バディという謎スキルしか神授されず魔力もなく、王女との婚約を破棄され公爵家を追放され平民に落とされ、冒険者になったら囮にされました。

克全

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第一章

第22話:加護と耐性

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「ヒィイイイイイ、助けて、助けてくれ、ギャアアアアア」

 賄賂をもらって、実力もない冒険者に狩りの許可を出した監督役が焼かれている。
 ファイアラットの火炎攻撃を受けて、身体を焼かれて悶え苦しんでいる。
 もっと強力な火炎攻撃を使うモンスターなら、楽に死ねただろう。
 だがファイアラットの火炎攻撃だと、全身大火傷で苦しむことになる。
 体表を焼かれた激痛と、息をするたびに咽を焼かれた激痛に苦しむ。
 肺を焼かれているなら、呼吸困難の苦しみも伴うのだ。

 だが、自業自得だから同情する気にはならない。
 それより自分が生きてこの窮地を抜けだすことが大切だ。
 俺の装備している革鎧は、表面以外の場所に幾種類もの魔獣の皮が使われている。
 あらゆる攻撃に対する加護を得るために、多くの皮を使っているのだ。
 木、火、土、金、水の加護と耐性を持つ皮を集めて、敵のスキル攻撃に備えるのが大貴族のたしなみともいえる。

 圧倒的な戦力と経済力を持つノルベルト公爵家でも、すべての属性に備えて皮を準備する事はとても難しい。
 それも最高級の皮となると、普通は手に入らない。
 ファイアラットは比較的手に入り易い、加護も耐性も低い皮ではあるが、それでも結構な大金で買い取ってもらえる。
 十数頭全て狩ることができたら、馬車と輓馬を購入できるかもしれない。

「すごい、凄い、凄い。
 ほとんど手傷を負うことなく、ソロでファイアラットを十数頭も狩るなんて。
 トップ冒険者パーティーより実力があるんじゃないか!」

 お調子者の冒険者がバカな事を口にする。
 そんな事を皇国軍と一緒に最前線に立っている冒険者に聞かれたら、意地悪をされるくらいならいいが、下手をしたら闇から闇に葬られるぞ。
 ダンジョンに入ったら無法地帯だと言う事も分かっていないのか。
 それとも、俺におべっかを言ってお零れを手に入れる気か。
 俺はそんなに甘くない、というか、阿諛追従の輩が大嫌いなのだぞ。

「シスター、そろそろ気をつけた方がいい。
 今回はバカがモンスターを連れてきたが、次はモンスターが不意討ちする可能性もあるから、子供たちに交代で見張りをさせるんだ」

 俺は事前に打ち合わせていた通りの事をシスターに話しかけた。
 別に本当に子供たちに見張りをさせる訳ではない。
 それくらい気をつけていると、周りの冒険者たちに知らしめるためだ。
 結構な大金で売れるファイアラットの素材が十七頭分もあるのだ。
 頭の悪い冒険者の中には、寝込みを襲って奪おうとする奴がいるかもしれない。
 盗もうとする程度なら、殺されることはないと高をくくっている奴が必ずいる。

「もし俺たちの野営地に近づくようなモンスターがいたら、相手を確認せずに攻撃して子供たちを護るんだ。
 事前に用意している猛毒があるから、相手がファイアリザードやシルバーリザードでも斃せるはずだ」

 俺の言外の言葉、同じ冒険者であろうと、盗みのために近づく奴は毒殺する。
 それを理解した盗みを考えていた連中は、顔を青ざめさせている。
 孤児を助け育てるようなシスターなら、盗みに失敗しても許される。
 そんな甘い考えをしていた連中も、俺の言葉には恐れを抱いたようだ。
 ファイアラット十七頭をソロで狩った人間が、自分の成果を奪う奴は絶対に許さないと宣言したのだからな。

 ★★★★★★

「貴君らにはとても悪い事をしたと思っている。
 私の目が曇っていたせいで、とても危険な目にあわせてしまった。
 もし次の監督官も賄賂を受け取るようなら、直ぐに報告してくれ。
 俺がこの手で成敗してくれる」

