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第1章
第4話:武功
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天文16年9月23日:尾張:前田慶次15歳視点
「兄上、この者がいなければ我ら両名は討死していました。
恐れながら、兄上の御命も危なかったかもしれません。
御覧ください、殿を務め、大半の首を捨てなければならず、急ぎ足元の首だけ集めてもこれだけあるのです、武功に見合う褒美をお与え下さい」
大殿、織田信秀様の弟、織田信康様が俺の武功を褒め称えてくれる。
「その通りでございます。
某も三郎様の家老として同じ思いでございます」
信長の3番家老で、俺の寄親でもある青山信昌も同意してくれている。
「うむ、殿を務めながらこれだけの首を集めたのは天晴である。
名の知れた大将首が7つ、徒士武者が9つ、雑兵首が29もある。
これだけの武功を挙げた者に、ありふれた褒美は与えられん。
加増500貫と脇差を取らす」
思っていたよりも少ない、命懸けで信秀様を助けた甲斐がない。
はっきり言えば、信秀は自分の命に500貫の値しかつけなかったのだ。
斎藤道三なら俺に武功に幾らの値をつけるかな?
「兄上、それは幾ら何でも少な過ぎます」
「黙れ弾正左衛門、慶次は三郎の家臣だぞ。
陪臣に過ぎない者に500貫は過分な褒美じゃ。
500貫で足らぬと思うなら、三郎が慶次に褒美を与えるのが筋じゃ」
「それは、その通りかもしれませんが、兄上らしくありませんぞ」
「何が儂らしくないと言うのだ!
儂を馬鹿にしているのか、これ以上言うなら弾正左衛門でも只では置かんぞ!」
ちっ、吝嗇な殿様に心から仕える国人も地侍もいない。
この敗戦で信望を大きく落としただけではない。
命懸けの奉公をした者への褒美を削ったのだ、次は殿を務める者がいなくなる。
「500貫と脇差、過分な褒美と思っております。
有り難く拝領させていただきます」
怒りの失望の表情を見られないように、深々と頭を下げて礼を言った。
さっさと脇差をもらって、信秀の前から下がった方がいい。
耄碌して吝嗇になった奴の側にいても碌な事はない。
「そうであろう、慶次は己の分を良く理解しておる」
信秀は本当に耄碌しているのかもしれない。
甲賀の古老にも、耄碌して怒りっぽくなった者がいた。
物忘れが激しくなり、何をやっても失敗が多くなる。
「すまぬな、命の恩人にこの程度の褒美しか与えてやれぬとは……」
「いえ、弾正左衛門の御陰で500貫もいただけました。
名誉の脇差もいただきましたから、弾正忠家で侮られる事もなくなります。
万が一、勘気に触れて弾正忠家を離れる事になっても、討ち取った者の名と数を正確に記した感状さえあれば、どこに行っても困る事はありません」
「……そうか、祐筆に言って討ち取った者の名を正確に記した感状を書かせる。
他家から誘いが来ても、この程度の褒美しか与えぬ弾正忠家に、貴殿のような天下無双の武者を引き留める事は出来ぬ。
だが、誘いが来たら、ひと言だけでも相談してくれ。
今一度兄上に掛け合って、他家に負けない扶持を与えるように言う」
「はい、有難き幸せでございます」
今回も織田信康に顔を見られないように下を向いたまま返事した。
不服な気持ちが表情に出ているのを自覚しているからだ。
腹が立つと自分を抑えられない短気な性格は自覚している。
頭を下げたままにしていると、織田信康が離れて行った。
褒美、扶持を約束する証文さえもらえれば良い。
550貫の半分を残しておけば、牢人しても妻に惨めな思いをさせずにすむ。
「慶次、正当な褒美を与えられなくて済まん。
正確な武功を記した感状だけは必ず書かせる。
儂は弾正左衛門殿と残るから、先に那古野城に帰ってくれ」
青山信昌も責任を感じているようで、織田信康と一緒に信秀の祐筆に感状の書き方、内容を掛け合ってくれるようだ。
「はっ、有難き幸せでございます」
まだ内心の怒りを完全に抑えられないので、頭は上げない。
俺の顔を見て何か言おうとしていたのか、青山信昌が暫くその場にいた。
俺がなかなか頭をあげないので、諦めて織田信康の後を追いかけた。
俺が激怒しているのは誰の目にも明らかだが、怒りに歪んだ顔を実際に見られるよりは、隠していた方がいい。
これ以上何か気に食わない事を言われたら、我慢できずに暴れてしまう。
自分が短気なのは嫌と言うほど理解している。
「戻るぞ、ついて来い」
義父と義祖父がつけてくれた2人の百姓兵に声をかけた。
俺が討ち取ったが、首を取る暇がなかったのを協力してくれた者達、青山信昌の雑兵達もついてくる。
「話は聞いていただろう?
残念だが、あれだけの武功を挙げて500貫に加増しかなかった。
お前達には、加増の半分をやると言ったが、思ったよりも少ない。
250貫を取った首の数で計算して分けてやる」
「足軽として召し抱えてくださらないのですか?」
「こんな褒美しか与えない家に何時までも居られるか!
俺の武功を認めて今以上の扶持を与えてくれる家があれば、そこに仕官する。
だからお前達を召し抱える事はできん」
「慶次様の武功を認めて、多くの扶持を与える家があるのなら、ついて行きます」
「はい、俺も慶次様について行きます」
「私も慶次様について行きます、だから召し抱えてください」
「俺も、俺もついて行きます!」
青山家の雑兵達が、次々と俺についてくると言う。
ここまで言われたら、武家として連れて行かないとは言えない。
「そうか、だったら足軽として召し抱えてやる。
ただし、計算した扶持しか渡さないからな」
「兄上、この者がいなければ我ら両名は討死していました。
恐れながら、兄上の御命も危なかったかもしれません。
御覧ください、殿を務め、大半の首を捨てなければならず、急ぎ足元の首だけ集めてもこれだけあるのです、武功に見合う褒美をお与え下さい」
大殿、織田信秀様の弟、織田信康様が俺の武功を褒め称えてくれる。
「その通りでございます。
某も三郎様の家老として同じ思いでございます」
信長の3番家老で、俺の寄親でもある青山信昌も同意してくれている。
「うむ、殿を務めながらこれだけの首を集めたのは天晴である。
名の知れた大将首が7つ、徒士武者が9つ、雑兵首が29もある。
これだけの武功を挙げた者に、ありふれた褒美は与えられん。
加増500貫と脇差を取らす」
思っていたよりも少ない、命懸けで信秀様を助けた甲斐がない。
はっきり言えば、信秀は自分の命に500貫の値しかつけなかったのだ。
斎藤道三なら俺に武功に幾らの値をつけるかな?
「兄上、それは幾ら何でも少な過ぎます」
「黙れ弾正左衛門、慶次は三郎の家臣だぞ。
陪臣に過ぎない者に500貫は過分な褒美じゃ。
500貫で足らぬと思うなら、三郎が慶次に褒美を与えるのが筋じゃ」
「それは、その通りかもしれませんが、兄上らしくありませんぞ」
「何が儂らしくないと言うのだ!
儂を馬鹿にしているのか、これ以上言うなら弾正左衛門でも只では置かんぞ!」
ちっ、吝嗇な殿様に心から仕える国人も地侍もいない。
この敗戦で信望を大きく落としただけではない。
命懸けの奉公をした者への褒美を削ったのだ、次は殿を務める者がいなくなる。
「500貫と脇差、過分な褒美と思っております。
有り難く拝領させていただきます」
怒りの失望の表情を見られないように、深々と頭を下げて礼を言った。
さっさと脇差をもらって、信秀の前から下がった方がいい。
耄碌して吝嗇になった奴の側にいても碌な事はない。
「そうであろう、慶次は己の分を良く理解しておる」
信秀は本当に耄碌しているのかもしれない。
甲賀の古老にも、耄碌して怒りっぽくなった者がいた。
物忘れが激しくなり、何をやっても失敗が多くなる。
「すまぬな、命の恩人にこの程度の褒美しか与えてやれぬとは……」
「いえ、弾正左衛門の御陰で500貫もいただけました。
名誉の脇差もいただきましたから、弾正忠家で侮られる事もなくなります。
万が一、勘気に触れて弾正忠家を離れる事になっても、討ち取った者の名と数を正確に記した感状さえあれば、どこに行っても困る事はありません」
「……そうか、祐筆に言って討ち取った者の名を正確に記した感状を書かせる。
他家から誘いが来ても、この程度の褒美しか与えぬ弾正忠家に、貴殿のような天下無双の武者を引き留める事は出来ぬ。
だが、誘いが来たら、ひと言だけでも相談してくれ。
今一度兄上に掛け合って、他家に負けない扶持を与えるように言う」
「はい、有難き幸せでございます」
今回も織田信康に顔を見られないように下を向いたまま返事した。
不服な気持ちが表情に出ているのを自覚しているからだ。
腹が立つと自分を抑えられない短気な性格は自覚している。
頭を下げたままにしていると、織田信康が離れて行った。
褒美、扶持を約束する証文さえもらえれば良い。
550貫の半分を残しておけば、牢人しても妻に惨めな思いをさせずにすむ。
「慶次、正当な褒美を与えられなくて済まん。
正確な武功を記した感状だけは必ず書かせる。
儂は弾正左衛門殿と残るから、先に那古野城に帰ってくれ」
青山信昌も責任を感じているようで、織田信康と一緒に信秀の祐筆に感状の書き方、内容を掛け合ってくれるようだ。
「はっ、有難き幸せでございます」
まだ内心の怒りを完全に抑えられないので、頭は上げない。
俺の顔を見て何か言おうとしていたのか、青山信昌が暫くその場にいた。
俺がなかなか頭をあげないので、諦めて織田信康の後を追いかけた。
俺が激怒しているのは誰の目にも明らかだが、怒りに歪んだ顔を実際に見られるよりは、隠していた方がいい。
これ以上何か気に食わない事を言われたら、我慢できずに暴れてしまう。
自分が短気なのは嫌と言うほど理解している。
「戻るぞ、ついて来い」
義父と義祖父がつけてくれた2人の百姓兵に声をかけた。
俺が討ち取ったが、首を取る暇がなかったのを協力してくれた者達、青山信昌の雑兵達もついてくる。
「話は聞いていただろう?
残念だが、あれだけの武功を挙げて500貫に加増しかなかった。
お前達には、加増の半分をやると言ったが、思ったよりも少ない。
250貫を取った首の数で計算して分けてやる」
「足軽として召し抱えてくださらないのですか?」
「こんな褒美しか与えない家に何時までも居られるか!
俺の武功を認めて今以上の扶持を与えてくれる家があれば、そこに仕官する。
だからお前達を召し抱える事はできん」
「慶次様の武功を認めて、多くの扶持を与える家があるのなら、ついて行きます」
「はい、俺も慶次様について行きます」
「私も慶次様について行きます、だから召し抱えてください」
「俺も、俺もついて行きます!」
青山家の雑兵達が、次々と俺についてくると言う。
ここまで言われたら、武家として連れて行かないとは言えない。
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