26 / 58
第1章
第26話:周産期の心配
しおりを挟む
天文17年7月27日:那古野城:前田慶次16歳視点
信長には、本宿に援軍をすると約束したが、俺はやらない。
家臣に水軍を任せて、近くの湊を襲わせるだけだ。
愛する百合が命懸けの出産をするのに、手伝い戦などできるか!
それに、今川義元とは人質の身代金を交渉している途中だ。
義元の軍師である太原雪斎と腹心の朝比奈泰能を捕らえている。
冷酷非情と評判の今川義元だが、今回は人質を見捨てられない。
2人を始めとした多くの重臣を見殺しにしたら、家臣の信頼を失う。
そう義祖父殿と奥村次右衛門が言っていた。
2人揃って言うのだから間違いない。
時間をかけて交渉している間に、これまで以上の足軽を集める。
小豆坂の合戦でも武名を挙げたので、いくらでも足軽が集まる。
足軽だけでなく、馬を自前で持っている騎馬武者も徒士武者も集まった。
そんな武者や足軽を使って、毎日漁をやらせた。
舟に乗っても酔わないように、揺れる舟の上でも戦えるように、舟に慣れさせた。
「おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ」
子供が生まれた!
俺と百合の初めての子、龍千代が生まれた!
この子が安心して暮らせるように、敵は全て殺す!
太原雪斎と朝比奈泰能を人質として止め置く事で、合戦が始まらないようにする。
そう考えて2人に3000貫文ずつ、他の人質も10貫文から500貫文もの高額な身代金にした。
義祖父だけでなく、荒子譜代衆にも相談して、かなり高い値段にした。
なのに、今川義元が全額払うと言ってきた!
今更値段を釣り上げるのは恥なので、しかたなく銭と人質を交換した。
織田家が支配している安祥城と松平家が支配している岡崎城の間、矢作川の所にまで人質を連れて行って銭と交換した。
俺は9000貫文もの大金を手に入れた。
だが、その分、本宿城の安全を失ってしまった。
だから、再度家臣に三河の湊を襲わせた。
以前襲った鳥羽川の湊から三谷の湊までを、もう一度襲わせた。
もう奪う船や網はないが、敵の面目を潰す事はできる。
これで三河の有力な今川方国人、鵜殿家を本宿攻略に使えなくなる。
更に東にある八月家、佐脇家、本多家、岩瀬家の小さな湊を襲わせた。
俺が先駆けをできないのに、家臣に無理はさせられない。
実際に上陸しなくてもいい、沖合に現れて敵を引き付けてくれれば十分だ。
何時上陸して襲ってくるか分からないとなると、領地を離れる事はできない。
今川義元も松平広忠も、国人地侍に本宿を襲えとは言えない。
むしろ援軍を送らないといけなくなった。
襲われている味方の国人地侍に援軍を送らないと、忠誠心を失ってしまう。
頼りない、当てにならない主だと思われてしまう。
水軍衆は毎日出陣して、牛久保六騎と呼ばれる牧野家の寄騎、岩瀬、野瀬、真木、山本、稲垣、牧を海岸線に引き付けて消耗させてくれた。
水軍衆は更に足を延ばして渥美半島も襲ってくれた。
危険な城攻めなどは行わず、漁師村の有る浜に上陸して小舟を奪ってくれた。
今川方の国人地侍が陸を右往左往していたそうだ。
「旦那様、私の事は大丈夫でございます、どうか出陣されてください」
「いや、子供を生んでしばらくは危ないと聞いている。
何かあってはいけない、何ができる訳でもないが、手を握って励ます事くらいはできる、だから絶対に側を離れない」
「本当に大丈夫でございます、安心されてください。
荒子の義母様も来てくださっています。
女中の数も以前の十数倍になっています、何の心配もありません」
「何の心配もないわけがない、現に俺が心配でたまらない」
「私の事を想い、心配してくださってありがとうございます。
旦那様のような優しい殿方と結ばれた私は幸せです。
殿様に頼んで蜀江錦を手に入れてくださった事も、うれしく思っています。
だからこそ、私の所為で旦那様の武名に傷がつく事が怖いのです。
女房を優先して戦に出なかった、などと言う悪評を立てさせられません」
「それは悪評ではない、俺が百合を心から愛している証拠だ。
誰が罵りに使おうと、俺には誉め言葉でしかない」
「旦那様……そこまで想ってくださるのはとてもうれしいです。
ですが、私にも妻としての誇りがあります。
旦那様を尻に敷く悪妻と呼ばれるのは絶対に嫌です。
旦那様を戦に行かさず、小間使いのように使うと言われるのは嫌です。
どうか御願いします、私が悪く言われないように、戦に行ってください」
「百合の悪口を言う奴は絶対に許さん、俺が叩き殺してやる!」
「旦那様、他人が悪口を言うだけではありません。
私自身が自分を許せなくなってしまいます。
どうか御願いです、私の事を本当に愛しておられるのでしたら、側にいるよりも戦に出てください、お願い致します」
「百合がそこまで言うのなら出陣はする、出陣はするが、遠くには行かん。
その日のうちに戻って来られる場所にしか行かん」
「それで殿様と約束された本宿の援軍ができるのですか?
旦那様の武名に傷をつけずに済ませられるのですか?」
「大丈夫だ、城の3つ4つ落としてやれば、今川も松平も本宿になど構っていられなくなる、安心しろ」
「旦那様が約束してくださるのなら安心でございます」
「俺は百合との約束は絶対に破らない、だから安心していろ」
「はい、安心して待たせていただきます。
何か食べたい物はございますか?
旦那様の出陣祝いに料理を作らせていただきます。
勝利を祝う料理を作ってお待ちしております」
「駄目だ、産後の百合に料理などさせられない、絶対に駄目だ!」
「分かりました、私は作りません、誰か他の者に作らせます。
だから、何が食べたいのか言ってください」
「そうだな、だったら、以前教えた小田巻き蒸しを作れるようにしておいてくれ。
卵をたくさん用意させておく、百合も一緒に食べよう」
「はい、旦那様が作ってくださって大好きになりました。
明日お帰りになられたら一緒に食べましょう」
信長には、本宿に援軍をすると約束したが、俺はやらない。
家臣に水軍を任せて、近くの湊を襲わせるだけだ。
愛する百合が命懸けの出産をするのに、手伝い戦などできるか!
それに、今川義元とは人質の身代金を交渉している途中だ。
義元の軍師である太原雪斎と腹心の朝比奈泰能を捕らえている。
冷酷非情と評判の今川義元だが、今回は人質を見捨てられない。
2人を始めとした多くの重臣を見殺しにしたら、家臣の信頼を失う。
そう義祖父殿と奥村次右衛門が言っていた。
2人揃って言うのだから間違いない。
時間をかけて交渉している間に、これまで以上の足軽を集める。
小豆坂の合戦でも武名を挙げたので、いくらでも足軽が集まる。
足軽だけでなく、馬を自前で持っている騎馬武者も徒士武者も集まった。
そんな武者や足軽を使って、毎日漁をやらせた。
舟に乗っても酔わないように、揺れる舟の上でも戦えるように、舟に慣れさせた。
「おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ」
子供が生まれた!
俺と百合の初めての子、龍千代が生まれた!
この子が安心して暮らせるように、敵は全て殺す!
太原雪斎と朝比奈泰能を人質として止め置く事で、合戦が始まらないようにする。
そう考えて2人に3000貫文ずつ、他の人質も10貫文から500貫文もの高額な身代金にした。
義祖父だけでなく、荒子譜代衆にも相談して、かなり高い値段にした。
なのに、今川義元が全額払うと言ってきた!
今更値段を釣り上げるのは恥なので、しかたなく銭と人質を交換した。
織田家が支配している安祥城と松平家が支配している岡崎城の間、矢作川の所にまで人質を連れて行って銭と交換した。
俺は9000貫文もの大金を手に入れた。
だが、その分、本宿城の安全を失ってしまった。
だから、再度家臣に三河の湊を襲わせた。
以前襲った鳥羽川の湊から三谷の湊までを、もう一度襲わせた。
もう奪う船や網はないが、敵の面目を潰す事はできる。
これで三河の有力な今川方国人、鵜殿家を本宿攻略に使えなくなる。
更に東にある八月家、佐脇家、本多家、岩瀬家の小さな湊を襲わせた。
俺が先駆けをできないのに、家臣に無理はさせられない。
実際に上陸しなくてもいい、沖合に現れて敵を引き付けてくれれば十分だ。
何時上陸して襲ってくるか分からないとなると、領地を離れる事はできない。
今川義元も松平広忠も、国人地侍に本宿を襲えとは言えない。
むしろ援軍を送らないといけなくなった。
襲われている味方の国人地侍に援軍を送らないと、忠誠心を失ってしまう。
頼りない、当てにならない主だと思われてしまう。
水軍衆は毎日出陣して、牛久保六騎と呼ばれる牧野家の寄騎、岩瀬、野瀬、真木、山本、稲垣、牧を海岸線に引き付けて消耗させてくれた。
水軍衆は更に足を延ばして渥美半島も襲ってくれた。
危険な城攻めなどは行わず、漁師村の有る浜に上陸して小舟を奪ってくれた。
今川方の国人地侍が陸を右往左往していたそうだ。
「旦那様、私の事は大丈夫でございます、どうか出陣されてください」
「いや、子供を生んでしばらくは危ないと聞いている。
何かあってはいけない、何ができる訳でもないが、手を握って励ます事くらいはできる、だから絶対に側を離れない」
「本当に大丈夫でございます、安心されてください。
荒子の義母様も来てくださっています。
女中の数も以前の十数倍になっています、何の心配もありません」
「何の心配もないわけがない、現に俺が心配でたまらない」
「私の事を想い、心配してくださってありがとうございます。
旦那様のような優しい殿方と結ばれた私は幸せです。
殿様に頼んで蜀江錦を手に入れてくださった事も、うれしく思っています。
だからこそ、私の所為で旦那様の武名に傷がつく事が怖いのです。
女房を優先して戦に出なかった、などと言う悪評を立てさせられません」
「それは悪評ではない、俺が百合を心から愛している証拠だ。
誰が罵りに使おうと、俺には誉め言葉でしかない」
「旦那様……そこまで想ってくださるのはとてもうれしいです。
ですが、私にも妻としての誇りがあります。
旦那様を尻に敷く悪妻と呼ばれるのは絶対に嫌です。
旦那様を戦に行かさず、小間使いのように使うと言われるのは嫌です。
どうか御願いします、私が悪く言われないように、戦に行ってください」
「百合の悪口を言う奴は絶対に許さん、俺が叩き殺してやる!」
「旦那様、他人が悪口を言うだけではありません。
私自身が自分を許せなくなってしまいます。
どうか御願いです、私の事を本当に愛しておられるのでしたら、側にいるよりも戦に出てください、お願い致します」
「百合がそこまで言うのなら出陣はする、出陣はするが、遠くには行かん。
その日のうちに戻って来られる場所にしか行かん」
「それで殿様と約束された本宿の援軍ができるのですか?
旦那様の武名に傷をつけずに済ませられるのですか?」
「大丈夫だ、城の3つ4つ落としてやれば、今川も松平も本宿になど構っていられなくなる、安心しろ」
「旦那様が約束してくださるのなら安心でございます」
「俺は百合との約束は絶対に破らない、だから安心していろ」
「はい、安心して待たせていただきます。
何か食べたい物はございますか?
旦那様の出陣祝いに料理を作らせていただきます。
勝利を祝う料理を作ってお待ちしております」
「駄目だ、産後の百合に料理などさせられない、絶対に駄目だ!」
「分かりました、私は作りません、誰か他の者に作らせます。
だから、何が食べたいのか言ってください」
「そうだな、だったら、以前教えた小田巻き蒸しを作れるようにしておいてくれ。
卵をたくさん用意させておく、百合も一緒に食べよう」
「はい、旦那様が作ってくださって大好きになりました。
明日お帰りになられたら一緒に食べましょう」
42
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる