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第一章
プロローグ:第1話:襲撃
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「てきしゅう、敵襲です!」
警戒のために人手を割いてまで見張らせていてよかった。
父上が領地を離れている時期を狙う、卑怯者がいるかもしれないとは思っていましたから、奇襲など許しません。
「若、どうします?」
補佐役が、まだ幼い六歳の俺に指示を仰ぎます。
試しているのではなく、信頼してくれているのです。
「弓で迎え討ちます。
森に入っている者達には、狼笛で帰還を命じてください」
「はっ!」
我が家の家宰を務めるフラヴィオが、配下にテキパキと指示をだしています。
フラヴィオは、騎士団長も兼任する我が家の柱石です。
父上が安心して領地を離れられるのも、フラヴィオがいるからです。
「全員隠れて射れ!」
「「「「「はっ!」」」」」
(ピィイイイイイ)
鍛え抜かれた我が家の騎士と徒士が、素早く遮蔽物に隠れて弓を射ます。
こんな時のために、石と日干しレンガを使って竜爪街道に造ってあった遮蔽物。
先を尖らせた三角形に積み上げられていて、敵の攻撃が左右に流れるようにしてあります。
ビュン!
俺が前世の知識と父上達から聞いたこの世界の知識を併せて創った合成弓は、敵に向かって専用の矢を放ちます。
アマチュア小説家として蓄積した知識は伊達ではありません。
現実に再現するため技術者がいて、必要な材料をそろえられたら、オーバーテクノロジーの武器や道具を創りだせるのです。
この合成弓も、弓懸を使えば600メートル先まで矢を飛ばす事ができます。
「ギャアアアアア」
流石に600メートル先の人間を百発百中できる射手は少ないです。
だけど、的中を狙うのではなく、面制圧弓射を考えて上に放つなら、ほぼ最大射程で戦果を挙げる事ができます。
「「「「「ギャアアアアア」」」」」
父上が十分の一の家臣を率いて新品種を手に入れる旅にでられています。
十分の一は山岳部にある村々に分散配備されています。
残る十分の八が、六つの砦に配備されています。
だから、森に水と飼料を取りに来た俺の手元にある兵力は少ないです。
俺を含めた騎士四騎と騎兵四騎、荷馬車四台と徒士四兵だけです。
もっとも、それが全員というわけではありません。
牧畜を仕事にしている領民や狩りを仕事にしている領民がいるのです。
護衛がいる時に都合をあわせて水汲みきた領民もいます。
彼らも地竜森林と呼ばれる森がどれだけ危険なのかよく知っています。
当然全員が弓と剣を持ち、防具も装備しています。
食うに困って盗賊になった連中など相手にならない!
「若、連中相当訓練を積んでいやがりますぜ。
若が言っておられたように、我が家に危険を感じた連中の手先でしょう」
「ここでキッチリと叩いておかないと、私達を皆殺しにするまで攻め込んできます」
「そうでしょうか?
ここを奪ったら、水不足で渇き死にすると思うのではありませんか?」
「父上が、砂漠地帯でも育てられる穀物や野菜を探しに行かれたとたん、こうして襲撃してきたのです。
こちらの情報を手に入れているに違いありません」
「情けない、裏切者がいると言う事ですね」
「誰だって欲があるのです。
千人を越える領民がいれば、当然欲に負ける者もいます。
中には、最初から探るために入り込んだ者もいるかもしれません。
そんな者は、家族や主君のために働いているのですから、裏切者とは言えません」
「若は人が良すぎます」
「別に人がいいわけではありません。
真実を言っているだけです。
人が良いと言うのは、こういう時に戦うことなく相手に領地を差し出す人です。
ですが私は、こうして連中を殺すように命じています。
それも、逃がさずに皆殺しにしろと命じているのです。
人が好いどころか、殺人狂と言えるでしょう」
「他人の懐に手を入れるような奴らには当然の報いでさぁ」
俺とフラヴィオが軽口を叩いている間も、我が家の家臣領民が、盗賊団に偽装した何処かの領主軍を殺していきます。
フラヴィオも話しながら弓を射ています。
敵の総数は300を超えていますから、男爵家や子爵家ではないでしょう。
伯爵家でも豊かでない家では、とても300は動員できません。
最低でも裕福で有名な伯爵家が相手です。
普通に考えれば、五十年戦争終結直前から動乱期にかけて、我が家が傭兵団を率いていた時代に恨みを買った国の正規兵でしょう。
「突撃!」
「ウィオオオオオ」
遠距離からの面制圧弓射で一方的に殺されるのに耐えられなくなったのでしょう。
指揮官が全員突撃を命じました。
ここで魔法を使えれば、簡単に終わるのですが、俺に魔術の才能がある事は、我が家最大の秘密なのです。
知っているのは父上と母上、フラヴィオの三人だけです。
だから、四十対三百の戦いを続けなければいけません。
シュン!
