14 / 58
第1章
第14話:鑓三郎次郎
しおりを挟む
前回襲って来た敵は、油ケ淵を渡って来た西条吉良家の武将達だった。
今回襲って来た敵は、狭い高浜の陸地沿いに来た松平家の武将だった。
「我こそは三河福釜の松平三郎次郎親次なり、荒子の黒鬼に一騎打ちを申し込む!」
「若、あの男は松平家でも有名な武将です。
鑓三郎次郎と呼ばれるほどの槍の名手です。
松平家の一門で、福釜松平家の2代目当主でもあります」
俺の横に馬を寄せた奥村次右衛門が教えてくれる。
「一騎打ちを申し込んでいるが、何か罠があると思うか?」
甲賀で鍛えられているから、罠を見破る眼はあると思うが、念のために聞いた。
「いえ、私には罠があるかどうか分かりません。
お~い、罠が有るか確かめろ!」
「おのれ、武士が正々堂々と一騎打ちを申し込んでいるのだぞ!
罠を仕掛けるような卑怯な真似はせん!」
まあ、いい、罠があっても力で破ってしまえば良い。
だが、特に何の利もないのなら、罠が仕掛けられているかもしれない一騎打ちにを受ける気はない。
「兵も集められない未熟で無能な領主が、卑怯や堂々と言って一騎打ちを申し込んでも、受けなければいけない義理はない。
多くの兵を持ち、普通に戦えば勝てる俺が、一騎打ちを受ける利は何だ?
何の利もないのなら、このまま合戦に持ち込んで皆殺しにしてやるぞ!」
「武士が一騎打ちを申し込まれたのに利がないから断るだと?!
それでも加納口の黒鬼と呼ばれる武将か?!
大浜城を独りで落とした鬼神と言うのは嘘か?!」
「ふん、お前こそ、それでも城を預かる武将か?
家臣領民を守る武将ならば、少しでも多くの利を手に入れて、家臣領民に豊かな暮らしをさせるものだろう!
武者働きだけで名を挙げたいのなら、城地を捨てろ!」
「うぬぬぬぬ、好き勝手言いおって、死にさらせ!」
舌戦は俺の圧勝だな、見境を無くした鑓三郎次郎が突っ込んで来た。
一撃で殺してしまっても良いのだが、殺しても扶持は増えない。
「愚か者、死ぬのはお前だ!」
鑓三郎次郎の異名が有るとは思えないくらい遅い槍の一撃を払いのけた。
馬上で大きく姿勢を崩した所を、殺さないように手加減して張り倒してやった。
一撃で気を失ったので、そのまま捕らえた。
「お前達の大将は、大言壮語したのに張り手1つで気を失った。
このような大将についていても、無駄死にするだけだぞ。
俺の家臣になれ、俺ならお前達を無駄死にさせない。
必ず勝って良い思いをさせてやる、俺に仕えろ」
「我らは殿に命を預けている、殿の真っ正直な所が好きだ。
殿の為なら命を捨てても惜しくはない!」
「そうか、そこまでこの男が大切なら城を明け渡せ。
城を明け渡したら、殺さずに引き渡してやる」
「おのれ、人質を取って城を要求するのは卑怯だぞ!」
「ふん、兵を集められない無能が、一騎打ちだ、卑怯だと喚き散らして、此方に何の利もない一騎打ちさせる事こそ卑怯だぞ!
しかもその一騎打ちを前にした舌戦で負け、卑怯にも不意を突こうとした。
卑怯な不意討ちをしたにもかかわらず一撃で捕虜になった。
それを殺さずに捕らえてやったのだ、恩に感ずるべきではないのか?」
「うぬぬぬぬ、言いたい放題言いやがって!」
「お前独りでこいつの生死を決めても良いのか?
他の者達の話を聞かずに、こいつの生死を決められるだけの身分なのか?
こいつの妻子に確認もせず、城明け渡しを決めるのは、こいつに成り代わって城主に成ろうとしているからではないのか?!」
「ちがう、殿に代わって城主に成る気はない!」
「口ではなく行動で証明しろ!
こんな所でグダグダと文句を言っていないで、城に帰って話し合え!
ただし、こいつの妻子を脅かすなよ。
脅かして城を我が物としても、俺が攻め取ってやる。
逃げても地の果てまで追いかけてぶち殺す!
お前達も良く見張っていろ、油断したらこいつが城を乗っ取るぞ!」
「うぬぬぬぬ、儂は殿の忠臣だ、命を捨ててお仕えしている!
奥方様や若様を騙して城を乗っ取ったりしない!」
「よく言う、さっき城は明け渡せないと言っていたではないか!
こいつの命よりも、城の方が大切だと言ったばかりだ!
同輩を騙そうとしても無駄だ、こいつに騙されるな!
いや、お前達もこいつの仲間か、この機会に城を乗っ取る気か?」
「馬鹿を言うな、俺は殿の忠実な家臣だ!」
「そうだ、俺達は殿の忠実な家臣だ、城よりも殿の命の方が大切だ!」
「俺も城よりも殿の命の方が大切だ!」
「こいつが城を乗っ取らないように見張る、城を引き渡すように奥方様を説得する。
だから殿を殺すな、絶対に殺すな、必ず城は明け渡す」
思い付きで脅かしてみたが、上手く行きそうだ。
城攻めはどうしても多くの死傷者がでてしまう。
ようやく集めた足軽達を無駄に死傷させたくない。
城は欲しいが、できれば味方の犠牲なしに手に入れたい。
できれば城も無傷で手に入れたい。
無傷で城を手に入れられたら、兵を入れて直ぐに敵襲に備えられる。
「分かった、お前達が約束するなら、こいつは殺さない。
殺さないだけでなく、俺に忠誠を誓うのなら家臣にしてやってもいい。
城に帰って、こいつの妻子と話し合え」
今回襲って来た敵は、狭い高浜の陸地沿いに来た松平家の武将だった。
「我こそは三河福釜の松平三郎次郎親次なり、荒子の黒鬼に一騎打ちを申し込む!」
「若、あの男は松平家でも有名な武将です。
鑓三郎次郎と呼ばれるほどの槍の名手です。
松平家の一門で、福釜松平家の2代目当主でもあります」
俺の横に馬を寄せた奥村次右衛門が教えてくれる。
「一騎打ちを申し込んでいるが、何か罠があると思うか?」
甲賀で鍛えられているから、罠を見破る眼はあると思うが、念のために聞いた。
「いえ、私には罠があるかどうか分かりません。
お~い、罠が有るか確かめろ!」
「おのれ、武士が正々堂々と一騎打ちを申し込んでいるのだぞ!
罠を仕掛けるような卑怯な真似はせん!」
まあ、いい、罠があっても力で破ってしまえば良い。
だが、特に何の利もないのなら、罠が仕掛けられているかもしれない一騎打ちにを受ける気はない。
「兵も集められない未熟で無能な領主が、卑怯や堂々と言って一騎打ちを申し込んでも、受けなければいけない義理はない。
多くの兵を持ち、普通に戦えば勝てる俺が、一騎打ちを受ける利は何だ?
何の利もないのなら、このまま合戦に持ち込んで皆殺しにしてやるぞ!」
「武士が一騎打ちを申し込まれたのに利がないから断るだと?!
それでも加納口の黒鬼と呼ばれる武将か?!
大浜城を独りで落とした鬼神と言うのは嘘か?!」
「ふん、お前こそ、それでも城を預かる武将か?
家臣領民を守る武将ならば、少しでも多くの利を手に入れて、家臣領民に豊かな暮らしをさせるものだろう!
武者働きだけで名を挙げたいのなら、城地を捨てろ!」
「うぬぬぬぬ、好き勝手言いおって、死にさらせ!」
舌戦は俺の圧勝だな、見境を無くした鑓三郎次郎が突っ込んで来た。
一撃で殺してしまっても良いのだが、殺しても扶持は増えない。
「愚か者、死ぬのはお前だ!」
鑓三郎次郎の異名が有るとは思えないくらい遅い槍の一撃を払いのけた。
馬上で大きく姿勢を崩した所を、殺さないように手加減して張り倒してやった。
一撃で気を失ったので、そのまま捕らえた。
「お前達の大将は、大言壮語したのに張り手1つで気を失った。
このような大将についていても、無駄死にするだけだぞ。
俺の家臣になれ、俺ならお前達を無駄死にさせない。
必ず勝って良い思いをさせてやる、俺に仕えろ」
「我らは殿に命を預けている、殿の真っ正直な所が好きだ。
殿の為なら命を捨てても惜しくはない!」
「そうか、そこまでこの男が大切なら城を明け渡せ。
城を明け渡したら、殺さずに引き渡してやる」
「おのれ、人質を取って城を要求するのは卑怯だぞ!」
「ふん、兵を集められない無能が、一騎打ちだ、卑怯だと喚き散らして、此方に何の利もない一騎打ちさせる事こそ卑怯だぞ!
しかもその一騎打ちを前にした舌戦で負け、卑怯にも不意を突こうとした。
卑怯な不意討ちをしたにもかかわらず一撃で捕虜になった。
それを殺さずに捕らえてやったのだ、恩に感ずるべきではないのか?」
「うぬぬぬぬ、言いたい放題言いやがって!」
「お前独りでこいつの生死を決めても良いのか?
他の者達の話を聞かずに、こいつの生死を決められるだけの身分なのか?
こいつの妻子に確認もせず、城明け渡しを決めるのは、こいつに成り代わって城主に成ろうとしているからではないのか?!」
「ちがう、殿に代わって城主に成る気はない!」
「口ではなく行動で証明しろ!
こんな所でグダグダと文句を言っていないで、城に帰って話し合え!
ただし、こいつの妻子を脅かすなよ。
脅かして城を我が物としても、俺が攻め取ってやる。
逃げても地の果てまで追いかけてぶち殺す!
お前達も良く見張っていろ、油断したらこいつが城を乗っ取るぞ!」
「うぬぬぬぬ、儂は殿の忠臣だ、命を捨ててお仕えしている!
奥方様や若様を騙して城を乗っ取ったりしない!」
「よく言う、さっき城は明け渡せないと言っていたではないか!
こいつの命よりも、城の方が大切だと言ったばかりだ!
同輩を騙そうとしても無駄だ、こいつに騙されるな!
いや、お前達もこいつの仲間か、この機会に城を乗っ取る気か?」
「馬鹿を言うな、俺は殿の忠実な家臣だ!」
「そうだ、俺達は殿の忠実な家臣だ、城よりも殿の命の方が大切だ!」
「俺も城よりも殿の命の方が大切だ!」
「こいつが城を乗っ取らないように見張る、城を引き渡すように奥方様を説得する。
だから殿を殺すな、絶対に殺すな、必ず城は明け渡す」
思い付きで脅かしてみたが、上手く行きそうだ。
城攻めはどうしても多くの死傷者がでてしまう。
ようやく集めた足軽達を無駄に死傷させたくない。
城は欲しいが、できれば味方の犠牲なしに手に入れたい。
できれば城も無傷で手に入れたい。
無傷で城を手に入れられたら、兵を入れて直ぐに敵襲に備えられる。
「分かった、お前達が約束するなら、こいつは殺さない。
殺さないだけでなく、俺に忠誠を誓うのなら家臣にしてやってもいい。
城に帰って、こいつの妻子と話し合え」
42
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる