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第一章
第2話:神授のスキル
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俺の嫌な予感は二つあった。
一つは神授のスキルが得られずに公爵家を追放されるというモノ。
もう一つは、シャルロッテ王女の夫となり、地獄の日々の後で殺されるモノ。
今日はその第一関門である神授の儀式だった。
公爵家を追放されるのと、王女の夫になるのと、どちらが最悪なのか。
「バルド、何も心配しなくていいのだぞ」
父上が最悪の予想に心を痛める俺を慰めてくれる
「そうですよ、バルド。
例えどれほど悪いスキルが与えられようと、平民に与えられるようなスキルであろうと、旦那様も私も、いえ、お義父様も、貴男を見捨てたりはしませんよ。
公爵家を継ぐことができない事はあっても、私たちが必ず護りますよ」
母上が俺の最悪の予想を払拭してくれる。
「そうですよ、兄上。
もし兄上が農民のスキルを与えられるような事があっても、公爵の位を継げなくなっても、私がいるではありませんか。
御爺様はもちろん、父上も私も兄上を追放したりはしません。
そん代わり、私が酷いスキルを授かることがあっても、家を追い出さないでくださいね、兄上」
弟のゲイリーがそう言ってにっこりと笑ってくれた。
両親に続いて弟にまで優し言葉をかけてもらえて、思わず涙が流れそうになった。
それでなくても多感な少年期なのだ。
それに加えて涙もろい老人の頃の記憶が鮮明に残っているのだ。
公爵家の嫡孫として泣いてはいけないと分かっているのに、泣いてしまった。
まだ神授の儀式の事がよく分からない次弟のオテニオは、目を白黒している。
「ありがとうございます、父上、母上、ゲイリー。
何があっても心を強く持って生きていく事を誓います。
万が一公爵に相応しくないスキルを授かったとしても、落ち込んだりはしません。
陰から公爵家の力になれるように頑張ります」
俺はそう言って両親と弟に安心してもらおうとした。
この世界に転生して十四年、とても家族愛に恵まれている。
ここにいる両親や弟達だけでなく、御爺様からも惜しみない愛情を注がれている。
公爵家の嫡孫だから大切にされている訳ではない事は、ゲイリーやオテニオが俺と同じように愛情を注がれている事からも明らかだ。
いや、外れスキルを与えられた大叔父たちや叔父たちも大切にされているから、俺や弟たちが孫だからとか、神授前だからとかで大切にされているわけでもない。
俺が調べた範囲では、外れスキルを授かった親族で追放された者は誰もいない。
もし俺が外れスキルを授かったとしても、大丈夫だと思う事ができる。
まあ、それでも、心配性の本性が変えられるわけもないのだけれど。
「クリス殿、バルド殿をご案内させていただいて宜しいでしょうか?」
王都大神殿のロビン枢機卿が父上に声をかけてきた。
ロビン枢機卿は、この国のある全ての教会を支配している大権力者だ。
公爵家当主の御爺様であろうと、理由もなく敵に回せないくらいの力がある。
だから公爵家の公子である父上にも、対等の立場で話してくる。
金の亡者が、領民を想い真っ当な領地経営をする父上に対等の口を利く。
とても腹立たしい事だが、それがこの世界の現実だ。
「はい、大丈夫です、ロビン枢機卿殿」
父上が下手に出た事で満足したのだろう。
ロビン枢機卿がいやらしい笑みを受けべて俺に話しかけてきた。
「ではバルド殿、神授の間にご案内しましょう」
形だけ丁寧な言葉遣いはしているが、全然心が籠っていない。
ロビン枢機卿は慇懃無礼の見本のような人間だ。
まあ、教会には階級があり、庶民の神授はよくて司祭、普通は助祭が務める。
国に一人しかいない枢機卿が対応すること自体が、特別待遇なのだ。
上級貴族でも大司教が対応するのが普通なのだ。
例え高額な礼金が目的であろうと、枢機卿が案内してくれる事は特別なのだ。
神授のスキルは基本秘密にされるモノだ。
だが仕事に就く時、特に王家や貴族家に仕える時には見せる事になる。
公爵家も王家に仕えているという建前なので、王家には報告しなければいけない。
しかし無理矢理公開させられるような事はない。
だから基本教会の担当者以外は、例え親兄弟でも神授の儀式に同行しないのだ。
「こちらでございます、バルド殿」
長い廊下をロビン枢機卿に先導されて連れてこられたのは、豪華な部屋だった。
豪華とはいっても、これ見よがしに金をかけた部屋ではない。
目立たないように上品に大金をかけてある部屋だ。
ただ女神様を似せた神像だけは、見る眼のない大貴族にも分かるようにしているのか、とても目立つ黄金製になっている。
「では神に『スキルを授けてください』と心から祈ってください」
金の亡者と噂されるロビン枢機卿に言われるのは腹立たしいが、神を金や権力を手に入れる事に利用するのは人間の愚かさであって、神の責任ではない。
それくらいの事は理解しているので、俺は真摯に神に祈り願った。
家族や公爵家の領民を護るために力が欲しいと、真剣に祈った。
「な、これは、一体どういうスキルのなのだ?!」
はい?
俺は一体どんなスキルを授かったのだ?!
