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第1章
第19話:追憶と愛情
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天文16年10月21日:尾張那古野城:前田慶次15歳視点
「旦那様、それからどうなったのですか?」
愛しい百合が興味深そうに聞く。
内政の事がそんなに面白いのだろうか?
合戦の話ならいくらでもできるが、内政の話は得意じゃない。
前世では、高校を卒業してから定年まで、ずっとベアリングを削っていた。
転生したからといって、領地を治める知識など全く無い。
知っている事といえば、テレビで観たおぼろげな事ばかりだ。
だからこそ、逆行転生したと分かってからは身体を鍛えまくった。
甲賀生まれの忍者として一旗揚げるために、織田信長に仕えられる道を探した。
信長が無理なら、豊臣秀吉でも良いと思っていた。
荒子前田家から婿入りの話が来て、初めて自分が前田慶次だと分かった。
親が高安を名乗っていたから、全く想像もしていなかった!
花の慶次が大好きで、原作まで読むくらい大好きだったから歓喜した。
まあ、その反動で前田利家が大嫌いだった!
兄を押しのけて家を奪う前田利家が、だい、だい、だい、大嫌いだった!
荒子前田家に婿入りしてよく分かった、上3人と下3人の母親が違うのだ。
「旦那様、聞いておられますか?」
「ああ、聞いているとも、高浜で綿花を育てる話だろう?」
「それだけではありません、塩田も造るのですよね?」
「ああ、今家臣達が全国に飛んで調べてくれている」
情けない話だが、塩田を完全に再現するだけの知識がない。
忠臣蔵で詳しくやっていたが、うろ覚えだ。
だから甲賀衆を全国に派遣して、最新の塩田を調べさせている。
綿花も、農業とは全くかかわりなく生まれ育ったから、テレビで観て覚えている程度の知識しかないし、覚えている事が正しいかどうかも分からない。
運が良いのか悪いのか、三河で木綿が育てられていた。
古くから大浜に住んでいる領民が、綿花の作り方を知っていた。
その者に任せて木綿を育てる事になった。
夜ケ浦と油ケ淵に挟まれた細長い大浜は、塩気の多い土地で稲作に適さない。
これまでは漁と細々とした耕作しかできなかったそうだ。
だがその領民が言うには、昔は木綿を育てていたそうだ。
「木綿の種が手に入ったら良いですね」
「ああ、そうだな、甲賀衆ならどんな手段を使っても手に入れてくれるだろう」
どのような手段を使ってでも手に入れろと命じたから、盗んででも手に入れてくるだろう、大丈夫、必ず手に入る。
「木綿が育てられたら、少しは安心して旦那様の出陣を見送れます」
百合がうれしい事を言ってくれる!
甲冑や具足を丈夫に造るのにも、甲冑の下に着る衣服を作るにしても、麻や葛を使った物は弱く、木綿を使った物は丈夫だ。
ほんの僅かな違いでしかないが、その違いが生死を分ける事もある。
愛する百合が俺の事を心配してくれるのがうれしい!
「奥方様、旦那様が持って来てくださった魚が煮えました」
「まあ、今日は何を持って来てくださったのかしら?
旦那様が毎日届けてくださる魚を楽しみにしているのです」
「さあ、なんだろう、たくさん持って来たから、何を出してくれるか分からん」
愛する百合に美味しい魚介類を食べてもらいたくて、信長を始めとした織田家の連中に売る分によりも良い物を送っている。
今日は大浜城を空けても大丈夫な日だから、自分で多くの魚を持参した。
ブリの幼魚である若魚子、ブリの手前くらいのイナダ、スズキ、少し小さなカンパチ、同じく少し小さなサワラ、サバ、アオリイカ、カザミ、イセエビを持って来た。
「旦那様、奥方様の大好きなサバを味噌煮にしてみました」
料理を担当する女中が言う。
「そうか、それは楽しみだ、腹も空いているから飯も一緒に頼む」
「御酒は宜しいのですか?」
「ああ、酒よりも飯の方が良い」
「分かりました、直ぐに用意いたします」
味噌煮、これだけは愛する百合と好みが合わない。
俺の家では西京味噌を使った甘い味だった。
だが荒子前田家では、いや、尾張では赤味噌を使う塩辛い味だ。
飯を食うのなら我慢できるが、酒の肴にはできない。
かと言って、愛する百合に嫌いな味付けで喰えとは言えない。
「そうだ、飯の後で酒を楽しもう。
イセエビとカザミは蒸してくれ、イナダは腹の所を塩焼きにしてくれ」
「は~い、サバと飯の後でお持ちさせていただきます」
台所の方から女中が返事した。
「旦那様、しばらく合戦はないのでしょうか?
旦那様なら大丈夫と信じてはいますが、心配なのです」
女中が台所に戻ると、また百合が俺の身を案じてくれる。
愛おし過ぎてこの場で抱きしめたくなるが、まだ駄目だ、我慢我慢。
「どうだろうな、三郎様はともかく、大殿がどう考えられるかだ。
梅坪城の勝利で、井ノ口で負けた恥を雪げたと考えられたらいいが、まだまだもっと勝たなければならないと思われたら、戦を仕掛けられるかもしれない。
三郎様や大殿に戦をする気がなかったとしても、今川や斉藤が攻め込んで来たら戦うしかない」
織田信秀が惚けている事は、愛する百合には話せない。
それでなくても俺の事を心配してくれているのに、これ以上不安の種を蒔く訳には行かない!
「戦では無理をされないでくださいね!
旦那様の武勇で荒子前田家は陪臣から直臣になれました。
それも城持ちの大身城主です、これ以上の立身出世など望みません。
ただただ旦那様の無事を祈るだけでございます。
お腹の子の為にも、命を大事にされてください!」
「こども、子供ができたのか?!」
「はい!」
「旦那様、それからどうなったのですか?」
愛しい百合が興味深そうに聞く。
内政の事がそんなに面白いのだろうか?
合戦の話ならいくらでもできるが、内政の話は得意じゃない。
前世では、高校を卒業してから定年まで、ずっとベアリングを削っていた。
転生したからといって、領地を治める知識など全く無い。
知っている事といえば、テレビで観たおぼろげな事ばかりだ。
だからこそ、逆行転生したと分かってからは身体を鍛えまくった。
甲賀生まれの忍者として一旗揚げるために、織田信長に仕えられる道を探した。
信長が無理なら、豊臣秀吉でも良いと思っていた。
荒子前田家から婿入りの話が来て、初めて自分が前田慶次だと分かった。
親が高安を名乗っていたから、全く想像もしていなかった!
花の慶次が大好きで、原作まで読むくらい大好きだったから歓喜した。
まあ、その反動で前田利家が大嫌いだった!
兄を押しのけて家を奪う前田利家が、だい、だい、だい、大嫌いだった!
荒子前田家に婿入りしてよく分かった、上3人と下3人の母親が違うのだ。
「旦那様、聞いておられますか?」
「ああ、聞いているとも、高浜で綿花を育てる話だろう?」
「それだけではありません、塩田も造るのですよね?」
「ああ、今家臣達が全国に飛んで調べてくれている」
情けない話だが、塩田を完全に再現するだけの知識がない。
忠臣蔵で詳しくやっていたが、うろ覚えだ。
だから甲賀衆を全国に派遣して、最新の塩田を調べさせている。
綿花も、農業とは全くかかわりなく生まれ育ったから、テレビで観て覚えている程度の知識しかないし、覚えている事が正しいかどうかも分からない。
運が良いのか悪いのか、三河で木綿が育てられていた。
古くから大浜に住んでいる領民が、綿花の作り方を知っていた。
その者に任せて木綿を育てる事になった。
夜ケ浦と油ケ淵に挟まれた細長い大浜は、塩気の多い土地で稲作に適さない。
これまでは漁と細々とした耕作しかできなかったそうだ。
だがその領民が言うには、昔は木綿を育てていたそうだ。
「木綿の種が手に入ったら良いですね」
「ああ、そうだな、甲賀衆ならどんな手段を使っても手に入れてくれるだろう」
どのような手段を使ってでも手に入れろと命じたから、盗んででも手に入れてくるだろう、大丈夫、必ず手に入る。
「木綿が育てられたら、少しは安心して旦那様の出陣を見送れます」
百合がうれしい事を言ってくれる!
甲冑や具足を丈夫に造るのにも、甲冑の下に着る衣服を作るにしても、麻や葛を使った物は弱く、木綿を使った物は丈夫だ。
ほんの僅かな違いでしかないが、その違いが生死を分ける事もある。
愛する百合が俺の事を心配してくれるのがうれしい!
「奥方様、旦那様が持って来てくださった魚が煮えました」
「まあ、今日は何を持って来てくださったのかしら?
旦那様が毎日届けてくださる魚を楽しみにしているのです」
「さあ、なんだろう、たくさん持って来たから、何を出してくれるか分からん」
愛する百合に美味しい魚介類を食べてもらいたくて、信長を始めとした織田家の連中に売る分によりも良い物を送っている。
今日は大浜城を空けても大丈夫な日だから、自分で多くの魚を持参した。
ブリの幼魚である若魚子、ブリの手前くらいのイナダ、スズキ、少し小さなカンパチ、同じく少し小さなサワラ、サバ、アオリイカ、カザミ、イセエビを持って来た。
「旦那様、奥方様の大好きなサバを味噌煮にしてみました」
料理を担当する女中が言う。
「そうか、それは楽しみだ、腹も空いているから飯も一緒に頼む」
「御酒は宜しいのですか?」
「ああ、酒よりも飯の方が良い」
「分かりました、直ぐに用意いたします」
味噌煮、これだけは愛する百合と好みが合わない。
俺の家では西京味噌を使った甘い味だった。
だが荒子前田家では、いや、尾張では赤味噌を使う塩辛い味だ。
飯を食うのなら我慢できるが、酒の肴にはできない。
かと言って、愛する百合に嫌いな味付けで喰えとは言えない。
「そうだ、飯の後で酒を楽しもう。
イセエビとカザミは蒸してくれ、イナダは腹の所を塩焼きにしてくれ」
「は~い、サバと飯の後でお持ちさせていただきます」
台所の方から女中が返事した。
「旦那様、しばらく合戦はないのでしょうか?
旦那様なら大丈夫と信じてはいますが、心配なのです」
女中が台所に戻ると、また百合が俺の身を案じてくれる。
愛おし過ぎてこの場で抱きしめたくなるが、まだ駄目だ、我慢我慢。
「どうだろうな、三郎様はともかく、大殿がどう考えられるかだ。
梅坪城の勝利で、井ノ口で負けた恥を雪げたと考えられたらいいが、まだまだもっと勝たなければならないと思われたら、戦を仕掛けられるかもしれない。
三郎様や大殿に戦をする気がなかったとしても、今川や斉藤が攻め込んで来たら戦うしかない」
織田信秀が惚けている事は、愛する百合には話せない。
それでなくても俺の事を心配してくれているのに、これ以上不安の種を蒔く訳には行かない!
「戦では無理をされないでくださいね!
旦那様の武勇で荒子前田家は陪臣から直臣になれました。
それも城持ちの大身城主です、これ以上の立身出世など望みません。
ただただ旦那様の無事を祈るだけでございます。
お腹の子の為にも、命を大事にされてください!」
「こども、子供ができたのか?!」
「はい!」
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