37 / 47
第一章
第37話:初の謁見と交渉
しおりを挟む
「おお、そうだ、住む場所だが、城内にある部屋を自由に使うが良い。
何なら貴族街に空屋敷を買ってくれても構わないぞ」
国王陛下は、私たちが国を捨てる事を考えていたのを、知っておられるようです。
私たちの話を直接聞くのは、優秀な密偵が沢山いても無理です。
陛下か側近が、私たちの立場に立って、自分たちならどうするか考えられたのでしょうが、油断なりません。
「度々質問させて頂くのは失礼だと重々承知しているのですが、パーティーを組んでいる従者や領民をどうすれば良いのか心配でなりません。
我が家は代々領民を守る事を誇りとしてきました。
ダンジョン騎士に叙君されたからと言って見捨てられません」
「うむ、領地持ち騎士らしい誇り高い言葉を聞けてうれしく思う。
余も従者や領民を見捨てろとは申さん。
城内の部屋に連れて来る事は許せんが、貴族街の屋敷で使う分には自由だ」
やれ、やれ、手に入れた宝物で屋敷を買えという遠回しな命令ですか。
「承りました、空いている屋敷を教えていただければ幸いです」
「右大臣が資料を用意しているから見ていくがいい。
今日はよく来てくれた、ダンジョン騎士への指導は明日からでいいぞ」
「はい、過分なご配慮、心から感謝いたします」
ソフィアとアーサーにもダンジョン騎士の地位をくれるかと思いましたが、意外とケチなのかもしれません。
まあ、与えると言われても、領内で1番の猟師を目指しているソフィアは迷惑だと言うでしょうし、母親を大切にしているアーサーもいらないと言うでしょう。
右大臣と名乗った中年男性に空いている屋敷の地間取り図を見せてもらいました。
本気で買う気があるのなら、現物の屋敷を見せてもらいます。
ですが、まだ買う気がないので間取り図だけです。
王都の中にある王城は小さいですが、三重の構造になっています。
本丸は国王陛下とご家族の居住空間になっています。
二ノ丸が王族と独身ダンジョン騎士に部屋、政務空間になっています。
三ノ丸の中に貴族街があり、ダンジョンへの出入口もあります。
王都に住む領地持ち騎士家の家族や、王族から外れて伯爵位をもらった貴族が住んでいます。
我が家は王都での栄達など望まず、貴族街に屋敷を買うくらいなら領地の開発にお金を使ってきました。
叔父や叔母たちだけでなく、代々の一族も、分家しない限り、貴族街に屋敷を持とうとは考えもしていませんでした。
代々の国王陛下に望まれない限り、ダンジョン騎士に成るよりも、領地に戻って猟師として生きる道を選んできました。
だから、貴族位は失いましたが、領民はグリフィス騎士家の一族でもあるのです。
ソフィアがずば抜けた魔力量を持つのも、私と同じような技が使えるのも、多くの属性を持っているのも、それが原因なのかもしれません。
「ソフィア、アーサー、私たちは12歳の義務を終えた事になりました」
国王陛下がつけてくれた護衛、叔父や叔母たちと共に高級宿に戻った私は、王城で起きた事を全て話しました。
「12歳の義務が終わったのなら、私たちだけ領地に戻っても良いんじゃない?」
ソフィアがアーサーに領地に戻ろうと誘います。
少しでも早く領地に戻って魔境で狩りがしたいのでしょうが、領民全員で他国に逃げようと言っていたのを、都合よく忘れたのですか?
「僕も領地に戻りたいですが、ハリー様を置いて戻れません。
戻ったらお母さんに怒られてしまいます」
ここは嘘でも忠誠心のために戻れないと言う所ですよ。
正直は大切ですが、時には嘘も必要なのです。
「悪いですが、王家に仕えるダンジョン騎士に完全殺を教えるまで待ってください。
2人も宝物は持って帰りたいでしょう?」
「12歳の義務で王都にいなければいけないのなら、少しでも宝物を手に入れたいと思うけれど、領地に戻れるのならそれほど思わない」
「僕はお母さんに楽をさせてあげたいので、もう少し宝物を手に入れたいです」
「しかたないわね、1人で家に帰るのは危険だし、宝物はあっても腐らないし、アーサーが残るのなら私も残るわ」
「2人がそう言ってくれて助かりました、では、早速ダンジョンに潜りましょう」
「そうね、どうせ残るのなら稼げるだけ稼がないとね!」
「明日からダンジョン騎士の方々に教えるのではなかったのですか?
