転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全

文字の大きさ
上 下
6 / 87
第一章

第6話:巡視

しおりを挟む
 昨日の今日ですが、休むことなく八の村の周りを巡視します。
 護衛騎士だけではなく、村の周囲で狩りや採集を行う狩人も、道案内のために同行してくれています。

 狩人は飼いならした雪狼を伴っています。
 雪狼を飼いならすための餌を確保しようと思うと、地竜森林から運ばれてくる血餅や血腸詰だけでは足らないからです。

 地竜森林から一番遠くはなれている弊害です。
 父上と母上は、家臣領民を腐れ外道の旧教徒達から守る事を最優先にされたので、不便くらいは俺達が工夫しなければいけないのです。

 雪狼の餌は、比較的簡単狩れる悪栗鼠や小蜥蜴を狙います。
 人間が食べるには肉の量が少ないですし、味も悪いですが、新鮮な肉と血はと骨は、雪狼の健康には欠かせない栄養を豊富に含んでいるのです。

 時には、一角羚羊や大角鹿を狩れる幸運に恵まれる時もあります。
 一角羚羊や大角鹿を仕留めて帰れれば、小さな英雄になれます。
 両方とも肉がとても美味しいのです。

 肉だけでなく、毛皮も村の生活には欠かせません。
 水を確保するために、炎竜砂漠の熱気で地下水が蒸発しない高さに村を作りましたので、朝晩が結構寒いのです。

 昼夜の寒暖差は、炎竜砂漠ほど激しくはありません。
 ですが、朝晩の寒さは円竜砂漠に匹敵します。
 乾燥してしまっていますが、昼は過ごしやすい暖かさなのです。

 3000メートルも山を登った場所に村がある弊害の一つが、毛皮なしには朝晩を過ごせない寒さなのです。

 そんな村の生活に欠かせないのが、山の高い場所に住む一角羚羊や大角鹿の毛皮なのです。

 自分達が山の寒さの中で生き延びるために進化した毛皮は、人間が同じ寒さの中で生き延びるのに最適な防寒具になるのです。

 一人一枚ではなく、何枚でも欲しい防寒具なのです。
 寝具としてだけでなく、衣服としても利用したいのです。
 いえ、今では単なる防寒素材ではありません。

 俺の知識を元に、鹿の袋角、鹿茸のように利用できないか試してみました。
 運が良い事に、鹿茸と同じく補精強壮薬として使えそうです。
 少なくとも精力剤としては抜群の効果があります。

 キリバス教の影響で、正室の子供しか神の祝福が受けられない事になりました。
 正室以外の子供には、親の地位や財産を分け与えられないのです。

 自分の妻に子供が生まれなかったら、欲深い教会に没収されたくなければ、兄弟姉妹の配偶者から生まれた甥や姪に、地位や財産を譲らなければいけなくなります。

 そんな社会ですから、精力剤の需要はとても大きいのです。
 これまでの精力剤よりも効果が高い、一角羚羊茸と大角鹿茸は、再現不可能な竜種素材などを使った精力剤を除いて、最高の精力剤なのです。

 ただ、俺が試させ確証を得てまだ間がありません。
 領地の主力産業にするのはまだまだ先の話です。

 そもそも一角羚羊茸と大角鹿茸を狩るためには、強大な魔獣の住む東竜山脈を更に登って行かなければいけないのです。

 牧畜に成功すれば全てが解決するとも言えません。
 食べる餌が違ってくると、薬効が無くなってしまうかもしれないのです。
 全てはこれから色々試して初めて分かる事なのです。

「若、これ以上登るのは危険です。
 いくら村の周囲を警戒しなければいけないとはいえ、ここほど高くまで登る必要はないのではありませんか?」

 護衛騎士のレオナルドに注意されてしまいました。

「そうですね、想像していたのと違って、強大な魔獣がいませんでした。
 少々残念ではありますが、予定通り左回りに巡視しましょう」

「「「「「はい」」」」」

 護衛騎士と狩人達が嬉しそうに返事してくれます。
 誰だって進んで危険な場所に来たい訳ではありません。
 責任感と誇りで死を恐れる本能を抑えて、危険を冒してくれているのです。

