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第1章

第9話:露見

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 リョクリュウと出会ってから4カ月が過ぎた頃、恐れていた事が現実となった。
 鴉の次に鰐が現れたという回覧板が回ってきたのだ。

 間違いなくリョクリュウが誰かに見られてしまったのだ。
 リョクリュウを見た奴が、トカゲではなく鰐だと勘違いしたのだ。
 竜だと思わなかったのは、日本人の意識がドラゴンではなく龍だからだろう。

 鰐という勘違いは、身勝手な飼い主が捨てたヌートリアやアライグマの被害が近隣の農家に多かったのと、別の県で大きな蛇や鰐が出没した事件があったからだろう。

 それと、リョクリュウの出歩くのが深夜だからだ。
 リョクリュウの出歩くのが昼間だったら、もっと正確に情報が広まったのだろが、深夜の遭遇では街灯があるとは言っても限界があるからだろう。

「リョクリュウ、暫くは外出禁止。
 カラスや鳩を捕獲駆除するのは難しいけど、リョクリュウなら捕まえられる。
 リョクリュウが本気になったら人間くらい軽く撥ね飛ばせるだろうけど、下手したら実弾を撃ってくるかもしれない」

 リョクリュウから納得できないという表情をする。
 不満そうな気配がヒシヒシと伝わってくる。

「人間は物凄く身勝手で、妬みや嫉妬、恨みで動いているんだ。
 リョクリュウが俺と一緒に住んでいると分かったら、マスゴミも動物愛護団体も、鴉の時のような駆除反対運動をしなくなる。
 そうなったら、前回の汚名を晴らしたい警察と猟友会が実弾を使うかもしれない。
 マスゴミも動物愛護団体も実弾使用に賛成する、少なくとも反対はしないだろう
 ここを出て行く気なら構わないが、一緒に暮らす気なら大人しくしてくれ」

「シャ」

 珍しく態度だけでなく言葉を発してくれた。
 仕方がないからお散歩は我慢すると言っているように思えた。
 これで出合い頭にリョクリュウが討伐される心配は無くなった。

「ただ、マスゴミと動物愛護団体が諦めてくれたらいいが、連中は蛇のように執念深いから、数年張り込むかもしれない。
 もうここには住み続けられないかもしれない。
 今の内に移住先を探しておこうと思う」

 俺がそう言うと、リョクリュウはしかたがないという雰囲気で二階に上がった。
 俺より先にエイトのデスクトップとイレブンのタブレットを起動して、住宅情報サイトを調べ始めた。

「気に入った家を見つけたら教えてくれ。
 寒い所は嫌だろうから、九州か四国、中国地方でも山過ぎない所だぞ。
 買うなら野中の一軒家、500万円以内、できれば賃貸を探してくれ」

「シャ」

 リョクリュウがこちらを見て、条件が厳し過ぎると言っている、ように思う。

「金がないの、金が。
 それに、移住は一回で済むとは限らないんだ。
 マスゴミや動物愛護団体がしつこく追いかけてきたら、何度も家を変わらなければいけないから、余裕をもって引っ越さないといけない」

 今度は言葉も発さず黙ってモニターに視線を戻した。
 自分が人間に見つかった事が原因なので、あまり強く出られないのだろう。
 恐ろしい見た目をしているくせに、可愛い所がある。

「さっき言った条件が全部そろう家がなかったら、近所に多少の家があってもいいから、山際で、裏か横が山に接している所が良い。
 そうすれば、人間に見られる事無く山に入れるだろう?」

 リョクリュウから伝わってくる雰囲気が強くなった、
 今住んでいる家は山に近いが、自宅前に通っている、氏神様の境内に入る道の両側には五軒以上の家が並んでいて、もっと上に家がある人達の生活道路になっている。

 リョクリュウが自由に、人目のない山に、遊びに行ける立地ではない。
 ずっと深夜に散歩していたが、本当は日中に散歩したかったのかもしれない。
 深い山と地続きの家に住めるなら、それが一番なのだろう。

「佐藤さん、佐藤清さん、朝韓テレビです、お話を聞かせてください!
 佐藤さん、佐藤清さん、お話を聞かせてください」

 やっぱり奴らが来た、普通に生活できないように、ひっきりなしに来る。
 どう考えても嫌がらせにしか思えないが、連中に常識を求めても意味がない。

 インターホンの電源を切っているからましだが、朝から晩まで煩くやって来る。
 今回も玄関が壊れるかと思うくらい乱暴に叩いて取材を強要する。
 許可していないのに敷地に入り、裏に回って勝手口を開けようとする。

「佐藤さん、佐藤清さん、毎韓テレビです、お話を聞かせてください!
 佐藤さん、佐藤清さん、お話を聞かせてください」

 テレビ局1社に1組の取材陣ではなく、番組ごとに来ているようだ。
 更にテレビ局だけでなく、系列の新聞社や雑誌社までいる。

 どれほど非常識で、生活できなくなるほどの取材なのかを証明するために、前もって買っていた機材を利用して、ネットで世界中にライブ配信してやった。

 前回の件から支援してくれている人たちだけでなく、新たに観るようになった人達、ネット配信者が拡散して抗議運動をしてくれた。
 取材を派遣した番組のスポンサー企業に直接抗議してくれた。

 翌日から非常識な時間の訪問は無くなったが、安心はできない。
 しつこく張り付いて、自分のやってきた事は棚に上げて、報復する腐れ外道だ。

 俺は支援してくださる人達にお礼の文章を投稿した。
 顔を隠して、アバターを使ったお礼動画も投稿した。

 同時に、自作の小説も投稿して、PVを稼がせて欲しいとお願いした。
 リョクリュウも手伝ってくれたので、小説を書く時間は確保できた。

 俺はもう、リョクリュウに関して深く考えない事にしていた。
 キーボードを自由自在に操作して、引っ越し先を探すグリーンイグアナを真剣に考えたら、頭がおかしくなる。

 突然変異の進化体か、異世界からやってきたトカゲ型の高等生物が、宇宙の果てからやってきたトカゲ星人か、何でも良い、深くは考えない。
 一緒に鴉と戦った戦友で同居人だと割り切る事にしていた。

「シャ」

 リョクリュウが呼んでいると思ったので、彼が使っているエイトのモニターを見たら、九州某県の田舎暮らし物件が検索されていた。

 4409坪の山林と農地がついている、建坪35・77の5DK物件が298万円で売りに出されていた。

 ポツンと一軒家ではなかったが、それなりの道路に接しているが、背後が深い山なので、誰にも見られる事無くリョクリュウが散歩できそうだった。
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