今日狩りをしてしまったら、体力的に辛くありませんか?」
「指導が決まったのなら少しでも早くやってしまいたいのです。
幸い叔父上や叔母上たちが護衛を務めてくれる事になりました
このまま直ぐにダンジョンに潜って武器を持ち帰り、他のダンジョン騎士には、有無を言わさず荷物係をして頂きます」
「手に入れた宝物はどうするの?」
「叔父上や叔母上たちの保管していただきます。
その後も荷物係をしてくれたダンジョン騎士たちに保管させます。
嫌と言うほど実力を見せつけたら、盗もうとは思わないでしょう」
「それは良いわね、あの人たちならハリーを裏切る事はないし、最初に技を教えるには最適の人たちね」
「僕もそう思います、お二人は結婚されていますから、旦那様の方が家を守っていてくださるでしょう?」
「叔母上たちの旦那さんを利用するのは気が引けますが、盗まれて笑って許せる安い物ではありませんから、ここは我慢してもらうしかありません」
「ねえ、行くと決まったらさっさと行こうよ!」
ソフィアに急かされて、私たち3人は直ぐにダンジョンに潜りました。
今回は3人だけでなく、叔父や叔母たち5人が加わっています。
ダンジョン騎士が5人もいるので、付き纏う冒険者たちを気にする必要がなくなりました。
いえ、それ以前に、国王陛下が技の他言無用と国禁を命じられたのです。
逆らえば問答無用で処刑されます。
ダンジョン騎士に叙勲されなかった冒険者たちでは、ダンジョン騎士に逆らって技を試す気にはならないでしょう。
私たち8人は姿を隠す魔術を使わず堂々とダンジョンに入りました。
もう12歳の義務を果たしたので、冒険者組合に届ける必要もありません。
ダンジョン騎士は勤務時間以外に手に入れた宝物を全て私有できます。
……明日からの指導は勤務時間になるのでしょうか?
ダンジョン騎士ではないソフィアとアーサーはどのように扱われるのでしょうか?
冷静な心算でいましたが、国王陛下との初めての謁見と交渉に舞い上がっていたようで、肝心な事を忘れていました。
しかたありません、向こうが何も言ってこなかったのです、こちらに都合の良いように解釈しておいて、文句を言ってきたらちゃんと税金分払いましょう。
何なら貴族街に空屋敷を買ってくれても構わないぞ」
国王陛下は、私たちが国を捨てる事を考えていたのを、知っておられるようです。
私たちの話を直接聞くのは、優秀な密偵が沢山いても無理です。
陛下か側近が、私たちの立場に立って、自分たちならどうするか考えられたのでしょうが、油断なりません。
「度々質問させて頂くのは失礼だと重々承知しているのですが、パーティーを組んでいる従者や領民をどうすれば良いのか心配でなりません。
我が家は代々領民を守る事を誇りとしてきました。
ダンジョン騎士に叙君されたからと言って見捨てられません」
「うむ、領地持ち騎士らしい誇り高い言葉を聞けてうれしく思う。
余も従者や領民を見捨てろとは申さん。
城内の部屋に連れて来る事は許せんが、貴族街の屋敷で使う分には自由だ」
やれ、やれ、手に入れた宝物で屋敷を買えという遠回しな命令ですか。
「承りました、空いている屋敷を教えていただければ幸いです」
「右大臣が資料を用意しているから見ていくがいい。
今日はよく来てくれた、ダンジョン騎士への指導は明日からでいいぞ」
「はい、過分なご配慮、心から感謝いたします」
ソフィアとアーサーにもダンジョン騎士の地位をくれるかと思いましたが、意外とケチなのかもしれません。
まあ、与えると言われても、領内で1番の猟師を目指しているソフィアは迷惑だと言うでしょうし、母親を大切にしているアーサーもいらないと言うでしょう。
右大臣と名乗った中年男性に空いている屋敷の地間取り図を見せてもらいました。
本気で買う気があるのなら、現物の屋敷を見せてもらいます。
ですが、まだ買う気がないので間取り図だけです。
王都の中にある王城は小さいですが、三重の構造になっています。
本丸は国王陛下とご家族の居住空間になっています。
二ノ丸が王族と独身ダンジョン騎士に部屋、政務空間になっています。
三ノ丸の中に貴族街があり、ダンジョンへの出入口もあります。
王都に住む領地持ち騎士家の家族や、王族から外れて伯爵位をもらった貴族が住んでいます。
我が家は王都での栄達など望まず、貴族街に屋敷を買うくらいなら領地の開発にお金を使ってきました。
叔父や叔母たちだけでなく、代々の一族も、分家しない限り、貴族街に屋敷を持とうとは考えもしていませんでした。
代々の国王陛下に望まれない限り、ダンジョン騎士に成るよりも、領地に戻って猟師として生きる道を選んできました。
だから、貴族位は失いましたが、領民はグリフィス騎士家の一族でもあるのです。
ソフィアがずば抜けた魔力量を持つのも、私と同じような技が使えるのも、多くの属性を持っているのも、それが原因なのかもしれません。
「ソフィア、アーサー、私たちは12歳の義務を終えた事になりました」
国王陛下がつけてくれた護衛、叔父や叔母たちと共に高級宿に戻った私は、王城で起きた事を全て話しました。
「12歳の義務が終わったのなら、私たちだけ領地に戻っても良いんじゃない?」
ソフィアがアーサーに領地に戻ろうと誘います。
少しでも早く領地に戻って魔境で狩りがしたいのでしょうが、領民全員で他国に逃げようと言っていたのを、都合よく忘れたのですか?
「僕も領地に戻りたいですが、ハリー様を置いて戻れません。
戻ったらお母さんに怒られてしまいます」
ここは嘘でも忠誠心のために戻れないと言う所ですよ。
正直は大切ですが、時には嘘も必要なのです。
「悪いですが、王家に仕えるダンジョン騎士に完全殺を教えるまで待ってください。
2人も宝物は持って帰りたいでしょう?」
「12歳の義務で王都にいなければいけないのなら、少しでも宝物を手に入れたいと思うけれど、領地に戻れるのならそれほど思わない」
「僕はお母さんに楽をさせてあげたいので、もう少し宝物を手に入れたいです」
「しかたないわね、1人で家に帰るのは危険だし、宝物はあっても腐らないし、アーサーが残るのなら私も残るわ」
「2人がそう言ってくれて助かりました、では、早速ダンジョンに潜りましょう」
「そうね、どうせ残るのなら稼げるだけ稼がないとね!」
「明日からダンジョン騎士の方々に教えるのではなかったのですか?
今日狩りをしてしまったら、体力的に辛くありませんか?」
「指導が決まったのなら少しでも早くやってしまいたいのです。
幸い叔父上や叔母上たちが護衛を務めてくれる事になりました
このまま直ぐにダンジョンに潜って武器を持ち帰り、他のダンジョン騎士には、有無を言わさず荷物係をして頂きます」
「手に入れた宝物はどうするの?」
「叔父上や叔母上たちの保管していただきます。
その後も荷物係をしてくれたダンジョン騎士たちに保管させます。
嫌と言うほど実力を見せつけたら、盗もうとは思わないでしょう」
「それは良いわね、あの人たちならハリーを裏切る事はないし、最初に技を教えるには最適の人たちね」
「僕もそう思います、お二人は結婚されていますから、旦那様の方が家を守っていてくださるでしょう?」
「叔母上たちの旦那さんを利用するのは気が引けますが、盗まれて笑って許せる安い物ではありませんから、ここは我慢してもらうしかありません」
「ねえ、行くと決まったらさっさと行こうよ!」
ソフィアに急かされて、私たち3人は直ぐにダンジョンに潜りました。
今回は3人だけでなく、叔父や叔母たち5人が加わっています。
ダンジョン騎士が5人もいるので、付き纏う冒険者たちを気にする必要がなくなりました。
いえ、それ以前に、国王陛下が技の他言無用と国禁を命じられたのです。
逆らえば問答無用で処刑されます。
ダンジョン騎士に叙勲されなかった冒険者たちでは、ダンジョン騎士に逆らって技を試す気にはならないでしょう。
私たち8人は姿を隠す魔術を使わず堂々とダンジョンに入りました。
もう12歳の義務を果たしたので、冒険者組合に届ける必要もありません。
ダンジョン騎士は勤務時間以外に手に入れた宝物を全て私有できます。
……明日からの指導は勤務時間になるのでしょうか?
ダンジョン騎士ではないソフィアとアーサーはどのように扱われるのでしょうか?
冷静な心算でいましたが、国王陛下との初めての謁見と交渉に舞い上がっていたようで、肝心な事を忘れていました。
しかたありません、向こうが何も言ってこなかったのです、こちらに都合の良いように解釈しておいて、文句を言ってきたらちゃんと税金分払いましょう。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!
克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。
桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。
山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。
そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。
するとその人は優しい声で言いました。
「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」
その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。
(この作品はほぼ毎日更新です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる