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第1章
第36話:勇魚
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天文18年8月1日:三河渥美半島田原城:前田慶次利益17歳視点
信長の謀叛人に対する反撃は苛烈だった。
最初に狙われたのは林兄弟の居城、沖村城だった。
林の一族一門だけでなく、家臣領民まで奴隷にされた。
これで信長は、自分に敵対する国人地侍が城砦を持つ、庄内川の尾張側に橋頭堡を確保し、渡河の危険を冒すことなく兵を送れるようになった。
だが、そのために、俺の家臣を先駆けに使うのはどうなのだ?
大手門を破壊するのに、三輪青馬を使っただろう!
俺に渡したのと同じ大槌を、三輪青馬に与えただろう!
俺の家臣を盗む事は絶対に許さんぞ!
そんな事をしたら絶対に許さんからな!
もしそんな事をしたら、勘十郎を担いで謀叛してやるぞ!
いや、勘十郎を担ぐ必要などないな、それは卑怯だ、普通に下剋上してやる!
「ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン……」
「勇魚だ、急げ、鯨船をだせ!」
「「「「「おう!」」」」」
俺は水軍を使って大々的に鯨狩りを始めた。
信長を驚かせてやろうと思っていたのに、猜疑心が強すぎるぞ!
家臣の謀叛を警戒するのは仕方がないが、俺くらい信用しろ!
巨大な鯨を狩って、信長だけでなく、多くの譜代衆の度肝を抜いてやろうと思っていたのに、初物が小さなイルカになってしまった。
獲物の大小にかかわらず、初物は絶対に献上しろなんて言うな!
次こそ大物を狩って驚かせてやる。
そう思って、できるだけ高い井楼を築いて、常に海を見張らせている。
お陰で鯨やイルカを見逃す事は無くなった、今度こそ大物の鯨であってくれ!
などと思っていたのだが、最初はなかなか上手に狩れなかった。
目に見える範囲にいる、多くのイルカを逃がしてしまっていた。
優良な小舟でも、櫂1つの舟ではイルカに追いつけなかった。
8つ以上の櫂で漕ぐ小舟なら、何とかイルカに追いつけると分かった。
4隻以上で横に広がり、海面を叩きつつイルカを追い込むようになった。
追い込む先に大きな網を張るようになった。
初物を含めたイルカの大きさは、50貫から600貫の重さだった。
小さいイルカで40貫文、大きなイルカで480貫文の銭になった。
水軍を維持するには十分な利が得られると分かった。
信長に献上した初物は、1番大きい600貫のイルカだった。
献上した俺が驚くくらい、もの凄く喜んでいた。
信長は珍しいモノが大好きなのだろう。
俺も久しぶりにイルカの竜田揚げを食べられた、もの凄く美味かった!
前世では、俺よりも若い連中は、イルカや鯨を食べるのはかわいそうだと言う。
だが、肉がとても貴重だった頃に小学生だった俺には、鯨肉の竜田揚げやステーキ、おでんに入っていたサエズリやコロは、滅多に食べられないご馳走だった!
誰に陰口を言われる事なく、腹いっぱい鯨肉を食べられるのは最高だ!
自重などなく、鯨肉の美味しい食べ方を広めた。
広める事で、鯨肉の価値、値を上げる事ができるかもしれない。
海を持つ領主なら当然やるべき事だ!
新鮮な状態でイルカや鯨を食べられる地では、表向き禁じられている肉食ができるイルカ肉と鯨肉は、飛ぶように売れた、特に本願寺系の生臭坊主によく売れた。
塩田で作る塩と組み合わせた、塩蔵肉と本皮の塩漬け『おばいけ』を広めた。
ベーコンほどではないが、脂抜きした皮『おばいけ』も美味い!
酢味噌で食べると物凄く美味い!
「大物だぞ、絶対に逃がすな!」
「「「「「おう!」」」」」
イルカを狩って分かったのだが、鰯油よりも鯨油の方が臭くない!
