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第1章

第30話:プレハブ工法

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天文17年9月2日:三河渥美半島田原城:前田左衛門尉利益16歳視点

 直ぐにカッとしてしまい、ケンカしてしまうのは前世から治らない病気だ。
 今回も信長と言い争いになってしまった。
 売り言葉に買い言葉で、とんでもない事を約束してしまった。

 具足や兜を黒にするのは普通の事なので、それほど負担はない。
 だが、具足や兜を青に統一するのは銭がかかると、平手政秀が言っていた。
 姉崎勘右衛門と金岩与次にどれだけ銭がかかるか調べさせる事にした。

 鎧兜の色を統一するのは直ぐでなくてもいい。
 それに、青は難しいが、黒なら直ぐにできる。
 旗指物と母衣を黒で染めて、白で家紋を浮き上がらせればいい。

 そんな事よりは、自分の城地にする場所を切り取る方が先だ。
 これまで落とした安祥城の周りの城は、海沿いではないので湊がない。
 俺が欲しい城地は、湊がある場所だ。

 湊の有る城を落として手に入れ、安祥城の周りの城は信長に渡す。
 織田家で一番の海賊になって、いずれは海外に討って出る!
 そのためには、今川の水軍に打ち勝たないといけない。

 その為の準備はコツコツとやってきた。
 大河ドラマと時代劇くらいしか歴史の知識はないが、豊臣秀吉が墨俣に一夜で城を築いた話くらいは覚えている。

 そのためには、事前に造った部品を現場で組み立てる、プレハブ工法が必要だ。
 就職してから定年退職までの47年間、ベアリングを中心に色んな物を削った。
 工作機械の精度がどれほど大切なのかは身に染みて分かっている。

 だから、現場で早く確実に組み立てられる精度で、城の部材を造らせた。
 石造りや漆喰を使った、天守閣や矢倉など必要ない、木製の陣小屋でいい。
 木製の城壁や塀、馬防柵や逆茂木が直ぐに組み立てられればいい。

 城の部品さえできれば良いわけではない。
 組み立てる足軽達が役目に慣れていなければ素早く造れない。
 そこで安全な大浜で何度もプレハブ城を組み立てる練習をさせた。

 武将や足軽をたくさん召し抱えたので、組み立て練習させながら城攻めも行った。
 一夜城など不要の、既存の城さえ落とせばいい場所を落としていった。

 前から欲しかった、鳥羽川坂城と寺部城、形原城と竹谷城、蒲形城と不相城、八月城と佐脇城、伊奈城と吉田城、二連木城と赤岩城を落として手に入れた。

 奪った城の守りは偵察能力に優れた甲賀衆に任せた。
 500貫文を扶持する甲賀衆には、陪臣だけでも70人もいる。
 城代にして湊まで任せるには丁度よかった。

 湊には、敵が大軍を派遣してきたら直ぐに逃げられるように、優良な小舟と馬を常駐させて、少数精鋭の甲賀衆に守らせた。

 奪った城は全て海岸線に近い場所にあり、助け合える近さに並んでいる。
 連携を強化して、非常時には助け合えるようにした。
 船大工は武力で脅して、これまで手に入れられなかった関船を造らせる。

「渥美半島は荒子前田家が治める。
 今川義元が3万の大軍で攻め寄せてきても跳ね返せるように、城砦群を築く。
 残る中瀬古城と田原城を落として渥美半島を手中に収めるぞ!」

「「「「「おう!」」」」」

 俺の目標は最初から渥美半島だった。
 織田家の代表的な水軍といえば、知多半島の佐治水軍だ。
 大浜一帯だけで、佐治水軍を越える大水軍を創るのは難しい。

 何より大浜一帯は知多半島に覆われるような場所にある。
 今は味方だが、何時誰が敵に回るか分からないのが戦国の世だ。
 いや、味方でも目障りなら足を引っ張り潰すのが戦国の世だ!

 渥美半島を手に入れられたら、大浜のような地理的不利がなくなる。
 三河湾側と遠州灘側の両方に湊と持つ事ができる。
 何より大型の船を建造するのに必要な材木を手に入れられる!

「我こそは大浜城城主、黒鬼前田左衛門尉利益なり!
 命の惜しい者は、今直ぐ城門を空けて逃げよ、見逃してやる。
 逃げない者は降伏の意思なしとみて問答無用で叩き殺す!」

「我こそは戸田家にその人ありと言われた戸田弾正左衛門尉堯光なり!
 城に籠っての戦いは望まん、野戦での決戦を望む。
 今直ぐ兵を纏めて城外に出る、しばし待たれよ」

「その覚悟は潔し、城を出た所を討つような卑怯な真似はせん。
 女子供は見逃してやる、先に城から落とされよ。
 別れの刻を与える、ゆっくりとなされよ」

 俺の言葉を信じた戸田弾正左衛門尉は、城から女子供を逃がした。
 護衛の兵が少し多かったが、武装した農民や野伏が落ち武者狩りをするのがの戦国乱世だ、女子供だけ逃がす訳には行かないだろう。

「若、あの中に戸田弾正左衛門がいるかもしれません」

 逃げる女子供を見た奥村次右衛門が諫言してくれる。

「俺を恐れて逃げるのなら、それはそれでかまわん。
 見捨てられた者達を家臣に加えやすくなる。
 城を取ったは良いが、守る兵がいないのでは困るからな」

「若がそう言われるなら、調べずに行かしましょう」

 少し待っただけで、戸田弾正左衛門尉が兵を率いて城から出て来た。
 奥村次右衛門が心配していたような卑怯者ではなかったようだ。

「女子供を見逃してくれた事、心から感謝する。
 厚かましいが、もう1つ願いを聞いてもらいたい」

「なんだ?」

「私との一騎打ちで勝敗を決してもらいたい。
 私が勝っても負けても城は明け渡す。
 その代わり、家臣達の命は助けてやって欲しい」

「「「「「殿!」」」」」

「分かった、逃げたい者は逃がしてやる。
 俺に仕えたいという者は召し抱えてやる。
 ただし、俺にも1つだけ条件がある」

「なんだ?」

「俺が弾正左衛門尉殿を生け捕りにしたら、家臣になってもらう。
 それでも良いのなら、勝敗に関係なく家臣の命は助ける」

「よかろう、勝負だ!」
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