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第1章
第46話:尾張統一
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天文19年7月11日:駿河焼津水軍城:前田上総介利益18歳視点
信長の野郎が身勝手な命令を出しやがった!
しばらくは守りに徹しろと言って、降伏臣従した遠江と三河の国人地侍を尾張に呼び出し、岩倉城攻略に使いやがった!
俺に命じなかったのは、無理をさせないように気を使った訳じゃない。
これ以上武功を立てさせないためだ!
俺にだってそれくらいの事は分かる。
「殿、上様が岩倉城を落とされました、これで尾張統一が成し遂げられました。
次は我らが今川義元を討ち取り駿河を手に入れる番でございます」
荒子譜代の吉田長蔵はそう言うが、奥村次右衛門の表情が冴えない。
「どうした次右衛門、何か問題があるのか?」
「はい、上様は殿の武勇と財力を恐れておられます。
殿の武功を羨んでおられます、とても危険でございます」
「それは俺も気がついていた。
だが、あまりに酷い扱いをするようなら独り立ちするだけだ。
誰にも頼らず、遠江で自立する、無理だと思うか?」
「いえ、殿にその覚悟があられるのでしたら、何の問題もありません。
上様に不審な所があれば、尾張に行かないようされれば問題ありません。
力を持つ家臣を恐れた主君は、呼び出して騙し討ちするものです」
「呼び出されたら何を置いても尾張に行く、行って百合を助け出して戻って来る!」
「危険ですが、行くなと申しても聞いていただけないのでしょうね?」
「当たり前だ、百合と龍太郎のいない世に何の未練もない。
助け出す為ならこの命を賭ける、分かったな!」
「はい、殿のお覚悟はよく分かりました。
ですが、むざむざと殿を討たせる気はありません。
殿と奥方様、若様を救い出せる布陣を考えましょう」
「どのような布陣を考えている?」
「殿の武勇をもってしても、鉄砲の放つ鉛玉を全て打ち払う事はできません。
尾張から生きて逃げ帰るには、鉄砲足軽よりも早く逃げるしかありません。
元寇の騎馬軍団、三国志で曹操が誇った騎馬隊の虎豹騎。
同じ騎馬隊を創れば、鉄砲足軽どころか、騎馬武者にも追いつかれないでしょう」
「ほう、三国志の曹操は騎馬隊を持っていたのか?」
「はい、どこまで真実かは分かりませんが、騎馬兵だけの虎豹騎があったそうです」
「騎馬隊を創るのは良いが、直ぐにできるのか?」
「本当は、馬を全て大きな南部駒でそろえたいのですが、とても無理です。
銭はあるのですが、南部駒は銭があれば買えるものではありません。
そこで確実に手に入る木曽駒と三河駒を買い集めます。
堺、雑賀、根来からも買えるだけの馬を集めましょう。
5000とは申しませんが、1000はそろえたいです」
「買えるならどれだけ馬を集めても良いが、使いこなせるのか?
馬に乗れる兵を1000も集められるのか?」
「心から信用できる者だけを集めるのは無理ですが、数だけなら集められます。
殿の武名に魅かれて集まる者は雲霞のようにおります、ご安心ください」
「そうか、だったらいい、だが馬だけなのか、船は使わないのか?」
「使います、奥方様がおられる清州城には、木曽川と庄内川から近づけます。
川幅か広く吃水が深いのは木曽川ですが、庄内川でも勢子船なら遡れます。
木曽川も大型の関船で遡る事はできませんが、二〇丁櫓の小早船なら使えます。
船も使って奥方様と若様を助け出せるようにします」
「そうか、急いで勢子船を造らせろ。
いや、勢子船は鯨狩り用に造らせたから十分な数がある。
船は大きければ大きいほど安心できる。
木曾川と庄内川を遡れる最大の船を造らせろ」
「はい、そのように命じます」
奥村次右衛門は本気で心配していたが、俺には実感がなかった。
信長は生まれもっての若君で、上から目線だが、性格は悪くない。
何の罪悪感も無しに家臣を殺せる性格ではない。
今回の事も、俺を殺さなくてもいいようにしているのだろう。
つい腹の中で罵ってしまうし、面と向かうと文句を言ってしまうが、結構気に入っているし、信じてもいる。
親方、中小企業の社長が、優秀な職人の給与に頭を痛めるのは知っている。
給料が多い方がうれしいのは間違いないが、気に食わない親方の下で働くくらいなら、少々給料が安くても職人の気持ちが分かる親方の下で働きたい。
そういう点では、信長は悪い主君ではない。
義祖父殿を取立ててくれているし、身体の弱い義父殿を労わってくれる。
何より、百合が喜びそうな品を選んで俺に渡してくれる。
「次右衛門、殿に言われているのは、駿河を切り取るな、だけだ。
焼き討ちや略奪まで禁じられてはいない。
湊を襲って船を奪う、水軍の出陣準備は整っているか?」
「関船や大型の小早船は、堺との商いで出払っております」
「それは知っている、今川水軍など勢子船のような小舟で十分だ!」
「殿、油断は禁物でございます。
地の上なら天下無双の殿でも、海に落ちては力を発揮できません。
小舟しかいない状態での船戦はお止めください」
「だったら、騎馬隊、と言うよりも虎豹騎の方がかっこいいな。
虎豹騎の鍛錬を兼ねて陸から湊を襲う。
朝駆けするから、刻を合わせて水軍にも湊を襲わせろ。
今川水軍の船だけでなく、漁船も全部奪うのだ」
「承りました、急いで水軍に準備させます」
信長の野郎が身勝手な命令を出しやがった!
しばらくは守りに徹しろと言って、降伏臣従した遠江と三河の国人地侍を尾張に呼び出し、岩倉城攻略に使いやがった!
俺に命じなかったのは、無理をさせないように気を使った訳じゃない。
これ以上武功を立てさせないためだ!
俺にだってそれくらいの事は分かる。
「殿、上様が岩倉城を落とされました、これで尾張統一が成し遂げられました。
次は我らが今川義元を討ち取り駿河を手に入れる番でございます」
荒子譜代の吉田長蔵はそう言うが、奥村次右衛門の表情が冴えない。
「どうした次右衛門、何か問題があるのか?」
「はい、上様は殿の武勇と財力を恐れておられます。
殿の武功を羨んでおられます、とても危険でございます」
「それは俺も気がついていた。
だが、あまりに酷い扱いをするようなら独り立ちするだけだ。
誰にも頼らず、遠江で自立する、無理だと思うか?」
「いえ、殿にその覚悟があられるのでしたら、何の問題もありません。
上様に不審な所があれば、尾張に行かないようされれば問題ありません。
力を持つ家臣を恐れた主君は、呼び出して騙し討ちするものです」
「呼び出されたら何を置いても尾張に行く、行って百合を助け出して戻って来る!」
「危険ですが、行くなと申しても聞いていただけないのでしょうね?」
「当たり前だ、百合と龍太郎のいない世に何の未練もない。
助け出す為ならこの命を賭ける、分かったな!」
「はい、殿のお覚悟はよく分かりました。
ですが、むざむざと殿を討たせる気はありません。
殿と奥方様、若様を救い出せる布陣を考えましょう」
「どのような布陣を考えている?」
「殿の武勇をもってしても、鉄砲の放つ鉛玉を全て打ち払う事はできません。
尾張から生きて逃げ帰るには、鉄砲足軽よりも早く逃げるしかありません。
元寇の騎馬軍団、三国志で曹操が誇った騎馬隊の虎豹騎。
同じ騎馬隊を創れば、鉄砲足軽どころか、騎馬武者にも追いつかれないでしょう」
「ほう、三国志の曹操は騎馬隊を持っていたのか?」
「はい、どこまで真実かは分かりませんが、騎馬兵だけの虎豹騎があったそうです」
「騎馬隊を創るのは良いが、直ぐにできるのか?」
「本当は、馬を全て大きな南部駒でそろえたいのですが、とても無理です。
銭はあるのですが、南部駒は銭があれば買えるものではありません。
そこで確実に手に入る木曽駒と三河駒を買い集めます。
堺、雑賀、根来からも買えるだけの馬を集めましょう。
5000とは申しませんが、1000はそろえたいです」
「買えるならどれだけ馬を集めても良いが、使いこなせるのか?
馬に乗れる兵を1000も集められるのか?」
「心から信用できる者だけを集めるのは無理ですが、数だけなら集められます。
殿の武名に魅かれて集まる者は雲霞のようにおります、ご安心ください」
「そうか、だったらいい、だが馬だけなのか、船は使わないのか?」
「使います、奥方様がおられる清州城には、木曽川と庄内川から近づけます。
川幅か広く吃水が深いのは木曽川ですが、庄内川でも勢子船なら遡れます。
木曽川も大型の関船で遡る事はできませんが、二〇丁櫓の小早船なら使えます。
船も使って奥方様と若様を助け出せるようにします」
「そうか、急いで勢子船を造らせろ。
いや、勢子船は鯨狩り用に造らせたから十分な数がある。
船は大きければ大きいほど安心できる。
木曾川と庄内川を遡れる最大の船を造らせろ」
「はい、そのように命じます」
奥村次右衛門は本気で心配していたが、俺には実感がなかった。
信長は生まれもっての若君で、上から目線だが、性格は悪くない。
何の罪悪感も無しに家臣を殺せる性格ではない。
今回の事も、俺を殺さなくてもいいようにしているのだろう。
つい腹の中で罵ってしまうし、面と向かうと文句を言ってしまうが、結構気に入っているし、信じてもいる。
親方、中小企業の社長が、優秀な職人の給与に頭を痛めるのは知っている。
給料が多い方がうれしいのは間違いないが、気に食わない親方の下で働くくらいなら、少々給料が安くても職人の気持ちが分かる親方の下で働きたい。
そういう点では、信長は悪い主君ではない。
義祖父殿を取立ててくれているし、身体の弱い義父殿を労わってくれる。
何より、百合が喜びそうな品を選んで俺に渡してくれる。
「次右衛門、殿に言われているのは、駿河を切り取るな、だけだ。
焼き討ちや略奪まで禁じられてはいない。
湊を襲って船を奪う、水軍の出陣準備は整っているか?」
「関船や大型の小早船は、堺との商いで出払っております」
「それは知っている、今川水軍など勢子船のような小舟で十分だ!」
「殿、油断は禁物でございます。
地の上なら天下無双の殿でも、海に落ちては力を発揮できません。
小舟しかいない状態での船戦はお止めください」
「だったら、騎馬隊、と言うよりも虎豹騎の方がかっこいいな。
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