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第二章
第36話:武器と防具
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カルプルニウス連邦の侯国と友好関係を築くという今回の目的は、上々の滑り出しでした。
民を餓死させずにすむ食糧を運んできた事で、少々値段が高くても心から感謝されただけでなく、当初考えていた倍の利益が手に入りました。
何より、移動に必要な費用がほとんどかかっていないのが大きいです。
普通なら必要な、宿泊費と食費が全く必要ありません。
この外交部隊だけが必要な竜の餌代も、毎日地竜森林に戻れるので、全く必要がないのです。
普通の交易隊、隊商がどうしても経費として商品に上乗せさせなければいけない費用が、ほとんど必要ないのが大きいです。
随行員も伯国の家臣と使用人がほとんどですから、商人が使用人に支払わなければいけない日当が必要ありません。
家臣使用人は、俺が何処にいようと役目をしなければいけないのですから。
「フェルディナンド公子殿下、申し訳ないが、食糧の代金を現物にしてもらえないだろうか?」
三カ所目に訪問したのは、へレンズ侯国ロイス侯王家です。
この侯国は珍しく街道沿いに都市がありません。
街道から外れた山道を登った場所に侯都と呼ばれる都市があります。
侯都の人口は三千人でこれまでで一番多いです。
その代わり、支配下にある村は七つと最小です。
早い話しが、都市人口が多いのに食糧供給原である農村が少ないのです。
ただ、街道沿いに都市も村もない理由は、この侯国の強みでもあります。
へレンズ侯国は鉱山都市であり、鍛冶の街でもあるのです。
良質な武器を生産する事で侯国を保っているのです。
「現物で支払うですか……普通なら断らせていただくところなのですが……
食糧難で人が死ぬのは見ていられませんから、我が家で必要な物なら受け入れさせていただきましょう。
ただし、品質の悪いモノは受け入れられませんよ」
「分かっております。
へレンズ侯国とロイス侯王家の名誉にかけて、質の悪い武器や防具を取引の商品としてお渡しする事はありません」
「へレンズ侯王殿下が約束してくださるなら安心ですね。
ただ、最も安い肉はマーガデール侯国が買い占められました。
ここの武器は、イングルウッド侯国 のヴェーン侯王家に安く買い叩かれていると聞いているのですが、今回も食糧確保のために渡せるだけ渡されたのでしょう」
残っている在庫で必要な食糧を確保できますか?」
「身勝手な申し出なのですが、後払いを認めてもらえないだろうか?
必ず帰路までに必要な武器と防具を用意させてもらう。
汎用品ではなく、オーダーメイドで造らせてもらう」
「魅力的な申し出なのですが、帰路は別の街道を使うのです。
父上が訪問された家だけでなく、新たな侯国とも友好を結ぶのです」
「では、必要な数が用意できたら、こちらからマクネイア伯国に持って行かせていただくので、お願いできないだろうか?」
「う~ん、仁道としては引き受けて差し上げたいのですが、マクネイア伯国の代表としては、実現不可能な提案は受けられません」
「何としてでも実現してみせますので、お願いしたい」
「へレンズ侯王殿下が誠実な方なの分かっています。
ですが、先代からの契約で、ヴェーン侯王家に一定量の武器と防具を安価に提供しなければいけないのでしょう?
その上で、我が家が満足する品質の武器と防具を大量に用意するのは、とても難しいと判断するしかありません」
「何故を知っておられるのだ?
その約束は表沙汰にしない事になっていたはずですぞ!」
「我が家にも情報網があるのですよ。
正直に話されないと、不誠実と判断して、交易を中止しなければいけない」
「待ってくれ、待ってください。
確かにその通りなのですが、武器と防具の量産は、何としてでも成しとげて見せますので、どうか後払いを認めていただきたい。
国民と一体になって、必ず造って見せます」
「へレンズ侯王殿下がそこまで言われるのなら、本当に造れるでしょうね」
「それでは売っていただけるのですね?!」
「ですが、造っても我が家に届けるのは不可能でしょう」
「そんな事はありません。
何としてでも届けて見せます」
「金蔓であるへレンズ侯国が新たな顧客を得るのを、ヴェーン侯王家が見逃すと思っておられるのですか?」
「あっ!」
「武器と防具を運ぶ者達は皆殺しにされ、武器も防具も奪われるだけですよ。
先代の頃にそのような事があり、不利な契約を結ぶことになったのでしょう?」
「……はい、今思い出してもはらわたが煮えくり返ります!
イングルウッド侯国は村を持たない都市だけの商業侯国ですが、住んでいるのは海千山千の商人と傭兵ばかり一万人。
城壁は高く厚く、どのような理不尽な商いを行っても、こちらが攻められない事を知っているのです。
訪れてくる商人の手先を殺しても、当主は何の痛痒も感じません。
むしろ傭兵団を差し向ける良い口実ができたと、ほくそ笑むだけです」
「ここでへレンズ侯王殿下には幾つかの分かれ道があります」
「分かれ道ですか?」
「はい、分かれ道です。
その一つが、このまま奴隷のようにヴェーン侯王に支配される道です」
「……国民のために我慢してきました。
戦ったとしても併合されてしまうだけです。
表立って戦って負けてしまったら、鉱夫も鍛冶職人も奴隷にされ、今以上に過酷な状態で働かなければいけないでしょう。
だから奴らが強盗犯だと分かっていても、圧倒的な不利な条件を飲んだのです」
「二つ目の道は、全てを捨てて逃げるのです。
鉱夫にしても鍛冶職人にしても、かけがえのない技術者です。
何所に行っても、それなりの条件で迎えてくれます」
「公子、三千人全員を受け入れてくれる侯国などありませんよ。
バラバラに受け入れられたら、全員が良い条件とは限りません。
それに、全ての侯国が大なり小なりヴェーン侯王の影響を受けています。
最悪の場合は、ヴェーン侯王との取引に使われ、奴隷として引き渡されます。
他国に逃げたくても、力のない外国人は奴隷にされるだけです」
「カルプルニウス連邦の侯王は馬鹿ばかりですね。
我がマクネイア伯国なら喜んで全員受け入れるのに。
我が家は二つの男爵家と侯爵家を併呑したので、移民を求めているのですよ」
「我が家はヴェーン侯王家との契約に縛られています。
生き永らえるには、国民を犠牲にするしかありません。
ですが、これ以上国民を犠牲にするわけにはいきません。
本当に全ての国民を良い条件で受け入れてくださるのですか?
鉱山がなければあまり役に立てない鉱夫が半数もいるのですよ?
残る鍛冶職人も、原材料がなければ何もできませんよ?」
「我が家にも鉱脈があるのですが、これまでは領民を養えるだけの水も食糧もなかったので、手付かずになっていたのです。
ですが今は、多くの豊かな耕作地が手に入りました。
地竜森林という、尽きる事のない食糧庫も手に入りました。
鉱夫と鍛冶職人、三千人が三万人でも喜んで迎え入れさせていただきます」
「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます。
これで我が家が滅ぶことになっても我慢できます。
問題は、どうやって国民を貴国まで逃がすかですが……」
「そんな心配はありませんよ。
幾らヴェーン侯王家の傭兵団が強いとは言っても、我が亜竜軍団に勝てるはずがありません。
そもそも自分の命を優先する傭兵が、亜竜軍団に戦いを挑むとも思えません」
「確かに、その通りですな。
これで安心して死ぬことができます。
少々腹が立つのは、この都市と鉱山をヴェーンの奴が手に入れる事ですが、こればかりはどうしようもありません」
「ああ、それも考えていますから、何の心配もありません」
「何か策があるのですか?」
「はい、とっておきの策があります」
「そうですか、これで何も思い残す事がなくなりました」
「何を言っているのですか?
へレンズ侯王殿下にはこれからも生きて働いてもらわなければいけないのですよ」
「しかし、我が一族は永遠に続く不利な契約を負わされているのです」
「そのような契約は無効になりますから心配はいりません。
ただ、流石にこの地に残る事はできませんから、マクネイア伯国に行ってもらわなければいけませんが、それでも宜しいですか?」
「かまいません!
国民が助かり、ヴェーンの鼻を明かせて、一族が生き延びられるのでしたら、何所にでも行かせていただきます」
民を餓死させずにすむ食糧を運んできた事で、少々値段が高くても心から感謝されただけでなく、当初考えていた倍の利益が手に入りました。
何より、移動に必要な費用がほとんどかかっていないのが大きいです。
普通なら必要な、宿泊費と食費が全く必要ありません。
この外交部隊だけが必要な竜の餌代も、毎日地竜森林に戻れるので、全く必要がないのです。
普通の交易隊、隊商がどうしても経費として商品に上乗せさせなければいけない費用が、ほとんど必要ないのが大きいです。
随行員も伯国の家臣と使用人がほとんどですから、商人が使用人に支払わなければいけない日当が必要ありません。
家臣使用人は、俺が何処にいようと役目をしなければいけないのですから。
「フェルディナンド公子殿下、申し訳ないが、食糧の代金を現物にしてもらえないだろうか?」
三カ所目に訪問したのは、へレンズ侯国ロイス侯王家です。
この侯国は珍しく街道沿いに都市がありません。
街道から外れた山道を登った場所に侯都と呼ばれる都市があります。
侯都の人口は三千人でこれまでで一番多いです。
その代わり、支配下にある村は七つと最小です。
早い話しが、都市人口が多いのに食糧供給原である農村が少ないのです。
ただ、街道沿いに都市も村もない理由は、この侯国の強みでもあります。
へレンズ侯国は鉱山都市であり、鍛冶の街でもあるのです。
良質な武器を生産する事で侯国を保っているのです。
「現物で支払うですか……普通なら断らせていただくところなのですが……
食糧難で人が死ぬのは見ていられませんから、我が家で必要な物なら受け入れさせていただきましょう。
ただし、品質の悪いモノは受け入れられませんよ」
「分かっております。
へレンズ侯国とロイス侯王家の名誉にかけて、質の悪い武器や防具を取引の商品としてお渡しする事はありません」
「へレンズ侯王殿下が約束してくださるなら安心ですね。
ただ、最も安い肉はマーガデール侯国が買い占められました。
ここの武器は、イングルウッド侯国 のヴェーン侯王家に安く買い叩かれていると聞いているのですが、今回も食糧確保のために渡せるだけ渡されたのでしょう」
残っている在庫で必要な食糧を確保できますか?」
「身勝手な申し出なのですが、後払いを認めてもらえないだろうか?
必ず帰路までに必要な武器と防具を用意させてもらう。
汎用品ではなく、オーダーメイドで造らせてもらう」
「魅力的な申し出なのですが、帰路は別の街道を使うのです。
父上が訪問された家だけでなく、新たな侯国とも友好を結ぶのです」
「では、必要な数が用意できたら、こちらからマクネイア伯国に持って行かせていただくので、お願いできないだろうか?」
「う~ん、仁道としては引き受けて差し上げたいのですが、マクネイア伯国の代表としては、実現不可能な提案は受けられません」
「何としてでも実現してみせますので、お願いしたい」
「へレンズ侯王殿下が誠実な方なの分かっています。
ですが、先代からの契約で、ヴェーン侯王家に一定量の武器と防具を安価に提供しなければいけないのでしょう?
その上で、我が家が満足する品質の武器と防具を大量に用意するのは、とても難しいと判断するしかありません」
「何故を知っておられるのだ?
その約束は表沙汰にしない事になっていたはずですぞ!」
「我が家にも情報網があるのですよ。
正直に話されないと、不誠実と判断して、交易を中止しなければいけない」
「待ってくれ、待ってください。
確かにその通りなのですが、武器と防具の量産は、何としてでも成しとげて見せますので、どうか後払いを認めていただきたい。
国民と一体になって、必ず造って見せます」
「へレンズ侯王殿下がそこまで言われるのなら、本当に造れるでしょうね」
「それでは売っていただけるのですね?!」
「ですが、造っても我が家に届けるのは不可能でしょう」
「そんな事はありません。
何としてでも届けて見せます」
「金蔓であるへレンズ侯国が新たな顧客を得るのを、ヴェーン侯王家が見逃すと思っておられるのですか?」
「あっ!」
「武器と防具を運ぶ者達は皆殺しにされ、武器も防具も奪われるだけですよ。
先代の頃にそのような事があり、不利な契約を結ぶことになったのでしょう?」
「……はい、今思い出してもはらわたが煮えくり返ります!
