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第1章
第6話:猟犬
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「以前手に入れた六十日青草の花弁と三十日青夜草の球根を保管していた薬箱があるから、猟犬に嗅がせて探させるのだ」
水属性の治療魔術だけでなく、薬草学も医学も詳しい村長が言った。
治癒魔術だけでは治せない場合、魔力が尽きてしまった場合を考えて、薬草の知識も医学の知識も学んでいる努力家の村長が言った。
村の猟師たちの代表で自警団の団長でもあるマクシムに、薬ダンスの引き出しを渡して、猟犬に嗅がせて六十日青草と三十日青夜草を探させた。
猟犬を連れた猟師たちが必死で群生地の場所を探している間に、エマたちも群生地を探す準備をした。
ダンジョンでスライムを斃したらドロップされる、持ち運べる水袋を手に入れ、大魔境で飲む水を確保した。
ダンジョンでコブラを斃したらドロップされる肉を手に入れ、塩をまぶして半干して、大魔境で食べる食料を確保した。
ダンジョンでラパンを斃したらドロップされる脂を手に入れ、以前から作り置きされていた塩干肉の表面に塗って、更に長期保存できる食料を確保した。
エマたちは最初から大魔境で夜を過ごす覚悟をしていた。
エマは母親を助ける為なら命を賭ける覚悟だった。
ライアンたちも命懸けでエマを手助けする覚悟を定めていた。
「父上様、大魔境で夜営してきます」
「何を言っているのだ、そんな危険な事は認められん!」
「神々の加護を受けた私たちが、神々の試練を受けているのです。
少々の危険など覚悟の上です。
ですが、無謀な真似をする訳ではありません。
ヴァンパイア除けの香を持って行くから大丈夫です」
「……ヴァンパイア除けの香と言っても絶対ではない。
近寄らせないのは悪神ロキの眷属だけだ、魔獣は襲ってくる」
「並の魔獣なら何の問題もなく斃せます。
自分たちが無敵だとは思いませんが、村から一日の範囲にいる魔獣が相手なら、負けるとは思えません。
三十日青夜草の群生地を探すには、大魔境で夜を過ごすしかありません」
エマの言う通りなので、村長も強く反対できなかった。
だが、父親としては、無謀な事はして欲しくなかった。
来年の成人に向けて十分な訓練をしていたのは知っているが、心配だった。
「だが、夜営の見張りはどうするのだ?
お前たちの力は認めるが、夜営の訓練まではしていないだろう?」
「夜営の訓練はしていませんが、四人交代で眠るから大丈夫です。
一番寝不足になる二番目と三番目はカインとアベルがやってくれます。
私とライアンは連続でぐっすりと眠れます」
「力の強いエマとライアンが集中して休めるのは良いが、二人よりも力のないカインとアベルが十分に休めないのは、危険が大きいのではないか?」
「それは大丈夫です、カインとアベルを助けてくれる猟犬がいます」
「バカな、猟犬はウル神が認めなかったぞ?!」
「ウル神様はカインとアベルが育てた犬なら認めると申されていました」
「カインとアベルは猟犬を育てていたのか?!
あの場では自分で育てた猟犬はいないと言っていたではないか?
神々の前で、試練を受ける場で、ウソを言ったのか?!」
「カインとアベルはウソを言った訳ではありません。
猟犬として十分な能力を備えた犬がいないだけで、夜の見張りやトリフを見つけられるくらいの犬はいたのです。
カインとアベルも来年には成人でした。
成人したら直ぐに大人たちに負けない猟師になりたくて、二年前に生まれた子と昨年生まれた子を、ずっと訓練していたそうです」
「まだ十分訓練できていない犬を大魔境に連れて行くと言うのか?」
「その点は私も気になって反対したのですが、普通の訓練でも三年目からは大魔境で働けるように連れ出すそうです」
「だがそれは、既に訓練が終わっている能力のある猟犬につけてではないのか?」
「あ、そうかもしれません、いえ、そのはずです」
「これは判断に迷うな。
父親の下で、先輩猟犬と一緒に訓練するのを、カインとアベルの猟犬だとウル神が認めて下さるかどうか……」
「猟をさせる訳ではなく、夜営の時にロキの眷属や魔獣が近づいて来ないか見張らせるだけですから、先輩猟犬との訓練は不要ではありませんか?」
「戦闘力などなくてもいいと言うのか?」
「ダンジョンで何度も試しましたが、軍神テュール 様の加護を受けたライアンの戦闘力は、村の大人たちにも勝てると思います」
「それは幾らなんでも言い過ぎだろう」
「いえ、領都や街で売れるように、上手に魔獣を狩る必要などないのです。
ただ斃せば良い戦い方なら、ライアンは大人たち以上だと思います。
それに、私が聖治癒術で支援するのですから、母上様の支援が無くなった村の大人たちなど敵ではありません。
四方を魔獣に囲まれたとしても、カインとアベルが時間稼ぎをしてくれている間に、ライアンが全滅させてくれると思います。
猟犬たちも、首と腹に鋲付きの防具をつけてあげれば、少々の魔獣が相手なら殺される事もないと思います」
浅くて大したドロップもない村のダンジョンだが、百に一度の確率で肉、皮、脂、硬貨がドロップする。
小さくて売っても安く買い叩かれる皮だが、継ぎ合わせれば防具が作れる。
それだけなら簡単に魔獣に食い破られるが、ドロップしたア鉄貨幣で鋲を作って埋め込めば、襲って来た魔獣の口を傷つける事になる。
「分かった、エマがそこまで言うのなら一晩だけ大魔境で過ごすのを認める。
だが一晩だけだ、朝になったら直ぐに戻って来るんだ、いいな?!」
水属性の治療魔術だけでなく、薬草学も医学も詳しい村長が言った。
治癒魔術だけでは治せない場合、魔力が尽きてしまった場合を考えて、薬草の知識も医学の知識も学んでいる努力家の村長が言った。
村の猟師たちの代表で自警団の団長でもあるマクシムに、薬ダンスの引き出しを渡して、猟犬に嗅がせて六十日青草と三十日青夜草を探させた。
猟犬を連れた猟師たちが必死で群生地の場所を探している間に、エマたちも群生地を探す準備をした。
ダンジョンでスライムを斃したらドロップされる、持ち運べる水袋を手に入れ、大魔境で飲む水を確保した。
ダンジョンでコブラを斃したらドロップされる肉を手に入れ、塩をまぶして半干して、大魔境で食べる食料を確保した。
ダンジョンでラパンを斃したらドロップされる脂を手に入れ、以前から作り置きされていた塩干肉の表面に塗って、更に長期保存できる食料を確保した。
エマたちは最初から大魔境で夜を過ごす覚悟をしていた。
エマは母親を助ける為なら命を賭ける覚悟だった。
ライアンたちも命懸けでエマを手助けする覚悟を定めていた。
「父上様、大魔境で夜営してきます」
「何を言っているのだ、そんな危険な事は認められん!」
「神々の加護を受けた私たちが、神々の試練を受けているのです。
少々の危険など覚悟の上です。
ですが、無謀な真似をする訳ではありません。
ヴァンパイア除けの香を持って行くから大丈夫です」
「……ヴァンパイア除けの香と言っても絶対ではない。
近寄らせないのは悪神ロキの眷属だけだ、魔獣は襲ってくる」
「並の魔獣なら何の問題もなく斃せます。
自分たちが無敵だとは思いませんが、村から一日の範囲にいる魔獣が相手なら、負けるとは思えません。
三十日青夜草の群生地を探すには、大魔境で夜を過ごすしかありません」
エマの言う通りなので、村長も強く反対できなかった。
だが、父親としては、無謀な事はして欲しくなかった。
来年の成人に向けて十分な訓練をしていたのは知っているが、心配だった。
「だが、夜営の見張りはどうするのだ?
お前たちの力は認めるが、夜営の訓練まではしていないだろう?」
「夜営の訓練はしていませんが、四人交代で眠るから大丈夫です。
一番寝不足になる二番目と三番目はカインとアベルがやってくれます。
私とライアンは連続でぐっすりと眠れます」
「力の強いエマとライアンが集中して休めるのは良いが、二人よりも力のないカインとアベルが十分に休めないのは、危険が大きいのではないか?」
「それは大丈夫です、カインとアベルを助けてくれる猟犬がいます」
「バカな、猟犬はウル神が認めなかったぞ?!」
「ウル神様はカインとアベルが育てた犬なら認めると申されていました」
「カインとアベルは猟犬を育てていたのか?!
あの場では自分で育てた猟犬はいないと言っていたではないか?
神々の前で、試練を受ける場で、ウソを言ったのか?!」
「カインとアベルはウソを言った訳ではありません。
猟犬として十分な能力を備えた犬がいないだけで、夜の見張りやトリフを見つけられるくらいの犬はいたのです。
カインとアベルも来年には成人でした。
成人したら直ぐに大人たちに負けない猟師になりたくて、二年前に生まれた子と昨年生まれた子を、ずっと訓練していたそうです」
「まだ十分訓練できていない犬を大魔境に連れて行くと言うのか?」
「その点は私も気になって反対したのですが、普通の訓練でも三年目からは大魔境で働けるように連れ出すそうです」
「だがそれは、既に訓練が終わっている能力のある猟犬につけてではないのか?」
「あ、そうかもしれません、いえ、そのはずです」
「これは判断に迷うな。
父親の下で、先輩猟犬と一緒に訓練するのを、カインとアベルの猟犬だとウル神が認めて下さるかどうか……」
「猟をさせる訳ではなく、夜営の時にロキの眷属や魔獣が近づいて来ないか見張らせるだけですから、先輩猟犬との訓練は不要ではありませんか?」
「戦闘力などなくてもいいと言うのか?」
「ダンジョンで何度も試しましたが、軍神テュール 様の加護を受けたライアンの戦闘力は、村の大人たちにも勝てると思います」
「それは幾らなんでも言い過ぎだろう」
「いえ、領都や街で売れるように、上手に魔獣を狩る必要などないのです。
ただ斃せば良い戦い方なら、ライアンは大人たち以上だと思います。
それに、私が聖治癒術で支援するのですから、母上様の支援が無くなった村の大人たちなど敵ではありません。
四方を魔獣に囲まれたとしても、カインとアベルが時間稼ぎをしてくれている間に、ライアンが全滅させてくれると思います。
猟犬たちも、首と腹に鋲付きの防具をつけてあげれば、少々の魔獣が相手なら殺される事もないと思います」
浅くて大したドロップもない村のダンジョンだが、百に一度の確率で肉、皮、脂、硬貨がドロップする。
小さくて売っても安く買い叩かれる皮だが、継ぎ合わせれば防具が作れる。
それだけなら簡単に魔獣に食い破られるが、ドロップしたア鉄貨幣で鋲を作って埋め込めば、襲って来た魔獣の口を傷つける事になる。
「分かった、エマがそこまで言うのなら一晩だけ大魔境で過ごすのを認める。
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