「「「「「メェエエエエエ」」」」」

 駄載獣兼おとり、探知役として連れてきている雄山羊が鳴きます。
 声を聞いた全員が、危険が近づいて来ていないか周囲に目をやります。

 馬や驢馬、雪狼が全く警戒していないので、単に甘えているだけだと分かっているのですが、油断するのが一番危険なので、警戒を怠りません。

 今回は俺の提案で、一番下、炎竜砂漠まで降りる事になっています。
 東竜山脈山頂部には雨や雪が降ります。
 万年雪となる高さは別にして、夏になれば溶けて地下水となる高さもあります。

 そんな地下水が、炎竜砂漠の熱気で蒸発してしまわない3000メートル付近に、父上は井戸を掘って地下水を確保されたのです。

 ただその高さは、人が生活するのに十分な水量が確保できる高さです。
 人が一年間暮らしていけるだけの作物を作れるだけの水量が確保できる高さです。
 もっと低い場所でもある程度の水量を確保できる地下水脈があります。
 
 村々は、敵が攻め込み難い距離に離してあります。
 村々の間にも有望な地下水脈があるのです。

 身体強化魔法が使える父上以外に、この硬い岩盤に深井戸を掘れないだけです。
 敵が攻め込んできても、村の井戸を奪わない限り水の補給ができないのです。
 
 家臣領民を護る事を最優先にされている父上は、どれほど有望な地下水脈があると分かっていても、村の防壁の外には井戸を掘らなかったのです。

 今回俺は、掘られている井戸の下流部分だけでなく、井戸が掘られる事のなかった地下水脈の下流部分も調べる事にしました。

 今我が家が抱えている最大の問題は、水や食料ではないのです。
 全て輸入に頼っている高価な塩が最大の問題なのです。

 人間が必要とする塩だけでも、手に入れるのに四苦八苦している状態です。
 更に増やし続けている家畜に必要な塩まで確保するとなると、これまで何とか保ってきた収支が赤字に転落してしまうかもしれません。

 俺自身の手で掘るかどうかは別にして、岩塩が埋蔵されている場所を探し出さなければいけないのです。

 野生の草食動物は、草や葉だけでは塩分を補給できない場合があります。
 そんな時は、塩分を含んだ岩や土を食べるのです。

 今回連れ出した雄山羊は、しばらく塩を与えていないので、塩分を感じる場所に来たら岩や土を食べる可能性があるのです。
 
 俺が意識して地下水脈の下流部分を丹念に歩いたら、塩分が多くある場所で岩や土を食べてくれるかもしれないのです。

 これが炎竜砂漠でなければ、塩湖や塩泉を見つけてくれるかもしれませんが、砂漠に湖や泉があるはずないのです。

 普通の砂漠なら、オアシスを発見できる可能性も皆無ではありませんが、炎竜が水分を蒸発させてしまう炎竜砂漠では期待できません。

 いや、東竜山脈なら少しは可能性があるかもしれません!
 地下水が噴出している場所があるかもしれません!
 そこで水が蒸発していたら、塩分を含む岩や土が大量にあるかもしれない!

 人が利用できる状態でなくてもいいのです。
 家畜の分だけでも塩分を確保できれば、最悪地竜森林の草木を大量に燃やして、領民分の灰塩を作る方法もあるのです。

 一番発見したいのは、長い年月に渡って地下水脈の水が蒸発させられた事で作られた、岩塩層です。

 もしくは、完全に蒸発させられる前の地下水脈です。

 濃く煮詰められた地下水は、塩化ナトリウムなどの塩分を含んだ水、鹹水になっている可能性がとても高いのです。

 鹹水を汲み揚げる井戸を、井塩や塩井と呼ぶのですが、その塩分を豊富に含んだ水を、炎竜砂漠の強い日差しと熱気で蒸発させる事ができたら、我が家は塩の一大産地に成れるのです!
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...