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第1章
第7話:初陣2
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天文16年11月18日:三河吉良大浜:前田慶次15歳視点
信長の言う通り、70余の手勢を率いて大浜城の反対側に向かう。
大浜城の西側には夜ケ浦が広がり、日差しを受けて光り輝いている。
東側の油ケ淵は比較的狭く浅いので、干潮の時間に場所を選べば、胸まで海に浸かる事にはなるが、何とか渡ることができる。
吉良家の領内に入り込まないように気を付けて迂回する。
石川信治の砦や松平親俊の福釜城を迂回して見つからないようにする。
大浜城の長田重元だけでも数で負けているのだ。
これ以上敵の数を増やす訳には行かないので、慎重に行軍する。
先の物見よりも大勢なので音を立ててしまったが、見つからずにすんだ。
足軽達が油ケ淵を渡り切って息を整え終えたのを見ていたかのように、伏兵のいた森の方から煙が上がった!
信長が火攻めを始めたのだ!
伏兵のいる所の手前に火を放ち、気勢を上げて罠など見抜いていると圧をかける。
勝鬨をあげて、大浜城にいる長田に、待ち伏せを見抜かれて負けたと思わせる。
罠を見破られ、伏兵を打ち負かされたと思った長田がどうでるか?
臆病風に吹かれて大浜城に籠るようならしかたがない。
信長の前で敵陣に突っ込むのは、次の機会まで御預けだ。
長田が負けたままにせず、織田を叩く決意をして討って出るなら成功だ。
森の手前で長田勢の背後を襲い、散々に叩いて陣形を崩す!
森を抜けた信長と合流してから長田勢を叩いても良いし、そのまま俺が長田重元を討ちとっても良い!
「敵は森の罠に嵌った、我らが援軍すれば皆殺しにできる。
手柄を立てる絶好の機会だ、敵将の首を取った者には十貫文与える、我に続け!」
「「「「「おう!」」」」」
長田重元は、配下の者達を鼓舞するために勝利と恩賞を強調する。
織田信秀と今川義元に圧迫され、一族にも裏切られた松平広忠の家臣は大変だ。
人質になっている竹千代の事も考えないといけないし、配下に与えられる恩賞も極端に少ない。
襲って来た織田勢を倒す事だけを考えている長田勢に、今出陣してきたばかりの城の後方を気にする必要もなければ余裕もない。
忍術を学んでいない足軽連中と一緒に追いかけても大丈夫だった。
見つかる事無く後を追いかけられた。
それに、見つかったとしても、長田勢の方が驚き慌てるだけだ。
知らぬ間に敵に背後を取られ間近に迫られているのだから。
「やあ、やあ、我こそは尾張荒子の住人、前田慶次利益なり!
我の金砕棒を受けられるものなら受けてみよ!」
「「「「「うぉおおおおお」」」」」
俺の名乗りの後に足軽達が大声で叫ぶ。
不意を突かれた長田勢には、僅か70余が大軍に見えるだろう。
大声を出す事で、森の向こうにいる信長に、策の通り奇襲を始めた事が伝わる。
「命の惜しい者は武器を捨てて伏せろ、武器を持っている者は殺す!
長田平右衛門はどこだ?!
命が惜しいならさっさと降伏しろ、憶病者!」
俺は金砕棒を振り回して敵の中に突っ込んだ!
叩き殺した敵はその場に残してひたすら前に進む。
俺が殺した敵の首は、前田家の足軽が取ってくれる。
「誰が憶病者だ!」
挑発に乗って長田重元が馬首を返してやってきた。
これで信長が森を出た所を叩かれる事がなくなった。
「その首もらった!」
黒雲雀は素晴らしい、巨体の俺を乗せて駆ける事ができる。
敵が驚くほど素早く駆ける事ができる。
金砕棒の間合いにまで近づければ、敵を討ち漏らす事はない!
