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第二章
第49話:ロートリンゲン大公王家舞踏会1
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俺とアン姉上がシルソー大公王国にたどり着くまでに三カ月もかかりました。
道が整備されていない事、春先の雪解け水で道が更に悪路になる事。
行路途上の王侯貴族がひっきりなしに挨拶に来るからです。
謁見は面倒なので嫌なのですが、やらない訳にはいきません。
今回も国の正式な行事なのです。
シルソー大公王国は連邦最大の国で、以前は国の盟主だったのです。
とても激しい五十年戦争の結果、連邦制に移行してしまい、多くの投票権をもつ有力大公国の一つになりましたが、それなりに力は持っています。
そんなシルソー大公王国を治めるロートリンゲン大公王家から舞踏会に招待されるというのは、力で奪った侯王位が認められたという事です。
まだ反対する有力大公王家や公王家、侯王家もいるでしょうが、ロートリンゲン大公王家から認められるというのは、とても大きな後押しになります。
そんな公式訪問の往路で問題を起こす訳にはいきません。
少々無礼な相手でも、瞬殺できるような相手でも、遣り過ぎにならないように我慢しなければいけません。
ただ腹立たしい事が連続したので、中型亜竜を謁見の場に同席させるようして、愚か者達に思知らせてやりました。
中には中型亜竜の警護を無礼だと抗議するような、どうしようもない馬鹿もいましたが、そんな人には、亜竜の吐息をかがせてあげました。
草食なのですが、結構臭いです。
そのせいか、どうしようもない馬鹿は気を失ってしまいました。
翌日気がついた時には、俺に抗議だけの根性はなくなっていました。
国王に抗議をする者もいたようですが、厳罰に処せられました。
気の優しい国王は、俺と敵対する気はないようです。
ゲヌキウス王国を出てカルプルニウス連邦に入ってからは、対応が両極端になりましたが、それは仕方のない事です。
俺の支援で食糧難から脱した侯国は、下にも置かない歓迎をしてくれました。
逆にオピミウス大公国から支援を受けて食糧難を脱した侯国は、謁見するどころか、俺や姉上を都市に入れようともしませんでした。
「ヘレンズ侯国、マクネイア侯王家、フェルディナンド侯王殿下御入場。
一緒に御入場されますのは、イングルウッド侯国、マクネイア侯王家、インマヌエル侯王殿下の御名代、アンジェリーナ侯王姫殿下でございます。
アンジェリーナ侯王姫殿下は、フェルディナンド侯王殿下の姉姫でもあられます」
式部官の紹介と共に舞踏会場に入って行きます。
本来なら入場順は在位の若い侯王家の名代からです。
アン姉上が一番最初に入らなければいけないのです。
ところが今回は俺と姉弟なので、名代たちの入場が全て終わった後、侯王の中で一番最初の入場になりました。
特別待遇のように見えますが、これも慣習らしいです。
そうしておかないと、一時的とはいえ娘や妹の側に誰もいなくなってしまいます。
護衛もなしで他家主催の舞踏会や晩餐会に参加させるのは、危険過ぎるのです。
五十年戦争では、口にするのもはばかられる非道が横行していたそうですから。
「先日はお世話になりました」
「いえ、いえ、ろくなおもてなしもできなかったのに、竜の干肉のような高価な手土産を頂き、有難い限りでした。
これからも宜しくお願いしたい」
シルソー大公王国に来るまでに友好関係を結んだ侯国の侯王が、ひっきりなしにやって来て挨拶を交わしました。
彼らはロートリンゲン大公王家が俺達を招待した意味を知っています。
俺達がそれに応じた理由も分かっています。
アン姉上を同行させた意味も悟っています。
「フェルディナンド侯王殿下、我が家にはアンジェリーナ侯王姫より三歳年上の甥がいるのだが、帰りに会ってもらえないだろうか?」
「ちょっと待たれよ、私の五男は確かアンジェリーナ侯王姫と同年のはずだ。
侯王の甥では侯王姫と釣り合いが取れない。
同じ侯王の直系でないと失礼だと思うぞ」
俺と姉上、五人ほどの侯王と談笑していますと、徐々に座が温まり、本来の目的である縁談話になりました。
父上や俺を敵視していない侯王は、積極的に縁を結ぼうとします。
前世日本の戦国期なら、父上や俺に側室を送り込んでも縁を結ぼうとするのですが、この世界ではそうはいきません。
特に旧教を信じている国では、一夫一婦制を厳格に守らせています。
更に離婚を絶対に認めないので、どちらかに生殖能力がないと子供が生まれないという、とんでもない状況が数多く生まれています。
直系が絶えて断絶してしまう名家が数多くあったのです。
古くからの王家が滅びれば滅びるほど、旧教の指導者、教皇の権威が高まります。
その教皇や枢機卿が旧教の戒律を守っていないのですから、最悪です。
話を戻しますが、少しでも子供を確保したい王侯貴族は子女を早婚させます。
幼い頃から政略による婚約を交わします。
特に嫡男の婚約は生まれて直ぐに決まってしまうほどです。
もう跡継ぎに婚約者が決まっていたり結婚していたりするので、我が家に有利な条件を提示したくても、姉上を跡継ぎの結婚相手に選ぶことができないのです。
どうしてもやろうとしたら、嫡男や嫡孫の婚約者を殺してしまわなければいけないのですが、そんな事をしたら逆に嫌われる事くらい馬鹿でも分かります。
だから姉上の婚約者は、婚約相手も決まっていない、どうでもいい立場の甥や末子になってしまのです。
「いえ、いえ、アン姉上が気に入るような男性なら、特に出自にはこだわらないと父上も母上も言っておられました。
姉上もそうですよね?」
「はい、私は元々領内の優秀な騎士を婿に取ると聞かされて育ちました。
侯王殿下との血縁が薄くても、亜竜の騎士になれるような方であれば、領内に土地を与えて爵位を授与すると、父侯王が申していました」
「まさか、幾ら何でも領地を与えるのは冗談だろう?」
「さよう、侯王家の領民はだいたい三千人くらいだ。
愛する娘のためであろうと、領地を与えるのは不可能だ」
「末妹の時、亡父が結婚相手を探すのに苦労していた。
できるだけ良い相手を探してやろうとしていたのだが、政略結婚だから条件の良い相手は侯王家の長女や次女に決まっていく。
三女以降だと、家臣に下る事もできない三男や甥しか残っていない。
父が何とかゲヌキウス王国の男爵家嫡男との縁談を決めてくれたからよかったが、そうでなかったら平民を一緒にしなければいけない所だった」
俺と話している家は何所も三千人前後の侯王家だから、苦労は同じようで、皆しみじみとした表情で頷いている。
中には心底疲れたような表情を浮かべる侯王もいる。
現在進行形で妹や娘の結婚相手探しに奔走しているのかもしれない。
「アン姉上の申されている事は本当ですよ。
現に上の姉二人は、領内の騎士を伯爵に叙爵して婿にしました。
百人程度の猟師村ですが、領地も与えられていますよ」
「なんですと、本当に本当の事なのですか?!」
「はい、我が家の本領地には乾き切った砂漠と荒地しかありませんでしたが、最近地竜森林と魔森林に接する男爵領を手に入れました。
私の従属爵位領なので耕作地を割譲する訳にはいきませんが、地竜森林や魔森林内に村を築くまでの支援は惜しみません。
ジュリエット姉上とヴィットーリア姉上の婿に選ばれた騎士達は、亜竜を操れるほどの猛者なので、地竜森林や魔森林内の村でも守り切れるのです」
「なんと、本当にその様な事が可能なのですか?!」
「流石に最初は父侯王か私が亜竜を捕らえて調教しなければ無理ですが、調教した後の亜竜なら、我が家に伝わる技で操る事が可能です」
「それは、我が一族でも可能なのでしょうか?」
「さて、それは一族の方の技量に寄りますので、即答はできません」
「フェルディナンド侯王、一族の者を貴家に預けさせていただけないだろうか?
技量が満たずに亜竜に喰われるような事になっても文句は言わぬ。
アンジェリーナ姫の婿に相応しいか試してもらえないだろうか?」
「抜け駆けは狡いぞ、血縁が薄くても良いのなら、一度臣籍に落ちた亡父や私の従弟や従甥、再従弟でも構わないのだろうか?」
「父上も私も実力さえあれば一度臣籍に落ちた方でも構いませんよ。
ただ、貴家との関係が薄いと親戚付き合いではなくなってしまいますね。
我が家は新教徒なので、養子にしてからの方がいかもしれません」
「面白い話しをしておられますね。
私も加えさせていただけないか?」
道が整備されていない事、春先の雪解け水で道が更に悪路になる事。
行路途上の王侯貴族がひっきりなしに挨拶に来るからです。
謁見は面倒なので嫌なのですが、やらない訳にはいきません。
今回も国の正式な行事なのです。
シルソー大公王国は連邦最大の国で、以前は国の盟主だったのです。
とても激しい五十年戦争の結果、連邦制に移行してしまい、多くの投票権をもつ有力大公国の一つになりましたが、それなりに力は持っています。
そんなシルソー大公王国を治めるロートリンゲン大公王家から舞踏会に招待されるというのは、力で奪った侯王位が認められたという事です。
まだ反対する有力大公王家や公王家、侯王家もいるでしょうが、ロートリンゲン大公王家から認められるというのは、とても大きな後押しになります。
そんな公式訪問の往路で問題を起こす訳にはいきません。
少々無礼な相手でも、瞬殺できるような相手でも、遣り過ぎにならないように我慢しなければいけません。
ただ腹立たしい事が連続したので、中型亜竜を謁見の場に同席させるようして、愚か者達に思知らせてやりました。
中には中型亜竜の警護を無礼だと抗議するような、どうしようもない馬鹿もいましたが、そんな人には、亜竜の吐息をかがせてあげました。
草食なのですが、結構臭いです。
そのせいか、どうしようもない馬鹿は気を失ってしまいました。
翌日気がついた時には、俺に抗議だけの根性はなくなっていました。
国王に抗議をする者もいたようですが、厳罰に処せられました。
気の優しい国王は、俺と敵対する気はないようです。
ゲヌキウス王国を出てカルプルニウス連邦に入ってからは、対応が両極端になりましたが、それは仕方のない事です。
俺の支援で食糧難から脱した侯国は、下にも置かない歓迎をしてくれました。
逆にオピミウス大公国から支援を受けて食糧難を脱した侯国は、謁見するどころか、俺や姉上を都市に入れようともしませんでした。
「ヘレンズ侯国、マクネイア侯王家、フェルディナンド侯王殿下御入場。
一緒に御入場されますのは、イングルウッド侯国、マクネイア侯王家、インマヌエル侯王殿下の御名代、アンジェリーナ侯王姫殿下でございます。
アンジェリーナ侯王姫殿下は、フェルディナンド侯王殿下の姉姫でもあられます」
式部官の紹介と共に舞踏会場に入って行きます。
本来なら入場順は在位の若い侯王家の名代からです。
アン姉上が一番最初に入らなければいけないのです。
ところが今回は俺と姉弟なので、名代たちの入場が全て終わった後、侯王の中で一番最初の入場になりました。
特別待遇のように見えますが、これも慣習らしいです。
そうしておかないと、一時的とはいえ娘や妹の側に誰もいなくなってしまいます。
護衛もなしで他家主催の舞踏会や晩餐会に参加させるのは、危険過ぎるのです。
五十年戦争では、口にするのもはばかられる非道が横行していたそうですから。
「先日はお世話になりました」
「いえ、いえ、ろくなおもてなしもできなかったのに、竜の干肉のような高価な手土産を頂き、有難い限りでした。
これからも宜しくお願いしたい」
シルソー大公王国に来るまでに友好関係を結んだ侯国の侯王が、ひっきりなしにやって来て挨拶を交わしました。
彼らはロートリンゲン大公王家が俺達を招待した意味を知っています。
俺達がそれに応じた理由も分かっています。
アン姉上を同行させた意味も悟っています。
「フェルディナンド侯王殿下、我が家にはアンジェリーナ侯王姫より三歳年上の甥がいるのだが、帰りに会ってもらえないだろうか?」
「ちょっと待たれよ、私の五男は確かアンジェリーナ侯王姫と同年のはずだ。
侯王の甥では侯王姫と釣り合いが取れない。
同じ侯王の直系でないと失礼だと思うぞ」
俺と姉上、五人ほどの侯王と談笑していますと、徐々に座が温まり、本来の目的である縁談話になりました。
