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第二章
第43話:緑化5
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新たに鉱山村を築き、配属したまだ年若い亜竜と騎士を鍛える。
父上と俺が魔法の限りを尽くしても、そう簡単にはできません。
軌道に乗る頃には、春の種蒔き時期になっていました。
俺も八歳から九歳になっていました。
外交の為とは言え、他国との往復交渉には月日がかかります。
本当なら毎日往復できるのですが、表向きゲートやテレポートが使える事は秘密なので、必要もないのに徒歩や騎乗して移動しなければなりません。
形だけとはいえ、ゲヌキウス王国を縦断してカルプルニウス連邦にまで行き戻ってきたのですから、半年や一年はあっという間に過ぎてしまいます。
実際には、領地と旅先の間を毎日ゲートで往復していました。
国内の開発にも魔法を使わなければいけなかったからです。
ただ、緑化にまでは手が回らなかったのです。
とはいえ、前回集中的に行った品種改良と苗木づくりは大成功していました。
鉢植え、ボット植で増やした苗木はすくすくと成長してくれました。
全ての場所で成功したので、俺の分は多少失敗してもいいくらいです!
そう、失敗しても大丈夫なので、魔力を使って促成栽培できないか試すのです。
失敗する予定でしたが、今のところは、自分でやる分は全て成功しています。
そのためには、有り余る魔力を更に増やさなければいけません。
腹がはちきれるほど食べて、魔力で内臓の消化吸収を強化高速化するのです。
有り余るエネルギーは、脂肪にするのではなく魔力に変換するのです。
そうすれば、いくら食べても太らないどころか、無尽蔵の魔力が作れます。
今回は、その有り余る魔力を外部から果樹に与えるのです。
そうすれば、魔境と同じように木々が早く育つかもしれません。
いえ、既に魔境の木々に魔力を与えて成功しています。
魔境外で、魔樹ではなく、果樹でできるのか試すだけです。
最初に試した場所は八の村です。
我が家が拠点としていた村だけあって、一番規模が大きいです。
八の村より東側には、塩分を吸収してくれる雑草を沢山植えています。
桃栗三年柿八年、枇杷は早くて十三年。
桃栗三年柿八年、柚子の大馬鹿十八年。
桃栗三年柿八年、梨の馬鹿目が十八年。
桃栗三年柿八年、梅は酸いとて十三年、柚子は九年花盛り、枇杷は九年でなりかねる。
桃栗三年柿八年、梅は酸いとて十三年、梨はゆるゆる十五年、柚子の大馬鹿十八年、みかんのマヌケは二十年
俺が覚えている諺です。
覚えていて本当に良かったです。
父上達が知っておられるこの世界の果樹なら、何時実るか分かります。
ですが、他国から取り寄せた果実だと何時実るか分からず、十年以上実らないと途中で諦めてしまうかもしれませんでした。
俺が魔力で実験するのは、実るのに長い歳月がかかる果樹です。
接ぎ木の台木には、乾燥地帯に自生している樹を使いました。
接ぎ木が失敗して果実が実らないかもしれません。
実ったとしても、食用にできない可能性もあります。
二十年も待っての失敗は、ダメージが大き過ぎます。
だから、魔力による強制促成栽培で確認するのです。
一番手は、一番時間のかかるみかんから実験しました。
果樹園にする予定の場所には、地竜森林から持ってきた大量の腐葉土があります。
水も近くに井戸を掘り真空汲み上げポンプを用意してあります。
俺の魔力も有り余るほど蓄えてあります。
「果実が実るまで一気に育て。
地中の栄養素を取り込み、降り注ぐ陽光を最大限利用しろ。
俺が与える魔力を使い、限界まで成長しろ。
マンダリン・オレンジ・ツリー・フォースィング・カルチヴェイション」
俺はアニメや特撮で観た事のある急激な成長をイメージしました。
亡父の親友が手間暇をかけて育てていた、ミカン農園の木をイメージしました。
水っぽく薄い甘味ではなく、酸味と旨味も含んだ極上に甘いミカンの実が、たわわに実るのをイメージしました。
「成功よ、二十年かかると言われていたミカンが一瞬で実ったわ!」
母上が手放しで褒めてくださいます。
「凄いわ、こんなの信じられないわ、ディドは神様なの?!」
十四歳に成った三姉のアンジェリーナが飛び跳ねて喜んでくれています。
「ねえ、食べていい、今直ぐ食べていい?」
俺の直ぐ上、四姉のステファーニアは食欲優先です。
十二歳ですから、色気よりも食い気なのでしょう。
「ちょっと待ってください。
万が一の事があります。
毒が有る実の可能性もあるのです。
他の誰かに毒見させてからにしてください」
「えぇえええええ!
