厄介叔父、山岡銀次郎捕物帳

克全

文字の大きさ
上 下
8 / 15
第一章

7話

しおりを挟む
 南町奉行所同心の柳川廉太郎は、心当たりの商家に山岡家の事を話した。
 だが以外に反応が悪かった。
 誰もが幕府の眼を恐れていた。
 いや、恐れているふりをした。
 山岡家が困窮しているのをいいことに、買い叩こうとしていたのだ。

 収入が同じ与力株が千両なのに、旗本同士の相場、百両で買い叩こうしたのだ。
 その時点で柳川廉太郎は自分の不明を思い知った。
 こんな性根の腐った相手では、婿入りしてからの山岡家をどう使うか分からない。
 そこで相手を変えることにした。
 金回りのいい町奉行所与力に話を持っていくことにした。

「銀次郎、すまん。
 軽く話をしたのだが、山岡家を買い叩こうとする者ばかりだった。
 商人も与力も強欲すぎる!」

 廉太郎は酒を飲みながら吐き捨てた。
 銀次郎は黙って聞いていた。
 お峯が作ってくれた追河と川鯥の天婦羅を肴に、軽く一杯飲んでいた。
 常在戦場の銀次郎は決して深酒をしない。
 本当に深酒したいのは、廉太郎ではなく銀次郎であろうに。
 
「なあ、銀次郎よ。
 いっそ中間部屋で賭場を開くか?
 俺達町奉行所が入れないのをいいことに、多くの旗本や公家が屋敷を博徒に貸して賭場を開いている。
 山岡屋敷でも開いたらいいのではないか」

 酔いに任せて廉太郎が銀次郎に思い切ったことを口にする。
 幕府に知られたら、お家取り潰しになりかねない犯罪だ。
 だが勝手向きが苦しいのはどの家も同じだ。
 よほど偏屈な人間が幕閣内で力を持たなければ、小規模な博打開帳は見逃してもらえるのが、今の幕政でもある。

「なあ、廉太郎さん。
 博打場の開帳はともかく、一度博打というものをやってみたい。
 私に才能があれば、博打というもので勝てるのではないか?
 少なくとも胆力が勝ち負けに繋がるのなら、勝てるのではないか?」

「山岡の旦那。
 それはさすがに難しいですぜ。
 博打にはいかさまがつきものなんです。
 胆力があれば必ず勝てるモノではありません。
 一度あっしの知り合いの香具師の親分が開いている賭場にご案内します」

 房総の笹次郎がそう言ってくれるので、銀次郎はその日のうちに賭場に案内してもらうことになった。
 もっともそのせいで、笹次郎の女房お峯はお冠だった。

「大目小目」
一個のサイコロを振って出た目が大目(四・五・六)か小目(一・二・三)かを予想して、どちらかに賭けるという賽子博打。
「丁半賭博」
二個のサイコロを振って出た目が奇数か偶数かを予想して、どちらかに賭けるというサイコロバクチ。
「チョボイチ」
一個のサイコロを振って一から六を予想して、当たれば四倍外れれば没収
「くらべうま」
競馬
「闘鶏」
 軍鶏を戦わせて勝敗に金をかける
「どっこいどっこい」
ルーレットに似たギャンブル
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

紫苑の誠

卯月さくら
歴史・時代
あなたの生きる理由になりたい。 これは、心を閉ざし復讐に生きる一人の少女と、誠の旗印のもと、自分の信念を最後まで貫いて散っていった幕末の志士の物語。 ※外部サイト「エブリスタ」で自身が投稿した小説を独自に加筆修正したものを投稿しています。

鈍亀の軌跡

高鉢 健太
歴史・時代
日本の潜水艦の歴史を変えた軌跡をたどるお話。

【完結】斎宮異聞

黄永るり
歴史・時代
平安時代・三条天皇の時代に斎宮に選定された当子内親王の初恋物語。 第8回歴史・時代小説大賞「奨励賞」受賞作品。

姫様、江戸を斬る 黒猫玉の御家騒動記

あこや(亜胡夜カイ)
歴史・時代
旧題:黒猫・玉、江戸を駆ける。~美弥姫初恋顛末~ つやつやの毛並みと緑の目がご自慢の黒猫・玉の飼い主は大名家の美弥姫様。この姫様、見目麗しいのにとんだはねかえりで新陰流・免許皆伝の腕前を誇る変わり者。その姫様が恋をしたらしい。もうすぐお輿入れだというのに。──男装の美弥姫が江戸の町を徘徊中、出会った二人の若侍、律と若。二人のお家騒動に自ら首を突っ込んだ姫の身に危険が迫る。そして初恋の行方は── 花のお江戸で美猫と姫様が大活躍!外題は~みやひめはつこいのてんまつ~ 第6回歴史・時代小説大賞で大賞を頂きました!皆さまよりの応援、お励ましに心より御礼申し上げます。 有難うございました。 ~お知らせ~現在、書籍化進行中でございます。21/9/16をもちまして、非公開とさせて頂きます。書籍化に関わる詳細は、以降近況ボードでご報告予定です。どうぞよろしくお願い致します。

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

【架空戦記】炎立つ真珠湾

糸冬
歴史・時代
一九四一年十二月八日。 日本海軍による真珠湾攻撃は成功裡に終わった。 さらなる戦果を求めて第二次攻撃を求める声に対し、南雲忠一司令は、歴史を覆す決断を下す。 「吉と出れば天啓、凶と出れば悪魔のささやき」と内心で呟きつつ……。

銀の帳(とばり)

麦倉樟美
歴史・時代
江戸の町。 北町奉行所の同心見習い・有賀(あるが)雅耶(まさや)は、偶然、正体不明の浪人と町娘を助ける。 娘はかつて別れた恋人だった。 その頃、市中では辻斬り事件が頻発しており…。 若い男女の心の綾、武家社会における身分違いの友情などを描く。 本格時代小説とは異なる、時代劇風小説です。 大昔の同人誌作品を大幅リメイクし、個人HPに掲載。今回それをさらにリメイクしています。 時代考証を頑張った部分、及ばなかった部分(…大半)、あえて完全に変えた部分があります。 家名や地名は架空のものを使用。 大昔は図書館に通って調べたりもしましたが、今は昔、今回のリメイクに関してはインターネット上の情報に頼りました。ただ、あまり深追いはしていません。 かつてのテレビ時代劇スペシャル(2時間枠)を楽しむような感覚で見ていただければ幸いです。 過去完結作品ですが、現在ラストを書き直し中(2024.6.16)

狼同心

霜月りつ
歴史・時代
昼間はねぼけた猫のように役に立たない同心・朧蒼十朗。 先輩の世話焼き同心・遠藤兵衛と一緒に遊び人殺害の謎を追う。 そこには互いに素直になれない医者の親子の事情が。 その途中で怪我をさせられた先輩同心。 怒りが夜の朧蒼十朗の姿を変える―――金色の目の狼に。 江戸の闇を駆ける人ならざる同心は人情を喰らうのか。 短気だが気のいい先輩同心と、のんびり後輩同心のバディもの。

処理中です...