転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全

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第二章

第20話:裏切りと妄信

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 竜に喰い殺されると言う想像は、俺が思っていた以上に恐ろしい事のようです。
 捕虜にした者の全員が大小便を垂れ流してしまいました。
 余りの臭さに、脅かしたのを心から後悔したほどです。

 そこで少し早いですが、離間の計を仕掛ける事にしました。
 マーガデール男爵家が心から信頼し合い、結束しているのなら全く意味のない計略ですが、まず間違いなく効果があるでしょう。

「父上の血を受け継いだ俺は魔法が使えます。
 それも父上と同じ身体強化魔法です。
 世界最強と言われる父上と同じ能力を持つ俺が、ここにいるのです。
 もはや我が家に抵抗できる者はいません」

 そう言って、地竜森林に生える魔樹を幾本も引き抜いて見せます。
 赤眉竜や棘竜は直ぐに見つかりませんので、小竜を十頭ほど狩ってみせます。

 我が家ではもうありふれた竜ですが、他家の者、特に命の危険から逃げ続けているような貴族にとっては、小竜でも恐ろし過ぎる存在です。

 そんな竜を鼻歌混じりに狩ってくる七歳児は、人外の存在なのです。
 恐怖の代名詞としか思えないのでしょう。
 捕虜達は、俺の命じる事に唯々諾々と従う奴隷と成り下がりました。

「俺の言う事に絶対従う、逆らわないと誓う者だけは、治療してあげましょう。
 ただし、従わない一族の世話をしてもらう事になります。
 粗相をした連中の後始末をさせますから、覚悟してください。
 その代わり、全てが終わったら、我が家に従う者だけは、褒美として領地に帰してあげましょう。
 当主が我が家の人質で、跡継ぎが王都や有力者の人質ですから、領地の残った者が実質的な支配者になれるでしょうね」

 俺の言いたいことくらいは理解できたのでしょう。

「私は臣従を誓わせていただきます。
 これからはマクネイア家がこの国を支配すると理解できました!」

 先ほどの次男が真っ先に臣従を誓いました。
 本心でなくても構わないのです。
 父親や兄と領地争いしてくれれば十分です。

「私も、私もマクネイア家に忠誠を誓わせていただきます」

「俺の方が忠誠心は強いです!
 どうか私にマーガデール男爵家を任せてください!」

「ぼくです、僕に任せてください!
 僕に任せていただけたら、王都に行って証言させていただきます!
 マクネイア家を襲う野盗団を見逃せと命じたのは、ウェストベリー侯爵だと証言させていただきます」

「ほう、よく言った。
 本当に証言をするのなら、父上と俺が後見人となって、マーガデール男爵領を支配できるようにしてあげましょう」

「俺が証言させていただきます。
 一族の末端にいるような奴が証言するよりも、現男爵の次男が証言した方が信じられます!
 だから俺に男爵領を任せてください!」

「私にやらせてください、お願いします!
 当主争いをするような男の証言よりも、利害関係のない女の私が証言する方が、王家の方々も信じてくれるのではありませんか?
 その代わり、永遠の若さが保てるという、竜薬を私にください!
 赤眉竜の生き胆を使った竜薬を、いえ、秘薬を開発されたのですよね?!」

 おい、おい、おい、この娘、とんでもない事を言い出しましたよ。
 竜薬を研究させている事は確かだけど、若さを保つ秘薬の開発はまだまだです。
 竜薬を使った不老不死など夢のまた夢なのです。

 ですが、俺が隠している魔法の中には、それに近いものがあります。
 若返りに欠かせない栄養成分を食べさせてから身体の代謝を早くする事で、少なくとも見た目は劇的に若返らせる事ができるのです。

 ウロリチン、GABA、イミダゾールジペプチド、カルノシンと言った成分を、この世界でどうやって見つけて精製するのかという問題はありますが、不可能ではありません。

 ですが、竜薬で永遠の若さを保てるという伝説があるのです。
 生き胆という特定の素材まで分かっているのです。

 だったら試せばいいだけです。
 竜薬の開発に失敗した時には、魔法で幾らでも誤魔化せるのですから、了承しても何の問題もありません。

「俺は嘘が嫌いですから、本当の事を教えてあげます。
 竜薬の研究はしていますが、若返りではなく病気の治療です。
 どうしてもと言うのなら、若返りの竜薬も研究してあげましょう。
 絶対に成功すると言う約束はできません。
 ですが、俺の魔法を併用する事で、成功する可能性はあります。
 それでも先にウェストベリー侯爵が黒幕だと証言できますか?」

「できます、やって見せます。
 永遠の若さが手に入るのなら、何だってやって見せます」

 この女の若さへの執着には恐怖すら感じますね。
 
「魔法使い様、どうか私にも証言させてください!
 魔法使い様が神々に選ばれた特別な存在なのは知っております。
 その魔法使い様が二代続けてマクネイア家に現れるなんて、この国の王家が間違った事をしているからに違いありません。
 今の王家に代わって、マクネイア家が国を支配するように、神様が命じておられるに違いありません!」

 この女も恐ろしいな!
 目も表情も完全に逝ってしまっている!
 神に魅入られた人間ほど手の付けられない奴はいない!

 個人的には、こんな狂人にはかかわりたくないのですが、マクネイア家の跡継ぎとしては、利用するしかありません。

「貴女がそこまで言うのなら、証言していただきましょう」

「おおおおお、ありがとうございます、ありがとうございます!
 その代わりと申し上げるのは畏れ多い事なのですが、どうか私をお側近くに仕えさせてください、おねがいします、おねがいします、おねがいします!」

 こんな女が側近くにいるなんて、絶対に嫌です!
 父上の側に仕えるのも許せません!
 ですが、個人の好き嫌いは横に置いておいて、利用するのが俺の役目です。

「神の手足となって働く気があるのなら、私達親子の側に仕えるなどと言ってはいけないのです。
 この国が神の思し召しに近づけるように、民を率いて領地を治めなければいけないのです!
 貴女は本気で神に仕える気があるのですか?!」

「この身もこの命も、入信した時から神様に捧げております。
 神様が民を率いて領地を治めろと申されるのでしたら、身命を投げ打って治めさせていただきます!」

 いやだ、いやだ、嫌だ!
 狂信者を手駒として使おうとしている自分の事が嫌になります!

 ……いえ、ここは考えようですね!
 狂信者が領民を害さないようにコントロールするのも、上に立つ者の役割です!

 この女だって好きで狂ったわけではないでしょう。
 何かどうしようもない事があって、神に逃げたのです。
 何かにすがって逃げた事を、罪だと罰する事などできません!

 もう既に誰かを狂信によって死傷させていると言うのなら、絶対に許される事ではありませんが、まだ罪が有るのか無いのかもわかりません。

 後でもう一度マーガデール男爵領に戻って、この女の評判を集めて、罰するか利用するかを決めなければいけません。

 利用するだけ利用した後で罰する方法もありますが、そのような姑息なマネは大嫌いなのです。

 そんな事をしたら、父上と母上からこっぴどく叱られます。
 領主の息子として、好き嫌いや善悪を抜きにして、どうしてもやらなければいけない事もあります。

 ですが俺なら、事前に準備して、悪事はもちろん嫌いな事も避けられます。
 その事は父上も母上の知っておられます。

 神がかってしまっているこの女の事も、俺なら汚い方法で利用しなくても、十分活用できたと言われる事でしょう。

「そうですか、でしたら、神に仕える者に相応しい試練を与えてあげましょう。
 今この国で不幸な立場にある者達を、神に魔法を与えられた特別な人間として、マーガデール男爵領に集めます。
 貴女も神に仕える者として、同じようマーガデール男爵領に集めなさい。
 神が私に救えと申された者達を、私と一緒に救うのです!
 いいですか、やれますか?」

「はい、この世界を神の望まれる世界にするために、貴方様の手足となって働かせていただきます!」
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