厄介叔父、山岡銀次郎捕物帳

克全

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第一章

14話

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 銀次郎と笹次郎は、二人前十三両もの高価額な軍鶏鍋を食べた。
 二人が軍鶏鍋を食べているうちに、佐々木の殿様の正体が確認された。
 「軍鶏くらべ」の立会人が教えてくれた事を、下っぴきや子分が走り回って確認してくれた話では、八百石旗本佐々木家の部屋住み佐々木蔵人彌吉だった。
 食事を終えた銀次郎は、二百四十七両を懐に屋敷に戻った。

「銀次郎、すまんな。
 せっかく稼ぎ先ができたのに、俺のために行けなくなってしまった」

「いや、そんな心配は不要だよ。
 廉太郎のお陰で悪い虫が収まった。
 大橋家への借金も返済できた。
 残った金で俺自身が軍鶏鍋屋を始めるのもいい」

 廉太郎の心配も詫びも、銀次郎には不要だった。
 廉太郎のお陰で、博打の悪い虫も治まったし、将来の展望も開けた。
 だから銀次郎が旗本佐々木家屋敷ずっと見張っていた。
 そして五日後の深夜、佐々木蔵人彌吉が槍を手に屋敷を出た。
 その眼は異様な殺気に満ちていた。

 佐々木蔵人は全く周囲を気にする事なく悠々と歩いて行く。
 自身番にも堂々と名乗り、大木戸を抜けていく。
 銀次郎は、一緒に見張っていた笹次郎の下っぴきや子分を走らせて、奉行所の柳川廉太郎と腕に覚えのある手先を急ぎ集めさせた。

「さて、ここまで来ればいもういいだろう。
 さっさと出てこいよ。
 俺は人を殺したくてうずうずしているんだ。
 お前が相手してくれないのなら、その辺の夜鷹を突き殺すぞ」

 佐々木蔵人は大川の土手に至ると、その場で銀次郎を呼びだした。

「ふてぶてしい奴だな。
 自分から辻斬りだと名乗るのか」

「ふん。
 辻斬りではなく戦人だと呼んでもらいたいな。
 それに斬っているのではない、突いているのだよ」

「抵抗できない町人相手に戦人とは笑わせてくれる。
 本当の戦人は町人など狙わん」

「好きに言ってな。
 この世はすべからく戦場よ。
 強い者が好き勝手できる。
 その強さが身分なのか銭なのか腕っぷしなのかの違いだけさ」

 銀次郎と佐々木蔵人は、舌戦を繰り広げながら、足場を固め間合いの取り合いをしていたが、話の途中でいきなり佐々木蔵人が槍を突きだした。
 その速さはまるで稲妻のようで、普通の槍使いでは全く抵抗できずにつき殺されていただろう。
 剣客なら、間合いに入ることもできずに、突き上げられて死んでいただろう。
 それほどの神速の突きだったが、銀次郎には利かなかった。

 銀次郎は槍の手元で佐々木蔵人の突きをいなし、そのまま槍を蛇のようにくねらせ、変幻自在の動きで頭部を叩き、脳漿をまき散らした。
 柳川廉太郎が佐々木家に引き取りを打診したが、佐々木家はそのような者は佐々木家にはいないと言い切り、佐々木蔵人は無縁仏として葬られた。
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