転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全

文字の大きさ
上 下
16 / 87
第二章

第16話:勅命

しおりを挟む
「マクネイア男爵、王国からの軍役です。
 カルプルニウス連邦に使者として行っていただきます」

 これまで一度も軍役を課して来なかったゲヌキウス王国が、急に勅使を派遣して軍役を果たせと父上に言ってきたそうです。

「独立を宣言してもいいのだが、軍役を拒否してでは体裁が悪い。
 独立するなら、留守中に王家や有力貴族の手先に襲われてからの方が良いだろう。
 それに、カルプルニウス連邦でディドの欲しがっている品物が手に入るかもしれないから、ひとまず言う通りにするつもりだ」

 父上が一の村にいる俺に事情を話してくださいました。
 山脈の調査と資源発掘のために、八の村ではなく一の村を拠点にしていたのです。
 八の村におられる、母上や姉上達に事情を話す途中に寄ってくださったのです。

 父上が独断で決められた訳ではありません。
 家宰を務めてくれている、老練なフラヴィオと相談して決めたそうです。
 フラヴィオの判断なら問題ないでしょう。

「まず間違いなく、前回以上の兵力で襲ってくると思います。
 それでも父上が出て行かれて大丈夫だという判断なのですね?」

 父上とフラヴィオを信じていますが、妄信している訳ではありません。
 確認だけはしておかなければいけません。

「それなのだが、ディドには北砦に移動してもらう。
 山の調査を続けたいだろうが、私が戻るまで我慢してくれ」

「とんでもないです、父上。
 父上の息子である俺が、父上の留守を守るのは当然です。
 どのような敵が襲って来ようと、必ず撃退してみせます」

「これまで隠してきたディドの魔法だが、必要なら使って構わない。
 敵の出方によったら、私が戻って来られない可能性もある」

「そのような事は言われないでください。
 そんな可能性が少しでもあるのでしたら、今直ぐ独立を宣言されてください」

「万が一だ、万が一。
 一騎当千の騎士達も連れて行く。
 滅多な事でやられる私ではない。
 十分勝算があるから行くのだ。
 ただ、それでも、最悪の想定はしておかなければならん」

「しかし父上、今の我が家なら、世間の評判を気にするよりは、万が一の危険を優先するべきなのではありませんか?」

「フラヴィオともそう言う話はした。
 色々と話し合ったが、今独立を宣言して竜爪街道を封鎖してしまったら、ディドが教えてくれた植物が手に入る可能性が無くなる」

「俺が余計な提案をしてしまったから、父上は危険な選択をされたのですか?!」

「危険な選択ではない。
 我が家の明るい未来のための選択だ。
 まあ、俺が全て思いついたわけではない。
 フラヴィオが分かりやすく説明してくれたから分かった事だ。
 私とディドがいるのだから、弱気な方法など採らなくてもいい。
 ディドの魔法を明らかにする気なら、少々の危険など恐れる事もない」

「魔法を使ってもいいのですか?!」

「構わない」

「敵が襲ってきたらですか?」

「いや、フラヴィオともよく話し合ったのだが、私が領地を離れる前に、家臣領民の前で魔法を披露するがいい」

「これまでは我が家を危険視する者が現れないように、俺の魔法を隠してきました。
 俺が魔法を隠していても披露しても、関係なく襲ってくると思われたのですね?」

「そうだ、よほどの事がない限り、必ず襲ってくる。
 ディドが竜素材を使った大型合成弩砲を作り出してくれた。
 それによってこれまで以上の大型竜を狩れるようになった。
 大型竜の素材を使って、大型合成弩砲以上の兵器を作られるのを恐れているのだ。
 大型合成弩砲を数揃えられただけで、攻城戦が一変するからな」

「そうですね、これまでの攻城兵器では破壊できなかった城門でも、竜の牙を使った大型矢を大型合成弩砲で放てば破壊できます」

「そう言う事だ。
 今回の件を主導したのが王家なのか有力貴族なのかは分からないが、我が家を何としてでも支配下に置きたいのだろう。
 私を遠くに追いやっておいて、その間に妻子を人質に取る気だろう」

「姑息な事を考えているのですね!
 ですが、父上から聞いていた連中の遣り口を思い出せば、それくらいの事はやりそうですね」

「我が家が苦しい状況の間は、他国への牽制として利用していた連中が、我が家が豊かになってきたら、これ以上豊にするのは危険だと思ったのだろう。
 ディドが生まれて来てくれなかったら、我が家は徐々に滅んでいただろう。
 よく我が家に生まれて来てくれた、ありがとう」

「とんでもないです、父上。
 よく俺をこの家に向かえてくださいました」

「それに、ディドが私以上の魔法を披露したら、襲ってこない可能性もある。
 よほどの馬鹿なら別だが、少しでも戦力判断ができる者なら、身体強化魔法を使える者が二人もいる家を襲うのは躊躇うからな。
 全てディドが私の子供として生まれて来てくれたお陰だ」

「とんでもありません。
 俺が魔法を使えるのは、父上の血を受け継いでいるからです」

 互いに褒め合うのは少々恥ずかしいですが、本心ですから仕方ありません。
 本当は夜遅くまで父上と話し合いたかったのですが、光源となる油や蝋燭はとても貴重な資源なので、陽が暮れると直ぐに眠るのが領地の定めです。

 朝早く起きて父上と語らいました。
 もっと長く話したかったのですが、父上を待つ母上と姉上達がおられますので、自分勝手な事はできませんでした。

 父上が八の村に向かわれた後で、俺は竜爪街道北砦に向かいました。
 北砦には家宰のフラヴィオがいてくれるので、何の心配もいらないのですが、跡継ぎの責任感がグズグズする事を許しません。

 父上とフラヴィオの許可を貰っているので、俺は自重をかなぐり捨てました。
 父上の息子、跡継ぎに相応しい実力を見せつけました。
 敵対している王侯貴族だけでなく、家臣領民にもです。

 とは言え、全ての魔法を披露したわけではありません。
 極々一部の魔法を披露しただけです。
 いえ、たった一つ、父上と同じ身体強化魔法だけを表に出しました。

 この世界最強と言われる父上に魔法です。
 それだけを表に出せば、ほとんどの敵は恐れおののきます。
 家臣領民は心から安心しますし、裏切者も鳴りを潜めるでしょう。

「すごい、男爵閣下と全く同じです」
「ご自分の腕だけで赤眉竜を狩るなんて、信じられません」
「男爵閣下ですら狩られた事ない赤眉竜を狩られるなんて!」
「若様、一生若様について行きます」

「父上だってその気になれば赤眉竜くらい狩れます。
 狩る事ができるのに、皆の安全と運搬を考えて自重されていただけです。
 何より狩っても全ての素材を利用できませんでしたからね」

 全長二十メートル、体重十トンもある巨大な竜を利用しようと思っても、肉を保存するための塩が高価過ぎたのです。

 塩がなければ、貴重な竜素材を腐らせるしかありません。
 大半を腐らせてしまうのに、家臣領民を危険に晒す事などできません。

 ですが今なら、売るほどの塩があります。
 しかも、使ってしまったら無くなる輸入塩ではありません。

 我が家で自給自足した塩なのです。
 これからも毎日生産できる塩なのです。

 巨大な亜竜、赤眉竜は俺が自分の手で解体しました。
 身体強化した手を使って、並の鋼鉄では歯が立たない皮を切り裂きました。

 竜は亜竜でも属性竜と同じ特徴の部分があります。
 その一つが、大きくなればなるほど皮が固く厚くなる点です。

「父上、ご無事の帰還を心から願っております」

「安心しろ、女房子供を残して死んだりはせん」

 父上は前回の買い出し遠征と同じ人数を連れて行かれました。
 人選は、家臣使用人に経験を積ませるために入れ替えられました。

 今回は軍役なので、正式な人数編制にしなければいけません。
 いえ、編成と人数は、王家王国が最低限を決めた物なので、多くても文句を言われることはありません。

 騎士3騎、旗持3兵、弓兵15兵、槍兵30兵、荷役30人、荷車5台ですが、徒士の兵士や荷役1人に1頭のロバをつけました。

 荷車も20台に増やして40頭ロバを二頭立てにして牽かせました。
 帰領の際にはもっと多くの駄載獣を購入して戻られるでしょう。

 父上をお見送りした後は、竜種を使った道具の開発に力を入れました。
 特に赤眉竜の素材を使った新作を考えました。
 強力になった素材で作る武器と防具は、敵を寄せ付けない可能性が高いです。

 武器や防具だけでなく、保存食や薬も研究しました。
 特に薬は、赤眉竜素材を使ったら、これまで以上の効果が期待できます。

 直ぐに食べない竜肉は塩漬けにして村々に送りました。
 一部は輸出用として砦に保管しました。

 手間暇かけて作った塩で保管するのは無駄なので、鹹水を運んできて、それに漬ける形で保管しました。
 我が領の鹹水濃度は40%くらいで、恐ろしく濃いのです。

 食用の肉に限れば、竜種の歩留まりは魔獣や猛獣と同じように少ないです。
 前世の養豚で65%、肉牛で57%でしたが、ジビエの鹿と同じ33%でした。
 薬用や工作用の素材としてはほぼ100%なのですがね。

 とは言え、食肉として使えるのは10000キロの33%です。
 3300キロの竜肉を領内だけで消費するのは不経済です。
 単に食べるだけなら、新鮮な生肉の方が美味しいです。

「公子、これまでの三割、いえ、五割出しますので、竜肉を売ってください」

「今までのような小さくて弱い竜じゃないのですよ。
 棘竜どころか、今まで誰も狩った事のない赤眉竜なのですよ。
 棘竜で二倍、赤眉竜で三倍払ってもらわないと売れませんよ」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...