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第一章
第6話:厄介叔父
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受付のお姉さんは、最初話すのをためらっていました。
でも副組合長が、仲間と一緒に出来損ないを冒険者組合事務所から連れ出すのを見て、ようやく話してくれました。
食堂でグラハム伯爵家の悪口大会が始まると、全てを話してくれました。
出来損ないと罵られていたジャスパーという男は、僕たちと同じ12歳です。
国法に従って実戦訓練をしなければいけないのですが、狡賢く大人の護衛と一緒にダンジョンに潜っているそうです。
それだけならよくある話なのですが、普段から王都の民に無理難題を言うだけでなく、身体を傷つける事もあるらしいのです。
比較的真っ当で、騎士道精神に溢れた父上やお爺様が忠誠を誓う王家なのに、そんな王族を放っておくのを不思議に思いましたが、ちゃんと理由がありました。
グラハム伯爵家は、先々代王の末子が立てた家なのだそうです。
老年になってからできた子供で、判断力が劣り王位を嫡男に譲っていた先々代王は、子供の教育を正しくできなかったそうです。
それでも母親が真っ当なら普通に育ったのでしょうが、母親は大国から押し付けられたとても性格の悪い側室で、その血を強く受け継いでしまったそうです。
長兄である先代王が健在の間は、まだ多少は遠慮していたそうなのですが、当代の国王陛下が戴冠されてからは、好き勝手にしているそうです。
当代の国王陛下もダンジョンに潜られた事のある方です。
普通の相手なら、年下の叔父であろうと、家臣に下った者に、行き過ぎた情けをかけることも遠慮する事もないそうです。
ですが、実家である大国の力を使われてしまうと、小国の王としては、簡単に処分できないのだそうです。
どれほどの大国が相手でも、攻め込んできるのなら武勇の限りを尽くして戦いますが、好き好んで戦いたい訳ではありません。
避けられる戦いなら、やらずに済ませたいのが人情です。
「腹の立つことに、グラハム伯爵家は大金持ちなんだよ。
今も健在の先々代王の側室、アビゲイルの化粧領から穀物が送られてくるんだよ。
我が国は穀物の生産が難しいから、かなりの金になるそうだ。
その金で悪事の賠償をするから、陛下も処分しきれないでおられるのさ」
というのがソフィアが食堂で聞き込んで来てくれた話だった。
僕が受付のお姉さんから聞いた話と同じだった。
「他に聞いた話だと、アビゲイル様についてきた家臣たちも性格が悪いらしい。
ピアソン王国で悪い事ばかりしていた連中を、アビゲイル様の輿入れを利用して国から追い出したと言っていた」
ソフィアとは違う冒険者達から話を聞いてきてくれたアーサーが言う。
これは我が国を混乱せせるための謀略なのか?
時間をかけて我が国を蝕む毒なのか?
ベッド以外何もない、冒険者組合直営の狭い部屋で今後の事を話し合う。
「国王陛下が戦争を回避しようと我慢されているのに、僕たちが勝手に懲らしめる訳にはいかないから、できりだけ関わり合いにならないようにしよう」
「そうね、それが良いわね、因縁をつけてきたら、また眠らせてやればいいのよ。
ダンジョンの中なら私たちがやらなくてもモンスターが始末してくれるわよ」
ソフィアは、見た目の美しさからは想像もできない過激な事を言う。
まあ、これくらいでないと辺境では生きていけない。
「今日の護衛よりも強い奴らがいるそうだから、気をつけた方が良いと思うよ」
相変わらずアーサーはとても慎重だ。
ちゃんと今日の護衛以外に強敵がいないか聞き込んでくれている。
僕が受付のお姉さんから聞いていたのと同じだから、間違いないだろう。
「そんな事は分かっているわよ。
それでも私たちなら大丈夫、簡単に勝てるわよ」
このソフィアの自信はどこからくるのだろう?
