転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全

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第三章

第74話:促成栽培

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「これか、この樹に美味しい酒を造る実が生るのか?」

 炎竜が俺を脅して東竜山脈の果樹園に案内させました。
 村に戻っている人達が怖がるので、案内したくなかったのですが、炎竜を怒らせるわけにはいかないので、仕方がないのです。

「はい、元々生えていた木々の根に、外から持って来た果樹を接ぎ木して、俺の魔法で甘く美味しくなるように念じました」

「ほう、そのような方法で美味しい果実が実るようになるのか?」

「誰がやってもできるかどうかは分かりません。
 人神が俺に授けてくれた魔法ではできるようです」

 大嘘だが、こう言っておいた方が良いでしょう。
 本当は前世の知識を前提に、アニメやラノベでやっていた事を、創造力と魔力で無理矢理実現させているだけです。

「はん、人がごときにできる事なら、俺様にもできるはずだ」

「では試してみられますか?
 ここに自生していた木々の根と俺が品種改良した果樹の苗があります。
 この二つを接ぎ木で合わせるのです」

「それがやれたら、お前が言っていた以上の早さで酒が造れるのだな?」

「実が生るまで数年かかりますから、直ぐとは言えません」

「なんだ、つまらん、それでは試す気にもならん」

「でもやってみて成功させなければ、何時までも少しの酒しか造れませんよ」

「うっ、それは駄目だ、もっと早く大量の酒を造れるようになれ!」

「それなら実が生るまでに数年かかろうと、やってもらわなければいけません」

「くっ、仕方がない、やってやろうではないか。
 余の酒のために一瞬で実れ!
 美味しい酒が造れる実をつけろ!
 さもなければ焼き払うぞ!」

 炎竜の言葉と共に、大量の魔力が放たれました。
 俺が本気で魔力を放った時ほどではありませんが、かなりの量です。
 僅か一本の接ぎ木のためには多過ぎる魔力です。

「おおおおお、これはどうなっている?
 周りの木々にも実が生っているではないか!」

「炎竜様、もしかしてこの一帯全てに実る想像をされて魔力を放たれました?」

「ああ、そうだ、大量の実が生ったら酒が造れると思って放ったぞ」

「これはその影響だと思います。
 炎竜様の魔力量が膨大なお陰でしょう。
 これだけあれば、炎竜様の望まれる酒造りが始められます」

「おお、そうか、そうか、だったら今直ぐ造れ。
 早く造れ、直ぐ造れ、どれくらいでできるのだ?」

「そうですね、早い物で七日ですが、この季節だと十五日くらい見てください」

「そんなに待たなければいけないのか?!」

「五千年も眠っていた方がよく言われますね。
 何ならもう少し眠られてください」

「もう十分眠った、これ以上眠る気はない」

「でしたら、炎竜様の御力で、無理矢理実らせた果樹から離れた場所に、新し果樹園を造ってくださいませんか?
 今実らせた果樹はとても疲れていますし、大地の力も無くなっていますから、この果樹を魔力で無理矢理実らせるのは難しいと思います。
 ですが大地の力が残っている場所なら、同じ様に果樹を実らせる事ができます。
 それを十五日も続ければ、大量の実りが得られて、酒も大量に造れます」

