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第一章

第25話:襲撃

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 俺とハインリヒ将軍の取引はとんとん拍子に進んだ。
 盗賊やハインリヒ将軍の敵に襲われることも考えて、予備の物資も買った。
 ハインリヒ将軍に損をさせないように、シルバーリザードやファイアリザードを売った代金に近い買い物をした。
 そうなると、莫大な量の物資になるのだが、すべてハインリヒ将軍の目の前で俺の魔法袋に収納して、オードリーに目が向かないようにした。

 莫大な物資の中でも、特に優先したのが馬車と輓馬だった。
 ファイアリザードなどを手に入れた時でも、馬車四台と輓馬八頭を考えていた。
 シルバーリザードを手に入れられた事で、幌馬車八台と輓馬十六頭に格上げした。
 これで馬車一台に六人から七人の子供たちが乗る事になる。
 子供とはいえ一台の幌馬車に十四人も乗るのは厳しかったのだ。
 だが何も問題がないわけではない、御者の確保が大問題だったのだ。

 輓馬を上手く操って馬車を動かすのは、とても技術がいる事なのだ。
 八台の馬車があれば、最低でも八人の御者が必要になる。
 俺は乗馬も御者もできるが、オードリーに御者ができるのだろうか。
 信用できない者を雇って、物資や馬車を奪われるくらいならいいが、子供たちを人質に取られでもしたら、最悪の事態になる。
 などと悩んでいたのだが、そんな心配は必要なかった。

「大丈夫ですわ、バルド様。
 私は動物と心を通わせるスキルも持っています。
 ちゃんと言い聞かせてあげれば、子供たちの言う通りに動いてくれます。
 子供たちが慌てて馬車の操作を誤るのが心配なら、前の馬車についていくように輓馬に言って聞かせれば、何があってもついてきてくれます」

 信じられない話だが、オードリーが嘘をつくはずがない。
 今まで見てきたスキルの数々だけでも信じられないのに、ここにきて動物を心を通わせて、言う通りに動かす事のできるスキルまで持っているという。
 こんな事が他人に知られたら、特に権力者の知られたら、どのような手段を使ってでもオードリーを手に入れようとずるぞ。
 よく今日まで秘密にできてきたな。

「私は教会にいましたので、礼金の手に入らない神授のスキル確認は、誰も手伝ってくれなかったのです。
 身分の低い助祭や侍祭は、自分たちで神授のスキルを確認するのです」

 スキルの確認を自分だけでやったから、今日まで秘密にできたのか。
 子供たちを護るために、ギリギリの状態に追い込まれる事もあっただろうに、それでも権力者に利用されることを嫌って、我慢してきたのだな。
 こんなスキルを与えられたからこそ、神を信じて教会を出て、孤児たちを助ける決断ができたと考えるのは、俺の性格が悪いからだろうか。

 ★★★★★★

 ハインリヒ将軍が皇国軍として強圧的に命令してくれたので、悪徳商人から強制供出に近い激安の値段で、馬車と輓馬がわずか一日で手に入った。
 国を逃げ出すのに必要な物資も、同じように一日で手に入れることができた。
 だがオードリーが動物と心を通わせられると分かった事で、安全にこの国から出ていく手段が劇的に増えた。
 だからよく訓練された、とても貴重で高価な軍馬と軍用犬を手に入れる事にした。

 オードリーのスキルを活用すれば、購入せずについて来させることも可能だ。
 だがそんな事をしたら、盗賊として追われる可能性が高い。
 不必要な敵を増やす事は、子供たちの安全を考えれば得策ではない。
 動物スキルで操るのは、何も訓練された動物に限らないのだから。
 出会う事さえできたら、野生馬や野犬、狼や虎を味方につける事も可能なのだ。
 その時のために、モンスター肉は売らずに確保しておき、野菜を大量購入した。

「世話になったな、バルド殿。
 これは皇国軍密偵として隣国に入れという命令書だ。
 こっちはそれに伴っての出国許可証だ。
 国境の砦はこれで通過する事ができるだろう。
 無事に隣国に出られる事を願っているよ」

 ハインリヒ将軍が迷宮ダンジョン都市の外まで見送ってくれた。
 軍資金を減らすことなく良質な素材が手に入れられた事で、これからも俺たちを利用する気になってくれたのかもしれないし、元々本気で弱者を助ける気概があるのかもしれない。

 俺は最悪を想定して警戒しているが、それが正しいとは限らない。
 俺の命しか懸かっていないのなら、ハインリヒ将軍がどんな人間か確かめるのもおもしろい人生なのだろうが、俺にも背負ったものがある。
 シスターと子供たちを助ける、これが今の俺の最優先課題だ。

「ああ、ありがとう、ハインリヒ将軍。
 次に会う時にも、いい取引ができればいいと思っているよ」

 俺はそう言ってハインリヒ将軍と別れた。
 八台が連なる馬車列は、俺の乗る馬車を先頭に進む。
 オードリーの馬車が子供たちの馬車を護るために最後尾に位置している。
 いや、盗賊や貴族の襲撃を警戒して、軍馬達がオードリーの更に後ろにいる。
 そして左右の護りは、軍用犬が固めてくれている。

 カタカタという音をたてながら、まったく舗装されていない道を馬車が進む。
 馬車や軍用犬を恐れて野鳥が飛び立つが、直ぐに幌馬車の上に止まる。
 オードリーが野鳥と心を通わせて、見張りを頼んだのだ。
 はるか遠くまで見渡せる視力で、周囲を警戒してくれている。
 少し大型の鴉や鳩は、前後左右に飛び立って警戒してくれる。
 交代で戻ってきて、オードリーに状況を報告をしているようだ。

 オードリーから味方だと言い聞かされているのだろう。
 子供たちが御者台の上にとまった鳥にエサを与えている。
 優しい笑顔を浮かべながら、雀や椋鳥に雑穀を与えて可愛がっている。
 今までは食べる事が優先で、動物をかわいがることなどできなかったのだろう。
 初めてできたペットに、戸惑いながらも愛情を注ごうとしている。
 このまま優しさと強さを備えた大人に育って欲しいな。

 ★★★★★★

 迷宮ダンジョン都市を出てから四日間は安全だった。
 街や村に立ち寄るのは危険なので、すべて野営して馬車の中で眠った。
 オードリーの動物スキルがあるので、怖いのは猛獣ではなく人間の方だ。
 だから盗賊や貴族の襲撃を警戒して、子供たちに夜の見張りをさせた。
 俺やオードリーのスキルがあれば、子供たちに見張りをさせる必要はない。
 だが、子供たちのためには色々な経験をさせておいた方がいい。

 これは俺だけの考えではなく、オードリーの考えでもある。
 俺やオードリーに不測の事態が起きた時のためにも、できるだけ早く子供たちを一人前にした方がいいのだ。
 この世界ではなにが起こるか分からない。
 忍者スキルやオードリーのスキルを上回る敵に襲われる可能性もあれば、不測の危険に遭遇する可能性も皆無ではないのだ。

「バルド様、何者かが近づいてきます」

 オードリーが声をかけてきた。
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