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第二章

第63話:抗議と陰謀と家族

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「フェルディナンド公王殿下、母君を説得していただきたい」

 これで八人目の特使だ。
 シルソー大公王国だけでなく、ブランデン大公王国を始めとして残る大公王国の全てと、公国の半数近くが、母上が占領された侯国を私の領地にしろと言ってくる。

「馬鹿な事を言うな!
 子供の分際で、母上が自らの力で手に入れられた領地を奪えるか!
 そのような親不孝をするくらいなら、連邦を脱退するか、親不孝を強要する屑共を皆殺しにして、亜竜の餌にしてくれる!
 お前の身勝手な要求がそのきっかけになるが、それでいいのだな?!」

「ヒィイイイイイ!
 お、お、お、おゆ、おゆるしを、お許しください!」

「護衛騎士、このゴミ屑を街から叩き出せ!
 余直筆の書状など腹立たし過ぎて書けん!
 侍従、お前が書いた絶縁状を渡しておけ!」

「公王殿下、それでは正式な署名になりません。
 せめて署名だけでもお願いいたします。
 絶縁状の内容は私が書かせていただきますので」

「仕方がない、書き終えたらもってきてください」

 やれやれ、あまりの腹立たしさに、つい転生前の言葉遣いになってしまいました。
 こんなに腹が立ったのは転生して初めてかもしれません。

 先に来ていた七人の使者も大概身勝手な事を要求していましたが、今回の奴は口の利き方が悪すぎます。

「殿下、いっそ滅ぼしてしまって良いのではありませんか」

 新たに侍従に加わった一人が提案してきます。
 俺が侯国を買い取った事で、侯王一族の地位を失った者の一人です。
 そんな者達の多くが、俺の侍従として働いているのです。

「滅ぼすのはかまいませんが、大公王家を滅ぼしてしまったら、そこの領民を養う責任がでてしまいます。
 それでなくても多くの民の命と生活を背負っています。
 重すぎる責任は、生きていくのが楽しくなくなってしまいます」

「殿下のご負担になるのなら無理にとは申しませんが、大公王家を滅ぼして大公王国を併合されたら、大公王を名乗る事ができます。
 大公王の位は、殿下にこそ相応しいと思っております」

 阿諛追従の輩は好きではありませんが、悪い意見ではありません。
 十分参考にできる意見です。
 が、釘は刺しておいた方が良いですね。

「大公王の位など、連邦内でしか通用しない、大した意味のない位です。
 それに、俺は阿諛追従の輩が大嫌いです。
 だから今後はよく考えてから口を開きなさい」

「はっ、申し訳ございません!」

 他国がそれほど重視していなかった位も、実力があれば一変します。
 少なくとも並の大公くらいに扱わせる事は可能です。
 父上と母上のために、手に入れておくのも悪くないですね。

「ですが、今回の提案には取り入れるべき良きところがありました。
 これからも命懸けならば何を献策しても構いません。
 ただ、腹にあるモノによってはその場で死を賜ると思ってください。
 俺は私室で休みますから、皆も下がって休んでください。
 残るのは当番だけでいいですよ」

「「「「「はっ!」」」」」

 俺は不機嫌を装って誰も入って来られない私室に籠りました。
 心から信用できる古参家臣が少ないので、広大な私室で休んでいると思わせて、本領地や行きたい場所にワープしているのです。

 今回は、父上の居られるオピミウス大公国近くの城に行きました。
 父上にお願いがあったのですが、残念ながら私室に居られませんでした。
 働き者の父上は、眠る時以外私室に居られないのです。

 ですがそれは最初から分かっていた事です。
 今回の提案を書いた手紙を残しておけば、明日私室を出て行かれるまでに返事を書いておいてくださいます。

 次に俺が向かったのは、母上が居城とされている元侯王家の城です。
 母上がクラウディウス王国戦で手に入れられた二十九の城の一つです。

 他にも母上は、その後のごたごたで手に入れられた十一の城を持っておられます。
 合計四十の侯王国を手に入れられています。

 俺が手に入れた分も含めれば、三百の弱小侯国があった連邦から、六分の一侯国と公国が無くなり、二百五十程度が加盟する連邦になっています。

 俺は、ワープで訪れる時に使う部屋に転移しました。
 母上とはいえ女性ですから、私室の何所に転移してもいい訳ではありません。
 俺専用に確保していただいている部屋に転移するのです。