「敵将、長田平右衛門討ち取ったり!」
首を落すのが面倒なので、胸を叩き潰して殺した長田重元に鎧を掴み、高々と差し上げて長田勢に見せつける。
「うわぁあああああ!」
「鬼だ、荒尾の黒鬼だ!」
「逃げろ、逃げないと喰われるぞ!」
「ぎゃあああああ!」
長田勢が一斉に逃げた。
70対1000の圧倒的多数なのに、奇襲され大将を討たれた事で狼狽した。
恐怖に支配されて背中を見せた敵など物の数ではない!
「首は狩らなくていい、どうせ逃げ首は評価されん。
それよりも殺せ、殺せるだけ殺してしまえ!
後で鎧と武器を奪えば金になる、殺して殺して殺しまくれ!」
「「「「「おう!」」」」」
信長とは、事前に色々約束をしている。
追撃のために殺して捨て置いた長田勢の武具は、後で誰が拾い集めても俺の物だ。
ここでどれだけ長田勢を殺せるかで、大浜城を手に入れられるか、手に入れられないかが違ってくる。
信長にとっては、野戦で勝っただけでも、初陣としては誰にも誇れる大勝利だ。
だが、野戦に勝っただけでなく、敵の城まで奪ったとなると、配下の国人地侍に対して強い威圧になる。
若年にも拘らず野戦にも攻城戦にも強いとなると、信長を裏切り難くなる。
織田信秀は急激に衰え、大うつけと悪評の広がる信長が跡継ぎになると、国境の国人地侍の中には織田から今川や松平に寝返る者が出て来る。
それどころか、信長を廃して信行を担ぎあげ、織田家を意のままに操ろうとする悪臣が現れるだろうというのが、義祖父殿の読みだ。
俺もそう思うし、できればそのような悪党になりたいとも思っている。
ただ、黒雲雀を譲ってもらった恩だけは、返さなければならないと思っていた。
約束通り敵陣に突撃する姿を見せないと、悪党になるのが躊躇われる。
今日その全てを終わらせておけば、何時でも下剋上できる。
少なくとも、義父殿が無理矢理隠居させられる時に、信長に正面から戦を仕掛けられるくらいには成っておきたい!
信長の言う通り、70余の手勢を率いて大浜城の反対側に向かう。
大浜城の西側には夜ケ浦が広がり、日差しを受けて光り輝いている。
東側の油ケ淵は比較的狭く浅いので、干潮の時間に場所を選べば、胸まで海に浸かる事にはなるが、何とか渡ることができる。
吉良家の領内に入り込まないように気を付けて迂回する。
石川信治の砦や松平親俊の福釜城を迂回して見つからないようにする。
大浜城の長田重元だけでも数で負けているのだ。
これ以上敵の数を増やす訳には行かないので、慎重に行軍する。
先の物見よりも大勢なので音を立ててしまったが、見つからずにすんだ。
足軽達が油ケ淵を渡り切って息を整え終えたのを見ていたかのように、伏兵のいた森の方から煙が上がった!
信長が火攻めを始めたのだ!
伏兵のいる所の手前に火を放ち、気勢を上げて罠など見抜いていると圧をかける。
勝鬨をあげて、大浜城にいる長田に、待ち伏せを見抜かれて負けたと思わせる。
罠を見破られ、伏兵を打ち負かされたと思った長田がどうでるか?
臆病風に吹かれて大浜城に籠るようならしかたがない。
信長の前で敵陣に突っ込むのは、次の機会まで御預けだ。
長田が負けたままにせず、織田を叩く決意をして討って出るなら成功だ。
森の手前で長田勢の背後を襲い、散々に叩いて陣形を崩す!
森を抜けた信長と合流してから長田勢を叩いても良いし、そのまま俺が長田重元を討ちとっても良い!