「「「「「ギャアアアアア」」」」」
並の弓しか持っていない敵が、真直ぐに突っ込んできてくれます。
こちらは狙いもそこそこに、速射を繰り返せばいいだけです。
正面の敵を外れても、後に続く敵兵の誰かに当たります。
「「「「「ウォオオオオオン!」」」」」
敵の攻撃が朝の早い内だったので、森に水と飼料取りに行った者達も、まだ奥深くまで入っていなかったのでしょう。
危険を知らせる狼笛に反応して、戦闘態勢で戻ってきてくれました。
狼たちが、突撃してくる敵兵の後ろに回り込んで、喉笛を咬み千切ります。
「「「「「ギャアアアアア」」」」」
シュン!
「「「「「ギャアアアアア」」」」」
前後に敵を受けてしまい、思わず立ち止まった敵の左側面から、森に入っていた者達五十人近くが、一斉に弓を射たのです。
森に入っていた味方は、木々に隠れて弓を射る事ができます。
敵が反撃しようとしても、射手どこに居るのか分かりません。
それに、森には竜が住んでいるのです。
小型の亜竜が人間を襲い喰らう恐ろしい場所なのです。
敵に森に入る勇気があるとは思えません。
そうなると、敵はその場で戦うしかありません。
何の遮蔽物もない竜爪街道で、前と左側面から矢を射られ続ける事になります。
百発百中とまではいきませんが、九割は当たっています。
現に今立っている敵兵の数は五十を切っています。
「このまま安全を最優先に、遠距離から弓だけで殺し尽くします」
「尋問しなくてもいいのですか?」
「そう簡単に白状するとは思えません。
敵兵が白状したとしても、黒幕は知らぬ存ぜぬを通すだけです
対して効果もない事のために、大切な家臣に危険なマネはさせられません」
「分かりやした」
「確実に殺し終えたら、傭兵の流儀に従って戦場掃除です。
集めた武器や防具、金銭や財物は公平に分配します。
これは家臣だけでなく、戦いに参加してくれた領民全員に適用します」
「「「「「ウォオオオオオ」」」」」
「良きご判断でございます」
男爵家の跡継ぎも楽な仕事ではありません。
まして傭兵からの叩き上げ新興男爵家では、恨まれている相手も多く、このような事は日常茶飯事ですから。
★★★★★★
「領地持ち男爵家の最低軍役」(領民1万人前後)
騎士: 3騎
旗持: 3兵
弓兵:15兵
槍兵:30兵
荷役:30人
荷車: 5台
日本の戦国時代軍役より大幅に少ないのは、反別当たりの生産力が1/5だから。
連作障害があり、休耕地が必要だから。
中世初期の農業技術なので、収穫量の1/3が種籾に必要だから。
警戒のために人手を割いてまで見張らせていてよかった。
父上が領地を離れている時期を狙う、卑怯者がいるかもしれないとは思っていましたから、奇襲など許しません。
「若、どうします?」
補佐役が、まだ幼い六歳の俺に指示を仰ぎます。
試しているのではなく、信頼してくれているのです。
「弓で迎え討ちます。
森に入っている者達には、狼笛で帰還を命じてください」
「はっ!」
我が家の家宰を務めるフラヴィオが、配下にテキパキと指示をだしています。
フラヴィオは、騎士団長も兼任する我が家の柱石です。
父上が安心して領地を離れられるのも、フラヴィオがいるからです。
「全員隠れて射れ!」
「「「「「はっ!」」」」」
(ピィイイイイイ)
鍛え抜かれた我が家の騎士と徒士が、素早く遮蔽物に隠れて弓を射ます。
こんな時のために、石と日干しレンガを使って竜爪街道に造ってあった遮蔽物。
先を尖らせた三角形に積み上げられていて、敵の攻撃が左右に流れるようにしてあります。
ビュン!
俺が前世の知識と父上達から聞いたこの世界の知識を併せて創った合成弓は、敵に向かって専用の矢を放ちます。
アマチュア小説家として蓄積した知識は伊達ではありません。
現実に再現するため技術者がいて、必要な材料をそろえられたら、オーバーテクノロジーの武器や道具を創りだせるのです。
この合成弓も、弓懸を使えば600メートル先まで矢を飛ばす事ができます。
「ギャアアアアア」
流石に600メートル先の人間を百発百中できる射手は少ないです。
だけど、的中を狙うのではなく、面制圧弓射を考えて上に放つなら、ほぼ最大射程で戦果を挙げる事ができます。
「「「「「ギャアアアアア」」」」」
父上が十分の一の家臣を率いて新品種を手に入れる旅にでられています。
十分の一は山岳部にある村々に分散配備されています。
残る十分の八が、六つの砦に配備されています。
だから、森に水と飼料を取りに来た俺の手元にある兵力は少ないです。
俺を含めた騎士四騎と騎兵四騎、荷馬車四台と徒士四兵だけです。
もっとも、それが全員というわけではありません。
牧畜を仕事にしている領民や狩りを仕事にしている領民がいるのです。
護衛がいる時に都合をあわせて水汲みきた領民もいます。
彼らも地竜森林と呼ばれる森がどれだけ危険なのかよく知っています。
当然全員が弓と剣を持ち、防具も装備しています。
食うに困って盗賊になった連中など相手にならない!