「母上、居られますか?
 フェルディナンドが参りました」

 逆ノックと言うべきでしょうか?
 俺の寝室から居間と言える部屋に向かってノックをして声をかけます。

 母上が寛いでおられる可能性があるので、毎度の手順です。
 返事がなく、怪しい気配がないか確かめてからドアを開けて入ります。

 同じ手順を居間から家臣の控室。
 家臣の控室から廊下に向かって繰り返します。
 廊下に出てから母上の部屋に向かいます。

「これは、これは、フェルディナンド殿下、よく来てくださいました。
 パトリツィア殿下がご来訪を楽しみにしておられました。
 私が案内させていただきますので、ついて来て下さい」

 古くから我が家に仕えてくれている女性が案内にしてくれます。
 母上に侯王に成っていただく。
 そう決めた時から、母上を守る者達の人選をしていました。

 昔から側近くに仕えている護衛騎士や侍女は、全員ついて行ってもらいました。
 ですが、敵地に入っていただくのですから、それだけでは数が少な過ぎます。
 一度は引退した老齢の者はもちろん、年若い者にもついて行ってもらいました。

 姉上達の護衛騎士や侍女からも引き抜こうと思ったのですが、それは母上から強硬に拒否されてしまいました。

「母上、馬鹿が墓穴を掘りました。
 父上と母上に大公王になっていただこうと思うのです。
 ただ、作物の実りだけが心配なのですが、どうなっていますか?」

 母上が手に入れられた四十の弱小国のうち、二十一は一人の民も残っていませんでしたので、連邦の貧民を移住させました。

 普通なら戦力でもあり生産力でもある民を逃がす侯王などいません。
 しかし今年も作物の成長が悪いのです。
 俺から食糧を買うか、援助してもらわないと、大量の餓死者を出してしまいます。

 善良な侯王は、進んで民を移住させました。
 百戦錬磨の侯王は、移住に対する条件を付けて支援を引き出そうとしました。
 下劣な侯王は、民を奴隷として売りつけようとしました。

 母上は善良な侯王からの移住だけを認めました。
 百戦錬磨の侯王も、母上には敵わず、最終的には無条件で民を送ってきました。

 そのお陰で、魔法で造り出した促成品種なら、ギリギリ晩秋に収穫できる可能性があるのですが、どうなったでしょうか?

「いきなり作物の話ですか?
 そんな話しよりも先に、もっとよく顔を見せてください。
 毎日来て欲しいと言っているのに、三日も来てくれなかったではありませんか」

「馬鹿が文句の使者を送って来たので、忙しかったのです。
 母上に不機嫌な顔を見せるのも嫌でしたので、少し間が空いてしまいました。
 ですが馬鹿のお陰で良い機会が向こうから来てくれました」

「そんな話しはどうでもいいと言っているではありませんか。
 早くもっと近くに来て顔を見せてください。
 私には子供達の成長が一番なのです。
 ディドが私の事を想って侯王の地位をくれた事はうれしく思いますが、それと同じくらい、子供達に毎日会えない寂しさも感じているのですよ」

「申し訳ありません、母上。
 これからは時間を決めて毎日来させていただきます。
 父上だけでなく、姉上達にも声をかけて、毎日会えるようにします」

「インマをここに連れて来て、国境の護りは大丈夫なの?」

「あそこにも亜竜軍団がいるから大丈夫です」

「それと、娘達は無理に連れて来なくてもいいわ。
 特にジュリとヴィイは結婚したばかりよ。
 余り外に連れ出したりしたら、婿達がおかしく思うわ。
 仲良くして早く孫を見せてくれる方がうれしいわ」

「でしたらアン姉上とファニ姉上を連れてきます」

「アンは頑張っているの?
 いい婿を探してくれればいいのですが、ディドが配下にした者の中に見どころのある男性はいないの?」

「そこそこの奴はいるのですが、アン姉上の婿にしても良いと思える男はまだいませんので、母上に併合していただく大公王家に期待します」

「まあ、どうしても私に大公王国を併合させたいのね。
 でも、私よりも先にインマを大公王にしてちょうだい。
 夫より先に大公王を名乗るわけにはいかないわ」

 母上らしいですね。
 あとのゴタゴタで手に入れた国の中には、公王国がありましたから、公王を自称してもよかったのに、父上と同じ侯王を名乗られましたからね。

「父上には手紙を残してあります。
 明日にでも返事を取りに行きますが、大丈夫だと思います。
 ただ、全ては作物の実り次第なのです。
 母上の所の実りが悪いと、予定より多くの促成栽培をしなければいけなくなりますが、どうなっていますか?」
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