イングルウッド侯国は村を持たない都市だけの商業侯国ですが、住んでいるのは海千山千の商人と傭兵ばかり一万人。
城壁は高く厚く、どのような理不尽な商いを行っても、こちらが攻められない事を知っているのです。
訪れてくる商人の手先を殺しても、当主は何の痛痒も感じません。
むしろ傭兵団を差し向ける良い口実ができたと、ほくそ笑むだけです」
「ここでへレンズ侯王殿下には幾つかの分かれ道があります」
「分かれ道ですか?」
「はい、分かれ道です。
その一つが、このまま奴隷のようにヴェーン侯王に支配される道です」
「……国民のために我慢してきました。
戦ったとしても併合されてしまうだけです。
表立って戦って負けてしまったら、鉱夫も鍛冶職人も奴隷にされ、今以上に過酷な状態で働かなければいけないでしょう。
だから奴らが強盗犯だと分かっていても、圧倒的な不利な条件を飲んだのです」
「二つ目の道は、全てを捨てて逃げるのです。
鉱夫にしても鍛冶職人にしても、かけがえのない技術者です。
何所に行っても、それなりの条件で迎えてくれます」
「公子、三千人全員を受け入れてくれる侯国などありませんよ。
バラバラに受け入れられたら、全員が良い条件とは限りません。
それに、全ての侯国が大なり小なりヴェーン侯王の影響を受けています。
最悪の場合は、ヴェーン侯王との取引に使われ、奴隷として引き渡されます。
他国に逃げたくても、力のない外国人は奴隷にされるだけです」
「カルプルニウス連邦の侯王は馬鹿ばかりですね。
我がマクネイア伯国なら喜んで全員受け入れるのに。
我が家は二つの男爵家と侯爵家を併呑したので、移民を求めているのですよ」
「我が家はヴェーン侯王家との契約に縛られています。
生き永らえるには、国民を犠牲にするしかありません。
ですが、これ以上国民を犠牲にするわけにはいきません。
本当に全ての国民を良い条件で受け入れてくださるのですか?
鉱山がなければあまり役に立てない鉱夫が半数もいるのですよ?
残る鍛冶職人も、原材料がなければ何もできませんよ?」
「我が家にも鉱脈があるのですが、これまでは領民を養えるだけの水も食糧もなかったので、手付かずになっていたのです。
ですが今は、多くの豊かな耕作地が手に入りました。
地竜森林という、尽きる事のない食糧庫も手に入りました。
鉱夫と鍛冶職人、三千人が三万人でも喜んで迎え入れさせていただきます」
「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます。
これで我が家が滅ぶことになっても我慢できます。
問題は、どうやって国民を貴国まで逃がすかですが……」
「そんな心配はありませんよ。
幾らヴェーン侯王家の傭兵団が強いとは言っても、我が亜竜軍団に勝てるはずがありません。
そもそも自分の命を優先する傭兵が、亜竜軍団に戦いを挑むとも思えません」
「確かに、その通りですな。
これで安心して死ぬことができます。
少々腹が立つのは、この都市と鉱山をヴェーンの奴が手に入れる事ですが、こればかりはどうしようもありません」
「ああ、それも考えていますから、何の心配もありません」
「何か策があるのですか?」
「はい、とっておきの策があります」
「そうですか、これで何も思い残す事がなくなりました」
「何を言っているのですか?
へレンズ侯王殿下にはこれからも生きて働いてもらわなければいけないのですよ」
「しかし、我が一族は永遠に続く不利な契約を負わされているのです」
「そのような契約は無効になりますから心配はいりません。
ただ、流石にこの地に残る事はできませんから、マクネイア伯国に行ってもらわなければいけませんが、それでも宜しいですか?」
「かまいません!
国民が助かり、ヴェーンの鼻を明かせて、一族が生き延びられるのでしたら、何所にでも行かせていただきます」
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