「なに、酒がそんなに造れるのか?!
 だったら幾らでもやってやる!」

「では自生の木々の種と果樹の種を持って移動しましょう」

「そうか、何所に果樹園を作るのだ?」

「この高さが一番合っていますので、ここから徐々に東に移動しましょう。
 あ、分かるのなら地下水脈の上にしてください。」

「そうか、地下水脈の上だな、分かった、行くぞ」

 俺は大量の種を持って東に移動しました。
 身体強化魔術がありますから、炎竜の飛行速度に置いて行かれる事はありません。
 
 最初に自生種の木々を種から促成成長させてもらいました。
 促成成長させた自生種を根だけ残して伐採し、液肥にして果樹園予定地に沁み込ませました。

 できるかどうか分からなかった、切り株の上に果樹の種を置き、切り株と融合させる魔術が成功しました。

 炎竜だけができるのか、俺にもやれるのか、今度試したいです。
 次に融合に成功した果樹が実る所まで促成栽培してもらいました。

「成功しました、流石炎竜様です。
 ですが今日はここまでです。
 実った果実を採取するだけに人手がありません」

「なんだと、人手もないのにやらせたのか!」

「これはやれるかどうかの試験です。
 試験が成功したら、次は実る手前まで成長させればいいのです。
 そうしておけば、何時でも果実が手に入るようになります。
 人手が確保でき次第、酒造りが始められます」

「人間など掃いて捨てるほどいるではないか!
 そこら辺の人間を掻き集めて来て、酒を造らせろ!」

「美味しい酒を造るのは、とても難しいのです。
 王都や他の場所で飲んだような不味い酒でもいいのですか?」

「お前は果実が不味いから酒も不味いと言っていたではないか!
 この果実さえあれば、美味しい酒が造れるのであろう?」

「材料が違うと、造り方も変わるかもしれません。
 もしかしたら失敗して腐ってしまうかもしれません。
 腐らないまでも、酢になってしまうかもしれません」

「しれません、しれません、しれませんと五月蠅い奴だ!
 失敗したらまた一から実らせればいいのだ。
 さっさと酒が造れる連中を集めて来い!」

「では、私がここを見張っていますから、食糧になる肉を取って来てください。
 人を働かせるには食糧が必要です。
 飛竜山脈や地竜森林に入って争われては人族が滅んでしまいます。
 遠く離れた海から鯨か鮫を狩って来て下さい」

「鯨を狩ってきたら酒を造るのだな?
 嘘ではないな?!」

「炎竜様に嘘など言いません。
 必ず人手を集めてきます」

「だったらそこで余の果実を盗む者がいないか見張っていろ!」

 炎竜はそう言い捨てると南の空に飛び立って行きました。
 俺は炎竜が鯨を狩ってくるのを確信していますから、帰ってくる前に本領各村にゲートをつなぎ、国民を集めて果実、リンゴの取入れを始めました。

 三千を超える魔術融合リンゴが生える果樹園です。
 摘果をせずに魔術で無理矢理実らせていますから、一本の木に千は実っています。
 三百万個のリンゴを収穫しようと思えば大変です。

「ほう、かんしん、かんしん、余がいない間に人手を集めていたか。
 これなら大量の酒が飲めそうだな」

 脚の爪に一頭の巨大な鯨を鷲掴みにした炎竜が、空中に静止した状態で話しかけてきますが、全く風を感じません。

「その鯨は捌ける人間のいる所に運んでもらいます。
 それと、今集まっているのは林檎を収穫する人達です。
 酒造りは特殊な技術ですから、一緒に造れる人間を探しに行ってもらいますよ」

 これまで我が家の酒造りは自家製の技術に留まっていました。
 連邦に広大な領地と多数の民を得ましたから、時間をかけて探せば本格的な醸造家がいるかもしれませんが、探している時間がありません。

 それに、探して醸造家がいなければ時間の無駄です。
 それよりは、王家が自分のために酒造りをさせている醸造家を強制徴募すれば、我が家の醸造技術が格段に高くなります。

「なに、酒を造れる者がいないだと?!
 せっかく余が褒めてやったと言うのに、台無しだ」

「炎竜様、卑小な人間に期待されないでください。
 身体の大きさも魔力量も比べ物にならないでしょう?」

「ふん、嘘をつくな嘘を!
 お前の魔力量が余の知る人間とは全く違う事、気付いていないとでも思ったか?」

 そうですか、そうですよね。
 俺にできて炎竜にできない訳ないですよね。
 俺の魔力量を知っていて放置するのは自信の表れなのでしょうか?
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