「敵は森の罠に嵌った、我らが援軍すれば皆殺しにできる。
手柄を立てる絶好の機会だ、敵将の首を取った者には十貫文与える、我に続け!」
「「「「「おう!」」」」」
長田重元は、配下の者達を鼓舞するために勝利と恩賞を強調する。
織田信秀と今川義元に圧迫され、一族にも裏切られた松平広忠の家臣は大変だ。
人質になっている竹千代の事も考えないといけないし、配下に与えられる恩賞も極端に少ない。
襲って来た織田勢を倒す事だけを考えている長田勢に、今出陣してきたばかりの城の後方を気にする必要もなければ余裕もない。
忍術を学んでいない足軽連中と一緒に追いかけても大丈夫だった。
見つかる事無く後を追いかけられた。
それに、見つかったとしても、長田勢の方が驚き慌てるだけだ。
知らぬ間に敵に背後を取られ間近に迫られているのだから。
「やあ、やあ、我こそは尾張荒子の住人、前田慶次利益なり!
我の金砕棒を受けられるものなら受けてみよ!」
「「「「「うぉおおおおお」」」」」
俺の名乗りの後に足軽達が大声で叫ぶ。
不意を突かれた長田勢には、僅か70余が大軍に見えるだろう。
大声を出す事で、森の向こうにいる信長に、策の通り奇襲を始めた事が伝わる。
「命の惜しい者は武器を捨てて伏せろ、武器を持っている者は殺す!
長田平右衛門はどこだ?!
命が惜しいならさっさと降伏しろ、憶病者!」
俺は金砕棒を振り回して敵の中に突っ込んだ!
叩き殺した敵はその場に残してひたすら前に進む。
俺が殺した敵の首は、前田家の足軽が取ってくれる。
「誰が憶病者だ!」
挑発に乗って長田重元が馬首を返してやってきた。
これで信長が森を出た所を叩かれる事がなくなった。
「その首もらった!」
黒雲雀は素晴らしい、巨体の俺を乗せて駆ける事ができる。
敵が驚くほど素早く駆ける事ができる。
金砕棒の間合いにまで近づければ、敵を討ち漏らす事はない!
「敵将、長田平右衛門討ち取ったり!」
首を落すのが面倒なので、胸を叩き潰して殺した長田重元に鎧を掴み、高々と差し上げて長田勢に見せつける。
「うわぁあああああ!」
「鬼だ、荒尾の黒鬼だ!」
「逃げろ、逃げないと喰われるぞ!」
「ぎゃあああああ!」
長田勢が一斉に逃げた。
70対1000の圧倒的多数なのに、奇襲され大将を討たれた事で狼狽した。
恐怖に支配されて背中を見せた敵など物の数ではない!
「首は狩らなくていい、どうせ逃げ首は評価されん。
それよりも殺せ、殺せるだけ殺してしまえ!
後で鎧と武器を奪えば金になる、殺して殺して殺しまくれ!」
「「「「「おう!」」」」」
信長とは、事前に色々約束をしている。
追撃のために殺して捨て置いた長田勢の武具は、後で誰が拾い集めても俺の物だ。
ここでどれだけ長田勢を殺せるかで、大浜城を手に入れられるか、手に入れられないかが違ってくる。
信長にとっては、野戦で勝っただけでも、初陣としては誰にも誇れる大勝利だ。
だが、野戦に勝っただけでなく、敵の城まで奪ったとなると、配下の国人地侍に対して強い威圧になる。
若年にも拘らず野戦にも攻城戦にも強いとなると、信長を裏切り難くなる。
織田信秀は急激に衰え、大うつけと悪評の広がる信長が跡継ぎになると、国境の国人地侍の中には織田から今川や松平に寝返る者が出て来る。
それどころか、信長を廃して信行を担ぎあげ、織田家を意のままに操ろうとする悪臣が現れるだろうというのが、義祖父殿の読みだ。
俺もそう思うし、できればそのような悪党になりたいとも思っている。
ただ、黒雲雀を譲ってもらった恩だけは、返さなければならないと思っていた。
約束通り敵陣に突撃する姿を見せないと、悪党になるのが躊躇われる。
今日その全てを終わらせておけば、何時でも下剋上できる。
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