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第1章
第15話:領主城主
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天文16年2月25日:尾張那古野城:織田信長14歳視点
「なんだと、福釜城を奪い取っただと?!」
黒鬼からの伝令、奥村次右衛門が福釜城を手に入れたと言う。
あれだけの兵力で敵の城を奪い取るなど、普通は考えられない。
黒鬼は天下無双の豪傑だが、知略に長けた武将ではない。
「どのようにやった、詳しく話せ!」
「は、実は」
詳しく話を聞くと、黒鬼がやったとは信じられない策を使っていた。
城代にした事で成長したのか?
それとも、偶然が重なっただけか?
「城を落としたなら褒美を与えなければならぬ、黒鬼は何か言っていたか?」
「若は何も申されていませんが、臣が三郎様の御役に立てる方法を考えました」
「お前が余の事を考えただと?!」
「はっ、三郎様の事を良く思っていない譜代の方々が数多くおります。
少しでも隙を見せると、三郎様の手柄を奪い悪評を広めます。
若が挙げられた手柄も、ことごとく奪おうとしました。
今回の手柄も、必ず奪おうと致します。
奪われないように、いち早く若を福釜城の城主になされませ」
「全て黒鬼に与えろというのか?」
「若が力を持てば、松平や吉良が三郎様の背後を襲う事がなくなります。
何かあった時も、国境の者達が寝返るのを防げます」
「何かあった時とは、父上が亡くなられた時か?」
「陪臣の身で口にできる事は限れます。
ですが賢明な三郎様なら口にしなくても分かって頂けると信じております」
「駄目だ、大浜城代のまま福釜城主にはできん。
お前の話を信用すれば、福釜城は黒鬼独りの力で手に入れたのだろう。
だが、そのような話は誰も信じない。
余が貸し与えている与力や足軽の力を使って奪ったと言われる。
林秀貞だけでなく、多くの譜代衆がそう言うだろう」
「でしたら、大浜城代と福釜城代を兼ねるというのは無理でしょうか?」
「無理だな、多くの譜代が自分を城代にしろと言うだろう」
「では、福釜城を三郎様のものとされ、譜代衆を城代にされませ。
できれば三郎様を絶対に裏切らない者が宜しいでしょう。
若の事も認めてくださっている、青山与三右衛門様なら譜代衆も文句を言わないのではありませんか?」
「余の城にして与三右衛門を城代にするのか、それなら誰も文句は言うまい。
だがそれでは黒鬼に利がないであろう?
大幅に扶持を増やせとでも言うのか?」
「三郎様もご存じのように、大浜城と福釜城は若が独りで手に入れられました。
2つ城を手に入れて1つを褒美にもらう、おかしくはないと思います。
少なくとも、大浜城での戦いと福釜城の戦いを共にした者は認めるでしょう。
若を大浜城主、大浜領主として頂きたい」
「最初から大浜城を狙っていたのか?」
「若は船を集めて水軍を創ろうとしております。
大浜は絶好の場所でございます。
若に大浜を与えてくださったら、兵を養い軍馬を育て、三郎様の力となります。
若は粗暴ではございますが、恩義を忘れない質でございます。
ここで恩を与えられれば、三郎様の御役に立つ事でしょう」
「黒鬼が見かけによらず義理堅い事は知っている。
ふむ、大浜を与えるか、林は文句を言うだろうが、他は認めるだろう。
分かった、黒鬼を大浜城主とする。
だが、福釜城に兵を入れなければならぬから、与力同心は移動させるぞ」
「足軽組は全て福釜城に移動させて頂いても大丈夫でございます。
ですが、甲賀衆だけは若の所に残して頂きたいのです。
他の与力や同心は福釜城に移動させて頂いても大丈夫ですが、甲賀衆だけは若の所に残して頂きたのです」
「何故だ、理由を言え」
「甲賀衆は夜討ち朝駆けが得意で、焼き討ちや盗み働きも得意でございます。
軍勢がぶつかる合戦よりも、影働きが得意です。
分散して使い潰すよりも、まとめて敵の後方に放つべきです。
そのような使い方は、甲賀出身の若が得意でございます」
「その方の言う事は間違っていない、だが、余の家臣をただで渡す事はできぬ。
少なくとも、余に仕え続けたいという者を黒鬼には渡せん。
加増しても構わないが、残すのは余よりも黒鬼に仕えたいと言った者だけだ。
余よりも忠誠を尽くすと言う者は渡さん」
「承りました、若に甲賀衆が納得する扶持を与えるように伝えます」
話が終わると奥村次右衛門と名乗る伝令は帰って行った。
何もせずに福釜城が手に入った、黒鬼はよくやっている。
このまま好きにやらせたら、もっと城地が手に入るかもしれない。
大浜で干鰯と鰯油を作っていると言う話は聞いていた。
大浜を余の直轄領にしろと言う者もいた。
欲深く陰湿な林新五郎の事だ、大浜が栄えるほど、どれほど悪辣な手段を使ってでも大浜を手に入れようとするだろう。
余も大浜を直轄領にしようと思わなかった訳ではない。
だが、大浜を繁栄させられたのは、攻め寄せて来た吉良を討ち破れたからだ。
そもそも黒鬼が余の初陣で獅子奮迅の働きをしなければ、大浜は今も吉良家の領地のままだった!
これからも黒鬼に任せた方が、余に負担なく大浜を守り切ってくれるだろう。
ただ、大浜の貫高は測り直さなければならない。
以前と同じ2000貫程度では、実際の貫高と違い過ぎる。
かといって、あまりに増やせば新五郎の策謀が激しくなり過ぎる。
魚を商う分、1000貫増やして3000貫の軍役を課すか?
