上 下
1 / 6
第一章

第1話:政略結婚

しおりを挟む
「あのう、私に政略結婚ですか?
 今のレイノルズ伯爵家には領地もなければお金も権力もありません。
 あるのは借金だけですよ、そんな家と政略結婚しても意味がありませんよ」

 私は既に疎遠になって久しい親類の伯爵夫人に返事をしました。
 どう考えてもまともな話だとは思えないからです。
 レイノルズ伯爵家は、これ以上悪くなれないくらい最悪の状態ですが、私までそれに巻き込まれる気はないのです。
 平民に落ちるのは仕方がないですが、性奴隷にはなりたくはないのですよ。

「お相手は、レイノルズ伯爵家の事など、どうでもいいのよ。
 あ、いえ、ごめんなさいね、貴女の伯爵令嬢という肩書が欲しいそうよ。
 どうもね、あちらには色々と事情があるようで、私にも細かい所は話してくれないだけれど、貴女と個人的に条件を話し合いたいそうよ。
 まあ、かなり条件は悪くなるのは覚悟しておいてね」

 普通なら、このような胡散臭い話を受ける貴族令嬢はいないでしょう。
 ですが私は、とても追い込まれていました。
 両親と兄が放蕩の限りを尽くし、領地も財産も全て無くし、このままでは今月中に屋敷からも追い出されてしまいます。
 単に屋敷を出るだけならいいのですが、安全な貴族街の屋敷を追い出されると、借金取りに拉致され、売春宿に直行という事もあり得るのです。
 だからこうして、ソラリス侯爵家に来て直接交渉することになったのです。

「それで、どういう条件の政略結婚なのですか?」

 私の前には、ソラリス侯爵ジャックス卿と、正室にマルガネラ夫人、結婚相手だというチャネラル卿がいます。
 単に一対三というだけでも圧倒的に不利なのに、社交界でもまれた公爵家の当主と、女という不利を覆して大陸で一、二を争う商会を一代で築いた女傑が相手です。
 それでも、気合だけは負けないようにしなければいけません。

「そうね、レイノルズ伯爵家の事情はよく知っているから、家と家の繋がりは求めないどころか不用よ。
 だから貴女にはほとんど何の力もないのは分かっているわね。
 だからこちらの条件を全部飲んでもらうわよ」

 女傑のマルガネラ夫人が覆いかぶすように言ってきますが、そんな事はここに来る時から分かっていた事です。
 今さら言われなくても分かっている事を口にする事で、私が断れないように追い込んでいるのでしょうが、それだけソラリス侯爵家にもこの結婚を纏めなければならない、不利な事情があるという事です。

「レイノルズ伯爵家とは私は別です。
 レイノルズ伯爵家がどれほど困窮していようとも、私は自分の誇りを売り渡す気はありません!」

 私は口には出さず、そちらにもどうしてもこの結婚を纏めなければいけない事情があるのでしょ、という表情をしてやりました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が悪役令嬢ですか?まあ、面白いこと。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢にされた子が幸せになるお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

殿下、それ恋人やない、ただのクラスメイトや

mios
恋愛
王子様が公爵令嬢に婚約破棄を告げた会場にたまたま居合わせた令嬢が、新たな婚約者として指名されたが… *婚約破棄モノ、一度書いて見たかったのですが、難しかったです。

【完結】アナタが選んだんでしょう?

BBやっこ
恋愛
ディーノ・ファンは、裕福な商人の息子。長男でないから、父から預かった支店の店長をしている。 学生でいられるのも後少し。社交もほどほどに、のんびり過ごしていた。 そのうち、父の友人の娘を紹介され縁談が進む。 選んだのに、なぜこんなけっかになったのだろう?

王子が婚約破棄なんてするから

しがついつか
恋愛
婚約破棄をした王子は、苛烈な元婚約者の公爵令嬢を断罪した。 これで想い人と結ばれると思ったところ、王子には新たな婚約者が決まってしまう。 王子は婚約破棄をするため、新しい婚約者と交渉することにした。

婚約者である王子と共に隣国のパーティーに出席したら隣国の王太子が婚約者を断罪し始めました。止めろ、私達を巻き込むな!国際問題になるだろ!

はぐれメタボ
恋愛
王太子と共に悪事を働いていた王太子の婚約者である公爵令嬢を断罪し、王太子の婚約者となった貧乏子爵家の令嬢マリアナ。 2人のラブストーリーは広く伝わっていた。 婚約して数年後、王太子と共に隣国のパーティー招待されたマリアナだったが、なんと隣国の王太子が婚約者の公爵令嬢を断罪し始めてしまった。

女騎士がいいですか? 構いませんよ、お好きように

四季
恋愛
「あのさ、婚約破棄したいんだけど」 それが、婚約者から告げられた言葉だった……。

婚約破棄された悪役令嬢は辺境で幸せに暮らす~辺境領主となった元悪役令嬢の楽しい日々~

六角
恋愛
公爵令嬢のエリザベスは、婚約者である王太子レオンから突然の婚約破棄を言い渡される。理由は王太子が聖女と恋に落ちたからだという。エリザベスは自分が前世で読んだ乙女ゲームの悪役令嬢だと気づくが、もう遅かった。王太子から追放されたエリザベスは、自分の領地である辺境の地へと向かう。そこで彼女は自分の才能や趣味を生かして領民や家臣たちと共に楽しく暮らし始める。しかし、王太子や聖女が放った陰謀がエリザベスに迫ってきて……。

決闘を申し込みますわ!

下菊みこと
恋愛
決闘を高らかに宣言する公爵令嬢のお話。ざまぁ展開あり。 ルーヴルナは、自らの名誉の為「自らの婚約者の恋人」であるアナに手袋を投げつけた。民衆はもちろんルーヴルナの味方である。ルーヴルナの今後は果たしてどうなる? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...