「若、連中相当訓練を積んでいやがりますぜ。
若が言っておられたように、我が家に危険を感じた連中の手先でしょう」
「ここでキッチリと叩いておかないと、私達を皆殺しにするまで攻め込んできます」
「そうでしょうか?
ここを奪ったら、水不足で渇き死にすると思うのではありませんか?」
「父上が、砂漠地帯でも育てられる穀物や野菜を探しに行かれたとたん、こうして襲撃してきたのです。
こちらの情報を手に入れているに違いありません」
「情けない、裏切者がいると言う事ですね」
「誰だって欲があるのです。
千人を越える領民がいれば、当然欲に負ける者もいます。
中には、最初から探るために入り込んだ者もいるかもしれません。
そんな者は、家族や主君のために働いているのですから、裏切者とは言えません」
「若は人が良すぎます」
「別に人がいいわけではありません。
真実を言っているだけです。
人が良いと言うのは、こういう時に戦うことなく相手に領地を差し出す人です。
ですが私は、こうして連中を殺すように命じています。
それも、逃がさずに皆殺しにしろと命じているのです。
人が好いどころか、殺人狂と言えるでしょう」
「他人の懐に手を入れるような奴らには当然の報いでさぁ」
俺とフラヴィオが軽口を叩いている間も、我が家の家臣領民が、盗賊団に偽装した何処かの領主軍を殺していきます。
フラヴィオも話しながら弓を射ています。
敵の総数は300を超えていますから、男爵家や子爵家ではないでしょう。
伯爵家でも豊かでない家では、とても300は動員できません。
最低でも裕福で有名な伯爵家が相手です。
普通に考えれば、五十年戦争終結直前から動乱期にかけて、我が家が傭兵団を率いていた時代に恨みを買った国の正規兵でしょう。
「突撃!」
「ウィオオオオオ」
遠距離からの面制圧弓射で一方的に殺されるのに耐えられなくなったのでしょう。
指揮官が全員突撃を命じました。
ここで魔法を使えれば、簡単に終わるのですが、俺に魔術の才能がある事は、我が家最大の秘密なのです。
知っているのは父上と母上、フラヴィオの三人だけです。
だから、四十対三百の戦いを続けなければいけません。
シュン!
「「「「「ギャアアアアア」」」」」
並の弓しか持っていない敵が、真直ぐに突っ込んできてくれます。
こちらは狙いもそこそこに、速射を繰り返せばいいだけです。
正面の敵を外れても、後に続く敵兵の誰かに当たります。
「「「「「ウォオオオオオン!」」」」」
敵の攻撃が朝の早い内だったので、森に水と飼料取りに行った者達も、まだ奥深くまで入っていなかったのでしょう。
危険を知らせる狼笛に反応して、戦闘態勢で戻ってきてくれました。
狼たちが、突撃してくる敵兵の後ろに回り込んで、喉笛を咬み千切ります。
「「「「「ギャアアアアア」」」」」
シュン!
「「「「「ギャアアアアア」」」」」
前後に敵を受けてしまい、思わず立ち止まった敵の左側面から、森に入っていた者達五十人近くが、一斉に弓を射たのです。
森に入っていた味方は、木々に隠れて弓を射る事ができます。
敵が反撃しようとしても、射手どこに居るのか分かりません。
それに、森には竜が住んでいるのです。
小型の亜竜が人間を襲い喰らう恐ろしい場所なのです。
敵に森に入る勇気があるとは思えません。
そうなると、敵はその場で戦うしかありません。
何の遮蔽物もない竜爪街道で、前と左側面から矢を射られ続ける事になります。
百発百中とまではいきませんが、九割は当たっています。
現に今立っている敵兵の数は五十を切っています。
「このまま安全を最優先に、遠距離から弓だけで殺し尽くします」
「尋問しなくてもいいのですか?」
「そう簡単に白状するとは思えません。
敵兵が白状したとしても、黒幕は知らぬ存ぜぬを通すだけです
対して効果もない事のために、大切な家臣に危険なマネはさせられません」
「分かりやした」
「確実に殺し終えたら、傭兵の流儀に従って戦場掃除です。
集めた武器や防具、金銭や財物は公平に分配します。
これは家臣だけでなく、戦いに参加してくれた領民全員に適用します」
「「「「「ウォオオオオオ」」」」」
「良きご判断でございます」
男爵家の跡継ぎも楽な仕事ではありません。
まして傭兵からの叩き上げ新興男爵家では、恨まれている相手も多く、このような事は日常茶飯事ですから。
★★★★★★
「領地持ち男爵家の最低軍役」(領民1万人前後)
騎士: 3騎
旗持: 3兵
弓兵:15兵
槍兵:30兵
荷役:30人
荷車: 5台
日本の戦国時代軍役より大幅に少ないのは、反別当たりの生産力が1/5だから。
連作障害があり、休耕地が必要だから。
中世初期の農業技術なので、収穫量の1/3が種籾に必要だから。
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