カラスに襲われているトカゲを助けたらドラゴンだった。

克全

文字の大きさ
上 下
15 / 38
第2章

第15話:隠れ家

しおりを挟む
 東京での仕事を終えて、九州某県に借りている家に向かった。
 生まれ育った故郷に帰っても、リョクリュウには会えない気がしたからだ。
 義理のある人たちへのお礼と挨拶は、東京に行く前にすましてある。

 仕事上の制約で、もう九州某県に住民票を移す事ができなくなった。
 それでも、心は九州某県の家に向かっている。
 2拠点生活が普通になれば、住民票を移しても誰も文句を言わなくなるだろう。

 事故で入院する前に挨拶した事のある区長さん、ハンバーガーショップの店主さん、鮮魚店の店主さんに再度挨拶して回った。

 以前と変わらない態度に心から安堵し感謝した。
 全く状況が変わってしまって、色々な噂も聞いているだろうに、有難い。
 定住する事はできないが、頻繁に来させてもらうと言って別れた。

 俺が何者でもなかった頃から、親切に対応してくださった、不動産会社の担当さんも変わらない態度で接してくれた。

 家賃は払っていたが、約束通り住む事もできなかった俺のために、定期的に家に来て管理してくれていた。

 これからも数カ月放置するかもしれないので、苦手な人付き合いを頑張った。
 借りた家で1人になれた時には、精魂尽きていた。

 リョクリュウが来るかもしれないから、朝まで起きて待つつもりだったが、いつのまにか寝てしまっていた。

 リョクリュウが生きているのは、最後の挨拶で分かっていた。
 俺を殺そうとした奴を返り討ちにしてくれているので、命の心配だけはしていなかったが、もう会えないかもしれないと、半ば諦めていた。

 殺し屋とはいえ、12人もの人間を咬み殺したグリーンイグアナだ。
 人間に見つかったら必ず殺処分される。
 俺は後で知ったのだが、自衛隊も動員して大捜索が行われていたらしい。

 発見された話を聞かないから、中国山地のどこかに隠れ住んでいるのだと思う。
 無事に生きていてくれるのが1番なので、発見されるかもしれない人里には近づいて欲しくないと思うと同時に、もう1度会ってちゃんとお礼をしたい気持ちもある。

 グリーンイグアナが、兵庫県の山奥から行った事もない九州の借家にたどり着けるとは思えないが、リョクリュウなら来てくれそうな希望もある。

 どちらかといえば、行った事もない九州の借家ではなく、少しの間一緒に住んでいた自宅に来てくれる可能性の方が高い。

 だが、不思議と俺の家には来ない気がしていた。
 来てくれるとしたら、九州の借家だと思っていた。
 だから大阪の家に立ち寄る事もなく、東京から直接九州某県の借家に来たのだ。

 ゴン、ゴン、ゴン

「シャ」

 リョクリュウの言葉に飛び起きた。
 知らぬ間に寝落ちしていたので、夜中にもかかわらず明かりが煌々とついている。
 勝手の分からない借家だが、間違って柱を蹴る事はない。

 リョクリュウの声は玄関ではなく土間の方から聞こえていた。
 道路から少しでも死角になる、土間の方から来たのだと思った。
 慌てて土間の扉を開けたが、心臓が口から飛び出るかと思うくらい驚いた。

 土間扉を開けると、とんでもなく大きくなったリョクリュウがいたのだ。
 本物のドラゴンとしか思えない巨体になったリョクリュウがいたのだ。

 最後に会った時にもコモドオオトカゲを超える巨体だったが、今では恐竜としか思えない大きさだった。

「良く戻って来てくれたね。
 家に入ってもらう心算だったのだけど、これだけ大きくなると無理だな」

「シャ」

 リョクリュウも家に入る気はなかったようだ。
 ついて来いと言うので、懐中電灯を持ってついて行った。
 思っていた通り、内部投稿で知らせていた農作業小屋についた。

「ここで一緒に暮らすか?
 ただ、無責任に今の仕事を放りだせないから、最長4年は長期不在する事が多くなるけど、それでも良いか?」

「シャ」

 リョクリュウはとても賢い。
 山中に隠れていたはずなのに、どこからどうやって知ったのか、俺の状況を知っているようで、今直ぐ一緒に暮らせないのを分かっていた。

 俺が長期入院しなければいけないくらいの大怪我を負った後、リョクリュウは中国山地を横断して、夜間に関門海峡を渡り九州に入ったそうだ。

 足立山を抜け、金剛山や雲取山や福知山といった北九州の山々を縦断して、八面山や鬼落山、大蔵山や西叡山を縄張りにしていると言う。

 これからもこの一帯の山々を縄張りにしつつ、俺が来たら会いに来てくれるというのだから、うれしくなってしまう。

「リョクリュウはその気になったら家の鍵を開けられるのか?」

「シャ」

 リョクリュウが家の鍵を開けられるのなら、自由に出入りできるように鍵を渡しておき、大好きなネットサーフィンができるようにしようと思った。

 だが、全長が10メートルにもなったリョクリュウの手や口では、普通の鍵は開けられないそうだ。

「リョクリュウが自由に出入りできる新しい農業用倉庫を建てて、自由にパソコンが使えるようにしようか?」

「シャ」

 リョクリュウも自由にパソコンを使いたいそうだが、余りにも大きくなり過ぎてしまったので、キーボードが使えないと嘆いた。

 キーボードが使えないとなると、タッチパネルの携帯やタブレットも使えない。
 普通のキーボードよりも大きな物、リョクリュウが使えるようなものがあればいいが、そんな物があるとは思えない。

 色々話して、ネットを使えるようになるのは後回しにする事にした。
 それよりも問題なのは、他の人間に見つからないように会う方法だった。
 残念ながら、今もマスゴミや一般投稿者に追い回される立場だ。

 責任を放棄できれば誰にも追い回さないと思うが、絶対ではない。
 どうせ追い回されるのなら、理想だけは実現したい。
 支援してくれた人たちとの約束は守りたい。

 仕方がないので、これからもリョクリュウと会うのは深夜だけにした。
 リョクリュウが俺以外の人間の気配を感じたら、会うのを諦めて逃げてもらう。
 そう決める頃には明け方になっていたので、残念だが分かれる事にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...