父上や俺を敵視していない侯王は、積極的に縁を結ぼうとします。
前世日本の戦国期なら、父上や俺に側室を送り込んでも縁を結ぼうとするのですが、この世界ではそうはいきません。
特に旧教を信じている国では、一夫一婦制を厳格に守らせています。
更に離婚を絶対に認めないので、どちらかに生殖能力がないと子供が生まれないという、とんでもない状況が数多く生まれています。
直系が絶えて断絶してしまう名家が数多くあったのです。
古くからの王家が滅びれば滅びるほど、旧教の指導者、教皇の権威が高まります。
その教皇や枢機卿が旧教の戒律を守っていないのですから、最悪です。
話を戻しますが、少しでも子供を確保したい王侯貴族は子女を早婚させます。
幼い頃から政略による婚約を交わします。
特に嫡男の婚約は生まれて直ぐに決まってしまうほどです。
もう跡継ぎに婚約者が決まっていたり結婚していたりするので、我が家に有利な条件を提示したくても、姉上を跡継ぎの結婚相手に選ぶことができないのです。
どうしてもやろうとしたら、嫡男や嫡孫の婚約者を殺してしまわなければいけないのですが、そんな事をしたら逆に嫌われる事くらい馬鹿でも分かります。
だから姉上の婚約者は、婚約相手も決まっていない、どうでもいい立場の甥や末子になってしまのです。
「いえ、いえ、アン姉上が気に入るような男性なら、特に出自にはこだわらないと父上も母上も言っておられました。
姉上もそうですよね?」
「はい、私は元々領内の優秀な騎士を婿に取ると聞かされて育ちました。
侯王殿下との血縁が薄くても、亜竜の騎士になれるような方であれば、領内に土地を与えて爵位を授与すると、父侯王が申していました」
「まさか、幾ら何でも領地を与えるのは冗談だろう?」
「さよう、侯王家の領民はだいたい三千人くらいだ。
愛する娘のためであろうと、領地を与えるのは不可能だ」
「末妹の時、亡父が結婚相手を探すのに苦労していた。
できるだけ良い相手を探してやろうとしていたのだが、政略結婚だから条件の良い相手は侯王家の長女や次女に決まっていく。
三女以降だと、家臣に下る事もできない三男や甥しか残っていない。
父が何とかゲヌキウス王国の男爵家嫡男との縁談を決めてくれたからよかったが、そうでなかったら平民を一緒にしなければいけない所だった」
俺と話している家は何所も三千人前後の侯王家だから、苦労は同じようで、皆しみじみとした表情で頷いている。
中には心底疲れたような表情を浮かべる侯王もいる。
現在進行形で妹や娘の結婚相手探しに奔走しているのかもしれない。
「アン姉上の申されている事は本当ですよ。
現に上の姉二人は、領内の騎士を伯爵に叙爵して婿にしました。
百人程度の猟師村ですが、領地も与えられていますよ」
「なんですと、本当に本当の事なのですか?!」
「はい、我が家の本領地には乾き切った砂漠と荒地しかありませんでしたが、最近地竜森林と魔森林に接する男爵領を手に入れました。
私の従属爵位領なので耕作地を割譲する訳にはいきませんが、地竜森林や魔森林内に村を築くまでの支援は惜しみません。
ジュリエット姉上とヴィットーリア姉上の婿に選ばれた騎士達は、亜竜を操れるほどの猛者なので、地竜森林や魔森林内の村でも守り切れるのです」
「なんと、本当にその様な事が可能なのですか?!」
「流石に最初は父侯王か私が亜竜を捕らえて調教しなければ無理ですが、調教した後の亜竜なら、我が家に伝わる技で操る事が可能です」
「それは、我が一族でも可能なのでしょうか?」
「さて、それは一族の方の技量に寄りますので、即答はできません」
「フェルディナンド侯王、一族の者を貴家に預けさせていただけないだろうか?
技量が満たずに亜竜に喰われるような事になっても文句は言わぬ。
アンジェリーナ姫の婿に相応しいか試してもらえないだろうか?」
「抜け駆けは狡いぞ、血縁が薄くても良いのなら、一度臣籍に落ちた亡父や私の従弟や従甥、再従弟でも構わないのだろうか?」
「父上も私も実力さえあれば一度臣籍に落ちた方でも構いませんよ。
ただ、貴家との関係が薄いと親戚付き合いではなくなってしまいますね。
我が家は新教徒なので、養子にしてからの方がいかもしれません」
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