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第三章
第80話:果樹園国家
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翌日の昼頃になってようやく起き出して来た炎竜に直接聞きました。
「人間を働かせて酒を造らせるのなら、一年間食糧を保存しなければいけません。
果物を一年間保存するには、酒にするしかありません。
炎竜様、貴男様用の酒にできない果物を、人間用の酒にしても良いですか?」
「なんだと、余と同じ酒を人間に飲ませるだと?!」
「同じ酒ではありません。
炎竜様が飲む御酒は、俺が魔法で最高に美味しくした御酒です。
人間が飲む酒は、同じ果物を使っていますが、人間が自然の力を借りて時間をかけて造る物です。
原料の果物が美味しいので、他の国の酒とは比べ物にならないくらい美味しくなりますが、炎竜様用のお酒とは比べ物になりませんよ」
「飲み比べさせろ、飲み比べしなければ美味いかどうか分からん」
「では幾つかの酒蔵を人間用にして、三月ほど発酵するのを待ってもらいます」
「なに、三カ月も待たなければいけないのか?!」
「自然に発酵させて酒にするにはそれくらいかかります。
人間用の甕はこんなに小さいですから、炎竜様に飲み比べていただくには少な過ぎますから、酒蔵を幾つか空けてもらわなければいけません」
俺は以前人間用に造った四斗甕を幾つかウェアハウスから出して見せた。
「なんだと、そんなに待てるか!
それになんだその小ささは、以前に巡った国と同じではないか!」
「人間の大きさを考えれば、これでも六十日分です」
「何だと、これっぽっちで六十日分だと?!」
「人間の大きさを考えてみてください。
酒しか飲まないで生きて行こうとしても、これ六個で一年間生きられるのです」
「けっ、それくらいなら好きにすればいい。
ただし、俺が毎日の酒に満足できなかったら、取り上げるからな!」
「その点はお任せください。
十分満足していただけるはずです」
炎竜が納得してくれましたので、昨日と同じ事の繰り返しです。
とは言っても、やれる事には限りがあります。
いえ、炎竜が思っていた以上にグウタラでした!
新しい果樹園は造ってくれず、今まで造った果樹園だけですが、果実の採取が終わった所を、何時でも又も実らせられるように、肥料を撒くのはやってくれました。
炎竜が百四十七ケ所の新果樹園と十四ケ所の旧果樹園に肥料を撒く間に、俺は全酒蔵の発酵を終わらせました。
ああ、昨日炎竜が酒蔵を飲み干したところは違います。
そこは肥料を撒いてから実らせて収穫しなければいけませんから、果実を潰して果汁にする時間が必要です。
十四ケ所の旧果樹園と二十一カ所の新果樹園にいる人々は、今も忙しく果実を収穫して果汁にしています。
炎竜は昨日と同じように大鼾をかきながらだらしなく眠っています。
今日は二十五ケ所の酒蔵を飲み干して泥酔しました。
殺さないまでも、顔に落書きしてやろうかと思うくらい情けない姿です。
西竜山脈にも果樹園と酒蔵を造らせようと思っていたのですが、今日は諦めるしかありませんでした。
俺や家族が切羽詰まっていたら、危険を覚悟で炎竜を言い包めるのですが、びっくりするくらい余裕がありますので、そこまでする気にはなりませんでした。
さて、有り余る魔力と時間をどう使えばいいでしょうか?
昨日と同じだとすれば、明日の昼前まで炎竜は起きて来ません。
炎竜が酔い潰れるのに酒蔵二十五ケ所ですむのなら、残る百二十二ケ所の新果樹園は好きにできるのです。
俺は今日炎竜が飲み干した酒蔵の果樹園に向かいました。
「今から私がまた果樹を実らせます。
貴方達には採取して果汁にしてもらいます。
それを十石甕に入れて、時間をかけて発酵させます。
魔法で発酵させた酒と、自然に発酵させた酒のどちらが美味しいのか比べます」
「何を言われているのかよく分かりませんが、私達にできる事なら何でもやらせていただきますので、ここから追い出さないでください」
「この者の言う通りです。
強大な竜がいようと、貢ぎ物さえ渡せば喰われないのなら、ここの方が良いです。
税を渡しても殴られ蹴られ、女房子供を慰み者にされる村にいるよりも、ここにいる方が安全でお腹一杯食べられます。
どうかここにおいてください」
「私も言う通りにしますから、ここにおいてください」
「ぼくも言う通りにします、おいてください」
「おれも、俺も言う通りにしますから、ここで働かせてください」
暴君と言える侯王領から連れてきた人達に泣いて縋られました。
追い出す気など最初からないのですが、炎竜が酒を飲んでしまったので、もう用なしだと戻されるのを恐れたのでしょう。
昨日あれだけ説明したのに、何も分かってくれていませんでした。
だからと言って腹を立てる訳にも行きません。