ブクブクと肥え太ったジャスパーに負けないのは確かだけれど、母国で悪事を重ねて追い出された連中は、とても強いかもしれないのに。
「油断は禁物ですよ、悪事を重ねるには強さが必要なのです。
ここにいる冒険者たちは、大国の力で抑え込める弱虫ばかりではありませんよ」
「分かったわよ、ちゃんと気をつけるわよ」
アーサーと僕から真剣に注意されたので、ソフィアも分かってくれました。
「でも、本当に大丈夫だと思うわよ。
私たちの同時魔術が決まったら、耐えられる人間なんていないわよ」
まあ、確かに、同時発動魔術が上手く決まれば無敵だと思います。
でも、必ず成功する訳ではありません。
敵対して失敗したら、圧倒的にレベル差のある相手と、戦わないといけないかもしれないのです。
「そうかもしれないけれど、常に失敗した時の事も考えておかないと、自分たちだけの命じゃないんだよ」
そう言うアーサーの言葉に、ソフィアも反論しなくなりました。
ソフィアの家はとても家族仲が良いのです。
自分が死んでしまったら、家族がどれほど哀しむのくらい分かっています。
「今日は疲れたから寝るわ。
明日も魔術を使わないようだったら水を出してくれない。
身体を洗わないと気持ち悪いのよ」
ソフィアの言う通り、1日戦って結構汗をかいてしまいました。
それに、ベッドしかない2畳ほどの部屋は、とてもきれいとは言えない。
葛のシーツも別料金を出さないと交換してくれません。
1人大鉄貨5枚、大銭貨10枚、小鉄貨25枚、小銭貨50枚、水晶31個稼げたけれど、既に宿代で小銭貨30枚を使っています。
育ち盛りの僕たちだと、粗末な食事だけではとても足りません
魔境で狩る事のできる鳥や獣を、お腹一杯食べられる環境で育ったので、冒険者組合の出す最低レベルの食事を続けるのはとても辛いのです。
「今日はさっきの魔術以外使っていないから、寝る前に魔力を使っておかないともったいないと思う」
「アーサーの言う通りだ、全魔力を使うのは危険だけど、半分くらいなら使っても大丈夫だから、ソフィアが身体を拭いて来ればいいよ。
僕たちで水盥を借りて来るから、部屋の掃除でもしていなよ」
「だったら明日以降もここを予約しておかない?
3階の突き当りを3部屋続けて取れるなんて、もうないかもしれないよ。
連続して借りておかないと、せっかく掃除した部屋を他の人に取られてしまうかもしれないよ」
「分かったよ、予約金を取られるかもしれないけれど、1日くらいなら今日の稼ぎでどうにでもなるから、明日の予約をしてくるよ」
「私は埃を払っておくから、拭き掃除は3人揃ってからね」
パーティーリーダーは僕のはずなのだけれど、ソフィアが仕切っている気がするのは、勘違いなのだろうか?
でも副組合長が、仲間と一緒に出来損ないを冒険者組合事務所から連れ出すのを見て、ようやく話してくれました。
食堂でグラハム伯爵家の悪口大会が始まると、全てを話してくれました。
出来損ないと罵られていたジャスパーという男は、僕たちと同じ12歳です。
国法に従って実戦訓練をしなければいけないのですが、狡賢く大人の護衛と一緒にダンジョンに潜っているそうです。
それだけならよくある話なのですが、普段から王都の民に無理難題を言うだけでなく、身体を傷つける事もあるらしいのです。
比較的真っ当で、騎士道精神に溢れた父上やお爺様が忠誠を誓う王家なのに、そんな王族を放っておくのを不思議に思いましたが、ちゃんと理由がありました。
グラハム伯爵家は、先々代王の末子が立てた家なのだそうです。
老年になってからできた子供で、判断力が劣り王位を嫡男に譲っていた先々代王は、子供の教育を正しくできなかったそうです。
それでも母親が真っ当なら普通に育ったのでしょうが、母親は大国から押し付けられたとても性格の悪い側室で、その血を強く受け継いでしまったそうです。
長兄である先代王が健在の間は、まだ多少は遠慮していたそうなのですが、当代の国王陛下が戴冠されてからは、好き勝手にしているそうです。
当代の国王陛下もダンジョンに潜られた事のある方です。
普通の相手なら、年下の叔父であろうと、家臣に下った者に、行き過ぎた情けをかけることも遠慮する事もないそうです。
ですが、実家である大国の力を使われてしまうと、小国の王としては、簡単に処分できないのだそうです。
どれほどの大国が相手でも、攻め込んできるのなら武勇の限りを尽くして戦いますが、好き好んで戦いたい訳ではありません。
避けられる戦いなら、やらずに済ませたいのが人情です。
「腹の立つことに、グラハム伯爵家は大金持ちなんだよ。
今も健在の先々代王の側室、アビゲイルの化粧領から穀物が送られてくるんだよ。
我が国は穀物の生産が難しいから、かなりの金になるそうだ。
その金で悪事の賠償をするから、陛下も処分しきれないでおられるのさ」
というのがソフィアが食堂で聞き込んで来てくれた話だった。
僕が受付のお姉さんから聞いた話と同じだった。
「他に聞いた話だと、アビゲイル様についてきた家臣たちも性格が悪いらしい。
ピアソン王国で悪い事ばかりしていた連中を、アビゲイル様の輿入れを利用して国から追い出したと言っていた」
ソフィアとは違う冒険者達から話を聞いてきてくれたアーサーが言う。
これは我が国を混乱せせるための謀略なのか?
