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第一章

第1話

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 私(わたくし)は白馬の王子様に恋しています。
 決して大袈裟に言っている訳ではありません。
 確かに馬は白くはありませんし、王子様でもありません。
 ですが私にとっては命の恩人なのです。
 だから白馬の王子様なのです。

 私が王子様と初めて会ったのは、誘拐された時でした。
 父の一族の出世を妬む、長州閥の手先に誘拐されたのだそうです。
 長州の連中は、私を人質にして一族を長州閥に引き込む心算だったと、父上様や大叔父様達から聞いています。

 本当に長州の連中は腹黒で悪知恵が働きます。
 品性下劣で、何をやるか分かりません。
 今でも陸軍内で徒党を組み、好き放題しています。
 維新の時も、遠征先で婦女暴行など、猖獗を極めたそうです。

 誘拐が成功していたら、私もどんな眼に会わされたか分かりません。
 龍騎様が助けてくださらなかったら、自害しなければいけなかったでしょう。
 表向き処分された長州閥の軍人は、幼女趣味の極悪人だったそうですから。
 表向きと言ったのは、黒幕がいると父上様も大叔父様達も申されているからです。

 ですから私、誘拐事件以来ろくに屋敷から出ていません。
 誘拐されたのが、華族女学校の中だったことが大問題となったのです。
 華族令嬢の為に設立された官立の女学校から、長州閥の軍人が女衒を手先に使って華族令嬢を誘拐させたのです。
 徳川贔屓の江戸っ子は、長州の悪口を東京府内に大いに広めました。
 華族の方々の長州閥に対する風当たりも激烈と成りました!

 当時御存命だった明治天皇も激怒されたそうです。
 内閣総理大臣だった桂太郎は、辞任するしかなかったそうです。
 誘拐犯と交友のあった者が徹底的に調査されたそうです。
 多くの長州閥陸軍軍人が予備役に編入されたそうです。

 全て人伝えの話ですが、現実に起こった事です。
 ですが私個人には関係ありません。
 華族女学校と学習院が併合され、華族女学校が学習院女学部と呼ばれるようになっても、父上様の長州閥への警戒は少しも弱まりませんでした。

 実際に陸軍に奉職されている父上様には、長州閥が隠然たる勢力を維持している事が、ひしひしと実感できるのでしょう。
 ですから私、家庭教師に勉強を教えて頂いております。
 明治天皇陛下直々に、義務教育の代わりに家庭教師をつける事を認めて頂きました。

 私には、そんな事よりも大切なことがあるのです。
 白馬の王子様、櫻井龍騎様の御来訪です。
 櫻井龍騎様が私を助けてくださった時は、まだ伍長でした。
 凛々しい騎兵服を着ておられましたが、尋常小学校もほとんどいけない、貧民出身の下士官でしかありませんでした。
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