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第三章
第83話:水田地帯
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正直な話しをしますと、少々ドキドキしていました。
炎竜を言い包める自信はありましたが、何事も絶対ではありません。
万が一失敗したら、炎竜と戦う事になってしまいます。
勝てる可能性はありますが、周囲を巻き込まないようにするのは不可能です。
「くっそう、何故だ、何故人間ごときに出来る事が余にできない!?」
運が良い事に、炎竜は美味しい酒を再現する事ができませんでした。
味を知っているはずなのに、再現できませんでした。
俺が先に使った魔法なので、専用魔法になっているのでしょうか?
無詠唱でやっていましたが、専用の呪文が必要になっているのでしょうか?
或いはもっと根本的な原因があるのかもしれません。
俺は腐敗と発酵の違いを知っていますが、炎竜は知りません。
いえ、それだと接ぎ木や挿し木を再現できたのに反します。
……考えすぎても仕方がありませんね。
そもそも誰も魔法の原理を知らないのです。
神が授けてくださった贈り物だと受け入れられています。
本当に神様の贈り物なら、神様の気分次第で使える者が違ってしまうのでしょう。
「これからも、俺が生きている間は、酒を造らせてもらいます。
炎竜様が造られた果樹園と酒蔵の酒も、飲んでくださって結構です。
ですが、俺が造った酒蔵の酒まで寄こせと申されるのなら、偉大な炎竜様の誇りにかけて、同じ量が取れる水田と畑を炎竜砂漠に造っていただきます」
「うっ、くっ、腹立たしいが酒には代えられん。
だが、流石にここで作物を造るのは無理だ。
どうしても必要なら、やってやれない事はないが、その時は余が発している熱を抑えなければいけなくなる。
今果樹園にしている所がとてつもなく寒くなるが、それでもいいのか?」
「それは困ります、絶対に駄目です」
「だったら諦めろ」
困りましたね、ここまで魔力を使い、時間をかけて造った果樹園を無駄にはできませんが、食糧の確保は譲れません。
とはいえ、果樹園ベルト地帯の上下に水田や畑を造りたくても水量が限界です。
「炎竜様、山脈の反対側はどうですか?
東竜山脈と地竜森林の狭間に水田や畑は造れませんか?」
「ふん、その程度の事、児戯に等しい」
「東竜山脈の飛竜様や、地竜森林の地竜様が怒って暴れたりしませんか?」
「ふん、ちょっと入るくらいの事で起きて来るような連中ではない。
一度寝たら数千年は起きてこない。
山頂部や森林内の縄張りに入らない限り、そのまま寝ておるわ」
自分でやれない訳ではありませんが、どうせなら炎竜にやらせた方が良いです。
炎竜に造ってもらったら、その気配で魔獣や亜竜が近づかなくなります。
「では山脈の向こう側に水田と畑を造っていただきます。
その代わり、俺が造った果樹園と酒蔵は炎竜様のモノです。
ただし、元々人間用だった分は別ですよ。
毎年十石甕一杯の果物を人間に与えないと、死んでしまいますから」
本当は四斗甕十六個分の酒で良いのですが、余裕を持っておきましょう。
「くっ、しかたがない。
人間ごときにこれほど美味しい酒を飲ませるのは腹立たしいが、しかたがない」
炎竜の操り易さと、変わらない暴言が段々面白くなってきました。
「では反対側に行きましょう。
今日人間用の酒蔵から飲むのと同じだけの水田と畑を造ってもらいます。
飲み潰れる前に造ってもらいますからね!」
「何度も言わなくても分かっている!」
俺は先にワープを使って東竜山脈の北側に行きました。
炎竜は空を飛んで東竜山脈を越えました。
越える場所は飛竜を怒らせない所を選んでいるのでしょう。
「どの辺りから地竜を怒らせないですみますか?」
俺は竜爪街道の直ぐ側から聞きました。
以前の話から、飛竜も地竜ももっと東にいると分かっているからです。
「この辺なら地竜森林の直ぐ側から造っても大丈夫だ。
山も山頂まで大丈夫だが、その必要もないのだろう」
「そうですね、こちら側だと精々千メートル付近までしか耕作できません」
無理をすれば、もっと標高の高い所で耕作できるかもしれませんが、そんな厳しい環境の場所で無理をする必要はありません。
千メートル付近までなら、棚田や段々畑にしなくてもいいのです。
なだらかな傾斜ですから、一面が一反や一町の水田や畑にできます。
水を引き込む事を考えて、一反を基準にします。
俺の頭の中にある田んぼやブドウ畑は一枚一反です。
無意識に線引きするとどうしてもそうなります。
「最初に手本を見せるから、その通りにしてください」
俺は小川や自然な池や沼を水源に考えて水田や畑を造りました。
耕作に必要な水量を考えて、要所に農業用水池を造ります。
大雨や台風を考えて必要以上に丈夫にしておきました。
「くっ、なんで俺様が人間のためにこんな事をしなければいけないのだ!?」
ぶつぶつ言いながらも、律儀に俺の野手通りの耕作地を造ってくれます。
文句が多くて大酒のみですが、頭もよく魔法の使い方も繊細です。
水源に合わせて俺の手本にアレンジを加えています。
あっという間に二つの広大な水田地帯ができました。
地竜森林の南側は標高五百メートルくらいです。
そこから山頂までは、尾根と谷と盆地が続きます。
竜爪街道のある部分は厚みと高さのある場所で、耕作地は不向きです。
ですが、そこから五百メートルほどいくと、尾根と尾根の間にある谷です。
谷を少し登ると、もの凄く広い盆地になっています。
その、恐らく甲州盆地くらいの場所に、少々欲張って、果樹園を代償にする以上の耕作地を造ってもらいました。
一反の水田二万枚が二ケ所ですから、四万人は養えます。
甲州盆地なら十万石くらいの耕作地が造れるでしょう。
斜面に果樹園を造ればもっと養えるかもしれません。
水田や畑千枚ごとに酒蔵を造らせましたが、炎竜は俺の真意を分かっているのでしょうか?
建前上は村の住宅と集会場と言ってありますが、本当に信じたのでしょうか?
「よくやってくれました。
これで酒蔵二カ所分飲んで良いですよ」
「……物凄くは不利な条件のような気がしてきた。
余を騙しているのではないだろうな?!」
やっぱり気がついていたのだな。
「確かに多めに作っていただきましたが、それはしかたのない事です。
果樹園と違って、これから一年かけて穀物を植え育て収穫するのです。
それまで食べ物が手に入らないのですよ」
「お前が魔法を使えば簡単だろう!」
「俺は炎竜様のために酒を造らなければいけません。
炎竜様に米や麦を促成栽培して頂こうと思っても、成功するとは限りません。
だったら確実にやれることを多めにして頂いた方が良いでしょう?
人間にワインの材料を回すのは嫌のでしょう?」
「ガタガタ五月蠅い!
わかった、わかった、分かった。
この程度の魔力と手間で文句を言うより、さっさと済ませて酒を飲んだ方が良い。
もう今日はこれまでだ、酒を飲みに戻るぞ!」
炎竜を言い包める自信はありましたが、何事も絶対ではありません。
万が一失敗したら、炎竜と戦う事になってしまいます。
勝てる可能性はありますが、周囲を巻き込まないようにするのは不可能です。
「くっそう、何故だ、何故人間ごときに出来る事が余にできない!?」
運が良い事に、炎竜は美味しい酒を再現する事ができませんでした。
味を知っているはずなのに、再現できませんでした。
俺が先に使った魔法なので、専用魔法になっているのでしょうか?
無詠唱でやっていましたが、専用の呪文が必要になっているのでしょうか?
或いはもっと根本的な原因があるのかもしれません。
俺は腐敗と発酵の違いを知っていますが、炎竜は知りません。
いえ、それだと接ぎ木や挿し木を再現できたのに反します。
……考えすぎても仕方がありませんね。
そもそも誰も魔法の原理を知らないのです。
神が授けてくださった贈り物だと受け入れられています。
本当に神様の贈り物なら、神様の気分次第で使える者が違ってしまうのでしょう。
「これからも、俺が生きている間は、酒を造らせてもらいます。
炎竜様が造られた果樹園と酒蔵の酒も、飲んでくださって結構です。
ですが、俺が造った酒蔵の酒まで寄こせと申されるのなら、偉大な炎竜様の誇りにかけて、同じ量が取れる水田と畑を炎竜砂漠に造っていただきます」
「うっ、くっ、腹立たしいが酒には代えられん。
だが、流石にここで作物を造るのは無理だ。
どうしても必要なら、やってやれない事はないが、その時は余が発している熱を抑えなければいけなくなる。
今果樹園にしている所がとてつもなく寒くなるが、それでもいいのか?」
「それは困ります、絶対に駄目です」
「だったら諦めろ」
困りましたね、ここまで魔力を使い、時間をかけて造った果樹園を無駄にはできませんが、食糧の確保は譲れません。
とはいえ、果樹園ベルト地帯の上下に水田や畑を造りたくても水量が限界です。
「炎竜様、山脈の反対側はどうですか?
東竜山脈と地竜森林の狭間に水田や畑は造れませんか?」
「ふん、その程度の事、児戯に等しい」
「東竜山脈の飛竜様や、地竜森林の地竜様が怒って暴れたりしませんか?」
「ふん、ちょっと入るくらいの事で起きて来るような連中ではない。
一度寝たら数千年は起きてこない。
山頂部や森林内の縄張りに入らない限り、そのまま寝ておるわ」
自分でやれない訳ではありませんが、どうせなら炎竜にやらせた方が良いです。
炎竜に造ってもらったら、その気配で魔獣や亜竜が近づかなくなります。
「では山脈の向こう側に水田と畑を造っていただきます。
その代わり、俺が造った果樹園と酒蔵は炎竜様のモノです。
ただし、元々人間用だった分は別ですよ。
毎年十石甕一杯の果物を人間に与えないと、死んでしまいますから」
本当は四斗甕十六個分の酒で良いのですが、余裕を持っておきましょう。
「くっ、しかたがない。
人間ごときにこれほど美味しい酒を飲ませるのは腹立たしいが、しかたがない」
炎竜の操り易さと、変わらない暴言が段々面白くなってきました。
「では反対側に行きましょう。
今日人間用の酒蔵から飲むのと同じだけの水田と畑を造ってもらいます。
飲み潰れる前に造ってもらいますからね!」
「何度も言わなくても分かっている!」
俺は先にワープを使って東竜山脈の北側に行きました。
炎竜は空を飛んで東竜山脈を越えました。
越える場所は飛竜を怒らせない所を選んでいるのでしょう。
「どの辺りから地竜を怒らせないですみますか?」
俺は竜爪街道の直ぐ側から聞きました。
以前の話から、飛竜も地竜ももっと東にいると分かっているからです。
「この辺なら地竜森林の直ぐ側から造っても大丈夫だ。
山も山頂まで大丈夫だが、その必要もないのだろう」
「そうですね、こちら側だと精々千メートル付近までしか耕作できません」
無理をすれば、もっと標高の高い所で耕作できるかもしれませんが、そんな厳しい環境の場所で無理をする必要はありません。
千メートル付近までなら、棚田や段々畑にしなくてもいいのです。
なだらかな傾斜ですから、一面が一反や一町の水田や畑にできます。
水を引き込む事を考えて、一反を基準にします。
俺の頭の中にある田んぼやブドウ畑は一枚一反です。
無意識に線引きするとどうしてもそうなります。
「最初に手本を見せるから、その通りにしてください」
俺は小川や自然な池や沼を水源に考えて水田や畑を造りました。
耕作に必要な水量を考えて、要所に農業用水池を造ります。
大雨や台風を考えて必要以上に丈夫にしておきました。
「くっ、なんで俺様が人間のためにこんな事をしなければいけないのだ!?」
ぶつぶつ言いながらも、律儀に俺の野手通りの耕作地を造ってくれます。
文句が多くて大酒のみですが、頭もよく魔法の使い方も繊細です。
水源に合わせて俺の手本にアレンジを加えています。
あっという間に二つの広大な水田地帯ができました。
地竜森林の南側は標高五百メートルくらいです。
そこから山頂までは、尾根と谷と盆地が続きます。
竜爪街道のある部分は厚みと高さのある場所で、耕作地は不向きです。
ですが、そこから五百メートルほどいくと、尾根と尾根の間にある谷です。
谷を少し登ると、もの凄く広い盆地になっています。
その、恐らく甲州盆地くらいの場所に、少々欲張って、果樹園を代償にする以上の耕作地を造ってもらいました。
一反の水田二万枚が二ケ所ですから、四万人は養えます。
甲州盆地なら十万石くらいの耕作地が造れるでしょう。
斜面に果樹園を造ればもっと養えるかもしれません。
水田や畑千枚ごとに酒蔵を造らせましたが、炎竜は俺の真意を分かっているのでしょうか?
建前上は村の住宅と集会場と言ってありますが、本当に信じたのでしょうか?
「よくやってくれました。
これで酒蔵二カ所分飲んで良いですよ」
「……物凄くは不利な条件のような気がしてきた。
余を騙しているのではないだろうな?!」
やっぱり気がついていたのだな。
「確かに多めに作っていただきましたが、それはしかたのない事です。
果樹園と違って、これから一年かけて穀物を植え育て収穫するのです。
それまで食べ物が手に入らないのですよ」
「お前が魔法を使えば簡単だろう!」
「俺は炎竜様のために酒を造らなければいけません。
炎竜様に米や麦を促成栽培して頂こうと思っても、成功するとは限りません。
だったら確実にやれることを多めにして頂いた方が良いでしょう?
人間にワインの材料を回すのは嫌のでしょう?」
「ガタガタ五月蠅い!
わかった、わかった、分かった。
この程度の魔力と手間で文句を言うより、さっさと済ませて酒を飲んだ方が良い。
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