44 / 49
第二章
43話無礼討ち6
しおりを挟む
「旦那。
それは言い過ぎじゃないんですかい。
確かに命が惜しくないとは言いませんがね。
ですがね、全然立場が違うでしょう。
旦那が口になさったように、剣客組は武士として果し合いにできる。
ですがあっしらにはそれができない。
その違いを無視して、臆病者と言われたくないですね!」
菊次郎が今にも七右衛門に飛び掛からんばかりに、睨みつけながら言い放つ。
よほど腹に据えかねているのだろう、顔が真っ赤になってる。
「だったら武士にしてやろう。
今日からお前は坪内家の若党だ。
これで剣客組よりも有利な立場だ。
剣客組は浪人だが、お前は坪内家の若党だ。
私の名前を使って戦う事ができる。
これで文句ないであろう」
七右衛門がとんでもない事を口にした。
確かに七右衛門の若党を名乗れるのなら、立場的には浪人よりも有利だ。
だが浪人達は元々武士で、しかも名の売れた剣客だ。
一方菊次郎は剣術の練習はしたが、武士ではない。
菊次郎組の他の者達に至っては、剣術の練習すらしたことがない者もいる。
「本気ですかい、旦那」
「嘘や冗談で家臣を召し抱える事はできん。
家臣が何かしでかしたら、私が切腹しなければならんのだ。
菊次郎が永井忠左衛門を返り討ちにすれば、その処分は俺にも及ぶ。
どうだ、菊次郎。
武士になるか?
私の命令に逆らえない、若党になる覚悟がるのか!」
菊次郎は真っ青になっていた。
七右衛門の命懸けの言葉を聞いて、悪たれていた自分の卑小さがよく分かった。
同時にムクムクと負けん気が頭をもたげる。
このまま負けっぱなしは嫌だと心から思った。
七右衛門を見返せるほどの事をしてみせると決意した。
「そこまで言われたら後には引けねぇ。
よござんす。
武士になりやしょう。
この命、旦那に差し上げましょう。
ですが、この命、安く使われちゃあ許せねぇ。
納得できない時は、逆に旦那の命をもらいやすぜ!」
「分かった。
私の命令が理不尽と思ったら、逆らえばいい。
だが、その逆らいが悪と感じたら、容赦なく上意討ちで斬り果たす。
その事忘れるなよ」
「旦那こそ忘れちゃ許しませんぜ」
「では、今の事を仲間に伝えろ。
そいつらにも同じ事を言ってきかせる。
若党になる覚悟ができている者は召し抱えてやる。
そうでない者は、今まで通り振売のまま手先を務めればいい。
無理強いするんじゃないぞ」
「分かってますよ。
嫌だと言う者をむりに武士にしたりしませんよ!」
菊次郎は急いで仲間のもとに走った。
うれしいような悔しいような、なんとも言えない感情が心の中を渦巻いていた。
だが、これから命懸けの仕事をするのだと、もう逃げ出す事ができないのだと、妙に冷静な気持ちもあった。
それは言い過ぎじゃないんですかい。
確かに命が惜しくないとは言いませんがね。
ですがね、全然立場が違うでしょう。
旦那が口になさったように、剣客組は武士として果し合いにできる。
ですがあっしらにはそれができない。
その違いを無視して、臆病者と言われたくないですね!」
菊次郎が今にも七右衛門に飛び掛からんばかりに、睨みつけながら言い放つ。
よほど腹に据えかねているのだろう、顔が真っ赤になってる。
「だったら武士にしてやろう。
今日からお前は坪内家の若党だ。
これで剣客組よりも有利な立場だ。
剣客組は浪人だが、お前は坪内家の若党だ。
私の名前を使って戦う事ができる。
これで文句ないであろう」
七右衛門がとんでもない事を口にした。
確かに七右衛門の若党を名乗れるのなら、立場的には浪人よりも有利だ。
だが浪人達は元々武士で、しかも名の売れた剣客だ。
一方菊次郎は剣術の練習はしたが、武士ではない。
菊次郎組の他の者達に至っては、剣術の練習すらしたことがない者もいる。
「本気ですかい、旦那」
「嘘や冗談で家臣を召し抱える事はできん。
家臣が何かしでかしたら、私が切腹しなければならんのだ。
菊次郎が永井忠左衛門を返り討ちにすれば、その処分は俺にも及ぶ。
どうだ、菊次郎。
武士になるか?
私の命令に逆らえない、若党になる覚悟がるのか!」
菊次郎は真っ青になっていた。
七右衛門の命懸けの言葉を聞いて、悪たれていた自分の卑小さがよく分かった。
同時にムクムクと負けん気が頭をもたげる。
このまま負けっぱなしは嫌だと心から思った。
七右衛門を見返せるほどの事をしてみせると決意した。
「そこまで言われたら後には引けねぇ。
よござんす。
武士になりやしょう。
この命、旦那に差し上げましょう。
ですが、この命、安く使われちゃあ許せねぇ。
納得できない時は、逆に旦那の命をもらいやすぜ!」
「分かった。
私の命令が理不尽と思ったら、逆らえばいい。
だが、その逆らいが悪と感じたら、容赦なく上意討ちで斬り果たす。
その事忘れるなよ」
「旦那こそ忘れちゃ許しませんぜ」
「では、今の事を仲間に伝えろ。
そいつらにも同じ事を言ってきかせる。
若党になる覚悟ができている者は召し抱えてやる。
そうでない者は、今まで通り振売のまま手先を務めればいい。
無理強いするんじゃないぞ」
「分かってますよ。
嫌だと言う者をむりに武士にしたりしませんよ!」
菊次郎は急いで仲間のもとに走った。
うれしいような悔しいような、なんとも言えない感情が心の中を渦巻いていた。
だが、これから命懸けの仕事をするのだと、もう逃げ出す事ができないのだと、妙に冷静な気持ちもあった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜
二階堂まりい
ファンタジー
メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ
超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。
同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。
【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春
mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆
人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。
イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。
そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。
俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。
誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。
どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。
そう思ってたのに……
どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ!
※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※

忍者同心 服部文蔵
大澤伝兵衛
歴史・時代
八代将軍徳川吉宗の時代、服部文蔵という武士がいた。
服部という名ではあるが有名な服部半蔵の血筋とは一切関係が無く、本人も忍者ではない。だが、とある事件での活躍で有名になり、江戸中から忍者と話題になり、評判を聞きつけた町奉行から同心として採用される事になる。
忍者同心の誕生である。
だが、忍者ではない文蔵が忍者と呼ばれる事を、伊賀、甲賀忍者の末裔たちが面白く思わず、事あるごとに文蔵に喧嘩を仕掛けて来る事に。
それに、江戸を騒がす数々の事件が起き、どうやら文蔵の過去と関りが……

滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる