二十体のスケルトンを一度に聖浄化できるようになっていた。
四人はあっという間に襲撃者たちを全滅させた。
特にしなければいけない事もないので、予定通り見張りを置いて眠った。
「おはようございます、ライアン、もう料理を始めているの?」
自分が見張る順番が来たので、アベルに起こされたエマがやってきた。
「ああ、今日はこれまで行った事のない行程だから、最上の状態で挑みたい。
腹が減っていては力が入らないからな」
短時間の眠りで体力が回復したライアンが、空腹に耐えかねて夜明け前から料理を始めていた。
「私も昨日はたくさん力を使ったから、お腹が空いて仕方がないの」
「今焼いているのはしんたまとヘレ肉だから、ロース肉や内もも肉よりは劣るけど、先に食べるか?」
ライアンには脂分の少ないしんたまとヘレ肉は少々ものたらない。
だから、昨日は脂の多い肉を焼いて食べ、鉄兜鍋に多くの脂を貯めておいた。
今日は脂焼きするようにしんたまとヘレ肉を焼いていた。
「悪いけれどそうさせてくれる?
今の状態で敵に襲われたら、とても戦えそうにないの」
「温めたスープもあるが、飲むか?」
「ありがとう、飲ませてもらうわ。
その代わり昨日作っておいた私のスープを温めてから渡すわ」
自分が焼いた肉をエマに譲ったライアンは、そのまま鉄兜に骨付きバラ肉を入れて焼きだしたから、更に美味しい香が周囲に広がった。
ライアンは自分の鉄兜鍋で骨付きバラ肉を焼きながら、エマの鉄兜鍋でもランプ肉を焼き始めた。
男たちに比べれば小食なエマは、ランプ肉を食べていなかったのだ。
しんたまとヘレ肉を食べ終えたエマが、時間を置かずにランプ肉のステーキを食べられるように焼いているのだ。
「うがあ、俺の分も焼いてくれ」
「俺も、俺も焼いて欲しい」
美味しそうな香肉の香りに魅かれてカインとアベルも起きてきた。
見張りが終わって夜明けまでもう一度眠る気だったアベルも、あまりにも美味しそうな香りが漂ってくるので、眠る事ができなかった。
カインも同じで、美味しそうな香りに起こされてしまったのだが、まだ完全に目覚めていないので、自分で肉を焼いて食べる気になれない。
「しかたがないな、猟犬見習たちの世話を先にするなら焼いてやる。
だが、焼き加減までは好みにできないぞ」
「やる、猟犬のお世話は俺たちの役目だからちゃんとやる」
「焼き加減まで文句は言わない、ありがとう」
ライアンは一度怒ると手が付けられない乱暴者になるが、自分の食べる分をとられない限り怒る事がないので、同年生まれや子供会の年少者から慕われている。
手早くカインとアベルの鉄兜鍋でも肉を焼き始める。
一方のカインとアベルは、猟犬見習たち六頭の朝ご飯を用意してやった。
解体で肉を外した巨大な大腿骨と上腕骨が丸々残っている。
ファイター・フォレスト・ウルフなので、人間のように大腿骨や上腕骨とは呼ばないが、太くて食べ応えのある部位なのには違いない。
「「「「「がう、がう、がう、がう、がう」」」」」
ライアンが上手に肉を外したので表面上は骨だけに見えるが、骨の中心部には猟犬見習たちが大好きな骨髄がたっぷり入っている。
大好物をもらった猟犬見習たちは、昨日と同じように貪り食う。
余りにも集中して食べるので、周囲の警戒が心配になるくらいだった。
その所為でカインとアベルの眠気は一気に解消された。
「すまん、猟犬見習たちの集中力が切れてしまった」
「俺たちで警戒するから先に食っていてくれ」
「大丈夫ですよ、昨日またたくさんレベルが上がったから、周囲の状況が手に取るように分かります、安心して食べてください」
「俺もファイター・フォレスト・ウルフを斃して一気にレベルが上がった。
五感に限定した身体強化ができるようになったから、周囲の状況が良く分かる。
カインとアベルも安心して食べると良い」
10
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
森の小さな千年記 ポンポン・トゥルポン・あらカルト 比類無き者達との出会い
Pyxis
絵本
あらすじ
数千年に一度(2000年周期?)目覚めると言われる精霊達の目覚めがある年の早春に起こる。
時を同じくして月の番人であるかぐや姫達の活動も少しづつ活発化されて行く。
かぐや姫は使いの者として鶴亀と亀鶴と言う文字通り鶴と亀のキメラを地球に眠る精霊達の一部族を目覚めさせる為に飛ばした。
現在月の力は弱まり(昔の様に頻繁な交流がなく地球との往来が少なくなっている為)伝令・伝達すらもままならない状況にあった。
かぐや姫にはお世話役として兎の精霊(月の住人)ウサ・ポンが身の回りの世話をやいていた。
かぐや姫はウサ・ポンの作る月見団子がとても好物でそれを食べる事が何よりの楽しみであった♪
一方月より地球に飛び立った鶴亀&亀鶴は予想だにしない人物に出会うのである・・・(かぐや姫の姿をした影の存在)
その陰の存在に洗脳された鶴亀&亀鶴は2000年の間眠りについていたハニワの精霊達の親玉ハニワンを呼び起こすのであった。
ハニワンは影の存在の意のままに動く命のベルトを着けられ手下のチビ達を従えて地球の転覆を謀る活動を繰り返そうとしていたのである。
ハニワン達を呼び起こした鶴亀&亀鶴は月に帰るためのエネルギーを蓄える為に少しの間休眠を取ることにした。(月から地球までの片道だけでもかなりのエネルギーを使う為)
その一方では目覚まし年計と言う目覚まし時計(1000年単位の目覚ましw以降千年計と呼ぶ)の寝坊?に因って18年もの遅れをしつつ比類無きハーブの精霊を呼び覚ますのであった♪
約2000年の眠りから覚めたトゥルシーの精霊トゥル・ポンは突然の騒音に驚き目覚まし千年計を必殺技で焦げ焦げの状態にしてしまうのであるが・・・とってもタフな千年計は即座にバージョンアップをするのであったww
そんなこんなで新たな2000年紀が始まろうとしていたのであった。(ホントかいw)

昨日の敵は今日のパパ!
波湖 真
児童書・童話
アンジュは、途方に暮れていた。
画家のママは行方不明で、慣れない街に一人になってしまったのだ。
迷子になって助けてくれたのは騎士団のおじさんだった。
親切なおじさんに面倒を見てもらっているうちに、何故かこの国の公爵様の娘にされてしまった。
私、そんなの困ります!!
アンジュの気持ちを取り残したまま、公爵家に引き取られ、そこで会ったのは超不機嫌で冷たく、意地悪な人だったのだ。
家にも帰れず、公爵様には嫌われて、泣きたいのをグッと我慢する。
そう、画家のママが戻って来るまでは、ここで頑張るしかない!
アンジュは、なんとか公爵家で生きていけるのか?
どうせなら楽しく過ごしたい!
そんな元気でちゃっかりした女の子の物語が始まります。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
魔法が使えない女の子
咲間 咲良
児童書・童話
カナリア島に住む九歳の女の子エマは、自分だけ魔法が使えないことを悩んでいた。
友だちのエドガーにからかわれてつい「明日魔法を見せる」と約束してしまったエマは、大魔法使いの祖母マリアのお使いで魔法が書かれた本を返しに行く。
貸本屋ティンカーベル書房の書庫で出会ったのは、エマそっくりの顔と同じエメラルドの瞳をもつ男の子、アレン。冷たい態度に反発するが、上から降ってきた本に飲み込まれてしまう。
盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。
桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。
山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。
そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。
するとその人は優しい声で言いました。
「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」
その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。
(この作品はほぼ毎日更新です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる