転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全

文字の大きさ
上 下
9 / 87
第二章

第9話:帰領

しおりを挟む
 新しく発見し、見事に狩る事ができた竜を赤茶棘竜と名付けました。
 本当なら赤茶棘亜竜と呼ぶべきなのですが、亜を入れてしまうと商品価値が下がってしまうので、あえて亜を入れませんでした。

 そこ後、全ての村で塩場を探しました。
 探しただけでなく、発見した場所の岩や土を村よりも上に運びました。
 そのお陰か、それ以降は赤茶熊や竜が下りて来る事はありませんでした。

 それだけでなく、人口塩場に草食の魔獣や猛獣が集まりだしたのです。
 草食獣を狙う肉食獣や雑食獣も集まりました。
 お陰で狩りがとても楽になりました。

 強すぎる魔獣や猛獣を危険を冒して狩れとは命じません。
 十分な安全を確保したうえで、狩りをするように厳命しました。
 今年の初めに予想していたよりも遥かに多い獲物が手に入るようになりました。

 そんな忙しい日々はあっという間に過ぎていきました。
 父上が長期の買い出しに行かれてから半年が経ち、帰領予定日が近づくと、俺は竜爪街道北砦に常駐するようにしました。

「父上、ご無事の御帰還、お喜び申し上げます」

 父上が帰領されました!
 塩はもちろん、塩を運ぶための新しい駄載獣も買って戻られました。

 水不足の激しい我が領でも安心して飼える、若い雌を中心にした駱駝を百頭少し購入して戻られたのです!

「出迎え御苦労、何か危険な事はなかったか?」

「全ての村の周りに、魔獣や猛獣が下りてきました。
 特に問題だったのは、亜種の地竜と赤茶熊が下りてきた事です」

「そうか、大変だったな。
 積もる話もある。
 詳しい話しは砦で聞こう」

 父上との語らいはとても貴重な時間です。
 七歳に成ったばかりとは言え、もう一人前扱いされています。
 貴族としての責務があるので、父上に甘える事ができないのです。
 
 翌日は、早朝から八の村に向かう移動です。
 寝不足では不測の事態に対処できません。
 話は尽きませんが、程々で切り上げなければいけません。

 それに、無理に一晩で話さなくても、時間は十分あります。
 北砦から八の村までは、順調に行っても十三日かかるのですから。

「神様からの啓示で知ってはいましたが、現実に見るのは初めてです。
 びっくりするほどたくさん水を飲むのですね」

 前世も含めて初めて駱駝を目の当たりにしたのです。
 驚くのも感動するのも仕方がありません。

「ああ、俺も初めて見た時は驚いた。
 嫌がるまで飲ませると、六十日は水を与えなくても生きていける。
 流石に三十日飲ませないと瘤が小さくなってしまうし、水を飲みたがる」

 領地に戻るまでに色々と試されたようです。
 父上は脳筋ですが、馬鹿ではありません。

 多くの事の興味を持たれ、確かめようとされます。
 最終的に力に頼ってしまわれるだけです。

「三十日も水を我慢できるなら、八の村まで往復するのに全く水を与えなくても大丈夫なのですね」

「ああ、ここ、地竜森林で腹一杯水を飲ませたら、村の水を使うことなく荷物を運ばせる事ができる。
 こんな家にあった家畜がいるとは思いもしなかった。
 こいつを手に入れられたのはフェルディナンドのお陰だ」

「いえ、全て父上が努力されてきたからです。
 苦しい中でも頑張られ、蓄えに手を付けずにおられたから、必要な時に必要な物を買う余力が残っていたのです」

「いや、今回も蓄えに手を付けずにいれたのは、フェルディナンドが画期的な農法を我が家に取り入れてくれたからだ。
 あれがなければ、流石に今回は蓄えを取り崩していた。
 それどころか、これほどの家畜がいる事を知らずにいた」

 父上と俺は互いを称えあったが、親子で褒め合うのは結構恥ずかしい。
 まして家臣が見守っている場では、居たたまれなくなる。
 だからすぐに褒め合うのは止めて、積もりに積もった話をした。

「父上、いつもの道と違う登り方をします」

「話してくれた、塩場に案内してくれるのだな?」

「はい、塩場の有る場所の奥深くに、塩の塊が埋まっているかもしれません。
 もしかしたら、他国にあるような岩塩鉱山を見つけられるかもしれません。
 それと、父上が持ち帰ってくださった塩は、果実を塩漬けにする事で水になって流れてしまわないようにします。
 村は乾燥していますから、水になる心配は少ないですが、念のためです」

「そうだな、せっかく持ち帰った塩が、水になってしまうのだけは防ぎたい。
 途中の関所や交易で半分は使ってしまったが、まだまだ量がある。
 野草や山菜を使って塩を保存するよりは、果実を使って保存した方が長持ちするのは、俺も長年の傭兵経験で知っている。
 それと、岩塩鉱山と呼ぶほどではなくても、ある程度の岩塩が埋まっているのなら、全力で魔法を使ってでも掘るが、神の啓示はなかったのだな?」

「残念ですが、今回の啓示は不確実なのです。
 この辺に、あるかもしれない程度の啓示なのです」

 俺は前世の知識で分かる事を、神の啓示だと両親には説明しています。
 そう言っておかないと、両親に気味悪がられてしまいます。

 いくら前世の知識があるとは言っても、身体は赤ちゃんで生まれてきます。
 心は身体に影響されるのか、子供として可愛がってくれる父上と母上に気味悪がられるのは、絶対に嫌だったのです。

 まあ、俺が父上と同じ魔法を使えるので、父子の絆はとても強いです。
 お腹を痛めて生んでくださった母上も、僕が何を言ってもやっても、惜しみない愛情を注いでくださいます。

 そんな両親に育てられたら、前世の記憶があろうと実の両親だと思えるものだと、言い切る事ができます。

「ほう、もう既に結構な深さまで掘られているが、掘った分は、話してくれていたように、上に運んでいるのだな?」

 上から猛獣や魔獣が下りてこないように領民が掘り返した塩場を見て、父上が質問してこられました。

「はい、このお陰で、亜竜と赤茶熊が下りて来て以降は、全く問題なく過ごせるようになりました。
 それだけでなく、人工の塩場に獲物が集まる事で、狩りが簡単にできるようになりました」

「ふむ、岩塩として使えないような質の悪いモノでも、十分使い道があるという話だったな」

 父上が移動の間に話させてもらった事を確認されます。
 何事も、話を聞くだけでなく、現場を見て確かめた方が良いのです。

「はい、魔獣や猛獣を狩る為だけではありません。
 山羊や鶏といった家畜に塩分を与える為だけでもありません。
 軍事や輸送に不可欠な軍馬や驢馬、こうして新たに手に入れた駱駝も、塩分を多く含んだ岩を厩舎に吊るしておけば、人間用の塩を節約できます」

「そうか、だったら少し掘っていくか?」

「そうですね、ここまでに使った水の分くらいは運べると思います」

 竜爪街道北砦から六の砦までは平らな炎竜砂漠なので、荷車を使える。
 だが六の砦から一の村までは山道になるため、駄載獣が馬車を牽くのではなく、専用の籠に荷物を載せて運ぶことになる。

 普通は駄載獣の背中に付けた籠に乗せられる荷物よりも、荷車に乗せた荷物の方が量が多いので、平地の輸送には籠よりも荷車が使われる。
 だが碌な道がなく急な上下もある山道では籠を使うしかない。

 当然だが、六の砦を出たばかりだと、駄載獣は精一杯に荷物を背負っている。
 岩塩を掘り返して運ぶ塩場は、六の砦から一の村に行くルートの中では、一番六の砦から離れた場所にある。

「じゃあここを掘り返すぞ!」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...