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第二章

第47話:光明

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「殿下、皇太子殿下、見つかりました、人を犠牲にしない治癒術が見つかりました」

 サーニン皇太子のもとに、滅多に感情を表情に表さない密偵のケインが、喜色満面の表情を浮かべてやってきた。

「本当なのか、間違いないのだな」

 邪神教徒の本拠地を滅ぼした皇太子達は、皇都に帰る事なく、旧フランドル王国の王城を皇太子の離宮と定めて居続けていた。
 皇都に戻ると公務が忙しくなり、マチルダ嬢の治療に専念できないからだ。
 この一年の間、邪神教徒が残した魔法陣と魔導書を研究していた。
 その為には王城を拠点にして修道院も占拠し続ける必要があった。

 基本人間を生贄にして行われる邪神教の魔法陣を、皇太子がマチルダ嬢の治療にために使うわけにはいかない。
 そんな事をすればマチルダ嬢が眼をえぐり出すのは明白だった。
 だからあらゆる魔術を複合させて、人間以外の生贄で失明が癒せるか試していた。
 近隣から失明している者を集めて試術を繰り返していた。
 だがこの一年は遅々として成果がなかった。

 だが大陸中を治癒魔術を探し回っていたケインが発見してくれたのだ。
 ケインは義賊団の頭領であることを駆使して大陸中を探し回っていた。
 義賊仲間だけでなく、時にプライドを捨てて凶悪な盗賊団からすら情報を集めた。
 ダンジョン探査に限定してだったが、凶盗団と手を組んででも失明の治癒魔術を探し回っていたが、その努力が報われたのだ。

 他の動物の視力を奪う事になるが、他の人間の視力は奪わない。
 大掛かりな魔法陣と多数の魔術士と呪術士も必要になる。
 五層の魔法陣と五層の呪術陣を使う多層陣が必要になるが、今までにはなかったとても画期的な治癒術だった。

「みなさんありがとうございます。
 元通りにみなさんの顔を見ることができるようになりました」

 皇太子が歓喜の涙を流していた。
 皇太子の側近達も同じように歓喜の涙を流していた。
 古参の側近達はもちろん、心密かに皇太子に恋心を抱いていた侍女達も、マチルダ嬢こそ皇太子の正室に一番ふさわしいと思うようになっていた。

 全員が先の戦いで共に戦った戦友なのだ。
 マチルダ嬢とは肩を並べて戦った戦友になっていた。
 特に侍女達とは皇太子を護るために肩を並べ背中を預けて魔族と戦った仲だ。
 羨む心が皆無とは言わないが、それ以上に祝福の気持ちが強かった。
 
 マチルダ嬢は終生サーニン皇太子だけを愛して暮らした。
 サーニン皇太子も終生マチルダ嬢だけを愛して暮らした。
 二人は死ぬまで善政を敷いて皇国民を幸せな生活を与え続けた。
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