少年騎士

克全

文字の大きさ
上 下
17 / 47
第一章

第17話:大発見

しおりを挟む
 今日も29階まで一気に潜りました。
 途中で合図してくれるベテラン冒険者がいるのには少々驚きました。
 マナーを守っているからなのか、思っていた以上に早く受け入れてもらえました。

 29階では、できるだけ他の冒険者と出会わない狩場を選びました。
 私たちが発見した効率的な狩り方を知られたくなかったからです。

 ですが、そんな考えは通用しませんでした。
 ベテラン冒険者の目は誤魔化せなかったようです。
 6組のパーティーが、私たちの側で狩りをしようとするのです。

「流石に抜け目ないわね」

「そうですね、僕たちの狩り方を確かめる気ですね、どうされますか?」

「知られても直ぐに真似ができるとは思えないですが、ずっとつきまとわれるのは嫌ですから、予定を変更して潜れるだけ潜りますよ」

「やったね、これで鈦剣に近づける」

「仕方がない事だとは思いますが、安全最優先でお願いします」

 ベテラン冒険者たちも、あまりに露骨に近づかないです。
 私たちに対するルール違反やマナー違反にならないようにしています。
 この点は私が騎士家の嫡男である事が効いているのでしょう。

 かなり離れて後をついてくる5組のパーティーを引き連れて30階に潜りました。
 マナー違反にならない範囲で、他の冒険者が狩りをしている近くを通りました。

 これで5組のパーティーが私たちに付き纏っている事が広まります。
 正義感の強い冒険者が間に入ってくれればいいのですが……
 30階では10回狩りをして31階に下りました。

 31階でも、マナー違反にならない範囲で、他の冒険者が狩りをしている近くを通りました。
 10回狩りをするのも同じで、安全を確認してから次の32階に下りました。

 32階でも、マナー違反にならない範囲で、他の冒険者が狩りをしている近くを通りました。
 10回狩りをするのも同じで、安全を確認してから次の33階に下りました。

 40階に下りた時には誰もついて来なくなりました。
 40階まで潜る実力がないのか、目撃者が多過ぎて、他の冒険者にマナー違反を指摘されるのを恐れたのか、どちらかでしょう。

「根性ないなぁ、これくらいで諦めるなら最初からやらなきゃいいのに」

「そうですね、あまりにも情けなさ過ぎますね」

「ここなら誰にも見られないので、今日は40階で狩りをします。
 また側に寄って来るパーティーが現れたら、41階に移動します」

「了解」

「分かりました」

 40階は29階とはがらりと変わっています。
 どの階でも10回確かめてから下りていますので、モンスターを瞬殺できるのは変わりませんが、多少は時間がかかるようになっています。

 その理由は、1度に12頭のモンスターが現われてしまうからです。
 急所を狙って1撃で倒したとしても、3人で4回瞬殺させないといけません。
 それもはるかに強くなったモンスターを相手にです。

 もうゴブリンは出なくなっています。
 ホブゴブリンが12頭の群れで出てくるのです。
 しかも棍棒ではなく鉄の剣を持ってです。

「どうせ落として行くのなら、硬貨ではなく鉄の剣を落としてくれれば良いのに!」

「そうですね、1kgの鉄剣を落として行ってくれれば大儲けですね」

 2人の言う通りです。
 倒して直ぐに武器ごと消えてしまうので、惜しいと思ってしまいます。

 何か条件を整えたら剣を落とすかもしれません。
 そもそも硬貨や水晶を落とすこと自体が不思議なのです。
 その不思議に鉄剣が加わる可能性が絶対に無いとは言えません。

「まだホブゴブリンで試していないのは土魔術でしたか?」

「そうね、神聖術と他の属性は試したわね」

「ですがハリー様、土属性が使えるのはハリー様だけですよ?」

「2人は手出ししないでください」

「楽させてもらうわ」

「お気をつけて」

 本当は6頭しか出ない29階で今日確かめる心算だったのに、付き纏うベテラン冒険者パーティーのせいで面倒な事になりました。

 まあ、複数の土魔術を事前に待機させておけばいいだけなので、魔力量的には何の問題もないのですが、完全に同調させるには集中力が必要です。

 発動を同時にするのではなく、モンスターの急所を1撃で破壊するのを、同時にしなければいけないのですから。

「12体の敵の急所を全く同時に射貫く土の矢、ソイルアロー」

 どうせ1人でホブゴブリンを倒さなければいけないのなら、6頭を全く同時に倒す実験をした方が良いと思ったのです。
 3人でやると、どうしても一瞬のずれがあるから、良い機会だと思ったのです。

