転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全

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第三章

第81話:蒸留酒

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 翌日も炎竜は二十五ケ所の酒蔵分で酔い潰れました。
 
「炎竜様、昨日飲まれた酒蔵の果樹園を実らせてください。
 他の酒蔵は時間をかけて酒を熟成させます。
 その方が炎竜様に余分な魔力も時間も使っていただかずにすみます」

「なに、他の酒蔵を自然に任せるだと?!
 それでは美味しくない酒ができるのではないか?!」

「昨日申し上げたのを覚えておられませんか?
 魔法で発酵させたのと同じくらい美味しくなるか、試すと言いましたよね?
 だからやらせているのです。
 それに、何度も申しあげますが、魔力も時間も少なくてすみます」

「……余の事を騙そうとしているのではないか?!」

「そのような事はいたしません。
 炎竜様を騙して怒らせてしまったら、人間が滅んでしまいます。
 それよりは、炎竜様に役立つことを証明して、生き延びる方を選びます。
 その方法として、酒を造れるところを見てもらうのです」

「……そういう事なら今日だけ言う通りにしてやる」

 炎竜はそう言って俺の指示通りに動いてくれました。
 どこかに行って、再度果樹園を実らせるだけの肥料を集めて来てくれました。
 肥料を撒いて果実を実らせてくれました。

 ただここで予定外の事が起こってしまいました。
 人間が果実を集める時間待てなかったのです。

「おい、他の酒蔵は果実を集めて絞り終わっているのだな?」

「はい、終っています」

「だったらその酒蔵を今直ぐ発酵させろ。
 発酵させたら直ぐに飲めるだろう」

「わかりました、他の酒蔵に行きましょう」

 俺が魔法で果汁を発酵させるのを待って、炎竜が次々と十石酒甕を飲み干します。
 きっちり二十五ケ所の酒蔵、二百二十五甕で酔い潰れました。
 五十酒蔵を炎竜用にする程度の変更ですめば御の字です。

 炎竜が寝た後で、炎竜砂漠に蒸留場を造りました。
 炎竜砂漠の熱気を上手く利用すれば、燃料不要で蒸留できます。

 燃料が不要なら、コストを考えずに何度も蒸留を繰り返せます。
 アルコール度数百パーセントとまでは言いませんが、九十パーセントくらいにはできるでしょう。

 長期保存ができる穀物は原料にせず、果物からだけで蒸留酒を造ります。
 将来的には穀物からも造りたいですが、今は餓死する者を無くすので精一杯なので、しばらくは長期保存ができない食材で造ります。

 蒸留酒の命名をどうするべきでしょうか。
 ジン、ウィスキー、ウオッカ、コニャック、泡盛、焼酎など色々あります。
 多くの果物で造るとなると、原料が決まっている名前は付けられないです。

 ブランデーだと木の樽に入れて熟成しなければいけません。
 ジンだと材料が大麦、ライ麦、ジャガイモに限られます。
 ウィスキーも材料が穀物に限られます。

 だから果物でも造られているウオッカにしました。
 ウオッカなら、高アルコール濃度にも適した名前です。
 ウオッカの前に果物名をつければ原料も分かるようになります。

 俺は前日の予定を少しだけ修正しました。
 炎竜のために修正しているので、自分のために小修正するのは気になりません。
 気にするとしたら、選ばれた酒蔵に人間に予定以上の仕事をさせる事です。

 それくらいの事を気にする必要はないかもしれませんが、ちょっと気になります。
 だからと言って、何か余分な対価を与える事もできません。

 貨幣や穀物を報酬に与える事は出来ますが、それは争いに繋がります。
 百人内では同じですが、他の酒蔵の人達と差がついてしまいます。
 気にしない者もいるでしょうが、気にして嫉妬する者も必ずいます。

 なので、余分な仕事を公平にやらせる事にしました。
 全ての酒蔵に順番にやらせます。

 本当はここまで気にしなくてもいいのです。
 炎竜用の酒蔵と他の酒蔵では労働条件が全く違うのに、報酬が同じだからです。

 ただ、炎竜が原因なら、俺が恨まれる事はありませんが、俺が原因だと、恨まれるのが俺になってしまいます。
 それが気になって、順番にやらせる事にしたのです。

「食事に問題はないか?」

「問題など何もありません」
「はい、全く問題ありません」
「今までほとんど食べられなかった、肉料理がお腹一杯食べられます」
「生まれた初めて食べた甘い果物をお腹一杯食べられます」
「こんな料理を食べられるのに、問題など何もありません」

 余分な仕事をさせている酒蔵の人達に確認しましたが、本当に何の問題もなく、よろこんでやってくれています。

 一日二回の肉と果物の食事は、一日一度少しの穀物だけの食事だった彼らには、夢のような食事だと何度も聞かされています。

 更に好きな時に好きなだけ果物を食べて良いと言っていますから、問題がないという言葉を信じてもいいでしょう。

 俺は最初にブドウから蒸留酒を造る事にしました。
 それもブドウの種類ごとに分けるようにしました。
 酒蔵と同じように、蒸留所も蒸留器を九つにしました。

 コウシュウ・ウオッカ
 デラウェア・ウオッカ
 マスカット・ベリー・A・ウオッカ
 キョホウ・ウオッカ
 ピオーネ・ウオッカ
 マスカット・ウオッカ
 ネオマスカット・ウオッカ
 キャンベラ・ウオッカ
 マンドリン・オレンジ・ウオッカ

 最初に造った蒸留所では、以上の九種のウオッカを造りました。
 初めての事なので、魔力はそれほど使いませんしでたが、結構時間がかかってしまいました。

「父上、母上、昨日飲んでいただいたワインとは違う、もの凄く酒精の強い酒を試作してみましたので、試しに飲んでください」

「昨日の酒は美味しかったが、甘過ぎて量は飲めなかった」

 父上は、甘過ぎるワインは好みではないようです。

「昨日のお酒は甘くてとても美味しかったわ!
 でも、酒精が強すぎますから、若い女性は気をつけなければいけません」

 母上は酒に御強いから大丈夫でしょうが、姉上達が酒に強いかどうかまでは知りませんから、渡さない方が良いですね。

「そうですね、酒に酔って貞操を奪われるような事が有ってはいけませんね」

「そうね、他人事だと言ってしまっては、人として許されない気がします。
 これまでのような、あまり美味しくないお酒なら問題ないですが、あれほど甘くて美味しいと、飲み見過ぎるなと言っても止められないでしょう」

「それなら今日の酒の方が良いかもしれません。
 昨日の酒の何倍も酒精が強い分、甘味が少ししかありません。
 風味もだいぶ減っていますから、水やお湯で割って飲めば飲み過ぎないでしょう」

「そうか、酒精が強くて甘くないのは楽しみだ」

「令嬢の危険が減るのでしたら、最初に家で試せるかもしれません」

 果物で割るにしても、家の果物でなければ甘味も風味も少なく、酸味や渋みが多いですから、令嬢が飲み過ぎる事もないでしょう。
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