いや、干鰯と鰯油の分も入れて、5000貫の軍役を命じよう。
「なんだと、福釜城を奪い取っただと?!」
黒鬼からの伝令、奥村次右衛門が福釜城を手に入れたと言う。
あれだけの兵力で敵の城を奪い取るなど、普通は考えられない。
黒鬼は天下無双の豪傑だが、知略に長けた武将ではない。
「どのようにやった、詳しく話せ!」
「は、実は」
詳しく話を聞くと、黒鬼がやったとは信じられない策を使っていた。
城代にした事で成長したのか?
それとも、偶然が重なっただけか?
「城を落としたなら褒美を与えなければならぬ、黒鬼は何か言っていたか?」
「若は何も申されていませんが、臣が三郎様の御役に立てる方法を考えました」
「お前が余の事を考えただと?!」
「はっ、三郎様の事を良く思っていない譜代の方々が数多くおります。
少しでも隙を見せると、三郎様の手柄を奪い悪評を広めます。
若が挙げられた手柄も、ことごとく奪おうとしました。
今回の手柄も、必ず奪おうと致します。
奪われないように、いち早く若を福釜城の城主になされませ」
「全て黒鬼に与えろというのか?」
「若が力を持てば、松平や吉良が三郎様の背後を襲う事がなくなります。
何かあった時も、国境の者達が寝返るのを防げます」
「何かあった時とは、父上が亡くなられた時か?」
「陪臣の身で口にできる事は限れます。
ですが賢明な三郎様なら口にしなくても分かって頂けると信じております」
「駄目だ、大浜城代のまま福釜城主にはできん。
お前の話を信用すれば、福釜城は黒鬼独りの力で手に入れたのだろう。
だが、そのような話は誰も信じない。
余が貸し与えている与力や足軽の力を使って奪ったと言われる。
林秀貞だけでなく、多くの譜代衆がそう言うだろう」
「でしたら、大浜城代と福釜城代を兼ねるというのは無理でしょうか?」
「無理だな、多くの譜代が自分を城代にしろと言うだろう」
「では、福釜城を三郎様のものとされ、譜代衆を城代にされませ。
できれば三郎様を絶対に裏切らない者が宜しいでしょう。
若の事も認めてくださっている、青山与三右衛門様なら譜代衆も文句を言わないのではありませんか?」
「余の城にして与三右衛門を城代にするのか、それなら誰も文句は言うまい。
だがそれでは黒鬼に利がないであろう?
大幅に扶持を増やせとでも言うのか?」
「三郎様もご存じのように、大浜城と福釜城は若が独りで手に入れられました。
2つ城を手に入れて1つを褒美にもらう、おかしくはないと思います。
少なくとも、大浜城での戦いと福釜城の戦いを共にした者は認めるでしょう。
若を大浜城主、大浜領主として頂きたい」
「最初から大浜城を狙っていたのか?」
「若は船を集めて水軍を創ろうとしております。
大浜は絶好の場所でございます。
若に大浜を与えてくださったら、兵を養い軍馬を育て、三郎様の力となります。
若は粗暴ではございますが、恩義を忘れない質でございます。
ここで恩を与えられれば、三郎様の御役に立つ事でしょう」
「黒鬼が見かけによらず義理堅い事は知っている。
ふむ、大浜を与えるか、林は文句を言うだろうが、他は認めるだろう。
分かった、黒鬼を大浜城主とする。
だが、福釜城に兵を入れなければならぬから、与力同心は移動させるぞ」
「足軽組は全て福釜城に移動させて頂いても大丈夫でございます。
ですが、甲賀衆だけは若の所に残して頂きたいのです。
他の与力や同心は福釜城に移動させて頂いても大丈夫ですが、甲賀衆だけは若の所に残して頂きたのです」
「何故だ、理由を言え」
「甲賀衆は夜討ち朝駆けが得意で、焼き討ちや盗み働きも得意でございます。
軍勢がぶつかる合戦よりも、影働きが得意です。
分散して使い潰すよりも、まとめて敵の後方に放つべきです。
そのような使い方は、甲賀出身の若が得意でございます」
「その方の言う事は間違っていない、だが、余の家臣をただで渡す事はできぬ。
少なくとも、余に仕え続けたいという者を黒鬼には渡せん。
加増しても構わないが、残すのは余よりも黒鬼に仕えたいと言った者だけだ。
余よりも忠誠を尽くすと言う者は渡さん」
「承りました、若に甲賀衆が納得する扶持を与えるように伝えます」
話が終わると奥村次右衛門と名乗る伝令は帰って行った。
何もせずに福釜城が手に入った、黒鬼はよくやっている。
このまま好きにやらせたら、もっと城地が手に入るかもしれない。
大浜で干鰯と鰯油を作っていると言う話は聞いていた。
大浜を余の直轄領にしろと言う者もいた。
欲深く陰湿な林新五郎の事だ、大浜が栄えるほど、どれほど悪辣な手段を使ってでも大浜を手に入れようとするだろう。
余も大浜を直轄領にしようと思わなかった訳ではない。
だが、大浜を繁栄させられたのは、攻め寄せて来た吉良を討ち破れたからだ。
そもそも黒鬼が余の初陣で獅子奮迅の働きをしなければ、大浜は今も吉良家の領地のままだった!
これからも黒鬼に任せた方が、余に負担なく大浜を守り切ってくれるだろう。
ただ、大浜の貫高は測り直さなければならない。
以前と同じ2000貫程度では、実際の貫高と違い過ぎる。
かといって、あまりに増やせば新五郎の策謀が激しくなり過ぎる。
魚を商う分、1000貫増やして3000貫の軍役を課すか?
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