「あっ!」
「ハリー様!」

 声が出るほど驚いたのは2人だけではりません、私も本当に驚きました。
 
 12頭のホブゴブリンがそれぞれ5枚の大鉄貨を落としただけなら、私たちもこれほど驚きません。
 
 12頭のホブゴブリンが消えた後に、12振りの鉄剣が残っていたから、これほど驚いたのです。

「やったね、ぼろ儲けじゃん!」

「はしたない事を言わないでください。
 この宝物は1人で戦われたハリー様の物です」

「えええええ、パーティーの物じゃないの?」

「宿代を払わなと言った私たちには、そんな資格はありません」

「でもさぁ~」

「この事をソフィアのお父さんが聞かれたらどう思われますか?!」

「あ、うん、ごめん、悪かったわ」

「2人が納得してくれるのなら、私の物にするよ。
 ただ、このやり方で必ず鉄剣が手に入るのなら、とんでもないお金持ちになれる。
 12kgも持って狩りはできないから組合に戻るけれど、途中の階で戦う時は、2人でアンデットを倒してみて」

「何でアンデット?」

「あ、そうか、1人で完全同時に、弱点の属性でモンスターを倒した時に、何を落とすのか確認するのですね!」

「そうだよ、この前提が合っているのなら、2人も私と同じように鉄剣を手に入れられるかもしれないよ」

「やる、やる、やる、私も同じようにやる」

「僕も試したいですが、絶対に死にたくありません。
 少しでも危ないと思われたら、直ぐに手助けをお願いします」

「分かっているよ、アーサーのお母さんが哀しまないように助けるよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!

克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

なんでおれとあそんでくれないの?

みのる
児童書・童話
斗真くんにはお兄ちゃんと、お兄ちゃんと同い年のいとこが2人おりました。 ひとりだけ歳の違う斗真くんは、お兄ちゃん達から何故か何をするにも『おじゃまむし扱い』。

とあるぬいぐるみのいきかた

みのる
児童書・童話
どっかで聞いたような(?)ぬいぐるみのあゆみです。

おかたづけこびとのミサちゃん

みのる
児童書・童話
とあるお片付けの大好きなこびとさんのお話です。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

不死鳥の巫女はあやかし総長飛鳥に溺愛される!~出逢い・行方不明事件解決篇~

とらんぽりんまる
児童書・童話
第1回きずな児童書大賞・奨励賞頂きました。応援ありがとうございました!! 中学入学と同時に田舎から引っ越し都会の寮学校「紅炎学園」に入学した女子、朱雀桃花。 桃花は登校初日の朝に犬の化け物に襲われる。 それを助けてくれたのは刀を振るう長ランの男子、飛鳥紅緒。 彼は「総長飛鳥」と呼ばれていた。 そんな彼がまさかの成績優秀特Aクラスで隣の席!? 怖い不良かと思っていたが授業中に突然、みんなが停止し飛鳥は仲間の四人と一緒に戦い始める。 飛鳥は総長は総長でも、みんなを悪いあやかしから守る正義のチーム「紅刃斬(こうじんき)」の あやかし総長だった! そして理事長から桃花は、過去に不死鳥の加護を受けた「不死鳥の巫女」だと告げられる。 その日から始まった寮生活。桃花は飛鳥と仲間四人とのルームシェアでイケメン達と暮らすことになった。 桃花と総長飛鳥と四天王は、悪のあやかしチーム「蒼騎審(そうきしん)」との攻防をしながら 子供達を脅かす事件も解決していく。 桃花がチームに参加して初の事件は、紅炎学園生徒の行方不明事件だった。 スマホを残して生徒が消えていく――。 桃花と紅緒は四天王達と協力して解決することができるのか――!?

処理中です...