ディドが創った果物に毒が入っている訳がないじゃない!
育つのも私達の前だったし、毒を入れる隙も無いわよ!」
「ファニ!
ディドの言う事を聞きなさい。
貴女は姉でディドは弟ですが、ディドは侯王なのですよ!」
「ごめんなさい、お母様」
「ファニ姉上の申される通り、僕が意図して毒の実を育てる訳がありません。
誰かが毒を仕込む隙もありませんでした。
ですがこの樹は、ここに元々あった木と果樹を繋いで創ったのです。
それが影響して、毒を含むかもしれないのです。
果実は逃げませんから、毒見をしてもらってから食べましょう。
その代わり、今日は僕が美味しいお菓子を作って差し上げます」
「ほんとう?!
本当にディドがお菓子を作ってくれるの?!
だったら許してあげるわ!」
「ファニ!
今言ったばかりでしょう!
侯王陛下に失礼な口を利くのではありません!」
ファニ姉上は母上からこっぴどく叱られる事になりました。
実は母上も必死なのです。
男爵家の娘に礼儀作法を教えるだけでも、元傭兵の母上には負担でした。
それが今は、侯王姫の礼儀作法を娘に教えなければいけなくなったのです。
母上は恥も外聞もなく教えを乞いました。
我が家に移住した元ヘレンズ侯王妃に礼儀作法を教えてもらっているのです。
我が家におけるロイス家の影響力がとても強くなっています。
何十年かしたら、ロイス家を他国に移住させた方が良いかもしれません。
その頃には、難民の子孫が鉱山技術や鍛冶技術を覚えているでしょう。
もちろん、何も与えずに追い出したりはしません。
ジュリ姉上とヴィイ姉上の婚家なのです。
ただ、炎竜砂漠と東西の竜山脈は、父上が命懸けで手に入られた地です。
安全確実にマクネイア家が治め続けなければいけません。
僅かな危険も残す訳にはいかないのです。
そのためにも、鉱山を含む新たな領地を手に入れなければいけません。
「ミカンは成功しましたが、他の果樹も試さなければいけません。
母上達は館に戻っていてください」
「いえ、これはとても大切な事です。
引き続き見させて頂きます」
「私もこのままここで見させていただきます」
「えぇえええええ!
もう帰ってお菓子を食べましょうよ!」
「もう、この子は本当に、我儘ばっかり言って!」
ファニ姉上の身勝手な言い分に、母上が完全に切れてしまわれました。
俺の邪魔にならないように館に帰り、お説教大会にするようです。
付き合わされるアン姉上は可哀想ですが、仕方がありません。
それにファニ姉上も悪気があるわけではないのです。
食欲は人間最大の欲望です。
抑えるのはとても難しいのです。
ましてミカンの苗を買った時に、試食用として果実も購入していました。
前世で食べたミカンよりも酸味とえぐ味が強く、甘みが薄いミカンでしたが、俺が焼ミカンにすると結構美味しく食べられました。
小麦粉にミカン果汁を絞って作ったパンケーキが忘れられないのかもしれません。
あるいは、焼いたミカンの実を添えたガレットが忘れられないのでしょうか?
菓子職人のように上手くお菓子を焼く事はできませんが、今あるお菓子にトッピングとして加えて美味しくするくらいはできます。
まして我が家は長らく貧しかったのです。
甘味が食べられるだけで大騒ぎになるのです。
特別上手に作れなくても喜んでもらえます。
皮も化学肥料を使っていないので、お菓子の材料にできました。
近隣の緑豊かな男爵領を二つも手に入れられたので、手に入るようになった蜂蜜を使い、ミカンの皮の蜂蜜漬けを作りました。
長期保存ができる甘味の完成です。
とても大切に少しずつ食べているそうです。
同じ物が今年も手に入るとなったら、理性が飛ぶのも仕方がありません。
……甘味が大好きな姉上達の事を考えると、果樹も大切ですが、砂糖の原料になるナツメヤシを先に成長させるべきでしょうか?
父上と俺が魔法の限りを尽くしても、そう簡単にはできません。
軌道に乗る頃には、春の種蒔き時期になっていました。
俺も八歳から九歳になっていました。
外交の為とは言え、他国との往復交渉には月日がかかります。
本当なら毎日往復できるのですが、表向きゲートやテレポートが使える事は秘密なので、必要もないのに徒歩や騎乗して移動しなければなりません。
形だけとはいえ、ゲヌキウス王国を縦断してカルプルニウス連邦にまで行き戻ってきたのですから、半年や一年はあっという間に過ぎてしまいます。
実際には、領地と旅先の間を毎日ゲートで往復していました。
国内の開発にも魔法を使わなければいけなかったからです。
ただ、緑化にまでは手が回らなかったのです。
とはいえ、前回集中的に行った品種改良と苗木づくりは大成功していました。
鉢植え、ボット植で増やした苗木はすくすくと成長してくれました。
全ての場所で成功したので、俺の分は多少失敗してもいいくらいです!
そう、失敗しても大丈夫なので、魔力を使って促成栽培できないか試すのです。
失敗する予定でしたが、今のところは、自分でやる分は全て成功しています。
そのためには、有り余る魔力を更に増やさなければいけません。
腹がはちきれるほど食べて、魔力で内臓の消化吸収を強化高速化するのです。
有り余るエネルギーは、脂肪にするのではなく魔力に変換するのです。
そうすれば、いくら食べても太らないどころか、無尽蔵の魔力が作れます。
今回は、その有り余る魔力を外部から果樹に与えるのです。
そうすれば、魔境と同じように木々が早く育つかもしれません。
いえ、既に魔境の木々に魔力を与えて成功しています。
魔境外で、魔樹ではなく、果樹でできるのか試すだけです。
最初に試した場所は八の村です。
我が家が拠点としていた村だけあって、一番規模が大きいです。
八の村より東側には、塩分を吸収してくれる雑草を沢山植えています。
桃栗三年柿八年、枇杷は早くて十三年。
桃栗三年柿八年、柚子の大馬鹿十八年。
桃栗三年柿八年、梨の馬鹿目が十八年。
桃栗三年柿八年、梅は酸いとて十三年、柚子は九年花盛り、枇杷は九年でなりかねる。
桃栗三年柿八年、梅は酸いとて十三年、梨はゆるゆる十五年、柚子の大馬鹿十八年、みかんのマヌケは二十年
俺が覚えている諺です。
覚えていて本当に良かったです。
父上達が知っておられるこの世界の果樹なら、何時実るか分かります。
ですが、他国から取り寄せた果実だと何時実るか分からず、十年以上実らないと途中で諦めてしまうかもしれませんでした。
俺が魔力で実験するのは、実るのに長い歳月がかかる果樹です。
接ぎ木の台木には、乾燥地帯に自生している樹を使いました。
接ぎ木が失敗して果実が実らないかもしれません。
実ったとしても、食用にできない可能性もあります。
二十年も待っての失敗は、ダメージが大き過ぎます。
だから、魔力による強制促成栽培で確認するのです。
一番手は、一番時間のかかるみかんから実験しました。
果樹園にする予定の場所には、地竜森林から持ってきた大量の腐葉土があります。
水も近くに井戸を掘り真空汲み上げポンプを用意してあります。
俺の魔力も有り余るほど蓄えてあります。
「果実が実るまで一気に育て。
地中の栄養素を取り込み、降り注ぐ陽光を最大限利用しろ。
俺が与える魔力を使い、限界まで成長しろ。
マンダリン・オレンジ・ツリー・フォースィング・カルチヴェイション」
俺はアニメや特撮で観た事のある急激な成長をイメージしました。
亡父の親友が手間暇をかけて育てていた、ミカン農園の木をイメージしました。
水っぽく薄い甘味ではなく、酸味と旨味も含んだ極上に甘いミカンの実が、たわわに実るのをイメージしました。
「成功よ、二十年かかると言われていたミカンが一瞬で実ったわ!」
母上が手放しで褒めてくださいます。
「凄いわ、こんなの信じられないわ、ディドは神様なの?!」
十四歳に成った三姉のアンジェリーナが飛び跳ねて喜んでくれています。
「ねえ、食べていい、今直ぐ食べていい?」
俺の直ぐ上、四姉のステファーニアは食欲優先です。
十二歳ですから、色気よりも食い気なのでしょう。
「ちょっと待ってください。
万が一の事があります。
毒が有る実の可能性もあるのです。
他の誰かに毒見させてからにしてください」
「えぇえええええ!
ディドが創った果物に毒が入っている訳がないじゃない!
育つのも私達の前だったし、毒を入れる隙も無いわよ!」
「ファニ!
ディドの言う事を聞きなさい。
貴女は姉でディドは弟ですが、ディドは侯王なのですよ!」
「ごめんなさい、お母様」
「ファニ姉上の申される通り、僕が意図して毒の実を育てる訳がありません。
誰かが毒を仕込む隙もありませんでした。
ですがこの樹は、ここに元々あった木と果樹を繋いで創ったのです。
それが影響して、毒を含むかもしれないのです。
果実は逃げませんから、毒見をしてもらってから食べましょう。
その代わり、今日は僕が美味しいお菓子を作って差し上げます」
「ほんとう?!
本当にディドがお菓子を作ってくれるの?!
だったら許してあげるわ!」
「ファニ!
今言ったばかりでしょう!
侯王陛下に失礼な口を利くのではありません!」
ファニ姉上は母上からこっぴどく叱られる事になりました。
実は母上も必死なのです。
男爵家の娘に礼儀作法を教えるだけでも、元傭兵の母上には負担でした。
それが今は、侯王姫の礼儀作法を娘に教えなければいけなくなったのです。
母上は恥も外聞もなく教えを乞いました。
我が家に移住した元ヘレンズ侯王妃に礼儀作法を教えてもらっているのです。
我が家におけるロイス家の影響力がとても強くなっています。
何十年かしたら、ロイス家を他国に移住させた方が良いかもしれません。
その頃には、難民の子孫が鉱山技術や鍛冶技術を覚えているでしょう。
もちろん、何も与えずに追い出したりはしません。
ジュリ姉上とヴィイ姉上の婚家なのです。
ただ、炎竜砂漠と東西の竜山脈は、父上が命懸けで手に入られた地です。
安全確実にマクネイア家が治め続けなければいけません。
僅かな危険も残す訳にはいかないのです。
そのためにも、鉱山を含む新たな領地を手に入れなければいけません。
「ミカンは成功しましたが、他の果樹も試さなければいけません。
母上達は館に戻っていてください」
「いえ、これはとても大切な事です。
引き続き見させて頂きます」
「私もこのままここで見させていただきます」
「えぇえええええ!
もう帰ってお菓子を食べましょうよ!」
「もう、この子は本当に、我儘ばっかり言って!」
ファニ姉上の身勝手な言い分に、母上が完全に切れてしまわれました。
俺の邪魔にならないように館に帰り、お説教大会にするようです。
付き合わされるアン姉上は可哀想ですが、仕方がありません。
それにファニ姉上も悪気があるわけではないのです。
食欲は人間最大の欲望です。
抑えるのはとても難しいのです。
ましてミカンの苗を買った時に、試食用として果実も購入していました。
前世で食べたミカンよりも酸味とえぐ味が強く、甘みが薄いミカンでしたが、俺が焼ミカンにすると結構美味しく食べられました。
小麦粉にミカン果汁を絞って作ったパンケーキが忘れられないのかもしれません。
あるいは、焼いたミカンの実を添えたガレットが忘れられないのでしょうか?
菓子職人のように上手くお菓子を焼く事はできませんが、今あるお菓子にトッピングとして加えて美味しくするくらいはできます。
まして我が家は長らく貧しかったのです。
甘味が食べられるだけで大騒ぎになるのです。
特別上手に作れなくても喜んでもらえます。
皮も化学肥料を使っていないので、お菓子の材料にできました。
近隣の緑豊かな男爵領を二つも手に入れられたので、手に入るようになった蜂蜜を使い、ミカンの皮の蜂蜜漬けを作りました。
長期保存ができる甘味の完成です。
とても大切に少しずつ食べているそうです。
同じ物が今年も手に入るとなったら、理性が飛ぶのも仕方がありません。
……甘味が大好きな姉上達の事を考えると、果樹も大切ですが、砂糖の原料になるナツメヤシを先に成長させるべきでしょうか?
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