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3話

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「なんでこうなるのよ!
 ほんと腹が立つわ!」

「そりゃあマリーア嬢が考えなしで、しかもその考えを表情に出してしまうからさ。
 本当に隠れてひっそりと逃げ出すつもりなら、屋敷から何も持ち出さず、考えたその日のうちに出ていくべきだったね」

 思い通りにいかず、インキタトゥスにいいようにあしらわれ、思わず愚痴を口にしたら、更に追い打ちの言葉を叩きつけられてしまいました。
 ますます腹が立ちましたが、これ以上何を言ってもまた言い負かされてしまうだけなので、怒りを腹に納めるしかありません。

 それにしても、結局連れて出た馬は四頭になりました。
 インキタトゥスだけではなく、ティシュトリヤという名の、雄大な馬体を持つ純白の牝馬もついてきてしまったのです。
 ブケパロスとバビエカに負けないような巨体の馬なので、荷物を分けて運ぶというのなら助かりますが、秘蔵馬四頭全てを私に取られてしまった父上の、激怒する姿が思い浮かびます。

 でもそんな嫌な事を考えるのは一瞬です。
 まずは王都から逃げ出さなければいけません。
 フェルナンデス公爵家は王族なので、王城内に屋敷があります。
 とは言っても王位継承権を持つ分家なので、警戒されている面もありますから、一番外側に四の丸に屋敷があり、第四城壁さえ無事に抜け出せればいいのです。

 私はこう見えて聖女ですから、聖魔法を使うことができます。
 聖の魔法で門番たちを魅了して、第四城壁の検問を突破することができました。
 第四城壁の検問を抜け出すことができたら、次は王都を護る大城壁の検問です。
 そこも同じように聖魔法の魅了で門番たち味方につけて、無事に城門から堂々と出ていくことができました。

 それからは、とても幸せな時間を過ごすことができました。
 フェルナンデス公爵の令嬢として見栄を張る必要がなくなりました。
 聖女として行動しなくてもよくなったのです。
 一挙手一投足に気を使う必要がなくなったのです。
 重い板金鎧を脱ぎ捨て、普段着で生活できるようになった気分です。

 でも不自由な事もありました。
 主要な街道を外れて、あまり人が使わない道なき道を旅するのです。
 王都のように何時でも食事処で食べるという事は不可能です。
 一から自分で食事を作らなければいけません。
 自ら獣を借り、血抜きして解体もして、火を熾して煮炊きして、ようやく食事をとることができるのです。

 本当に面倒でした。
 ですが、人喰い馬と呼ばれたブケパロスのお陰で、少なくとも狩りの手間だけは省くことができました。
 獰猛なブケパロスが、旅の途中で目にした獣を狩ってくれるのです。
 破壊力抜群の蹴りで斃したり、馬なのに額に生えている角を使って突き殺したり、旅に出るまで分かりませんでしたが、魔法まで使えるのです。
 なので食材集めはブケパロスに任せることにしました。
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