上 下
38 / 42
第一章

第38話:秘薬パーフェクトリカバリー

しおりを挟む
「せめて効能だけでの聞かせてもらえませんか、バルド殿」

 製薬ギルドのマスターが真剣な表情で聞いてくる。
 俺の言葉に、よほどの薬だと思ったのだろう。
 まあ、そう思い込ませるように、忍者スキルを使ったのだけどね。
 問題があるとしたら、俺が用意している薬に対してどこまで執着するかだ。
 俺を殺してでも目先の薬を手に入れようとするのか、それとも、犯罪に手を染めてでも、俺を拘束して薬を作り続けさせようとするかだ。

「マスターは伝説の快復魔術、パーフェクトリカバリーを知っていますか」

 俺の言葉を聞いたマスターの表情が困惑に変わった。
 俺が言いたい事、パーフェクトリカバリーを作れるという謎かけに、拭い難い不信感を持ったのだろう。
 それは当然の反応で、シスターに出会う前の俺なら同じ反応をしていた。
 実際に目の前で見ていなければ、そんな魔術があるとは絶対に信じなかった。
 まして同じ効果を表す薬が作れるなんて、絶対に信じなかっただろう。

「ええ、知っていますよ、伝説にはある魔術ですからね」

 話しているうちに、マスターの表情と口調が諦めに変わっていった。
 俺が取引を断るために、わざと大嘘をついたと思っているのだ。
 その気持ちは分かる、痛いほどわかるぞ、マスター。
 素直に諦めてくれるのなら、このまま嘘つきだと思われて別れた方がいい。
 軍資金が補給したい状況でなく、ワイバーン山脈を越えるための隠し街道を見つけたい状況でなければ、そうしていただろう。

「我が家にはその魔術を薬にする秘術が伝わっているのですよ。
 ただ、単なる製薬スキルだけでは作る事ができないので、色々なスキル持ちを抱えるか、必要な素材を作ってもらって仕入れなければいけません。
 その素材を作るための原料も結構特殊なモノなのです。
 この魔境ではなかなか手に入らないので、一個しか作れませんでした。
 ただし、効果は俺の命を懸けて保証しますよ。
 マスターは疑っているようですが、製薬職人として信用は大切ですからね。
 大金貨十枚を払ってくれるお客さんがいるのなら利益折半で売ってもいいですよ」

 マスターがもの凄く悩んでいるのが手に取るように分かる。
 俺の話しは信じられないが、もし本当なら莫大な利益が手に入るのだ。
 今回は仕入れ値を差し引いて折半だから、利益は大金貨四枚半だ。
 だが普通にビシュケル王国から大量に輸入できれば、仕入れ値や途中の経費、入出国の税金を差し引いても、薬一個で同じだけの利益が手に入る。
 いや、効果を確認したあとなら、交渉次第で金貨百枚でも買いたい客がいるはず。

「分かった、私にできる範囲で買いたい人がいるか聞いてみよう。
 だが、そのためにはそれなりの時間がかかる。
 その間はここに残ってもらえないだろうか、バルド殿」

「残念ですが、それはちょっと無理な話ですね。
 急いで実家に帰らなければいけないので、王都を経由してワイバーン山脈添いの街や村を回って、街道の修復ができないか確認する予定なのです。
 ついでに隠し街道がないかも確認して、隠し街道がなければ、イェシュケ皇国とグリンガ王国を経由してビシュケル王国に戻る予定なのです。
 ここに長居する余裕などないのです」

「だったらどうだろう、私も王都の方が金払いのいいお客さんに伝手が多い。
 王都とワイバーン山脈添いの村や街の何処にいるのか教えてくれないか。
 大金貨十枚を払ってもいいお客さんを確保できたら、直ぐに連絡するよ」

「分かりました、王都で使う宿が決まったら連絡します」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

場違いで何が悪い?(ホントの無双をお見せしよう)

アナザー
ファンタジー
現代で全てを失った少年「池田 浩二」 思考を捨てた折に異世界に召喚される。しかし余りの能力値の低さに笑いものにされるが、、、 これは現実で全てを奪われた者の物語である。 家族を失い、 生きる意味を失い、 死を待つだけの存在だった少年。 そんな彼の運命が動き出す。 異世界「アルマフィー」にて

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...