彼らは過去に何度も領主に約束を破られているはずですから。
俺はこれからの事を恐れる人達に丁寧に説明しました。
これから何度も同じ説明をしなければいけないのでしょうが、仕方ありません。
不安から俺に殺到懇願する人達を宥め終えた後で、余裕のある新果樹園の人達の所に行きました。
「貴方達には自分達が飲む酒を造っていただきます。
余っている果物は、最初から貴方達の食糧にする予定でした。
ですが、生のままでは長く保存できません。
魔法を使えない普通の人間なら、来年の収穫まで待たなければいけません。
それだけ保存するには、酒にするしかありません。
この四斗甕に果汁を入れて発酵させてもらいます」
「「「「「はい」」」」」
「ただし、相手は身勝手な酒乱炎竜です。
貴男方が自分のために造った酒も寄こせ言うかもしれません。
その時は諦めて素直に渡してください。
その代わり、飢えないように肉を取って来させます」
「私達のために、恐ろしい炎竜と交渉してくださり、ありがとうございます」
「心から感謝しています」
「酒なんてほとんど飲んだ事がありませんから、別に欲しくありません。
お腹一杯食べられるだけで夢のようです」
「こいつの言う通りです、四食も肉をお腹一杯食べられるなんて、夢なら覚めないでくれと今も思っています」
何所に行っても口々に感謝の念を伝えられます。
そこまでされると不完全な良心がシクシクと痛みます。
だから久しぶりに自分の魔力をそれなりに使いました。
全然魔力が減った気はしませんでしたが、普通の魔法使いなら何百回と魔力枯渇で死ぬ量です。
それだけの魔力を使って造ったのは、人間用の酒を発酵させる四斗甕です。
一人十六個必要ですから、百人分で千六百甕です。
三年熟成させた方が美味しいでしょうから、酒蔵一カ所で四千八百甕造りました。
それが百四十七ケ所ですから、二三万五二〇〇甕造った事になします。
我ながらよく造ったと思います。
ただ、これが全てではありません。
元からあった果樹園、譜代の家臣領民が住む場所は別格です。
彼らには沖縄の古酒、泡盛のよう酒を造ってもらいます。
百年二百年熟成させた古酒を造ってもらいたいです。
俺は前世で下戸でしたから、酒の美味しさを知りません。
この世界には魔法がありますから、アルコール分解酵素の出せない体でも、無理矢理魔法でアルコールを分解できるかもしれません。
もう少し体が大きくなって、酔い潰れても心配しなくていい情勢になったら、思い切って酒を飲もうと思っています。
ビールのような苦い酒は飲みたくありませんが、甘くて美味しいカクテルなら飲んでみたいと思っているのです。
ウーロン茶や緑茶のように、料理の美味しさを邪魔しないお酒が飲めるようになったら、人生が豊かになるかもしれません。
そう考えると、果汁感の強いフルーツワインだけを作ってはいられません。
無味無臭で身体に害のないアルコールを造る必要があります。
「人間を働かせて酒を造らせるのなら、一年間食糧を保存しなければいけません。
果物を一年間保存するには、酒にするしかありません。
炎竜様、貴男様用の酒にできない果物を、人間用の酒にしても良いですか?」
「なんだと、余と同じ酒を人間に飲ませるだと?!」
「同じ酒ではありません。
炎竜様が飲む御酒は、俺が魔法で最高に美味しくした御酒です。
人間が飲む酒は、同じ果物を使っていますが、人間が自然の力を借りて時間をかけて造る物です。
原料の果物が美味しいので、他の国の酒とは比べ物にならないくらい美味しくなりますが、炎竜様用のお酒とは比べ物になりませんよ」
「飲み比べさせろ、飲み比べしなければ美味いかどうか分からん」
「では幾つかの酒蔵を人間用にして、三月ほど発酵するのを待ってもらいます」
「なに、三カ月も待たなければいけないのか?!」
「自然に発酵させて酒にするにはそれくらいかかります。
人間用の甕はこんなに小さいですから、炎竜様に飲み比べていただくには少な過ぎますから、酒蔵を幾つか空けてもらわなければいけません」
俺は以前人間用に造った四斗甕を幾つかウェアハウスから出して見せた。
「なんだと、そんなに待てるか!
それになんだその小ささは、以前に巡った国と同じではないか!」
「人間の大きさを考えれば、これでも六十日分です」
「何だと、これっぽっちで六十日分だと?!」
「人間の大きさを考えてみてください。
酒しか飲まないで生きて行こうとしても、これ六個で一年間生きられるのです」
「けっ、それくらいなら好きにすればいい。
ただし、俺が毎日の酒に満足できなかったら、取り上げるからな!」
「その点はお任せください。
十分満足していただけるはずです」
炎竜が納得してくれましたので、昨日と同じ事の繰り返しです。
とは言っても、やれる事には限りがあります。
いえ、炎竜が思っていた以上にグウタラでした!
新しい果樹園は造ってくれず、今まで造った果樹園だけですが、果実の採取が終わった所を、何時でも又も実らせられるように、肥料を撒くのはやってくれました。
炎竜が百四十七ケ所の新果樹園と十四ケ所の旧果樹園に肥料を撒く間に、俺は全酒蔵の発酵を終わらせました。
ああ、昨日炎竜が酒蔵を飲み干したところは違います。
そこは肥料を撒いてから実らせて収穫しなければいけませんから、果実を潰して果汁にする時間が必要です。
十四ケ所の旧果樹園と二十一カ所の新果樹園にいる人々は、今も忙しく果実を収穫して果汁にしています。
炎竜は昨日と同じように大鼾をかきながらだらしなく眠っています。
今日は二十五ケ所の酒蔵を飲み干して泥酔しました。
殺さないまでも、顔に落書きしてやろうかと思うくらい情けない姿です。
西竜山脈にも果樹園と酒蔵を造らせようと思っていたのですが、今日は諦めるしかありませんでした。
俺や家族が切羽詰まっていたら、危険を覚悟で炎竜を言い包めるのですが、びっくりするくらい余裕がありますので、そこまでする気にはなりませんでした。
さて、有り余る魔力と時間をどう使えばいいでしょうか?
昨日と同じだとすれば、明日の昼前まで炎竜は起きて来ません。
炎竜が酔い潰れるのに酒蔵二十五ケ所ですむのなら、残る百二十二ケ所の新果樹園は好きにできるのです。
俺は今日炎竜が飲み干した酒蔵の果樹園に向かいました。
「今から私がまた果樹を実らせます。
貴方達には採取して果汁にしてもらいます。
それを十石甕に入れて、時間をかけて発酵させます。
魔法で発酵させた酒と、自然に発酵させた酒のどちらが美味しいのか比べます」
「何を言われているのかよく分かりませんが、私達にできる事なら何でもやらせていただきますので、ここから追い出さないでください」
「この者の言う通りです。
強大な竜がいようと、貢ぎ物さえ渡せば喰われないのなら、ここの方が良いです。
税を渡しても殴られ蹴られ、女房子供を慰み者にされる村にいるよりも、ここにいる方が安全でお腹一杯食べられます。
どうかここにおいてください」
「私も言う通りにしますから、ここにおいてください」
「ぼくも言う通りにします、おいてください」
「おれも、俺も言う通りにしますから、ここで働かせてください」
暴君と言える侯王領から連れてきた人達に泣いて縋られました。
追い出す気など最初からないのですが、炎竜が酒を飲んでしまったので、もう用なしだと戻されるのを恐れたのでしょう。
昨日あれだけ説明したのに、何も分かってくれていませんでした。
だからと言って腹を立てる訳にも行きません。
彼らは過去に何度も領主に約束を破られているはずですから。
俺はこれからの事を恐れる人達に丁寧に説明しました。
これから何度も同じ説明をしなければいけないのでしょうが、仕方ありません。
不安から俺に殺到懇願する人達を宥め終えた後で、余裕のある新果樹園の人達の所に行きました。
「貴方達には自分達が飲む酒を造っていただきます。
余っている果物は、最初から貴方達の食糧にする予定でした。
ですが、生のままでは長く保存できません。
魔法を使えない普通の人間なら、来年の収穫まで待たなければいけません。
それだけ保存するには、酒にするしかありません。
この四斗甕に果汁を入れて発酵させてもらいます」
「「「「「はい」」」」」
「ただし、相手は身勝手な酒乱炎竜です。
貴男方が自分のために造った酒も寄こせ言うかもしれません。
その時は諦めて素直に渡してください。
その代わり、飢えないように肉を取って来させます」
「私達のために、恐ろしい炎竜と交渉してくださり、ありがとうございます」
「心から感謝しています」
「酒なんてほとんど飲んだ事がありませんから、別に欲しくありません。
お腹一杯食べられるだけで夢のようです」
「こいつの言う通りです、四食も肉をお腹一杯食べられるなんて、夢なら覚めないでくれと今も思っています」
何所に行っても口々に感謝の念を伝えられます。
そこまでされると不完全な良心がシクシクと痛みます。
だから久しぶりに自分の魔力をそれなりに使いました。
全然魔力が減った気はしませんでしたが、普通の魔法使いなら何百回と魔力枯渇で死ぬ量です。
それだけの魔力を使って造ったのは、人間用の酒を発酵させる四斗甕です。
一人十六個必要ですから、百人分で千六百甕です。
三年熟成させた方が美味しいでしょうから、酒蔵一カ所で四千八百甕造りました。
それが百四十七ケ所ですから、二三万五二〇〇甕造った事になします。
我ながらよく造ったと思います。
ただ、これが全てではありません。
元からあった果樹園、譜代の家臣領民が住む場所は別格です。
彼らには沖縄の古酒、泡盛のよう酒を造ってもらいます。
百年二百年熟成させた古酒を造ってもらいたいです。
俺は前世で下戸でしたから、酒の美味しさを知りません。
この世界には魔法がありますから、アルコール分解酵素の出せない体でも、無理矢理魔法でアルコールを分解できるかもしれません。
もう少し体が大きくなって、酔い潰れても心配しなくていい情勢になったら、思い切って酒を飲もうと思っています。
ビールのような苦い酒は飲みたくありませんが、甘くて美味しいカクテルなら飲んでみたいと思っているのです。
ウーロン茶や緑茶のように、料理の美味しさを邪魔しないお酒が飲めるようになったら、人生が豊かになるかもしれません。
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