「教会の階級」
教皇 :大陸中の教会を支配する大権力者
枢機卿:一国に一人しかいない、国内の教会を支配する権力者
大司教:国をいくつかに分けた大管区を支配する権力者
司教 :大管区内にある小さな管区を支配する権力者
大司祭:小管区内にある大きな教会や神殿を支配する権力者
司祭 :小管区内にある小さな教会や神殿を支配する権力者
助祭 :司祭を助けて教会を運営する、ごく小さな自営教会を営む場合もある。
侍祭 :教会の雑用や警備を行う者、聖堂騎士団員など
一つは神授のスキルが得られずに公爵家を追放されるというモノ。
もう一つは、シャルロッテ王女の夫となり、地獄の日々の後で殺されるモノ。
今日はその第一関門である神授の儀式だった。
公爵家を追放されるのと、王女の夫になるのと、どちらが最悪なのか。
「バルド、何も心配しなくていいのだぞ」
父上が最悪の予想に心を痛める俺を慰めてくれる
「そうですよ、バルド。
例えどれほど悪いスキルが与えられようと、平民に与えられるようなスキルであろうと、旦那様も私も、いえ、お義父様も、貴男を見捨てたりはしませんよ。
公爵家を継ぐことができない事はあっても、私たちが必ず護りますよ」
母上が俺の最悪の予想を払拭してくれる。
「そうですよ、兄上。
もし兄上が農民のスキルを与えられるような事があっても、公爵の位を継げなくなっても、私がいるではありませんか。
御爺様はもちろん、父上も私も兄上を追放したりはしません。
そん代わり、私が酷いスキルを授かることがあっても、家を追い出さないでくださいね、兄上」
弟のゲイリーがそう言ってにっこりと笑ってくれた。
両親に続いて弟にまで優し言葉をかけてもらえて、思わず涙が流れそうになった。
それでなくても多感な少年期なのだ。
それに加えて涙もろい老人の頃の記憶が鮮明に残っているのだ。
公爵家の嫡孫として泣いてはいけないと分かっているのに、泣いてしまった。
まだ神授の儀式の事がよく分からない次弟のオテニオは、目を白黒している。
「ありがとうございます、父上、母上、ゲイリー。
何があっても心を強く持って生きていく事を誓います。
万が一公爵に相応しくないスキルを授かったとしても、落ち込んだりはしません。
陰から公爵家の力になれるように頑張ります」
俺はそう言って両親と弟に安心してもらおうとした。
この世界に転生して十四年、とても家族愛に恵まれている。
ここにいる両親や弟達だけでなく、御爺様からも惜しみない愛情を注がれている。
公爵家の嫡孫だから大切にされている訳ではない事は、ゲイリーやオテニオが俺と同じように愛情を注がれている事からも明らかだ。
いや、外れスキルを与えられた大叔父たちや叔父たちも大切にされているから、俺や弟たちが孫だからとか、神授前だからとかで大切にされているわけでもない。
俺が調べた範囲では、外れスキルを授かった親族で追放された者は誰もいない。
もし俺が外れスキルを授かったとしても、大丈夫だと思う事ができる。
まあ、それでも、心配性の本性が変えられるわけもないのだけれど。
「クリス殿、バルド殿をご案内させていただいて宜しいでしょうか?」
王都大神殿のロビン枢機卿が父上に声をかけてきた。
ロビン枢機卿は、この国のある全ての教会を支配している大権力者だ。
公爵家当主の御爺様であろうと、理由もなく敵に回せないくらいの力がある。
だから公爵家の公子である父上にも、対等の立場で話してくる。
金の亡者が、領民を想い真っ当な領地経営をする父上に対等の口を利く。
とても腹立たしい事だが、それがこの世界の現実だ。
「はい、大丈夫です、ロビン枢機卿殿」
父上が下手に出た事で満足したのだろう。
ロビン枢機卿がいやらしい笑みを受けべて俺に話しかけてきた。
「ではバルド殿、神授の間にご案内しましょう」
形だけ丁寧な言葉遣いはしているが、全然心が籠っていない。
ロビン枢機卿は慇懃無礼の見本のような人間だ。
まあ、教会には階級があり、庶民の神授はよくて司祭、普通は助祭が務める。
国に一人しかいない枢機卿が対応すること自体が、特別待遇なのだ。
上級貴族でも大司教が対応するのが普通なのだ。
例え高額な礼金が目的であろうと、枢機卿が案内してくれる事は特別なのだ。
神授のスキルは基本秘密にされるモノだ。
だが仕事に就く時、特に王家や貴族家に仕える時には見せる事になる。
公爵家も王家に仕えているという建前なので、王家には報告しなければいけない。
しかし無理矢理公開させられるような事はない。
だから基本教会の担当者以外は、例え親兄弟でも神授の儀式に同行しないのだ。
「こちらでございます、バルド殿」
長い廊下をロビン枢機卿に先導されて連れてこられたのは、豪華な部屋だった。
豪華とはいっても、これ見よがしに金をかけた部屋ではない。
目立たないように上品に大金をかけてある部屋だ。
ただ女神様を似せた神像だけは、見る眼のない大貴族にも分かるようにしているのか、とても目立つ黄金製になっている。
「では神に『スキルを授けてください』と心から祈ってください」
金の亡者と噂されるロビン枢機卿に言われるのは腹立たしいが、神を金や権力を手に入れる事に利用するのは人間の愚かさであって、神の責任ではない。
それくらいの事は理解しているので、俺は真摯に神に祈り願った。
家族や公爵家の領民を護るために力が欲しいと、真剣に祈った。
「な、これは、一体どういうスキルのなのだ?!」
はい?
俺は一体どんなスキルを授かったのだ?!
「教会の階級」
教皇 :大陸中の教会を支配する大権力者
枢機卿:一国に一人しかいない、国内の教会を支配する権力者
大司教:国をいくつかに分けた大管区を支配する権力者
司教 :大管区内にある小さな管区を支配する権力者
大司祭:小管区内にある大きな教会や神殿を支配する権力者
司祭 :小管区内にある小さな教会や神殿を支配する権力者
助祭 :司祭を助けて教会を運営する、ごく小さな自営教会を営む場合もある。
侍祭 :教会の雑用や警備を行う者、聖堂騎士団員など
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