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第1章
第38話:下剋上と粛清
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天文18年9月5日:三河渥美郡田原城:前田慶次利益17歳視点
「信長の野郎、俺の家臣にちょっかいだしやがって、絶対に許さん!」
信長の奴、俺の家臣を使い過ぎだ!
1番損害を受ける先陣ばかりやらせやがる!
先駆けを青鬼の三輪青馬がやっても、先陣に被害が多い事に変わりはない!
それと、俺の家臣に受領名を与えるな!
三輪青馬に受領名を与えるのはお前じゃない、俺だ、俺が与えるのだ!
尾張で戦っている三輪青馬たちに受領名を与える信長に抗議した!
織田弾正忠家からの独立も視野に入れて厳重に抗議した!
家臣を引き抜く奴は絶対に許さん!
『何を怒っている、武功を立てた陪臣に領地や扶持を与える訳にはいかないから、名誉だけしかない受領名を与えたのだ。
改めて黒鬼が朝廷に奏上すれば、黒鬼が青鬼に正式な官職与えた事になる。
費えは黒鬼に渡すから、やってやれ。
黒鬼はこういうのが苦手だろうから、百官名を考えてやっただけだ』
信長の野郎、ふざけた事を言いやがって!
俺が抗議しなかったら、そのまま家臣の心を盗む気だっただろう?
更に領地や扶持を与えて、家臣を奪おうと考えているだろう!
「次右衛門、どうするべきだ?」
俺は1番頼りにしている奥村次右衛門に聞いてみた。
「那古野の殿様は、殿の事を警戒されておられます。
遠江はそれほど貫高の多い国ではありませんが、豊かな海に恵まれております。
殿は、その遠江の2割を直轄領とされました。
遠江と三河の国人地侍の半数を寄り子にされました。
家臣の下剋上を恐れる主が、力を削ろうとされるのは当然の事でございます」
「ちっ、よほどの事がなければ謀叛などせん、信じろよ」
「信じて親や子供に殺された守護や国人が数多くおります。
この戦国乱世で、誰かを信じ命を預けられる事は稀でございます」
「……そうだな、三郎様を責めるのは酷だな」
そうだった、信長は筆頭傅役で筆頭家老でもあった林秀貞に謀叛されている。
信じられるはずだった父親が、老齢で惚けてしまい失政を重ねている。
その上に、同母弟に命を狙われたのだ、疑い深くなるもの仕方がない。
そう考えれば、林兄弟を許さずに殺したのも仕方のない事だな。
前田本家が領地を全て取り上げられて追放されたのも当然だ。
俺の事も甲賀忍者に見張らせているし……
「岩崎城の丹羽一族との戦は、青鬼が先駆けとなって勝利したのだな?」
「はい、殿と同じように、大槌で大手門を破壊して攻め滅ぼしました。
丹羽一族は多くの城を持っていましたが、大半は砦程度です。
本格的な城は岩崎城くらいでした」
岩崎城の丹羽氏識と丹羽氏勝親子は林兄弟に味方した。
林兄弟が誅殺されて、味方していた寄り子や同心は信長に許しを請うた。
だが信長は、城地からの退去か名誉の死しか認めなかった。
前田本家は抵抗する事なく城地を明け渡したが、丹羽親子は抵抗した。
岩崎城を中心に藤枝城、藤島城、本郷城、折戸城、浅田城、赤池城に一族一門家臣領民を入れて徹底抗戦した。
今も信長と敵対している美濃のマムシ、織田伊勢守信安、織田大和守信友、坂井大膳などの方が、信長よりも強いと判断したのだ。
俺は前世の信長が三英傑と呼ばれているのを知っている。
細かい事は忘れてしまったが、信長がほぼ天下を手に入れた事は、大河ドラマが戦国時代を取り上げる度に観て来た。
だがこの時代に今生きている者達には、まだ髭も生えそろわない若造だ。
筆頭傅役で筆頭家老でもあった林秀貞に『大うつけと』罵られ、見捨てられる程度の若造でしかないのだ。
信長と林秀貞の両方を知っている俺は、信長の優秀さと林秀貞の不忠無能を知っているが、多くの人は知らない。
だから降伏帰参を認められなかった尾張の国人地侍は、美濃のマムシ、織田伊勢守信安、織田大和守信友、坂井大膳を信じて籠城したのだ。
信長もやり過ぎたと思ったのだろう。
本家の当主や嫡男は許さないが、分家の降伏臣従を認める事にした。
丹羽家で許されたのは、丹羽氏秀などのあまり力のない者だった。
信長は俺と同じ策を取った。
叩き潰した惣領家の領地を1度全て奪ってから、半分だけ恩賞として味方した分家の者達に与えた。
更に力攻めだけでなく、搦手を使って清州城を落とそうとした。
犬山城主の織田信康と守山城主の織田信光に、信長を裏切った振りをさせた。
織田大和守信友の重臣、坂井大膳の誘いに乗ったように見せかけて、清州城に入り込んで織田大和守を暗殺した。
織田信康と織田信光が家臣を率いて清州城内で暴れ回った。
織田大和守が殺された事で、大和守の家臣達は組織だった抵抗ができなかった。
大和守を傀儡にして、好き勝手やっていた坂井大膳が真っ先に逃げ出したから、死んだ大和守のために戦う者がほとんどいなかった。
坂井大膳が大和守を通じて操っていた、尾張守護の斯波義統は信長に保護された。
保護されたというのは言葉を飾っているだけだ。
実際には以前と同じように傀儡にされただけだ。
信長は、清州城から逃げ遅れた敵の家臣を許した。
だが、極少数、有能だが裏切る恐れのある者は許さなかった。
……俺を自由にさせているのは何故だろう?
誰よりも有能で謀叛の恐れがあるのだが……俺の事を無能だと思っているのか?!
「ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン」
鯨だ、鯨も発見を知らせる太鼓だ!
「狩るぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
「信長の野郎、俺の家臣にちょっかいだしやがって、絶対に許さん!」
信長の奴、俺の家臣を使い過ぎだ!
1番損害を受ける先陣ばかりやらせやがる!
先駆けを青鬼の三輪青馬がやっても、先陣に被害が多い事に変わりはない!
それと、俺の家臣に受領名を与えるな!
三輪青馬に受領名を与えるのはお前じゃない、俺だ、俺が与えるのだ!
尾張で戦っている三輪青馬たちに受領名を与える信長に抗議した!
織田弾正忠家からの独立も視野に入れて厳重に抗議した!
家臣を引き抜く奴は絶対に許さん!
『何を怒っている、武功を立てた陪臣に領地や扶持を与える訳にはいかないから、名誉だけしかない受領名を与えたのだ。
改めて黒鬼が朝廷に奏上すれば、黒鬼が青鬼に正式な官職与えた事になる。
費えは黒鬼に渡すから、やってやれ。
黒鬼はこういうのが苦手だろうから、百官名を考えてやっただけだ』
信長の野郎、ふざけた事を言いやがって!
俺が抗議しなかったら、そのまま家臣の心を盗む気だっただろう?
更に領地や扶持を与えて、家臣を奪おうと考えているだろう!
「次右衛門、どうするべきだ?」
俺は1番頼りにしている奥村次右衛門に聞いてみた。
「那古野の殿様は、殿の事を警戒されておられます。
遠江はそれほど貫高の多い国ではありませんが、豊かな海に恵まれております。
殿は、その遠江の2割を直轄領とされました。
遠江と三河の国人地侍の半数を寄り子にされました。
家臣の下剋上を恐れる主が、力を削ろうとされるのは当然の事でございます」
「ちっ、よほどの事がなければ謀叛などせん、信じろよ」
「信じて親や子供に殺された守護や国人が数多くおります。
この戦国乱世で、誰かを信じ命を預けられる事は稀でございます」
「……そうだな、三郎様を責めるのは酷だな」
そうだった、信長は筆頭傅役で筆頭家老でもあった林秀貞に謀叛されている。
信じられるはずだった父親が、老齢で惚けてしまい失政を重ねている。
その上に、同母弟に命を狙われたのだ、疑い深くなるもの仕方がない。
そう考えれば、林兄弟を許さずに殺したのも仕方のない事だな。
前田本家が領地を全て取り上げられて追放されたのも当然だ。
俺の事も甲賀忍者に見張らせているし……
「岩崎城の丹羽一族との戦は、青鬼が先駆けとなって勝利したのだな?」
「はい、殿と同じように、大槌で大手門を破壊して攻め滅ぼしました。
丹羽一族は多くの城を持っていましたが、大半は砦程度です。
本格的な城は岩崎城くらいでした」
岩崎城の丹羽氏識と丹羽氏勝親子は林兄弟に味方した。
林兄弟が誅殺されて、味方していた寄り子や同心は信長に許しを請うた。
だが信長は、城地からの退去か名誉の死しか認めなかった。
前田本家は抵抗する事なく城地を明け渡したが、丹羽親子は抵抗した。
岩崎城を中心に藤枝城、藤島城、本郷城、折戸城、浅田城、赤池城に一族一門家臣領民を入れて徹底抗戦した。
今も信長と敵対している美濃のマムシ、織田伊勢守信安、織田大和守信友、坂井大膳などの方が、信長よりも強いと判断したのだ。
俺は前世の信長が三英傑と呼ばれているのを知っている。
細かい事は忘れてしまったが、信長がほぼ天下を手に入れた事は、大河ドラマが戦国時代を取り上げる度に観て来た。
だがこの時代に今生きている者達には、まだ髭も生えそろわない若造だ。
筆頭傅役で筆頭家老でもあった林秀貞に『大うつけと』罵られ、見捨てられる程度の若造でしかないのだ。
信長と林秀貞の両方を知っている俺は、信長の優秀さと林秀貞の不忠無能を知っているが、多くの人は知らない。
だから降伏帰参を認められなかった尾張の国人地侍は、美濃のマムシ、織田伊勢守信安、織田大和守信友、坂井大膳を信じて籠城したのだ。
信長もやり過ぎたと思ったのだろう。
本家の当主や嫡男は許さないが、分家の降伏臣従を認める事にした。
丹羽家で許されたのは、丹羽氏秀などのあまり力のない者だった。
信長は俺と同じ策を取った。
叩き潰した惣領家の領地を1度全て奪ってから、半分だけ恩賞として味方した分家の者達に与えた。
更に力攻めだけでなく、搦手を使って清州城を落とそうとした。
犬山城主の織田信康と守山城主の織田信光に、信長を裏切った振りをさせた。
織田大和守信友の重臣、坂井大膳の誘いに乗ったように見せかけて、清州城に入り込んで織田大和守を暗殺した。
織田信康と織田信光が家臣を率いて清州城内で暴れ回った。
織田大和守が殺された事で、大和守の家臣達は組織だった抵抗ができなかった。
大和守を傀儡にして、好き勝手やっていた坂井大膳が真っ先に逃げ出したから、死んだ大和守のために戦う者がほとんどいなかった。
坂井大膳が大和守を通じて操っていた、尾張守護の斯波義統は信長に保護された。
保護されたというのは言葉を飾っているだけだ。
実際には以前と同じように傀儡にされただけだ。
信長は、清州城から逃げ遅れた敵の家臣を許した。
だが、極少数、有能だが裏切る恐れのある者は許さなかった。
……俺を自由にさせているのは何故だろう?
誰よりも有能で謀叛の恐れがあるのだが……俺の事を無能だと思っているのか?!
「ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン」
鯨だ、鯨も発見を知らせる太鼓だ!
「狩るぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
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