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第二章
44話無礼討ち7
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若党になった菊次郎は、今まで以上に気を入れて見張りを務めた。
だが若党になったのは十人だけで、他の者は町人のままでいる事を望んだ。
その若党になった十人は、二本差しと成り身の引き締まる思いだった。
大小の刀を購入する費用は自弁であったが、これからは衣食住が保証された上に、三両一人扶持の給料が保証される。
普通は最下級武士として江戸っ子にサンピンと馬鹿にされる身分だが、坪内家の若党は別だ。
多くの手先が、先に若党に召し抱えられた者が、江戸っ子から尊敬の眼で見られているのを知っていた。
十人が若党になって十日、永井忠左衛門が我慢できなくなった。
いや、そうではない。
悪知恵の回る永井忠左衛門は、月が替わるのを待っていたのだ。
四人の若党を引き連れて、芝居町に乗り込んだ。
今度は強請相手を探すのではなく、最初から入る小茶屋を決めていた。
前回強請に失敗した、小女水撒き騒動の小茶屋だった。
永井忠左衛門一党は、ものも言わずにズカズカと小茶屋に入り込み、どっかりと床几を占拠し、先に来ていた客を睨みつけだした。
「菊次郎さん、どうする?」
「ここは度胸を据えるしかない。
ここで逃げたら男が廃る。
旦那に鼻で笑われるのは嫌だからな」
「そうだな」
永井忠左衛門一党を五人の若党と二人の町人手先が後をつけていた。
永井屋敷を見張る二階屋には、五人の若党と町人手先二人が残っていた。
他にも交代の町人手先と、南町奉行所の七右衛門主従と、坪内屋敷に待機する剣客組がいた。
人手を惜しまない見張りと尾行だったが、それも仕方がなかった。
相手が盗賊ならば、盗みが行われるまで被害者は出ない。
だが強請の場合は、それも無礼討ちを前提にした強請の場合は、昼日中にその場で殺される者がいる。
それも圧倒的な弱者を斬り殺すのだから、常に永井忠左衛門一党に対抗できる人数を用意しておく必要があった。
「殿様。
何の御用でございますか。
注文もされず、他のお客様を睨みつけられますと、商売に差し障りがございます。
何も注文されないのでしたらお帰り頂きたいのですが」
小茶屋の主人・並之介は、命を賭けて永井忠左衛門一党の前に出て啖呵を切った。
先日永井忠左衛門に水をかけた小女は、その事にとても責任を感じ、夜も寝られないほど悪夢にうなされていた。
主人として親代わりとして、小女の悪夢を取り除いてやりたいと、並之介は思っていたのだ。
それに並之介も江戸っ子だった。
悪御家人の言いなりになって、汗水たらして稼いだ金を強請る取られるのは、我慢ならなかった。
例え無礼討ちになっても、意地を通すと心に決めていたのだった。
だが若党になったのは十人だけで、他の者は町人のままでいる事を望んだ。
その若党になった十人は、二本差しと成り身の引き締まる思いだった。
大小の刀を購入する費用は自弁であったが、これからは衣食住が保証された上に、三両一人扶持の給料が保証される。
普通は最下級武士として江戸っ子にサンピンと馬鹿にされる身分だが、坪内家の若党は別だ。
多くの手先が、先に若党に召し抱えられた者が、江戸っ子から尊敬の眼で見られているのを知っていた。
十人が若党になって十日、永井忠左衛門が我慢できなくなった。
いや、そうではない。
悪知恵の回る永井忠左衛門は、月が替わるのを待っていたのだ。
四人の若党を引き連れて、芝居町に乗り込んだ。
今度は強請相手を探すのではなく、最初から入る小茶屋を決めていた。
前回強請に失敗した、小女水撒き騒動の小茶屋だった。
永井忠左衛門一党は、ものも言わずにズカズカと小茶屋に入り込み、どっかりと床几を占拠し、先に来ていた客を睨みつけだした。
「菊次郎さん、どうする?」
「ここは度胸を据えるしかない。
ここで逃げたら男が廃る。
旦那に鼻で笑われるのは嫌だからな」
「そうだな」
永井忠左衛門一党を五人の若党と二人の町人手先が後をつけていた。
永井屋敷を見張る二階屋には、五人の若党と町人手先二人が残っていた。
他にも交代の町人手先と、南町奉行所の七右衛門主従と、坪内屋敷に待機する剣客組がいた。
人手を惜しまない見張りと尾行だったが、それも仕方がなかった。
相手が盗賊ならば、盗みが行われるまで被害者は出ない。
だが強請の場合は、それも無礼討ちを前提にした強請の場合は、昼日中にその場で殺される者がいる。
それも圧倒的な弱者を斬り殺すのだから、常に永井忠左衛門一党に対抗できる人数を用意しておく必要があった。
「殿様。
何の御用でございますか。
注文もされず、他のお客様を睨みつけられますと、商売に差し障りがございます。
何も注文されないのでしたらお帰り頂きたいのですが」
小茶屋の主人・並之介は、命を賭けて永井忠左衛門一党の前に出て啖呵を切った。
先日永井忠左衛門に水をかけた小女は、その事にとても責任を感じ、夜も寝られないほど悪夢にうなされていた。
主人として親代わりとして、小女の悪夢を取り除いてやりたいと、並之介は思っていたのだ。
それに並之介も江戸っ子だった。
悪御家人の言いなりになって、汗水たらして稼いだ金を強請る取られるのは、我慢ならなかった。
例え無礼討ちになっても、意地を通すと心に決めていたのだった。
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