時間をかけて我が国を蝕む毒なのか?
ベッド以外何もない、冒険者組合直営の狭い部屋で今後の事を話し合う。
「国王陛下が戦争を回避しようと我慢されているのに、僕たちが勝手に懲らしめる訳にはいかないから、できりだけ関わり合いにならないようにしよう」
「そうね、それが良いわね、因縁をつけてきたら、また眠らせてやればいいのよ。
ダンジョンの中なら私たちがやらなくてもモンスターが始末してくれるわよ」
ソフィアは、見た目の美しさからは想像もできない過激な事を言う。
まあ、これくらいでないと辺境では生きていけない。
「今日の護衛よりも強い奴らがいるそうだから、気をつけた方が良いと思うよ」
相変わらずアーサーはとても慎重だ。
ちゃんと今日の護衛以外に強敵がいないか聞き込んでくれている。
僕が受付のお姉さんから聞いていたのと同じだから、間違いないだろう。
「そんな事は分かっているわよ。
それでも私たちなら大丈夫、簡単に勝てるわよ」
このソフィアの自信はどこからくるのだろう?
ブクブクと肥え太ったジャスパーに負けないのは確かだけれど、母国で悪事を重ねて追い出された連中は、とても強いかもしれないのに。
「油断は禁物ですよ、悪事を重ねるには強さが必要なのです。
ここにいる冒険者たちは、大国の力で抑え込める弱虫ばかりではありませんよ」
「分かったわよ、ちゃんと気をつけるわよ」
アーサーと僕から真剣に注意されたので、ソフィアも分かってくれました。
「でも、本当に大丈夫だと思うわよ。
私たちの同時魔術が決まったら、耐えられる人間なんていないわよ」
まあ、確かに、同時発動魔術が上手く決まれば無敵だと思います。
でも、必ず成功する訳ではありません。
敵対して失敗したら、圧倒的にレベル差のある相手と、戦わないといけないかもしれないのです。
「そうかもしれないけれど、常に失敗した時の事も考えておかないと、自分たちだけの命じゃないんだよ」
そう言うアーサーの言葉に、ソフィアも反論しなくなりました。
ソフィアの家はとても家族仲が良いのです。
自分が死んでしまったら、家族がどれほど哀しむのくらい分かっています。
「今日は疲れたから寝るわ。
明日も魔術を使わないようだったら水を出してくれない。
身体を洗わないと気持ち悪いのよ」
ソフィアの言う通り、1日戦って結構汗をかいてしまいました。
それに、ベッドしかない2畳ほどの部屋は、とてもきれいとは言えない。
葛のシーツも別料金を出さないと交換してくれません。
1人大鉄貨5枚、大銭貨10枚、小鉄貨25枚、小銭貨50枚、水晶31個稼げたけれど、既に宿代で小銭貨30枚を使っています。
育ち盛りの僕たちだと、粗末な食事だけではとても足りません
魔境で狩る事のできる鳥や獣を、お腹一杯食べられる環境で育ったので、冒険者組合の出す最低レベルの食事を続けるのはとても辛いのです。
「今日はさっきの魔術以外使っていないから、寝る前に魔力を使っておかないともったいないと思う」
「アーサーの言う通りだ、全魔力を使うのは危険だけど、半分くらいなら使っても大丈夫だから、ソフィアが身体を拭いて来ればいいよ。
僕たちで水盥を借りて来るから、部屋の掃除でもしていなよ」
「だったら明日以降もここを予約しておかない?
3階の突き当りを3部屋続けて取れるなんて、もうないかもしれないよ。
連続して借りておかないと、せっかく掃除した部屋を他の人に取られてしまうかもしれないよ」
「分かったよ、予約金を取られるかもしれないけれど、1日くらいなら今日の稼ぎでどうにでもなるから、明日の予約をしてくるよ」
「私は埃を払っておくから、拭き掃除は3人揃ってからね」
パーティーリーダーは僕のはずなのだけれど、ソフィアが仕切っている気がするのは、勘違いなのだろうか?
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