灯火に使うのに、臭過ぎて困る事はない。
それと、食べて美味しいイルカ油と美味しくないイルカ油があった。
イルカにも種類があるのだろうが、不勉強で分からない。
だが、1度美味しいものを食べてしまったら、もう不味い物は食べられない!
特に前世の記憶があり、強烈な思い出があると、耐えられない。
胡椒がないのは我慢できるが、肉が食べられないのは我慢できない!
魚も大好きだが、全く肉無しの生活には戻れない。
武士の相棒である馬を喰うのは、かなり抵抗がある。
百姓が農耕に使う牛を喰うのは、非難の目で見られる。
ウサギや犬、キツネやタヌキは食べたいと思えない。
そもそも獣臭過ぎて美味しくない!
やはり食うなら鯨肉に限る、獣臭くなくて美味しい。
お裾分け、信長に献上すると物凄く喜ばれる。
俺は竜田揚げが1番好きだが、信長は赤味噌で煮たイルカ肉が大好きだ。
「横に付けろ、絶対に逃がすな!」
「「「「「おう!」」」」」
鯨狩り用に造らせた銛を握る。
以前は槍を使っていたようだが、俺のような不勉強な者でも、突き漁は銛でするものだと知っている。
「うりゃあああああ!」
小早船の横を必死で泳ぐ鯨の頭に銛を叩き込む!
渾身の力で、できるだけ奥深くにまで銛を突き入れる!
不必要に苦しめる気はない、できるだけ手早く殺す!
近習が次の銛を手渡す。
間を置く事なく次の一撃を鯨の頭に叩き込む!
絶命するまで休むことなく銛を叩き込み続ける!
俺が狙っている鯨の家族なのだろう、別の鯨が船に体当たりをする。
一方的に虐殺している訳じゃない、俺も命を賭けている!
喰うか食われるか、この世界は弱肉強食だ!
人肉こそ食べないが、相手の命を奪わずに生きて行ける世界じゃない。
敵を喰う、喰らわねば、自分が喰われてしまう!
「何をしている、漕ぎ手以外は銛を持て!
銛がなければ槍、槍がなければ刀で鯨を斬れ!」
「「「「「おう!」」」」」
信長の謀叛人に対する反撃は苛烈だった。
最初に狙われたのは林兄弟の居城、沖村城だった。
林の一族一門だけでなく、家臣領民まで奴隷にされた。
これで信長は、自分に敵対する国人地侍が城砦を持つ、庄内川の尾張側に橋頭堡を確保し、渡河の危険を冒すことなく兵を送れるようになった。
だが、そのために、俺の家臣を先駆けに使うのはどうなのだ?
大手門を破壊するのに、三輪青馬を使っただろう!
俺に渡したのと同じ大槌を、三輪青馬に与えただろう!
俺の家臣を盗む事は絶対に許さんぞ!
そんな事をしたら絶対に許さんからな!
もしそんな事をしたら、勘十郎を担いで謀叛してやるぞ!
いや、勘十郎を担ぐ必要などないな、それは卑怯だ、普通に下剋上してやる!
「ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン……」
「勇魚だ、急げ、鯨船をだせ!」
「「「「「おう!」」」」」
俺は水軍を使って大々的に鯨狩りを始めた。
信長を驚かせてやろうと思っていたのに、猜疑心が強すぎるぞ!
家臣の謀叛を警戒するのは仕方がないが、俺くらい信用しろ!
巨大な鯨を狩って、信長だけでなく、多くの譜代衆の度肝を抜いてやろうと思っていたのに、初物が小さなイルカになってしまった。
獲物の大小にかかわらず、初物は絶対に献上しろなんて言うな!
次こそ大物を狩って驚かせてやる。
そう思って、できるだけ高い井楼を築いて、常に海を見張らせている。
お陰で鯨やイルカを見逃す事は無くなった、今度こそ大物の鯨であってくれ!
などと思っていたのだが、最初はなかなか上手に狩れなかった。
目に見える範囲にいる、多くのイルカを逃がしてしまっていた。
優良な小舟でも、櫂1つの舟ではイルカに追いつけなかった。
8つ以上の櫂で漕ぐ小舟なら、何とかイルカに追いつけると分かった。
4隻以上で横に広がり、海面を叩きつつイルカを追い込むようになった。
追い込む先に大きな網を張るようになった。
初物を含めたイルカの大きさは、50貫から600貫の重さだった。
小さいイルカで40貫文、大きなイルカで480貫文の銭になった。
水軍を維持するには十分な利が得られると分かった。
信長に献上した初物は、1番大きい600貫のイルカだった。
献上した俺が驚くくらい、もの凄く喜んでいた。
信長は珍しいモノが大好きなのだろう。
俺も久しぶりにイルカの竜田揚げを食べられた、もの凄く美味かった!
前世では、俺よりも若い連中は、イルカや鯨を食べるのはかわいそうだと言う。
だが、肉がとても貴重だった頃に小学生だった俺には、鯨肉の竜田揚げやステーキ、おでんに入っていたサエズリやコロは、滅多に食べられないご馳走だった!
誰に陰口を言われる事なく、腹いっぱい鯨肉を食べられるのは最高だ!
自重などなく、鯨肉の美味しい食べ方を広めた。
広める事で、鯨肉の価値、値を上げる事ができるかもしれない。
海を持つ領主なら当然やるべき事だ!
新鮮な状態でイルカや鯨を食べられる地では、表向き禁じられている肉食ができるイルカ肉と鯨肉は、飛ぶように売れた、特に本願寺系の生臭坊主によく売れた。
塩田で作る塩と組み合わせた、塩蔵肉と本皮の塩漬け『おばいけ』を広めた。
ベーコンほどではないが、脂抜きした皮『おばいけ』も美味い!
酢味噌で食べると物凄く美味い!
「大物だぞ、絶対に逃がすな!」
「「「「「おう!」」」」」
イルカを狩って分かったのだが、鰯油よりも鯨油の方が臭くない!
灯火に使うのに、臭過ぎて困る事はない。
それと、食べて美味しいイルカ油と美味しくないイルカ油があった。
イルカにも種類があるのだろうが、不勉強で分からない。
だが、1度美味しいものを食べてしまったら、もう不味い物は食べられない!
特に前世の記憶があり、強烈な思い出があると、耐えられない。
胡椒がないのは我慢できるが、肉が食べられないのは我慢できない!
魚も大好きだが、全く肉無しの生活には戻れない。
武士の相棒である馬を喰うのは、かなり抵抗がある。
百姓が農耕に使う牛を喰うのは、非難の目で見られる。
ウサギや犬、キツネやタヌキは食べたいと思えない。
そもそも獣臭過ぎて美味しくない!
やはり食うなら鯨肉に限る、獣臭くなくて美味しい。
お裾分け、信長に献上すると物凄く喜ばれる。
俺は竜田揚げが1番好きだが、信長は赤味噌で煮たイルカ肉が大好きだ。
「横に付けろ、絶対に逃がすな!」
「「「「「おう!」」」」」
鯨狩り用に造らせた銛を握る。
以前は槍を使っていたようだが、俺のような不勉強な者でも、突き漁は銛でするものだと知っている。
「うりゃあああああ!」
小早船の横を必死で泳ぐ鯨の頭に銛を叩き込む!
渾身の力で、できるだけ奥深くにまで銛を突き入れる!
不必要に苦しめる気はない、できるだけ手早く殺す!
近習が次の銛を手渡す。
間を置く事なく次の一撃を鯨の頭に叩き込む!
絶命するまで休むことなく銛を叩き込み続ける!
俺が狙っている鯨の家族なのだろう、別の鯨が船に体当たりをする。
一方的に虐殺している訳じゃない、俺も命を賭けている!
喰うか食われるか、この世界は弱肉強食だ!
人肉こそ食べないが、相手の命を奪わずに生きて行ける世界じゃない。
敵を喰う、喰らわねば、自分が喰われてしまう!
「何をしている、漕ぎ手以外は銛を持て!
銛がなければ槍、槍がなければ刀で鯨を斬れ!」
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