転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全

文字の大きさ
上 下
73 / 87
第三章

第73話:脅迫行脚

しおりを挟む
「うっわ、汚いですねぇ。
 幾ら炎竜様が怖いとは言っても、一国の王が失禁脱糞してはいけないでしょう」

 なかなか王家用の酒を持ってこない事に激怒した炎竜が、俺の許可を貰ってから威嚇の咆哮を放ったのですが、その結果はとてもおぞましいものでした。

 失禁脱糞したのは王だけではなく、重臣以下の多くの家臣使用人が粗相をしてしまい、王城内はとんでもない状態になっています。

「陛下、王城内の酒は全部炎竜様に捧げていただきますよ。
 我が家だけが酒を捧げるのは不公平過ぎますから。
 それと、王国中の王侯貴族に酒を捧げるように命じてください。
 今この場で陛下直筆の書状を書いてください。
 あ、サインと印章も忘れないでくださいね。
 宰相、貴男も何時までも腰を抜かしてないで、さっさと書いてください」

 失禁脱糞した臭い連中が群れている場所にいるのは嫌ですが、しかたりません。
 これをやっておかないと、王国中から酒を強制徴発するのが、俺の責任になってしまいます。

 俺だって遣りたくてやっている訳ではありません。
 炎竜の脅威から人族を守る為にやっているのです。
 俺や我が家だけが大きな負担を背負わなければいけない理由などありません。

「少しはましだが、まだ渋くて酸っぱいぞ!
 王家の酒でもこの程度なのか?!」

「そうですか、それほど味に違いがありますか。
 では仕方ありません、国中を巡って美味しい酒を探しましょう」

 王家王国の兵士や使用人に、王城内はもちろん王都中の酒を集めてもらいました。
 二日ほどかかりましたが、仕方ありません。
 その間炎竜は、不味いと言いながらも酒を浴びるほど飲んでいました。

 炎竜の身体が小山のように大きいのが問題でした。
 一度に飲む酒の量が多過ぎますし、満足するまでの量も多過ぎます。
 一国の王都内にある酒の半数が、たった二日の間に飲み干されてしまいました。

「このお酒を全部飲んでしまったら、来年までお酒は飲めませんよ」

「なんだと、これっぽっちの量で酒が無くなると言うのか?!」

「偉大な炎竜様と卑小な人間では身体の大きさが違い過ぎます。
 何度も言いましたが、ここは王都なのですよ。
 ここに一番良い酒が一番沢山集められているのですよ。
 その半分を飲んでいしまっているのですから、無くなるに決まっているでしょう」

「だが麦酒なら一年も待たないで造れるではないか」

 ちっ、酒を醸造するのに必要な日時を知っていたのですね。
 
「確かに麦酒なら三カ月ほどで造れるでしょう。
 ですが、その麦をどこから集めてくるのですか?
 炎竜砂漠で話しましたよね?
 この周囲の国が不作と凶作だと。
 先に造っている酒を奪うだけでも、卑小な人間が沢山飢えるのです。
 炎竜様は人族から食用の麦を奪って餓死させたいのですか?!」

「ふん、そう言えば余が人間の食糧を奪わないと思っているのだろう?」

「はい、偉大な存在である炎竜様が、人族のような卑小な存在の食糧を奪い、大量に餓死させるとは思っていませんから」

「ちっ、仕方がない、餓死するまで酒を造れとは言わん。
 だが、お前が最初に口にしていた、国中の酒を飲み比べてみろと言った言葉は果たしてもらうからな」

「分かっています、国中の王侯貴族から酒を徴発して回りましょう」

 最初は王都周辺の貴族領や騎士領を周って酒を集めました。
 小さな騎士領では集められる酒の量が少なかったです。

 中には隠して渡そうとしない領主もいて、何度か炎竜が咆哮を放って脅かさなければいけなかったです。

 そんな領主は全員失禁脱糞してしまったので、領民の前で大恥をかいてしまい、忠誠心も威厳も地に落ちていました。

「俺の姿と声を領都中に届けてください。
 ツー・フォーシブリィ・デリバー・ワァンズ・アピアランス・アンド・ボイス」

 最初に王都に使った映像拡声魔術ですが、一度使った事で前段階の言葉を全部省いても、魔法を発動できるようになりました。

「怖がらなくていいです。
 ここに居られるのは伝説の炎竜様ですが、話し合いに応じてくださいました。
 必死で説得して、お酒を捧げれば人間を滅ぼさないと約束してくださいました。
 国王陛下からも、王国中の酒を炎竜様に捧げるように勅命をいただきました。
 王家王国も我が家も全てのお酒を捧げました。
 酒を隠しているのが分かれば、王侯貴族であろうと平民であろうと殺されます。
 今直ぐ家にある酒を全部外に出してください」

 何度か上位貴族の領都で酒の供出を命じて思い知りました。
 酒好きのお酒に対する執着は俺の想像をはるかに超えていました。
 炎竜に喰われると脅されているのに隠そうとするのです。

「くっ、まずい、不味すぎる!
 なぜこれほど不味い酒を平気で造れるのだ?!」

「だから最初から何度も言っているではありませんか。
 我が家の麦や果物は、魔法の力で美味しくしたと。
 美味しい酒が飲みたいのなら、我が家を守って酒造りに専念できるようにしなければいけません」

「お前達が酒造りに専念できるようにすれば、もっと多くの酒を飲めるのだな?」

「最初に言っておきますが、炎竜様に満足していただけるほどの量は無理ですよ。
 東竜山脈にある畑や果樹園は狭くて、人間が生きていくのに必要な量を確保した後で、残りを酒造りにするのです。
 どうしても量に限りがありますから」

「だったら余が必要な食糧を全部集めて来てやるから、畑の麦や果樹園の果物を全部酒造りに回せ!」

「全部は無理ですよ、全部は。
 人間は肉ばかり食べていては死んでしまいます。
 麦や野菜、果物も食べないと酒造りができません」

「ちっ、仕方がない、最低限だぞ、少しだけ食べさせてやる」

 こいつ、本当に偉そうだな。

「分かりました、絶対に守ってくださいよ。
 肉も確保してくださいよ」

「何度も言うな、余は誇り高き炎竜様だぞ、約束した事は必ず守る」

 などと言い争いながら、九十日もかけて国中を巡りました。
 領都だけでなく、全ての都市と村を周ってあるだけの酒を集めるには、どうしてもそれくらいかかってしまったのです。

 その間の一度連邦に避難させていた家臣領民を東竜山脈の村に戻しました。
 これで初冬に撒いた麦の収穫を諦めないですみました。

 俺なら魔力に任せて無理矢理促成栽培する事ができます。
 酒も促成醸造できるでしょう
 ですが、俺だけしかできない事を、当たり前だと思われる訳にはいきません。

 最悪の場合は、炎竜のご機嫌を取るためにやる覚悟はしていましたが、想像していた以上に気の好い奴でしたので、やらなくてすみました。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...