 ファイアラットの攻撃に巻き込まれた翌日、ハインリヒ将軍が最前線からやって来て、生き残った俺たちに頭を下げて詫びた。
 副官や軍幹部は苦々しい顔をしているが、当然の事だと思う。
 この国の王侯貴族や権力者なら、自分の失敗を詫びる事などないのだろう。
 特に配下のやった事を詫びるなどありえないのだろう。
 だが俺の常識で言えば、誇り高い貴族なら自分の配下の罪は謝るべきなのだ。

「バルド殿、貴殿の働きには心から感謝している。
 貴殿のお陰で、皇国軍に協力してくれている冒険者たちの被害を最小限にできた。
 これからも助力して頂ければありがたい」

 臭い芝居をしてくれるが、そんな手には乗らない。
 この国をよくするためにやっているのだとしても、乗せられてやる義理などない。
 俺にはシスターと子供たちを助ける義務と責任がある。
 他国の人間であろうと、貴族や騎士には女子供を護る義務と責任があるのだ。
 性根が腐った女子供なら見捨てるが、オードリーたちは見捨てられない。

 だが、この国のために働く義務などない。
 この国を立て直したいのなら、成人の男がやればいい。
 一万人もの兵士を預けられた人間がまずは命懸けで働くべきだ。
 その一環で俺やシスターたちを取り込む気なのかもしれないが、それに従わなければいけない義務もなければ義理もない。

「俺にそんな気は全くない。
 俺は自分が一番大切で、次がパーティー仲間だ。
 アンタだって赤の他人のためではなく、戦友のために戦うのだろう。
 自分を取立ててくれた皇帝陛下のために戦うのだろう。
 国にも皇帝陛下にも見捨てられ、最底辺の冒険者として生きている俺が、アンタに協力しなければいけない理由がどこにある。
 国にも皇帝陛下にも見捨てられ、野垂れ死にするところをシスターに助けられた子供たちにも、誰も助けも借りられずに一人で孤児を養っていたシスターにも、アンタに命懸けで協力する義務があるのか」

 俺の言葉に、副官や軍幹部は怒りの表情浮かべているが、冒険者たちは違う。
 ハインリヒ将軍に乗せられていたが、ようやく正気を取り戻したようだ。
 自分たちの生きてきた月日を思い出せば、将軍の身勝手さが分かったのだ。
 冒険者たちは、国や皇帝に助けられた覚えなどひとかけらもないだろう。
 今自分たちが身の丈に合わない危険な深さまで潜っているのも、お貴族様の身勝手な命令のせいで、将軍もその一味だと言う事を。

「バルド殿の言う通りだ、身勝手な事を言って申し訳なかった。
 従軍してくれて、物資運搬と後方警戒をしてくれるだけでもありがたい話しだ。
 私に力があれば、貴族の横暴から君たちを守る事ができたのだろうが、まだ今の俺にはそれほどの力はないのだ。
 申し訳ないが、シルバーリザードを狩るまで手伝って欲しい」

 ハインリヒ将軍が深々と頭を下げて謝っている。
 自分の名声を護るための戦略的撤退をしたようだ。
 これから国を奪う気なら、名声を失うわけにはいかないだろうからな。
 皇帝の忠臣として国を改革する気でも、名声はとても大切だしな。
 人心掌握能力もあり、機を見る能力もあるのだろう。

「分かったとは言えないが、金がたまるまではつき合わせてもらう。
 この国から逃げ出すには、馬車と輓馬が必要だからな」

 さて、この国から逃げると公言したら、誰がどう動くのだろうな。
 将軍が俺たちを引き留めて利用すようとして動くのか。
 それとも将軍を自殺させるために、敵対勢力が俺たちを殺そうとするのか。
 争いを激しくしてオードリーたちを危険にさらしたくはないのだが、ここはきっぱりと断るしか方法がなかった。
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